「パパ! 新しいマジック、見てくれる?」
「実験台にだって、なっちゃうよ」
「成歩堂、仕事をもってきたぞ」
「ううん。面ど・・いやいや、ウチのエースオドロキくんがお引き受けします」
「成歩堂さん、ラヴソングができたんだけど」
「はぁ。寝るのに差し支えない音量でね」
「まるほどう、珈琲入ったぞ。魅惑のアロマを冷ますなよ」
「・・・奢られる前に、起きますか」
成歩堂なんでも事務所には、ひっきりなしに人が訪れる。
所長である成歩堂の愛娘みぬきは、別として。
依頼人でもない奴らには―――極稀に、依頼絡みの事もあるけれど―――お前等今すぐ出てけ、といつも怒鳴っている。心の中で。密かに。
ぐうたらで、やる気がなくて。
ズボラだし、万年寝太郎だし、貧乏だし。
およそダメ人間を具現化したような成歩堂なのに、彼の周りには、不思議と人が集まる。成歩堂が呼ばなくても。
成歩堂が呼んだら、音速を超えたのではないかとビビる位の速さで。
しかし、どうしてこんなオヤジに、とは思わない。
王泥喜こそが、成歩堂に近付きたくてヤキモキしているから。
みぬき以外の誰よりも、成歩堂と親しくありたい。
ぼんやりとした視線も。少し間延びした声も。案外細い指や腰も。王泥喜のモノになればいいと、王泥喜ではない者と接している度に強く願う。
今のままでは、叶わないと分かっているだけに、余計。
これ以上成歩堂と関わる人間を増やしたくない気持ちもあって、最近の王泥喜は熱心すぎる程バリバリと仕事に取り組んでいる。
まだまだ失敗も多いが、無事依頼をクリアできた時たまに成歩堂が誉めてくれるので、一石二鳥。
―――きっとリミットは、王泥喜が一人前になるまで。
勘だが、独立できる程の経験と実力を身に付けたら、成歩堂は王泥喜から離れそうとする。だからその時までに、並み居るライバル達に勝つ方法を考えなければ。
若輩者だとしても成歩堂を独占したい想いは、譲れない。