少年とロボットの友情物語(4)
長かった夏休みも終わり、2学期が始まった。夏休みの間中のらくらしていたくら太は、困ったことに宿題をすませていなかった。ジュリえもんが叱咤激励して『夏休みの友』だけはなんとか仕上げさせたのだが、大物は全て残っている。読書感想文も図画も、そして自由研究も。本人はちっとも困ったと思ってはいないのだが、ジュリえもんとしてはそうはいかない。くら太を真人間にするために未来から送り込まれた彼はひとり気を揉んでいた。
始業式の今日、すべてをきっちりとそろえて提出しなくてはならないというのに。くら太ときたら私の言うことなどろくに聞きもせずに40日間昼寝ばかりして。よくもまああれだけ眠れるものだ! 案の定何もしないうちに始業式を迎えてしまったではないか!
当然ながらジュリえもんの額には数え切れないほどの青筋が浮いている。
しかも2学期初日からいきなり遅刻。いやまだ遅刻したわけではないが、寝坊をした挙げ句にのろのろと支度をして、8時をだいぶ回ってからのらくらと家を出れば必ずや遅刻するであろうことは目に見えている。まったく、くら太にも困ったものだ。
こんな怠惰な小学生を更生させるなんてとうてい無理って気がするが、そこは真面目なジュリえもん、日々たゆまぬ努力を続けていたのだった。
* * * * *
昼の12時前、くら太が帰ってきた。
「くら太、今日は先生に叱られたのではないか? どうせ遅刻したのであろう? それになんと言ってもろくに宿題を済ませていないのだからな。先生はなんとおっしゃった?」
「説教はルヴァ先生とママだけでじゅうぶんだ。お前までそうやって私をいじめるのか?」
「誰がいじめている! 心配しているのだ!」
「少しは私をゆっくり休ませてくれ。」
「そなたはいつだってゆっくりのんびりのらくらだらだら、のんべんだらりでずぼらな生活をしているではないかっっっっ!!!!」
「…よくもまあそれだけ言葉が次々と出るものだ…」ため息。
「そのようなことに感心している場合か。で、ルヴァ先生はなんとおっしゃったのだ?」
「『野良くん、困りましたね〜。やはり宿題ができていないんですねー。他のみんなはきちんと仕上げてきているというのに、どうしたものでしょうかね。あなただけ宿題はしなくていいなんていう特例を認めるわけにはいきませんから、ここはやっぱり、どんなに時間がかかってもかまいません、必ず仕上げてきてくださいね〜』だそうだ」
「先生の言葉どおり全てを復唱せずともよいというのに…。そなた、それだけの記憶力もあるのだし頭は悪くないはずなのだが。」
「…フッ…」
「笑ってごまかすな! とにかくだな、今日これからただちに残りの宿題に取りかかることだ。」
「めんどうな…」
「面倒だのなんだのと言っている場合か! 今日何をするのか、今この場で決めよ!」
「………そうだな。植物の研究でもしてくるとするか。」
「どういう研究をするのだ?」
「うちの庭に生えている草を調べてくる。」
そんなんでええんかい! と作者は思い、ジュリえもんも眉をひそめた。だがとにかくくら太自身がやる気らしいので、自由研究の格好だけつけば何とかなるだろうかと前向きに考えることにした。
「そなたの研究に役立つことなら助力は惜しまぬぞ。」
「それはありがたい。研究を始めるにあたって貸してほしいものがあるのだが。」
「何が必要だ?」
「体を小さくできる道具はないか?」
「あるにはあるが…そのようなものが植物の研究に必要なのか?」
「小さく変身して植物を見て回ったらいろいろとよくわかるように思うのだ。小さくなった体で庭を歩き回るのは大変だろうから、できればタケコブタもほしい。」
「なるほど。では」
ジュリえもんはポケットから懐中電灯のようなものを2個取り出した。
「ちびちびライトとでかでかライト〜〜〜〜〜。<お約束〜
ちびちびライトを使えば小さく、でかでかライトを使えば大きくなる。植物の研究が終わったら元に戻してやろう。」
メモやスケッチに必要な道具を持たせ、頭にタケコブタをつけさせると、くら太にちびちびライトの光を当てたのだった。
「これでよかろう。しっかり研究をしてくるように。」
* * * * *
さて、小さくなったくら太は物珍しげに庭の草の上を飛び回っていた。
「ふむ、こうして小さくなって庭を眺めると、ジャングルのようでなかなか面白いものだな。」
そう言えばママに庭の草取りを頼まれていたのにほったらかしにしていたのだった、と思い出さなくていいことまで思い出した。だけど草取りをさぼってたおかげで庭には雑草が生え放題に生えていて、これならば研究も進むはず、私の怠惰も捨てたものではないとほくそ笑む。どれから始めようかとあたりを物色していると、突然がさがさと音がして猫が現れた。…でかい。くら太は地上約40センチのあたりをホバリングしているのだが、猫の大きさに圧倒される思いだ。
ばちっ。
視線が合った。やばい。身長10センチで猫に遭遇なんて、マジで命が危ない。タケコブタをつけているのを幸い、空中の高いところへ逃げて事なきを得たが、すっかり疲れてしまった。
はあ…大変な目にあった。これではどこかで休まねば、とても研究は続けられぬ。
大変な目にあったのは作者も認めるが、まだ何も研究してないゾ。
うっかり変なところで昼寝をして、カラスや猫に食べられるのはごめんだ。くら太は考えた末自分の部屋に戻ってきた。ジュリえもんはくら太の読書感想文のための本を選んでいた。何冊もの本を並べて吟味している。ものすごく真剣で、わき目もふらない。くら太が戻ってきたことにも気づかないようだ。
しめしめ。これでゆっくり昼寝ができる…。だが…待て。部屋の中は本当に安全だろうか?
開け放した窓からは猫くらい入ってくるかもしれない。この小さな体ではゴキブリに襲われるのだって危ない。部屋で眠っているところをジュリえもんに見つかったら、またお説教がうるさい。どこが一番安全か…。
くら太は考えに考えて、ここならという場所を見つけた。どこかって? ジュリえもんの異次元ポケットだ。相変わらずジュリえもんは自分の仕事に没頭している。くら太は難なくポケットに潜り込んだ。さすがジュリえもん、中は整然としている。
「ほう…ポケットの中がこのようになっていたとは…」
どこまでも続く平原のような場所に碁盤の目のように区画ができており、様々な道具が収納されている。くら太は手近なところで空いている区画を探し出すとそこに入って横になり、すっかりいい気分になって眠り始めた。
* * * * *
「くら太ー、ジュリちゃーん、晩ご飯だよ」と、ママの呼ぶ声がした。
もうそのような時間か…。そう言えばくら太はどうしたのだ?
くら太の2学期の学習計画を立てることに没頭して時間を忘れていたジュリえもんだったが、暗くなってもまだ部屋に戻っていないくら太が急に心配になった。
庭で何か事故でもあったのか? 子守ロボットたるこの私がなんといううかつなことを。小さな体のくら太を一人で出すのではなかった…。
あわててくら太を探しに庭に出てみたが、相手は身長10センチ程度に縮んでいる。ジャングル状態の庭の中から探し出すのはかなり難しそうだ。
「くら太、どこにいる。」
とりあえず声に出して呼んでみた。返事なし。
「くら太、もう夕食の時間だ。戻ってこい。」
あたりに響くのは虫の声だけ。ジュリえもんの心配は加速度的に膨れあがった。くら太が血だらけで倒れている姿まで想像。
「くら太ーーー!」
思わず叫ぶ。
その時。異次元ポケットのあたりがくすぐったいと思ったら、ちびくら太が衣装のひだの間からもぞもぞと顔を出した。
「どうしたのだジュリえもん?」
「くら太!! よかった。心配したのだぞ。……それにしてもそなた、そこで何をしていた?」
「研究に疲れたのでな…その…少々、休憩を。」
「そうか。どこまで進んだのか見せてみるがよい。」
ちびくら太は豆粒のようなノート類を差し出す。ジュリえもんは苦労して豆粒ノートを開いてみた。
「む? 白紙のように見えるが…。ちびちびライトで小さくなっているから見えぬということか?」
でかでかライトを取り出すと、ジュリえもんはスケッチブックとノートに光を当てる(最初からそうすれば楽だったのに)。普通サイズに戻ったノートの中身を見て、やっぱり真っ白であることを確認した。
「く〜ら〜太〜!!! 今日一日、何をしていたのだ!!」
お前のポケットの中での昼寝はなかなか心地よかった、いけしゃあしゃあと答えるくら太に、ジュリえもんの怒号の嵐。
「何ということだ! そなたの宿題なのだぞ。長い夏休みの間に仕上がっているはずのものだ。もっと身を入れて取り組まぬか!!!
そこへ直れ!! その根性、叩き直してくれるわっっっっ!!」
あああ、くら太の夏休みの宿題が終わるのはいつのことなんでしょうね。
【おまけ:収録後のスタジオにて】
作「この夏は暑かったですよね〜」
闇「まったくだ。ここに来ると暑さで死にそうになる…」
作「いやああああ! クラヴィス様、死にそうなんて言わないでください〜。それにほら、もうだいぶ涼しくなったし。我慢してくださいよ、お願いしますっ!」
光「聖地はこれほど暑くはないからな。我々にはこの暑さは正直言って堪える。」
作「ごめんなさいジュリアス様。でもでも、今回お二人の絆も再確認できたことですし。」
光「何のことだ?」
作「だってジュリアス様ってばあんなにクラヴィス様のこと心配なさって。クラヴィス様だって、ね? ジュリアス様に甘えていらっしゃるんですよね〜」
ジュリアス様、作者から視線をそらす。
光「…勝手なことを。そなたの書いた台本ではないか…」<ちょっと照れているらしい
闇「………………………」<ちょっとむっとしているらしい
光「…帰るか。」
闇「そうだな」
筆頭守護聖のお二人、作者を無視してスタジオから退場。
夢「ちょっとぉ、あんたあの二人の扱いばっかり丁重でむかつくんだけど? それに私、このところまともに出演してないような気がする。もうちょっと見せ場作ってくれないかな。」
作「すみませんオリヴィエ様。でもママって大事な役柄だから…」
地「名前だけ使われている私よりはよほどいいと思いますけどね〜」
夢「まあそうとも言えるかな。次はちゃんとルヴァも出してやったら?」
作「次…ですか。うーーーーん。できたらそうしたいですぅ。」
地「では私たちも戻りましょうか。」
夢「そだね。じゃ、またね☆」
作「はいどうも〜。お疲れさまでした〜」
(立ち去ろうとしているオリヴィエ様とルヴァ様の会話が微かに聞こえてくる)
地「…ところで私、何のためにここに呼ばれたんでしょうね〜?」
夢「さあねぇ…作者が生ルヴァ見たかっただけなんじゃない? きゃははっ!」