王泥喜法介の出勤時間は、朝早い。
新人だからという事もあるが。
朝食が、出るのだ。
それも、憧れの人、成歩堂の手作りで。
「成歩堂さん、お早うございます!」
「お早う。…今日も元気だねぇ」
朝っぱらから発声訓練並みの大音声で溌剌と現れた王泥喜を、成歩堂は反対に今にも寝落ちしそうな状態で迎えた。
ソファから立ち上がろうともしないし。
胸の上に新聞紙を広げて、眠る準備万端だったりするものの。
テーブルの上には、ちょっと冷めた朝食が用意してある。
掃除は(チャーリー以外)碌にしない。
仕事だって、働いているのか働いていないのか分からないし、聞いても『極秘任務』の名の下、教えて貰えない。
王泥喜が目にする成歩堂は、一日の大半を寝ているか、グレープジュースを呑んでいるかの正統派ニートっぷりだけれど。
娘、みぬきに関しては、非常にマメだったりする。
簡単で質素だが、朝食と(ステージがない時は)夕食を必ず作り。
みぬきが食べるのを見届けてから、眠ったりボルハチに行ったりするのだ。
普段は思わず怒鳴ってしまいたくなる程にだらしがない成歩堂の、みぬきに対する愛情に気が付いてからは、王泥喜は成歩堂のいい加減な言動をちょっぴり多目に見るようになった。
しかも、いつからか。
みぬきと擦れ違いで事務所にやってくる王泥喜の分の朝食が、テーブルに置かれていた。
『朝食抜きだと、イイ弁護士になれないよ?』
確かに、何かの折に朝食を取らないと話した事があったが。
まさか、みぬき以外の為に成歩堂が動くとは思ってもみなかったので。
感激のあまり、初めての朝食の味は記憶からすっぽ抜けてしまった位だった。
朝食は成歩堂が作るといっても、それこそいつの間にか後片付けは王泥喜の仕事に組み込まれ、買い物も王泥喜が行っている。
グレープジュース持ってきて、とか。
安眠妨害だから、発声練習は禁止とか。
『○時に起こして』と頼んでおきながら、時間になって声をかけると『イイ気分で寝てるのに、起こさないでほしいなぁ…』とぼやかれたり。
いいように使われ、かつ翻弄されっぱなしだが。
それでも。
王泥喜を『受け入れて』くれている成歩堂が、大きな声で叫んでしまいたくなる程に好きだという気持ちは、一向に減らないのである。