「じゃ、パパ。いってきます」
「ん、いってらっしゃい。車に気をつけてね」
みぬきはちょっと背伸びして、疎らに髭の生えた頬へ口付けた。みぬきにあわせ屈んでいた成歩堂も、そっとキスを返してくれる。
出掛ける時と、帰ってきた時。寝る前。それに限らず、この親子はしょっちゅう頬へのキスやハグを欠かさない。最初の内、目撃する度に王泥喜は驚いていたものだ。口には出さなかったけれど、本当の親子ではないのに、と。
王泥喜が目を見開きツノをピンと立てているのを見る度、みぬきも口には出さなかったが、『ナンセンスですよ、オドロきさん!』と成歩堂直伝の突っ込みを入れている。
本物の親子でないからこそ、みぬき達は言葉以外でも親愛の情を伝えあっているのだ。
偽りでもない。わざと思い込ませているのとも違う。
ただ、愛しさが。
お互いがいる事の喜びと感謝が溢れ出て、自然と体が動く。
「オドロキくんにも、してあげるよ?」
と王泥喜とも『家族』になりたい成歩堂はさりげなく、軽い調子で誘いをかけているのだが。
いつも真っ赤になって大袈裟な位に辞退する王泥喜が、『家族』として受け入れられている事に気付くのが先か。家族の親愛では物足りないのとの無意識な不満に気付くのが先か。その答えは、みぬきのパンツでも出せないものの。
みぬきはもう一つ、こっそりと呟くのである。
「まだまだですね、オドロキさん!」