厄介事を運んでくるのが、やっぱり矢張なら。
とんでもない嵐を巻き起こすのは、いつだって綾里の娘達。
「いやー、この間化け猫を祓ったんだけどね」
「・・・・・・」
「どっちかというと、人の怨念にネコちゃんが取り込まれちゃったパターンでさあ。そのまま消滅させるのは、あまりにも可哀想で!」
「・・・・・・」
「綾里に伝わる、浄化の力を持つ瓶に入れて持ち歩いていたんだよ」
「・・・で、ゴドーさんの前で転けて瓶を割っちゃって、ビックリした猫の霊だか何だかがゴドーさんに憑いた、と」
「そう! でも悪さはしないし、新しい瓶が届けばすぐに移せるから大丈夫!」
「猫耳尻尾付きのゴドーさんを見て、大丈夫と言える真宵ちゃんを尊敬するよ・・」
「えへへ、照れるなぁ」
「いやいや、誉め言葉じゃないから」
ぐっと大人っぽくなって。当主としての技術や知識も備わってきたと春美が誇らしげに語る真宵だけれど。成歩堂の前では、未だにお茶目でドジっ娘で脳天気で矢張と匹敵する位のトラブルメーカーだ。
おそらく真宵の言う通り、元は化け猫だったとしても殆ど浄化されていて憑依されたゴドーに悪い影響はないのだろうし。真宵の連絡を受けた綾里の者が、明日には猫の霊を封じ込める瓶を持ってくるから、それ程心配する事はないのかもしれないが。
ホワイトライオンの鬣みたいな真っ白な頭髪からニョッキリ生える、キジトラ色の猫耳と。不定期にソファをペシペシ叩く、同じくキジトラ色の尻尾が。『あの』ゴドーに装着されている画は破壊力が半端なくて、成歩堂は酷い目眩と頭痛に見舞われていた。
成歩堂も、一応健全な成人男性だ。可愛い女の子のメイド姿やコスプレに萌えるか萌えないかと聞かれれば、萌えると答えても。
長い足を優雅に組んでソファに腰掛け。ゴドーブレンドで満たされたマグカップを片手にいつものニヒルな笑みを浮かべているゴドーが猫耳尻尾を備えていても、全く萌えない。それ所か、薄ら寒くて鳥肌が立つ。
「クッ・・まるほどうよ。お嬢ちゃんのジョークを受け止められない男は、大成しないぜ!」
「確かに、この状態で動じてないゴドーさんにも、尊敬の念が湧きますよ」
当事者でありながら、事故当初から泰然自若としているゴドー。そんな反応を見ると、成歩堂の動揺も収まっていく。正確には気が抜けて、慌てている自分が馬鹿らしくなる。
被害者がこれっぽちも意に介していない上、実害も回復可能な場合、弁護士は不要。また振り回されたなぁ、と深い息を吐いて、成歩堂は真宵を見送った。アクシデントで予定より遅れてしまったが、弾丸買い物ツアーへ出掛けるという、ハイテンションの真宵を。
真宵は、何年経っても真宵だった。
事務所で、ゴドーと二人きり。珍しくない事だが、今日は些か事情が違う。
何しろ、ゴドーに猫耳尻尾が付いているのだ。視界に入る度、ピクリと動きパタリとうねるそれらが気になって仕方がない。最初の衝撃が落ち着けば、持ち前の好奇心が成歩堂を刺激する。
「まるほどう、どうしたィ? やたらと熱い視線を感じるんだが」
勿論、聡いゴドーが成歩堂のソワソワに気付かぬ訳もなく、口角がゆるりとカーブを描いた。
「いえ・・あの・・・もし嫌じゃなかったら、触らせてもらえませんか?」
何もかもお見通し、な視線が顔を赤くさせたものの我慢しきれず、躊躇いがちに申し出てみる。
「積極的なコネコちゃん、嫌いじゃないぜ!」
ますます笑みを深めたゴドーは快諾し、隣に腰掛けていた成歩堂との距離を縮めた。高い位置にある耳が触りやすくなるよう、頭まで傾けて。
「で、では失礼します。・・・うわぁ、柔らかいですねー。温かいし、リアルだなぁ」
フカッ、という擬音が似合う猫耳と尻尾を堪能しまくる迂闊で、ある意味真宵と張る脳天気な成歩堂は。
触れば触る都度、ゴドーの表情が艶めいていき。
『今度は、俺の番だな』とフェロモン三割増しのエロボイスで囁かれ。猫尻尾を極限まで有効活用して弄ばれる未来を、これっぽっちも予測していなかった。