少年とロボットの友情物語



その日も彼は学校から帰ってくると無言のまま二階の自室に上がり、ごろりと横になった。と思うともう眠っている。恐ろしい早業だ。彼の得意技は「眠ること」なのだ。その少年の名は「野良くら太」。これといって取り柄はないが、寝ることとあやとりと艶やかな黒髪にはちょっと自信があるといういささか情けない小学生(!)だ。となると当然そのそばには…。
「くら太っ!! 帰ってくるなり昼寝をするとは何ごとか! 宿題はないのか!?」
でっかい球を二つ重ねた串団子のような姿のロボットがさっそくくら太を叱っている。
「…ジュリえもんか…うるさいではないか…」ぐうぐうぐう。
また眠ってしまった。ジュリえもんの額にみるみる青筋が立った。
ぴきぴきぴきぴきぴきぴきぴきぴきぴきぴき。
「そなたという奴は! この私が日々どれほど心を砕いてそなたをりっぱな大人にさせようとしているのかわからぬか!!」
「…わからぬ…」<寝言
さすがくら太、ナイスなタイミングでグッドな寝言。みごとにジュリえもんの神経を逆なでしている。ジュリえもんの額の青筋はさらに20個ほど増えた。頭でっかちのロボットなので青筋の20や30、楽に立てることができるのだ。いかん、話がそれてしまった。ジュリえもんがとても怒っていることは読者の皆様もおわかりだろうと思う。その怒りにまかせてジュリえもんがさらにくら太を怒鳴りつけようとしたその時。階段を上がってくる足音がした。
「くら太、帰ってるの?『ただいま』くらい言ったらどうなのさ。ホント、あんたって無口なんだから。」
くら太のママはご近所の人に極楽鳥と陰口をたたかれる派手好きな女だ。
「ジュリちゃん、あんたにはいつも苦労をかけるね。まあこれでも食べて機嫌直しなよ☆」
ママはおやつを持ってきてくれたのだった。どらやきである。ジュリえもん、実は甘いものは苦手だったりするのだが、礼儀正しいのでママの出してくれるものに文句を付けたりはしない。それに結局のところ何を摂取したってエネルギー源になるのだからあまり味にはこだわらないことにしている。何たってロボットなんだから。
「いつもすまぬ。いただくことにしよう。」
おやつの匂いに誘われたか、くら太が起きあがりかけたが、薄目で皿に載っているものを確認するとまた横になってしまった。
「…どらやき…か。いつも同じものばかりではつまらぬ。」
「くら太! ママに謝らぬか。ママはそなたのためにおやつを用意してくれているのではないか。礼のひとつも言ってありがたくいただくのが礼儀というものであろう。」
「いいんだよジュリえもん。気にせずアンタはお食べ。くら太がこうなのは今に始まったことじゃないからね。
…ところでくら太、この前の算数のテスト、そろそろ返してもらったんじゃないの? 私に見せてみなよ。」
「どうでもよいではないか、テストなど。」
「いいからさっさとお見せ!」
ママの迫力に押されてしぶしぶくら太は起きあがると、ランドセルを開けた。くしゃくしゃになったテスト用紙を取り出してママに手渡す。
「何これ!? また0点っ!! ………。<問題に目を通している
あんた、こんな簡単な問題ができないの?」
白紙の答案をくら太に突きつけた。
「…面倒だったのだ。肝心なのはその問題が解けるかどうかだろう? 心配せずともよい。わからぬということはない。」
「テストに何も書いてないんじゃ、わからないって言ってるのと同じなんだよ! テスト中また昼寝してたんじゃないの!?」
くら太は極端に面倒くさがりで、気の向いたときにしかまともに答案を書かない。だから頭が悪いわけではないが成績はものすごく悪いのだ。
「ママ、そのように怒るものではない。しわが増えるぞ。」<ジュリえもんの助け船
この言葉にママは弱い。息子の教育も大事だが、どっちかと言えば自分がきれいでいることの方に重きを置いている彼女は青くなった。
「あらやだ、そうだった。じゃジュリえもん、後は頼んでもいいかな? 私、くら太を叱ってるとしわが増えるばっかりだし白髪もできそうだし…」
ママはこめかみを押さえながら階段を下りていった。
くら太は、そんなやりとりは自分とは何の関係もないのだといった様子でおやつのどらやきをほおばっていた(文句言ってたくせに)。それでも、うるさいママから救ってくれたジュリえもんに一言礼を言おうと珍しくも思ったらしい。
「すまぬジュリえもん、助かった。」
「どらやきを食べる暇があったら宿題をすることだな。」
すかさずジュリえもんが釘をさす。くら太は苦笑した。
「…礼を言って損をした…」
「損とは何だ。私はそなたのためを思って言っているのだ。それに勉強することがマイナスになることはあり得ぬ。学べるときにしっかり学んでおけ!」
説教しながら、半分ほどになったどらやきをすばやくくら太の手から取り上げると、ジュリえもんは勝ち誇ったような笑みを見せた。
「残りは宿題を済ませてからだ。」
「ならばどらやきなど…いらぬ。」
言うなりくら太はまたごろりと横になって昼寝を再開。おやつを取り上げればあわてて宿題をするかと思ったのにすっかり当てがはずれたジュリえもん、やけくそ気味に怒鳴るしかなかった。
「くら太〜〜〜〜〜〜!!!」
いつに変わらぬ野良家の光景であった。




【おまけ:収録後のスタジオにて】

光「なぜ私が2頭身のロボットなのだ? 納得が行かぬ。」
闇「…フッ…」<すごく楽しそう
光「そなたは人間の役だからな。」<クラヴィス様の態度にむっとしている
作(=作者)「ジュリアス様〜ごめんなさ〜い。あの少年役はクラヴィス様が最適任なのはジュリアス様も認めてくださるでしょう? そしたらどうしてもジュリアス様にはロボット役をお願いしなくちゃいけなくなって…だって二人はなかよしだしぃ。」
光「誰と誰がなかよしだ!? あのような役を割り振られるくらいならば私は出演を辞退したい。」
作「そんなこと言わずに、お願いしますよジュリアスさま。」(揉み手)
闇「…それも『愛』なのだそうだ。お前への、な…」
光「そのような愛などほしくはない!」

ジュリアス様、怒りに震えつつ退場。
クラヴィス様、ジュリアス様の不運を楽しみながらも、フォローするためにジュリアス様を追ってこれまた退場。
いいコンビだ…。(作者、勝手に満足して、退場しかける)

夢「ちょっとちょっと、勝手に終わらせないでよ! 私のこと忘れてない?」
作「ごめんなさいオリヴィエ様。ママ役、いかがでした?」
夢「うーーーん、可もなく不可もなし。ま、あんなもんじゃない? 私は別にどうでもいいよ。ただのお芝居なんだからさ。
それにしてもジュリアスってば、あんなに怒らなくたってねぇ…ぷふっ…やっぱ、あの姿は笑えるか…」

オリヴィエ様、笑いながら退場。
(皆様へお願い:ドラ○もん体型のジュリアス様なんて、決して想像しないでください…)

作「オリヴィエ様ぁ〜お願いですからジュリアス様のことからかったりしないでくださいね。私ジュリアス様に恨み殺されるかも…」
(オリヴィエ様を追いかけながら懇願)

だったらこんな無謀な試みはやめとけばよかったんじゃ?



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