スペイン語で囁く愛の言葉

Regalarte mi carino.




「お噂は兼ね兼ね。初めまして、御剣上級検事」
「牙琉霧人弁護士とお見受けする」
 検事局の廊下で、二人の男が初邂逅を果たした。
 秀麗な容姿、怜悧な雰囲気が似通っていると言っても良い二人だったが、気安い様子は全くない。初めて顔を合わせたぎこちなさとは、違う。
 言葉遣いは丁寧でも、片方は社交辞令の微笑を浮かべていても、互いを計り、見定めようとする緊迫感が空気をピリピリと尖らせる。
「帰国なさって間もないのに、重要案件を幾つも処理されたとか。海外、で更に研鑽を積まれたようですね」
 霧人は一部分に微妙なアクセントをつけ、御剣を賞賛した。
 霧人が入手した資料と比べ、削ぎ落とした若さの分だけ叡智を深め、以前は装着していなかった細縁の眼鏡が硬質で有能で将来を嘱望されているエリート検事のイメージを見事に後押ししている。
「いや、未だ状況把握に追われている最中だ。そちらこそ、『今の』法曹界では最も勝率の高い弁護人だとか」
 細身に見えて真紅のスーツへ強靱な肉体を隠している御剣が、眉一つ動かさず鋭利な視線を寄越した。言葉に含まれる棘も、眼差し同様鋭い。
「身に余るお言葉、痛み入ります。依頼人の為に尽力した結果が、幸運にも実っただけですので」
 上品な笑顔を保ち、霧人は誠実そうに謙遜する。しかし凍てついた氷河を思わせる御剣の双眸を平然と受け止める目付きは、絶対零度。
「崇高な精神だな。如何わしい弁護士に啓蒙してやりたまえ」
「陶化なんて、私の柄ではありませんよ」
「訓育は得意そうだが?」
「・・・・・」
「・・・・・」
 冷ややかすぎる空白が流れる。不毛で皮相な会話は、それ以上長続きする訳もなく。
 二人の対面は。半ば予想していた結果をただ確認するだけに終わった。―――つまり、アレは敵で障害で邪魔者だ、と。
 



「・・っ、っ・・!」
 声なき声を迸らせた肢体は一瞬硬直し、それからシーツへ倒れ込んだ。
 短い間隔で収縮する蜜壺の感触を愉しみ、きつい締め付けに逆らうようにゆるゆると油送繰り返して白濁を奥深くへ植え付ける。とうに飽和状態だった蕾から押し出されたモノが、太腿へと卑猥な流れを描いていた。
「また、ドライで達したみたいですね。淫らな身体だ」
 荒い息を抑えて、クスリと嘲笑する。気怠げに、嫌そうに『センセが変態過ぎるからじゃない?』などと言ってきたら、どんなお仕置きをしようか考えつつ。
「成歩堂・・?」
 だが、しばらくたっても応えはない。どうやら意識を失ったらしい。ズル・・と粘着質な音をたてて肉棒を胎内から引き抜くと、無意識ながら微かな反応を示す。
 まるで留まってくれと哀願しているようで、またしても情欲が頭を擡げるのを感じたが。ふと見下ろした身体に紅い鬱血だけでなく、既に紫へ変色した歯形や嗜虐の痕跡が散らばっているのを認め、考えを変えた。これ以上嬲っても、霧人の望む痴態は得られないだろう。
「・・・ぅ・・」
 御剣との遭遇が霧人の癇に障り、いつもより手酷く弄んだ。突っ伏していた肢体を反転させれば、疲弊の色を濃く表し、眦の腫れた面が露わになる。悪態やわざとらしい媚を口にしても、弱音を吐く事は滅多にない成歩堂が哀願めいた呟きを漏らしていた位だから、明日は当分起きられない筈。
「・・・誰が飼い主か、分からせませんと」
 先程まで情事に耽っていたとは思えない冷たい指で、目尻から頬を撫でる。
 成歩堂の幼馴染み。
 成歩堂が弁護士を目指した『理由』。
 互いに高め合う好敵手。
 数年のブランクがあれど、御剣が再度成歩堂の傍らに戻ろうとする確率は高い。だが、そうはさせない。
 光の世界から、闇に堕とし。
 全てを奪い。絶望と痛みと快楽を与え。
 安寧という檻で囲い。
 成歩堂に涙を流させ、その涙を掬い。
 成歩堂を支配し、蹂躙し―――愛するのは。
 霧人、だけ。
「愛しい成歩堂。貴方を見捨てた幼馴染み殿からも、護って差し上げますよ」
 慈悲に満ちた口付けを、一つ。霧人がこんな事をするのは、成歩堂ただ一人。


 Regalarte mi carino. (あなたに私の愛を贈りたい)



 その代わり、一生、首輪は外さない。