小説書きさんに100のお題



1.始まり (03/08/27)
アンジェリーク・リモージュが新女王として即位して一ヶ月、宇宙はすっかり安定を取り戻して、王立研究院の調査でも当面のところ大きなトラブルが起こる可能性はきわめて低いと予測されていた。
「宇宙は大丈夫、と。そしたら気になるのは自分の身の回りのトラブルよね〜」
そうでしょロザリア、と補佐官に同意を求める女王に、ロザリアは小首を傾げた。
陛下の周囲でトラブルなんてあったかしら?
「筆頭守護聖たちのことよ。彼らが私とトラブってるってわけじゃないけどぉ、あの二人見てると頭が痛いのよねー。だから女王命令で仲良くしてもらうことにするわ!」
女王の権限をそんなことに使うべきではないというロザリアの説得もむなしく、筆頭守護聖であるジュリアスとクラヴィスは、女王からの呼び出しを受けることになった。二人そろっての急な呼び出しということで、守護聖たちの間にも緊張が走る。もしかして、何か大きな問題があるのか?

「あ、ジュリアス、クラヴィス。わざわざご苦労様〜。ちょっとお願いがあって二人に来てもらったの。」
いつもながらの軽い調子に、ジュリアスの眉がぴくぴくっ。だが相手は陛下、女王候補であったときのように叱責できる立場にはない。お願いが、と言われて顔を上げた二人ににっこり笑いかけると、女王は言葉を続けた。
「あのね、二人に仲良くしてもらいたいのよ。あなたたちの仲が悪いと私も気をつかうし〜。守護聖たちの間がうまくいってないっていうのは、宇宙のためにも良くないことだと思うのよね。だから決めたの。ジュリアス、クラヴィス。
あなたたちが仲良くなることを命じます。これは女王命令だから、よろしくねっ!」
女王のそばに控える補佐官はこめかみに手をやった。どうやら頭痛でも起こしているようだ。そして女王はぽかんとして見つめ返す筆頭守護聖たちに、さらににこにこ笑顔を向けると、言った。
「質問は? ないわよね。だって単純明快なお願いですもの。
うふっ、楽しみだわ〜。二人が仲良くしてくれたら、きっと聖地の暮らしはもっとステキになると思うの。お茶も会食もピクニックも、険悪な雰囲気じゃつまんないんだもん。」
陛下、聖地は陛下の楽しみを追求する場ではございません、という反論はぐっと飲み込む首座。とにかく新女王陛下は型破りな方である、それは確かだった。そしてその彼女を女王に推したのは彼を含めた守護聖たち全員で、今の彼は女王への忠誠を誓った身なのだから、どんな突飛なことを言い出されようともそれに従う義務があった。
陛下の暴走はしっかり者の補佐官が止めてくれるであろうしな…。←実はあまり自信がない
補佐官が何も言わずそこに控えているということは……陛下のご命令に関しては補佐官も認めているということだ。←だから、ロザリアには止められなかったの(笑)
…ピクニック…か。女王主催ならば、当然我らも行かねばならぬのだろうな……。(どんより)
それにしても……仲良くする、だと? これと?
ジュリアスとクラヴィスはお互いに相手をちらりと見て、同じことを考えていることを悟り、目をそらした。そう、ある意味彼らはとても気が合うと言えた。ならばこの突飛な女王命令も何とかこなすことができるはずだ、と無理に思い込もうとする二人。宇宙が安定してきて仕事は楽になったが、新女王陛下のもとでは別種の仕事が増えそうだとひそかにため息を洩らす。さらに、首座であるジュリアスは、何事かあったのかと心配しているに違いない他の守護聖たちにどう説明しようかと頭を悩ませながら謁見室をあとにしたのだった。


2.夜明け (03/08/29)
女王からの命令を受けて謁見室を退出したジュリアスとクラヴィスは、他の者たちの目を避けて宮殿内で普段使われていない部屋に入り込んだ。
「で。どうする、クラヴィス?」
「どうすると言われたところで…フッ…女王命令だ、従うしかないのであろう。」
「ご命令に従うのは当然だ。私が言っているのは、他の者たちにどう説明するかということだ。何があったのかと案じていよう。」
「別に…悩むことなどないではないか。陛下のおっしゃったことを話せばそれでよい。」
仲良くしろという命令を受けました、と?
担任教師に仲の悪い子どもたちが呼び出されて「あなたたち、仲良くね」と言われたような今回の命令は、ジュリアスのプライドにとっては痛手だった。なにしろ格好悪いではないか。どの面下げて他の守護聖たちに言えというのか。
「言えるものなら、何もそなたと二人、このような場所で話し合ったりはせぬ!」
「そら、その態度。それが良くない。お前がいつもそのように私にくってかかるゆえ、陛下もご心配なのだ。」
フッと笑われてますます頭に血が上ったが、ここでいきり立ってはいきなり女王命令に不服従ということになるので、むっつりと黙り込む。
「仲が悪いと思われるのは、主にお前のその態度に原因があるとみた。ならばお前が私への態度を改めれば問題は解決するのではないか。」
それはあまりな言われようである。ジュリアスにだって言い分はある。
「そうは言うが、そなたが私のことを鼻で笑ったり、神経を逆なでする物言いをするのも悪いとは思わぬか? それを改めさえすれば、私とてむやみに大きな声を出したりはしないものを。」
「ふむ…そういう見方もあったか。」にやり。
「…そなた、やはり私を怒らせたいらしいな。」
「いや、何しろ女王命令だ。私とて守護聖の端くれ、陛下のご命令には従おう。だからジュリアス、お前も協力してくれ。」
「私に否やはない。」
クラヴィスの方からそう言ってくれるなら願ったり叶ったりだ。だいたいが、この偏屈男が果たして命令を素直に受けるかどうか、それも頭痛の種だったのだから。
「とりあえず……そうだな、『なかよしごっこ』から始めようではないか。」
ごっこ? クラヴィスの口から出た言葉に戸惑いを隠せないジュリアスである。
「どうするのだ?」
クラヴィスはしばらく考えた。
「仲が良いふうを装うのだ。つまりは談笑しつつ回廊を歩くとか、カフェテラスで共に茶を喫するとか、仲の良さが周囲に見て取れる振る舞いを繰り返すことだな。」
「そなたと談笑……できるかどうかはわからぬが、努力しよう。実状がどうあれ、ふりだけならばできぬこともなかろう。」
「それでこそ首座殿だ。」にやり。
「そなたの物言いが何となく癇に障るのは…きっと私の気のせいだな。」にっ。←ひきつった笑い
「もちろん気のせいであろう。ではこれで話は済んだわけだな…」
さっさと自分に背を向けて歩み去ろうとするクラヴィスの背を見ながら、ジュリアスは昔耳にした話を思い出した。
夜明けのコーヒー。仲良くなれるまじないらしいと知って、クラヴィスを誘ったことがあった。思い出すと同時に、背後から声をかけていた。
「クラヴィス、私と共に夜明けのコーヒーを飲まぬか?」
口にしてから、しまった、性急に過ぎたと思ったがもう遅い。案の定、振り返ったクラヴィスは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。
「夜明けのコーヒー?」
「いや、子どもの頃小耳にはさんだ話だが、仲良くなれるまじないらしいのだ。そう装うだけにせよ、やりやすくはならないだろうか、と……何となくそう思ったのでな。よいのだ、忘れてくれ。」
顔をそむけるジュリアスを凝視しながら、幼かった頃に「ともにミルクを」と誘われたことを思い出し、そういうことだったか、とクラヴィスはくすりと笑った。一つがきっかけとなり、次から次へと昔の思い出があふれてくる。時を経て振り返る昔の記憶は、意外にも優しいものが多い。辛いと思ったできごとすら懐かしく思い出された。
そうだな、聖地に来て悪いことばかりでもなかった…。
自然と表情も、そして語りかける声も柔らかくなる。
「では、次の金の曜日の夜は語り明かして、夜明けに眠気覚ましのエスプレッソでも飲むとしようか。怒らぬお前が相手ならば…おそらく昔の思い出話もできよう。」
夜明け、か。明けない夜はないと言ったのは…ルヴァだったか…。
楽しみにしている、と笑みを残して、クラヴィスは部屋を出ていった。誘ったジュリアスの方がことの意外な展開についていけず、その場に立ちつくした。
あの笑顔は何だ…。
ややあって、肝心の話が済んでいなかったことを思い出す。
「クラヴィス! 話は終わっておらぬぞ。他の者たちにはどう説明するのだ!」
むろん、答えが返るはずもない。ため息をつくとジュリアスもその部屋を出て、静かに扉を閉めた。


3.大丈夫か? (03/10/08)
その日、闇の守護聖は朝から少々頭痛がしていた。執務は適当にこなしながら、どうにもすっきりしない頭を少しはっきりさせようと、執務室を出て中庭に立った。石造りの回廊と違って、芝はやわらかくクラヴィスの体の重みを受け止め、かつんかつんと頭に響く堅い感触に悩まされることもない。昼の庭は意外に気持ちの良いものだ、と歩き出そうとして、ふらついて膝をついた。
…やはり今日は調子が悪いか…。
芝の上のこと、けがをしたわけではない。妙なところで膝をついたきまり悪さを苦笑に紛らせつつ、立ち上がって再度足を踏み出したそのとき。
「クラヴィス!」
突然の大声に驚かされた。それはジュリアスの声。
振り向いて、足を速めて近づいてくる純白の姿に目を細めた。陽光の下で光の守護聖は輝かしさを増す。
ジュリアスは美しい。それを認めぬわけにはいかぬほどに。
そして私は…あれのことが嫌いではない。陛下にご心配いただくほど私たちは険悪な仲ではないつもりだが…。しかし顔を合わせればにらみ合いか皮肉の応酬、と端からは見えるのであろうな。
「今、倒れたろう。大丈夫か?」
「ああ、見ていたのか。…大事ない。」
気まぐれに宮殿の中庭に出てみた。真昼の太陽に目がくらんだか、眩暈を起こしてバランスを崩し、片膝をついたところを見られていたらしい。苦笑がこぼれたが、同時にジュリアスの気持ちをうれしく思う自分がいる。
以前のジュリアスだったら、この程度のことで血相を変えて近寄ってきたりしただろうか。
所詮これも陛下向けにわかりやすく仲の良さを演出しているのであろうな。そう振る舞えと私が言ったのを律儀に守っているにすぎぬ。
そう思うと一気に心が冷えた。
「『ごっこ』もなかなか板についてきたな。」
皮肉な笑いとともに口をついて出た言葉に、ジュリアスは眉を寄せた。
「いや…ただそなたが膝をついたのが見えたから…それだけだ。」
くるりと踵を返して回廊へ戻ろうとする手をつかんだ。
「そのように急ぐこともあるまい? せっかくここまで来たのだ。例のなかよしごっこをもう少ししていってはどうだ。なるべく早く陛下にご安心いただいて、このばかげた命令を取り下げてもらいたいものだ。」
ばかげた命令。クラヴィスはそう思っているのか。
そのことにジュリアスはなぜか少し落胆し、それでもうなずいて見せた。
「私はこれから王立研究院へ行くのだが、そなたも来るか?」
「同行させていただこう、首座殿。」

王立研究院で星々の観測データを出してもらって、研究員たちと問題点について討論し、指示を与えたりした後執務室へ戻ろうと研究院を出たときには夕方近くなっていた。
「もうこのような時間か。私はこのまま館へ戻るが…お前はどうするのだ?」
ジュリアスに向けられた顔は青白い。
「…どうした? 顔が青いようだが。」
つと手を伸ばすと、ジュリアスはクラヴィスの額に触れた。ひやりと心地よい手の感触に、クラヴィスは目を閉じた。
「そなた、少し熱があるのではないか。…館まで送ろう。」
驚いて、クラヴィスは目を見開く。
「子どもでもあるまいに。大丈夫だ、一人で戻れる。」
「ならば馬車を呼べ。歩くには遠い。」
「大丈夫だと言っている。」
「そなたの『大丈夫』はあてにならぬ。あのとき膝をついたのも、体調が悪かったからではないのか? 大事ないなどと言っていたが…。研究院へ戻るぞ。」
しぶるクラヴィスを連れて研究院へとって返すと、馬車を回すよう手配して、クラヴィスが乗り込んだのを確認してから自身は宮殿へと戻っていった。
小言が多いのは心配性ゆえ、か…。
だが、とクラヴィスは思う。
私とて、これでもお前の身を案じていないわけではない。根を詰めすぎるお前こそ、大丈夫か?
たまには私がからかって息抜きのひとつもさせてやらねばな…。
くすりと笑みをもらすと、座席の柔らかなクッションに背を預け直して目を閉じた。


4.それだけは勘弁してください (04/03/28)
炎の守護聖と水の守護聖が女王陛下からの召還を受けた。つい先日の筆頭守護聖たちに引き続いての事態に、守護聖たちはまたもや気を揉んでいる。
前回の呼び出し後に会議でもあるかと待ちかまえていた面々は、肩すかしを食わされたのだ。ジュリアスもクラヴィスもなぜ呼び出されたのか一切口にしなかった。
「なあおっさん、今回の件について、あんたは何も言われなかったのかよー?」
「んーと、ジュリアスとクラヴィスだけに陛下からのお話があったということは、つまりですね〜」
「かったりーなー、はえーとこ頼むぜ。」
「ああすみませんね〜。つまり、彼らが口を開かないということは現時点で言うべきことではないと判断した、と解釈できますねー。私は、二人の判断は尊重すべきものだと思いますよ。何か問題が起こっているとして、進展があって他の守護聖にも関わりが出てくれば話してくれると思うんですけどねー。」
「そっか…。ま、いーや。よーするに、オレたちには今ンとこかんけーねーってことだな。」
「まあそういうことです。」
といった話が交わされ、何となくそうしたムードは他の守護聖にも伝わって、今回のことは静観しようという同意が水面下でできた矢先のことだった。


*****


呼び出しを受けたオスカーとリュミエールは謁見室に入った。相変わらずお気楽〜な態度で守護聖たちに接する新女王は、今や遅しと二人を待ちかまえていた。
「あ、二人とも、どーもー。お呼び立てしちゃってごめんなさい。」
「いえ、陛下のお召しとあればいつ何時でも伺います。」
「心強いわ、オスカー。それでね、さっそくなんだけど、この前ジュリアスとクラヴィスに来てもらったでしょ? そのときに二人にお願いしたことがあるんだけど、あの二人だけに任せておくのはちょっと心配だから、あなたたちにも協力してもらおうって思ったの。」
筆頭二人だけに任せられないような大変なこと!?
そりゃ大変だぜ。一大事に違いない!
「炎の守護聖オスカーにお任せを。」
私も覚悟を決めなくてはいけないようですね。
「何なりとお申し付けください。水の守護聖リュミエール、全力を尽くします。」
決意も露わに女王を見上げる二人に、陛下は慈愛深い笑みを向けた。
「頼りにしています。オスカー、リュミエール。」
「はい。」
ごくり。つばを飲み込む守護聖二人。
「じゃ、本題に入らせてもらうわ。あなたたち二人は、ジュリアスとクラヴィスが仲良くなれるように陰でサポートしてあげてほしいの♪」
きゃぴりん♪ と擬音が付属しそうなムードで陛下は仰せになった。
はぁ?
守護聖二人の首がそろってななめ18度くらい傾いた。
「あのね。あの二人の仲が悪いと、なんとな〜く宇宙にも悪影響があるんじゃないかな〜、みたいな? だって二人ともすごい力を持ってるでしょう。すごい力がぶつかり合って何かあったら困るから、この前二人に仲良くしてねってお願いしたの。でも今まで長いことああいう状態だったのを二人だけで軌道修正できるかどうか、わからないでしょ。だから、二人の近くにいるあなたたちが協力して、親密度を上げるお手伝いをしてあげてほしいの。これは女王命令なんで、よろしくねっ♪」
オスカーは補佐官をうかがい見たが、女王の脇に控える補佐官はこめかみを押さえながら小さく首を振った。
補佐官殿にも陛下は止められなかったってことか…。
炎の守護聖と水の守護聖、「今までだって何とかしのいできたんだから、お二人の間が少々ぎくしゃくしてたって何の影響もありませんよ!」と説き伏せたいところだったが、そこは宇宙の女王に忠誠を誓った守護聖の悲しさ、御説ごもっともとうなずいて、黙って命令に従うしかない。炎の守護聖と水の守護聖の二人は瞳を見交わして、ふっとため息をついた。二人の今の気持ちは、「この先どうなるのやら」。表情暗く謁見室から退出しながら「あのお二人を仲良くさせようだなんて。それはまだいいとしても、そのサポートを我々に押しつけようだなんて。それだけは勘弁してください、陛下〜」とそろって心の中で泣き言を言っていた。


5.366 (04/04/11)
宮殿には女王が住まい、また補佐官や守護聖を始めとして多くの人間が働いている。人は食べなければ生きられない、働けない。よって、宮殿には設備の整った厨房があり、大食堂があった。昼の休憩時には、多くの者がそこで昼食を摂る。年少の守護聖はその大食堂を利用することもある。一般向けの大食堂とは別に、豪華な設えの特別室もあってこちらは補佐官・守護聖及びVIP専用となっており、年中と年長の守護聖は主にそちらを利用していた。豪華さが好まれてということではない。守護聖、それも年季の入った者たちが同席していては、一般の職員は落ち着いて食事を楽しむこともできないことを心得ているからだ。守護聖自身にそんなつもりがなくても、他を圧する空気は歴然としていた。
食事を執務室に運んでもらうこともできるが、特に執務が立て込んでいなければ、息抜きがてら食堂に出向く者が多かった。守護聖といえども人の子、執務室にこもりきりでは息が詰まる。食べることそれ自体はどうでもよいクラヴィスもまた例外ではなかった。

366。その数字は、食事をしていたクラヴィスの意識の表層にふわりと浮かび上がってきた。
「366…といえば、肉まんだったか…」
首をかしげながらつぶやいたのを、耳ざとく聞きつけたルヴァが訂正をした。
「あ、それは、366ではなく551の間違いですよー。それと、正しくは肉まんではなくて豚まんですね。でもあなたの口から肉まんなんていう言葉を聞くなんて。」
「お前の館でふるまわれた…」
「あー、そうでしたっけ? そんなことがありましたかー。」
そうですよね。そうでもなければ、あなたが肉まんを知っているはずがないですよね、とルヴァは続けた。
「…肉まんと豚まん……どう違うのだ?」
「551のお店の本拠地である地方では一般的に豚まんと呼ぶようですね〜。」
「で、結局のところどう違う?」
「それがですねぇ…違いはあまりないようなのですが、呼び方が違うことに関しては諸説あるようでして、はっきりしたことはわからないのですよ。それよりも、何です? 366という数字がどうかしたのですか?」
「ふと…意識に上った数字なのだが、何であったのだか思い出せぬのだ。」
ルヴァは少し考えるように視線を上に投げた。
「そうですねー、3つの数字の組み合わせにはいろいろありますからねぇ。119とか911、110、104、813、801、666…」
地の守護聖は思いつくままにあれこれの数字を並べていく。何やら妙な数字も混じっているようだが、気にしないように。
「何だ、その数字は?」
「えーまあ、いろいろですよー。あなたが知ったところで大して役に立つとも思えないものばかりです。」
「そうか。」
しばらく考えていたルヴァは、ああ、と声をあげた。
「思い出したのか?」
「ええ、ええ。思い出しましたー。ほら先日、あちこちでひっきりなしに紛争を起こしている惑星にあなたとリュミエールが特別に多めにサクリアを送ったことがあったでしょう。」
「辺境の…とても美しい、青い星であったな…」
「実は肉まんはあの星の産なのですが、それはまあどうでもいいことです。あの星の公転周期がですね、約365日なんですよ。暦もそれに合わせて作られていますが、ずっと365日のままでいくと徐々にずれてしまうんですねー。だから数年に一度調整する年があって、その年に限っては1年が366日になるんです。あの星の処置をどうするか、会議をしたときの資料にそんなことが書かれていたんでしたー。それにしても、あなたもけっこう細かいところまで資料に目を通すんですね。ちょっと驚きました。」
「お前と違って、何であるかまで覚えてはおらぬからな…役に立たぬ。…何であるかわかったところで、それもまた何の役にも立たぬ知識であるように思うが。」
「そうかもしれませんねー。」
ルヴァは首を縦に振った。
「でもね、何にせよ、知識が増えるっていうのはうれしいことですよねー。知っていて悪いってことはありませんから。」
しゃべりながらもしっかりと食事を済ませたルヴァは、独り合点してにこにことうなずいている。クラヴィスのランチプレートの方はまだ半分以上残っているのを見た彼は、「あのー、私これからちょっと寄りたい場所があるんで、お先に失礼させていただいてもよろしいでしょうかー?」と申し訳なさそうに言った。
「別に、気にすることはない。」
「ではすみませんけど、お先に失礼しますねー。」
頭を下げて、ルヴァは先に席を立った。
あの男の頭の中にはどれほどの知識が詰まっているのか。
少々呆れながら、それでも疑問が解消してすっきりしたことをルヴァに感謝しながら食事を終え、クラヴィスもひととき散策を楽しむべく特別室を出たのだった。




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