休日っていうのは、心と身体をリラックスさせる為にあると、僕は思うんだ。
だから、昼近くまで寝てるし。
本当はやらなくちゃいけない掃除や片付けを、サボったりするし。
服装だって、出掛けたりしなければ、一日中パジャマだった事もある。
クーラーが壊れてた時なんか、ずっと、トランクス一枚だったよ。
休日を冷暖房完備の御剣ん家で過ごすようになってからは、流石にやらないけど。
建前は、親しき仲にも礼儀あり。
本音は、そんな格好で彷徨こうものなら、どうなるのか嫌という程分かっているから。
そんな訳で、結構細かい恋人のお小言を頂戴しない程度には、取り繕っている。
それにしたって。
いつまでたっても。
何回見ても。
家の中にいるのに、ベルトを通したスラックスを履く、っていう感性が理解できない。しかもそれはあくまで部屋着で、外出する時は着替えるんだよね?!
いや、性格の違いっていうか、生活レベルの違いっていうか。
………うん。
育ちの差?
(ブルジョアめ)
きっと、今日着ている手触りの良さそうな紫のシャツだって、それ一枚でヘタすると僕のビジネススーツが買えてしまう値段に決まってる。
もう桁の多さに一々驚くのが面倒で、御剣の持ち物の値段は一切聞かないんだ。
「フム……そんなに見詰められると、照れるのだがな」
自分としては何となく、ぼんやりと眺めていただけのつもりだったのに、本を読んでいた御剣が中断してしまう位のガン見だったらしい。
注視を指摘された僕は、照れ隠しに戯けてみせた。
「オマエは注目を集めるのなんて、日常茶飯事だろ? 気にしないで、続きを読んでろよ」
どこに行っても女性の熱い視線と、男性の理不尽な羨望を浴びるんだから。
この発言はあくまで茶化しであって、御剣の端麗な容姿を僻んでいる訳ではない。
ましてや、立っているだけでも女性が寄ってくる事に対して、妬いてもいない。
(断じて!)
なのに御剣は思いっきり、都合良く誤解、いや曲解して、僕の気持ちなんてお見通しだというような、自惚れ甚だしい笑みを浮かべやがった。
「愛しい恋人からの視線を、無視できる訳がなかろう」
御剣が愛用している、未だに長ったらしい名前を覚えられない外国製のティーカップの縁みたいに。
薄くて。
完璧なフォルムで。
少しひんやりしていて。
何より口をつけた時の感触が抜群に心地よい御剣の唇が、こっ恥ずかしい台詞を紡ぐ。
(こっ恥ずかしいのは、僕の思考の方だ)
「よく臆面もなく、そんな気障なコトを言えるよな」
呆れきった視線を投げ付けたものの。
気障でも、曲解と自惚れから生じていても、御剣の言葉にからかいの響きは感じられなくて。
僕は、膝立ちでそろそろと御剣に近付いていった。
「読書に飽きたんなら、遊んでやろうか?」
ゴロゴロするのに飽きたのでも、構って欲しい訳でも、ない。
(絶対に!)
「是非、お願いしたいものだ」
爪先まで整った左手が、僕の頤を掴み。
するりと廻された右手が、項へ添わされ。
僕の近くでさらさら揺れる、綺麗な銀糸。
40℃近くの酷暑日でも涼やかな眼差しが柔らかく眇められ、僕だけを映して。
………もう、そこから先は、よく覚えていない。
休日だっていうのに、真っ昼間からこんなに激しい運動をしたらリラックスどころか、逆効果じゃないかと思うのだけれど。
見上げた御剣の額は、やっぱり罅割れていない。
いっつも刻まれている皺が、僕といる時に比較的なくなってるって事は。
きっちり髪をセットして。
いつ災害が起こって外に飛び出してもOKな位に、服装も整っていて。
夜遅くまでイケナイ事をして、その癖翌朝は平日と大して変わりない時間に起きて、時々昼間も夕方もまた夜にも、余計な体力を消耗しても。
まぁ、御剣なりに休日を満喫しているのだろうな、と判断した。