他のヤツらと違って。
俺だけは、裏切らない。
ずっと、オマエの側にいる。
「なるほどぉ!オレの話、聞いてんのかよ!?」
「聞いてるって。それで、ミオちゃんは何て言ったんだよ」
酔っ払いが次々と出来上がっていく居酒屋で。矢張は周りの喧噪にも負けない大声を張り上げ、成歩堂に絡んだ。
こうして成歩堂と二人で会うのは、一体何回目なのだろう?
カウントなんて面倒くさい事はしないが、かなりの数になる筈。
放課後の教室。学校からの帰り道。喫茶店。居酒屋。
成長するにつれて場所は移り変わったが、成歩堂と矢張の付き合いは綿々と続いている。
一ヶ月、二ヶ月が空こうと。不定期だろうと。
会った刹那、二人は幼き日からの親しい間柄に戻る事ができる。
それだけの時間を、付き合いを重ねてきた。
親友、というのか。幼馴染みか。腐れ縁か。
呼び方はどうでもいい。別に、そんな『括り』なんて必要ない。
大事なのは、矢張が『変わらない』存在で有り続ける事だけ。
いままでも。今も。これからも。
矢張は、矢張だけは、昔のまま成歩堂の側にいる。
「大好きだ!成歩堂っ」
「はいはい。僕も好きだよ」
酔っ払いの戯言へ、律儀に返す成歩堂。
大袈裟に言って肩を抱き寄せ、鎖骨の辺りに頬を擦り寄せたが、はね除ける素振りはない。
『またオマエかよ?いい加減、勘弁して欲しいな…(汗)』
そう。矢張が揉め事を起こし、または巻き込まれて成歩堂に泣き付く度。
ウンザリしたように眉尻を下げてぼやくが、成歩堂は矢張を見捨てたりしない。成歩堂の懐は恐ろしいまでに広く深く、一度受け入れた者は無期限にテリトリー内への出入りを許可する。
――たとえ、裏切られても。傷付けられても。
裏切るのも、傷付けるのも、一種の甘えだ。
成歩堂が最終的には許してくれる事を、『奴ら』は本能的に察知しているから、あんな暴挙にでるのだ。
けれど。憎まれたり、置き去りにされたりすれば、最終的に傷は消えるかもしれないが、成歩堂は辛く苦しい思いをしなければならない。その事を、『奴ら』はわざと見ない振りをしている。
『好きだ』という言葉を、免罪符にして。
だから、矢張は絶対に成歩堂を裏切らない。
『ああ。そういやもう一人、いたよな…』
アルコールで麻痺しかけた思考でも、深く記憶に残る人物。
ソイツは、成歩堂を裏切らなかった。それどころか、助けようとした。すごく良い奴だったけれど、成歩堂を救う為に命を落としてしまったから。
もう、矢張のみが。
成歩堂にとって、ただ一つの場所。唯一の人。
『不変』の。
それがどれだけ重要な事か、『奴ら』には分からない。
ざまみろ、と矢張は密かに舌を出して嘲る。
この先、何が起ころうと。成歩堂を取り巻く環境が、どんなに変化しようと。
矢張ならば、『よぉ、元気か?』と笑って何事もなかったかのように成歩堂の前へ立てる。成歩堂の側に居られる。
ずっと。何年先でも。永遠に。
本当に欲しいモノを手に入れたのはドッチだなんて、わざわざ聞く気も起こらない。