煌びやかで、熱いステージ。
有罪のフレーズが、美しく響く法廷。
柔らかくて甘い匂いのする女の子。
集まる度、馬鹿騒ぎになる友達。
好きな、楽しいものは沢山ある。
だが・・・生意気を承知で言えば。どれも、気が付いたら傍らにあった。
血反吐に塗れる思いで手に入れたものなど、一つもない。
勿論、それなりの努力はしたが、所詮それなり。
兄・霧人は昔、才能にも環境にも恵まれた響也を『貴方に足りないものがあるとしたら、ハングリー精神でしょうね』と評した。
その時は、霧人こそが世俗の煩雑さから隔離された存在だと思い込んでいたから、同感できる訳もなく。『そのままそっくり、兄貴に返すよ』と肩を竦めた。
記憶に埋もれていた会話は、響也の霧人像に大きな齟齬があり、霧人は感情の起伏が少ない所か苛烈な男だと理解した今、細部まで蘇った。
うっすらと唇に刷かれていた笑みは、苦笑ではなく嘲笑に近い憐憫だったのかもしれない。
響也がもし『餓える』事があれば、満たされていただけに、どれ程苦しむかを聡明な頭脳で予測して。
そして響也は、過去味わった事のない辛酸を嘗めている。
成歩堂は、響也にとって異質そのものだった。響也が笑いかければ大抵の人は好意的に接してくれるのに、茫洋とした黒瞳は極普通に響也を通り過ぎ。
響也がトップアイドルだろうか天才検事だろうが、しかも成歩堂の弁護士資格剥奪に関与したにも関わらず、気の抜けた挨拶だけで済ましてしまう。
身体だって、魅力的な凹凸はない。
無精髭、ニット帽、サンダル、と見掛けはダメ親父。
だが。
欲しい。
何としても。
あの薄い唇に、紅く腫れ上がるまでキスし。だぶついたTシャツが着られなくなる位、白い肌に痕を刻み。偶然触れた時に知った、思いの他細い腰を鷲掴んで最奥に分け入り。
何より、水面に映る月のように揺蕩う心を己がものにしたい。
ずっと、自分達兄弟は似ていないと思っていた。
しかし、とんだ所に共通項があった。
二人共同じ人物に焦がれ、盲目的に恋う。
霧人は後一歩の所で成歩堂を逃がしてしまったが―――。
兄の失敗を教訓に、あらゆる策を講じて想いを遂げよう。