「風と共に去っていく・・クールじゃねぇか」
「あれって、舞台はジョージア州だよ?」
「『カムバック、恭介!』とか言われてみたいぜ」
「ワイオミング州だし、死亡説が主流だけど」
『GW明けの憂鬱な気分を吹き飛ばすだけの魅力をもった爽やかなイケメン』と長ったらしい評価を頂戴している直斗だが、どっこい中身は辛辣で腹黒だ。
「細かい事に拘ると、テキサスのバンビーナにもてねぇぞ?」
兄の方は豪傑だのカウボーイ(見た目から)だの兄貴(そのまま)だの、男前的評価を受けるが、弟の鋭いツッコミをあっさりスルーした上、何気にツッコミ返しをする辺り鈍感なのかはたまた大物なのか。
「そういう兄貴だって、もうテキサス女なんか興味ないくせに」
しかし曲者度は弟に軍配があがる。思わせ振りで、何かを確認するような言葉に恭介は一瞬目を見開き、テンガロンハットの鍔に手をやって表情を隠した。
「興味はあるさ。今でも、な」
「ふぅん」
腕の作る影から聞こえた言葉は、嘘ではないのだろう。根っからの女好きな恭介は、いい女を見れば口笛を鳴らし、褒めそやす。
だがそれは、女性という偉大なる存在に敬意を表しているだけなのだ。
テキサスの太陽のように、熱い恋をしてきた恭介。ハードボイルド信奉者である彼は、『風と共に去りぬ』以上の嵐みたいに燃え上がる。けれど時期が来たら『シェーン』の比ではなく、あっさりと立ち去る。
それが恭介のスタイルだった。
「ただ・・見付けちまったようだぜ。テキサスで蜂の巣にされても惜しくない、特別なバンビーナを、な」
漏れた音は非常に小さく、弟に届いていたかどうか。しかしどちらでも構わず、スキットルを傾けて『THE YELLOW ROSE OF TEXAS』を呷る。
カッ、と舌を、喉を、胸を灼く純度の高いバーボンウイスキーは酩酊を誘う筈だが、近頃は中途半端な酔いばかり。理由はいたって、シンプル。煙草や酒では、満たされなくなっているのだ。
「カウボーイの腕前、披露しちゃおうかねぇ・・」
仄かなオークの香りを纏った息を零し、深くテンガロンハットの鍔を引き下げた恭介の目は。
酷く乾いた光を湛えていた。
テキサスの荒野に吹く風のように。
生まれたてで、足元も覚束なくて。
けれど必死に生きようとしている、濡れた黒瞳の子鹿。
仕留めるのは、自分だ。