決して、細かい所まで気が付くタイプではないけれど。
生前可愛がっていた観葉植物・チャーリーは、成歩堂に事務所ごと譲り渡した今も、生き生きと緑の葉を広げている。
毎日成歩堂が水を遣り、日光を浴びさせ、風通しの良い位置に置き、葉を拭いてと甲斐甲斐しく世話をしてくれるお陰だ。
ふらりと降りてきて。
そのチャーリーを見る度、千尋の胸は暖かいもので満たされる。成歩堂の、千尋に対する敬意と思慕と感傷を受け取る。
先輩として指導したのは短い期間だったし、おそらく今では師匠である千尋を越えているけれど。何年経っても、千尋への憧れは変わらない。ずっと成歩堂の心の中に、千尋の居場所はある。
観念的な存在にとっては、他人の『記憶』が依り代。忘れ去られた時に、二度目の消失を迎える。そういう意味において、千尋はいつまでも成歩堂と在れる。
想いが『敬愛』で固定されてしまった事は、一抹の淋しさを覚えないでもないが、それは言っても詮のない事。
『今日もお疲れさま』
審理をギリギリで凌ぎ、精根尽き果ててソファで転た寝している成歩堂の額へ、守護と祝福のキスを。
触れる事のできない距離はもどかしさと、何時いかなる時も成歩堂に寄り添える喜びを等分に含んでいて。
『肉体を離れても感情が残るっていうのは、良い事なのか悪い事なのか、微妙ね』
柔らかな唇に、ほんの少しだけ切なさを滲ませて、千尋は微笑んだ。