珈琲狂想曲




 独特の芳しい香り。
 立ち上る、白い湯気。
 褐色の液体を味わった後の、ニヒルで、どことなく満足げな笑み。
  ゴドーといえば、珈琲。ゴドーを語る上で欠かせないのが、珈琲。赤い血液の代わりに、珈琲が流れているのではないかと疑ってしまう程の、珈琲マニア。
 ゴドーと珈琲は切っても切れないものだから。側にいる成歩堂も、かなり珈琲に思考を染められた―――正確にはゴドーブレンドで髪の毛も顔もスーツも染められた―――から。『珈琲』の単語が耳に届くと、反応するようになってしまった。
「一杯、5000円・・どんな味なんだか」
 テレビの画面からは、一杯500円の珈琲とどう違うのか全く分からない。過去、繊細と程遠い味蕾だとゴドーに断定され現在も大して改善されていないらしい成歩堂故、実際飲んでも分からない可能性は大きい。
 けれど、ゴドーなら5000円分の価値を見出すのだろう。どんな講釈をするのか、楽しみでもある。(但し、短時間に限る)  幸い、今月も事務所の経営は黒字で。ゴドーの誕生日も近い事だし、プレゼントには打って付けかもしれない。そう思った成歩堂は覚束ない手付きでパソコンを操作し、世界一高い珈琲について検索した。
 そして、固まった。


*コピー本『珈琲哲学』に再録*