ゴドナル

サンタで行こう!




 まだ幼くて、サンタクロースの存在を信じていた頃。
 今年こそサンタを見るんだと色々な努力をして。けれどいつしか寝てしまい、翌朝、欲しかったプレゼントをもらった嬉しさとほんのちょっぴりの悔しさを味わったものだ。



 そう、あの純粋な子供の時には想像もしなかった。
 ―――クリスマスの朝、ミニスカサンタの服を着て目覚めるなど。



「・・・ゴドーさんの変態」
 非常に寝心地のよいベッドで爽やかに目覚めたのも束の間。違和感に上掛けを捲って己の身体を確かめた成歩堂は、脱力と呆れ混じりの溜息をついた。
「クッ・・俺のコネコちゃんは朝から辛辣だぜ」
 『爽やかな』目覚めだったから、同じベッドにゴドーがいない事は分かっていたが―――同衾していた場合、『暖かい』もしくは『朝に相応しからぬ』のどちらかなのだ―――思いの外近くから渋い声が聞こえた。
「お早うございます、ゴドーさん。・・・辛辣にもなりますよ。ハロウィンじゃないんですから、勘弁して下さい」
 声のする方へ頭を巡らせば、ベッドサイドでゴドーが右手にマグを、左手にデジカメを持って立っていた。
 撮る気なのか。
 もしくは、撮った後なのか。
 どちらにせよ、重い溜息を繰り返しつきたくなる。
 ゴドーは、魅力的な恋人だ。
 昨日のイブだって豪勢な料理を作り、部屋をクリスマス仕様にデコレートし、完璧かつ気障なエスコートで成歩堂を持て成し、ゴドーのセンスと財力を遺憾なく発揮したプレゼントをくれ、最後は少々情熱的すぎる夜で締め括った。
 恋人達の聖夜としては、理想とも言えるだろう。
 しかしゴドーは、世間一般なんてちっちゃい枠に収まらないぜ!とばかり、翌日にサプライズを用意していた。
 ゴドーお気に入りの、コスプレである。
 布団を捲って、赤と白の布地が滅茶苦茶少ない衣装がちらりと視界に入った瞬間、布団を再び首元まで被ったのでよく見ていないが。
 太腿というより足の付け根でモフモフな刺激がある事から察するに、スカートのラインは際疾い。しかも、下着の感触がしない。
 成歩堂が変態と文句を言いたくなるのも、無理はない筈。
 大体、コスプレ趣味のない成歩堂が『ハロウィンだけにしてくれ』と許容するような発言をするのだって、ゴドーがあまりにも成歩堂を着せ替えて楽しむからなのだ。
 拒否しても却下しても抵抗しても、後々己の痴態に打ちのめされるコスプレイを結構な頻度で強要されるのなら。
 一年に一回、腹を括る方が精神衛生上まだマシ。
 ゴドーと付き合ってから修得した、開き直りのスキルである。
「照れ屋で素直になれないコネコちゃんには、お目覚めのキスでご機嫌をとるかィ」
「ちょ・・っ!」
 もっとも、ゴドーの万事都合良く解釈するスキルに対抗できるレベルには程遠い。
 カメラとマグをサイドテーブルへ置いたゴドーは、危険を察知して布団ごと逃げだそうとした成歩堂の上へ素早く乗り、文字通り手も足も出ない状態にしてから熱烈なキスを施した。
「・・っ、ふ・・ん、んー・・」
 唇を開いてはいけないと思うのに、擽るようにからかうように誘うように啄まれ、舐められ、甘噛みされ。
 歯列を堅く閉じたままにしようと思うのに、唇の内側を食まれ、頬と歯列の隙間を舌先でなぞられ。
「・・ぁ・・む、ぅ・・」
 いつしか口腔の奥深くまで、ゴドーの侵入を許していた。
「よく、似合ってるぜ?」
 しかも、上掛けまで剥ぎ取られている。涙目では迫力などないと承知していても、コスプレ好きで、それに輪をかけて成歩堂を弄ぶのが大好きなゴドーを成歩堂は睨め上げた。
「クッ・・」
 やはりゴドーには微塵も効かず、それ所か口角を愉しげにカーブさせる。
「さて、まるほどう。今日の予定だが・・」
 剥き出しの腿をいやらしく撫でながらの発言は、それ相応の内容だった。
「一日サンタ姿で過ごすか。―――ホワイトクリスマスにするか」
 成歩堂は、ホワイトクリスマスの意味が分かってしまった自分を恥じた。
 一方、恥じらいというものを珈琲と一緒に飲み干してしまったらしいゴドーは、ニヤリと悪辣に嗤った。
「どっちでも、好きな方を選んでいいぜ?」



 そんな二択、嫌だ。