「さぁ、おデコくん。奏でてあげるよ、君に手向ける滅びのメロディを!!」
「ひぃぃっっ、最初から私情全開なんですけど!!?」
検察、弁護双方の準備が整うや否や。流麗にギターを掻き鳴らし、響也が朗々と歌い上げた。
開口一番、消滅を望まれた王泥喜は完全に腰が引け、ツノはプルプル震えている。助けを求めて少し離れた所に控えていた成歩堂を振り返るも、『あっはっはっ、二人とも元気だねぇ』と生温い笑みで躱され。
「おデコくんっ、ど!こ!を!見てるのかな!?」
ぶわり、と響也の背後に立ち上るオーラが一層烈しく赤く燃え盛った為、頸椎を捻挫しかねない勢いで向き直り、大音声で叫んだ。
「はいっ、大丈夫ですぅっっ!」
―――一瞬、法廷が静まり返った後。
サイバンチョから『・・・何が大丈夫なのですかな?、弁護人』と冷ややかにツッコまれ。ツノ共々、深く項垂れた王泥喜であった。
この事件では、被告人の自白こそなかったものの。証拠も証人もバッチリどっさり揃っており、有罪は誰の目にも明らかで。
被告人自身無罪を諦めたのか、序審裁判では(無駄金になってしまうからか)弁護は依頼しないと明言し。しかし裁判では原則弁護人が必要なので、国選弁護人がつく事になり。そこで手を挙げた―――挙げさせられたのが、王泥喜。
『経験、積んだ方がいいしねー』と成歩堂がのんびり、しかし反論を許さない口調で告げ。王泥喜は、泣く泣く負け戦へと赴く羽目に陥った。
頑張った。
必死で、足掻いてみせた。
けれど、やはり結果は覆らず。
「有罪!」
カーン!、と裁判長が躊躇いなく振り下ろした木槌の音が無情に響き渡り。
「成歩堂さん! この勝利をアナタに捧げるよ!」
ジャーン、と響也が誇らしげにギターを弾き。
「うっうっうっ・・・成歩堂さんったら、無茶振りすぎますよぉっっ!」
ガックリ、王泥喜が突っ伏した。
「幾ら何でも、ひどいですっ!」
「あっはっはっ、ほら、習うより慣れろって言うし」
「敗訴なんて、習いたくも慣れたくもありませんっっ」
「まぁ・・いいんじゃない?(どうでも)」
「はっ!、今『どうでもいい』って思いませんでした!?」
「いやだなー、そんな事はないよ。・・・多分」
「やっぱり!!」
おいおいと嘆く王泥喜を、成歩堂は慰めたりはしない。だが面倒だという素振りを見せながらも、決して置き去りにはしない。
成歩堂が王泥喜へ向ける愛情は、分かりにくく。でも、しっかりと存在する。
師事する相手がいない事がどれ程大変かを成歩堂はその身で味わってきたから、王泥喜が一人立ちするまで―――一人立ちした後も、きっと陰ながら―――見捨てたりはしないだろう。
そんな絆が、響也は羨ましい。検事から弁護士へ転身して、成歩堂に弟子入りする事も真剣に考えた。
成歩堂の、マンツーマンの指導。
手取り足取り、成歩堂が正しい道に導いてくれる。
想起するだけで、うっとりと甘い気持ちになる。(王泥喜への態度からして、成歩堂がそんな甘い教え方をする訳がないという可能性は都合良く排除されている)
しかし、断腸の思いで検察側に留まった。
いつか訪れる日の為に。
―――成歩堂と、もう一度法廷で対峙する為に。
成歩堂が司法試験を受け直すべく勉強している事は、本人が話さなくても、あちこちから漏れ聞こえてくる。再び『成歩堂弁護士』として現れる日は、そう遠くない筈。
これまで、成歩堂との法廷は苦い思いばかりが残るものだったけれど。まともに戦った事がないけれど。
だからこそ、真正面からへ挑んで勝ち。
認めてもらいたい。
認めさせる。
その野望を実現させるべく、響也は日々弛まぬ努力を続けている。
成歩堂への想いが募りすぎて、裁判の前・中・後で王泥喜にジェラシーメロディをぶつけたりしてしまうが、そこは若さと情熱故。牽制の意味を兼ねて、抑えるつもりはない。
「成歩堂さん! 勝利のセレナーデは、アナタの心に響いたかい?」
ブーツの音さえ軽やかに楽しげに鳴らしつつ、成歩堂の元へと歩み寄り。響也は、華麗な投げキスを贈った。
「響也くんは、相変わらず冗談が上手いねぇ。まぁ、ともあれおめでとう」
苦笑を滲ませる成歩堂は、それこそ相変わらず響也の気持ちを軽く流す。一筋縄ではいかない、しかしどうにも惹き付けられるのが、成歩堂という男だった。