『クリスマスって、1人で過ごすと気が滅入るんだよねー』
ちょっと照れくさそうにテンガロンハットを手の中で弄びつつ、もし用事がなければ遊んでくれないかと直斗はお願いしてきた。年頃(?)の男としてクリスマスに予約がない事を吐露するのは、気恥ずかしかったけれど。直斗の頼みを無碍に断るなんて、成歩堂には到底出来ず。
家族へのクリスマスプレゼント選びに付き合い。仕事が忙しくてずっとチャンスを逃していたという映画を見。オーナーが捻くれ者らしく、この日だけは男女ペアを入れない隠れ家的人気ビストロで美味しい料理を鱈腹食べ。
別れ際、一度も自分の財布を取り出さなかった事に気付いて恐縮する成歩堂へ。楽しく過ごせたささやかなお礼だよ、と直斗は爽やかにスマートに笑った。
遠慮をポロッと忘れてしまう位、成歩堂もリラックスして楽しんだから。やっぱり好待遇過ぎると申し訳ない気分になったものだ。
明けて、元旦。
知り合いからのあけおめメールに、直斗のものも混じっていた。レスするまでに時間がかかってしまったそれには、
『初詣。まだなら、一緒にどう?』
とのお誘いが。基本的に寝正月の成歩堂は迷ったものの。ぐうたらしたいんです、なんて言える訳もなくてOKしてしまった。しかしメールの遣り取りの中で、『正月はゆっくり過ごしたいだろうから、3日あたりにしようかー』とあり、結局読まれていたのかと赤面する。
仕事始めが近付き。そろそろ、自堕落な生活から気持ちを切り替えなくてはならない時期で。部屋着以外の洋服に着替え、髪型を整え、非日常と日常の境目にある外へ出掛けるのはちょうど良い切っ掛けになってくれた。
「こっそり着物姿を期待してたんだけどなー」
「いやいや、着物なんて持ってませんよ。直斗さんこそ、着てみたらどうですか?」
年始の挨拶を一頻り交わし。直斗情報により選んだ、穴場でそんなに混んでいない神社の参道を歩きながら、何という事もない会話を繋げる。まだまだ貫禄のない成歩堂は着物を纏う気持ちも予定も予算もなかったが、直斗ならば似合いそうな気がした。
普段、カウボーイスタイル一辺倒でも。直斗の鍛え上げられた長身と甘さと鋭さを兼ね備えた容貌だったら、さらりと着こなせる筈。
「んー・・荘龍あたりに見られたら、大笑いされそう」
「あはは。似合ってても、ゴドーさんならからかってくるでしょうね」
などと、本当に軽くてありふれた話だったのに。
そう言えば知り合いがやってる呉服屋がこの近くにあるんだよね、と直斗が言い出して帰りに立ち寄り。一着仕立てる気になった直斗から、意見を求められたり質問されたりしている内に。何故か、成歩堂の着物も仕立てられていたのである。
成歩堂だって、着る機会も置く場所もないと冷や汗を掻きつつ辞退しようと努力したのだ。しかし、これを着てまたお参りに行けばいいし俺のと一緒に預かっておくよetc.etcと、いつしか直斗の話術に丸め込まれ。
あわあわと動揺している成歩堂を余所に、全ての段取りが終了。
無論、次回お参りの日時もガッツリ決まった。
押しては、引く。
引き際のタイミングも。絶妙に計られた押しの強さも。
成歩堂をやんわりと搦め取る。
うっすらと察していても、何となく危機感を覚えても。
どうしたら良いかさっぱり考えつかない成歩堂の今年は―――決まったも同然。