年が明けて、五日。成歩堂の事務所も、仕事始めとなった。
とはいえ、新年早々から訪れる依頼人はいないのが実情。官公庁を回るのと、事務所の掃除が主な業務だった。諸書類の提出を朝一で済ませ、苦手としている掃除が済めば一段落。成歩堂は深い溜め息をついてソファへ腰掛けた。
「っ・・・」
そろそろと慎重に座ったのだが、背筋まで響く鈍痛に思わず眉が寄ってしまう。叫び出すのは我慢できても、無反応ではいられない違和感。今日一日は大変だな、ともう一度嘆息した時―――。
「邪魔するぜ、バンビーナ」
「恭介さん!」
勢いよくドアが開いて、ポンチョを纏った罪門刑事が現れた。予定外の訪問に驚いて思わず立ち上がり、
「!」
中腰の格好でピキリと固まった。
「バンビーナ、顔色が良くないな。・・・キツいか?」
成歩堂の様子を見るなり素早い身のこなしで駆け寄った恭介はそっと腕を廻し、己の身体へ寄り掛からせるようにして支えた。引き攣る顔を覗き込み、労りながらソファへ座らせる。
「いや、あの・・・だ、大丈夫です・・」
急に動いたから衝撃が大きかっただけで、心底気掛かりそうに窺われる程ではなく。それよりも吐息が感じられる位の密接振りが、成歩堂の脈拍を滅茶苦茶に早めた。硬直したまま、恭介の方から必死で視線を逸らす。
「隠さなくていいんだぜ。―――俺には」
「っは、はい・・っ」
距離を取りたい成歩堂の心情を知らぬげに、恭介が顔を寄せ、耳元で柔らかく囁く。成歩堂が動揺の余り引っ繰り返った声を出すのは、無理なからぬ事。
クリスマスイブに、想いを告げられ。
たっぷり一分は放心し。知恵熱寸前までテンパり。ようよう、からかわれたのではなく現実の事だと認識し。
一晩、ほぼ完徹状態で考えに考え抜き。
クリスマスの夜、返事をした。
それからは、怒濤の展開。押せ押せの恭介に押し切られて毎日『デート』と強調される逢瀬を重ね、大晦日には恭介の家へ連れ込まれ。何が何だか把握できない内に、一線を越えてしまい。四日、翌日の用意をしに家へ帰るまで、解放される事はなかった。
当たり前だが、同性との、しかも受け身の交接は初めてで。初めてにもかかわらず、その内容は濃厚で。正直、日常生活に多大な影響が出ている。
「無理させちまって悪いとは思うが・・・嬉しすぎて止まらなかったぜ」
「う、ぁ・・えー・・」
しかし、身体の不調より重要な問題がある。
「今日も、仕事始めの挨拶に託けて来ちまった。バンビーナに会いたくて、な」
「そ、そうですか・・」
恭介の。愛しくて愛しくて堪らない、という視線と。
表情と。
声音と。
仕草と。
態度が。
成歩堂を羞恥で焦がす。待った、と大声で叫んで逃げ出したくなる。一度、逃げ出しかけて引き戻された後の『そのようなアレ』が強烈すぎた為、実践しないが。
「身体の方も・・早く慣れるよう、沢山しようぜ?」
「恭介さんっ!?」
甘くてエロい言葉に、崩れ落ちそうな程溶かされそうで、困る。
そして嫌じゃないのが、もっと始末に悪い。