「パパ、ただいま!」
「お帰り、みぬき」
例えば、いつでもどこでも寝ているような成歩堂が、みぬきが呼びかけると必ず起きて応えてくれる。
例えば、ボルハチの仕事から帰って来て短い時間しか寝ていなくても、必ずみぬきの朝ご飯を作り、一緒に食べてくれる。
例えば、極秘任務に取り掛かっていてもみぬきに何事かあれば、普段の茫洋さが嘘のように機敏な対応をする。
血が繋がっていなくても、親子として過ごした時間が少なくても、みぬきはそんな『パパ』が大好きだ。仲がいいねと言われる度、嬉しくて飛び上がり、『そうなんです!』と満面の笑顔で自慢する。
決して恵まれた環境でなくても、成歩堂から注がれる成歩堂なりの愛情があれば、それで十分。
兄のように遊んでくれる、王泥喜と響也も。
お金持ちの親戚みたいに、猫可愛がりしてくれるゴドーも。
噂に聞く母親と同じ位、躾に厳しい御剣も。
成歩堂の周りにいる人々は、皆みぬきに優しい。―――成歩堂への下心を抜きにしても。
成歩堂の娘としての牽制や駆け引きは、勉強より面白かったりする。
でも、悔しい事に。
成歩堂に保護され、慈愛を受ける立場のみぬきには、成歩堂が静かでやけに遠い目をしている時、みぬきがいつもしてもらっているように抱き締めてあやす事はできない。
みぬきへの気持ちが、無償の愛から変化する可能性もない。
時々沸き上がる残念な想いは、パンツくんの中へ綺麗さっぱり放り込み。
そして、その代わり。
成歩堂にとっての最優先、は誰にも譲らない。
いくら成歩堂を真剣に想っている人達でも、いつか成歩堂の心を奪う人が現れても、みぬきが占める場所は―――そのまま。