『嫌』と一回でも言われたら引き下がるのは、絆を結ぶ前まで。
伴侶になった後は。
何千の『嫌』を投げ付けられても、離れる事は決してない。
「・・む・・ぅ、ん・・っ・・」
ピチャ、クチュ、と湿った水音と籠もった呻きが混ざり合い、空気を淫らに染めていた。
「や、め・・っ・・ッ!」
必死で藻掻き、一瞬唇が離れたその隙に成歩堂が制止を発したが、狼は再び接吻し濡れた花弁を甘噛みする事で却下した。
狼の両手は成歩堂のそれを掴んで壁に押さえつけ―――無論、怪我をさせたり痛みを感じさせないよう細心の注意を払っている―――塞がっているものの、ぴったり密着させた太腿を微妙に動かして絶え間なく中心を刺激する。
「・・ふ・・ァ・・」
敏感な部分を擦る度、敏感な身体は電流でも流されたかのごとく跳ねる。成歩堂は眉根を寄せきつく瞼を瞑り、体中に力を入れて反応を抑えようとしていたが、所詮、甲斐なき抵抗。狼が望む通りの反応が次々引き出されていった。
成歩堂の身体を、性感を、一から拓いたのは狼なのだ。陥落すべく施す愛撫に対して、快楽に弱い成歩堂が我慢などできる訳がない。
「ん、ッん・・」
己の口腔内へ深く引き入れた舌を強く吸い、その後で柔らかく表面を擽る。じわりと溢れ伝わる唾液は、どこか甘い。もっと味わいたくて顔を寄せれば、自然と膝が卑猥なマッサージをしたらしく、口蓋へ喘ぎとも抗議ともつかない音が反響した。
「龍一、なぁ、いいだろ・・?」
糸が切れたように、ふっと成歩堂が全ての力を抜いたので狼も捕獲から抱擁へと体勢を変え、唇を触れ合わせたまま囁きかける。
「・・だめ、で・・すって・・」
荒く早い息を零す口唇を反らし、成歩堂は小さく『No』を呟いた。頬は上気し、黒瞳は潤み、花弁は熟して食べ頃な紅を示しているのに、抗う。
片手をシャツの下へ潜り込ませ、しっとりとした手触りの肌を撫でると、言葉での抵抗は一層明白となった。
「い、や・・です・・やめて、下さ・・」
合間合間に狼が唇を啄んだり、耳へ歯を立てたり、着衣の上から身体のラインをなぞったりと途切れさせるけれど、成歩堂の意志は誤解しようがない。
事務所で、他に誰もいなくても。昼休み中でも。軽いスキンシップ以上のレベルへ進む事を、成歩堂が快諾すると狼だって思っていなかった。それでもちょっかいを出さずにいられないのは、愛しさ故と―――成歩堂の『嫌』が聞きたいからかもしれない。
番になったからといって、本気で伴侶に嫌がられる真似なんて狼の一族はしない。大切に慈しむのが、伴侶の務め。
だけど。
狩猟本能は根強くて、戯れの範囲内で追いかけて追い詰めて牙に捕らえるという疑似行為は頻繁に行われる。
それには、様々な理由があり。
今の所、狼を駆り立てる最たる衝動は。
「最後までは、しねぇ。ちょっとだけ、龍一を感じさせてくれよ」
「・・・えーと・・」
切実に、誠実に、直情に、口説けば。
成歩堂の『嫌』がほろほろと解け。崩れ。
「龍一が、足りねぇんだ。分かるだろう?」
「・・・・・・」
最後には、躊躇いながらも流されてくれる。
この、番にだけ与えられる『赦し』と『許容』の甘美さといったら。
病みつきに、なる。