go to シリーズ

チョコラブで行こう!:2




「今年は、僕が作りますから!」
「・・・クッ、楽しみにしてるぜ」
 ダンディとお茶目が綺麗に混ざりあっているようなゴドーと付き合ってから、3年。それなりに、スキルアップはしたと思う。勝率は、甚だ低いが。
 2年目のように上から下から『内』までチョコ塗れにされない為には、と色々試行錯誤して。今年は先手必勝とばかり、節分イベントが終了したと同時に高々と―――実際には切羽詰まった形相で―――宣言した成歩堂。
 流石のゴドーも意表をつかれたのか、独特の色彩を宿す瞳を見開き。数秒経ってから、楽しげに笑った。
 バレンタインチョコを手作りするなんて生まれてこの方初めての事だし、いつか作るなどとは更々思ってもみなかった。人生は、驚きで溢れている。
 そして、試練と失敗と忍耐も盛り沢山・・とついつい肩を落としたくなる成歩堂であったが、ちゃっかりゴドーに手伝ってもらいつつ、様々細々なツッコミを入れられつつ何とかチョコを無事作り上げた。
 形が少々歪でも味に問題ない、手作り感溢れるチョコは、チョコに合うというゴドーブレンド214号と共にゴドーが平らげ。ゴドーはいたくご満悦で成歩堂に甘いカフェオレを淹れてくれ、(成歩堂が切望していた)のんびりほのぼのした時間を過ごした。
 ―――のに。




「ち、ちょっと待った!」
「ほら、コネコちゃん。早く可愛い口をあーんしな」
 後は寝るだけとなった夜、成歩堂はベッドに押さえつけられ。口元にチョコを突き付けられていた。しかも、ゴドーはすっかりエロモード。『六法全書』を読み上げても、老若男女が挙って赤面しそうなフェロモンだだ漏れ。
「いやいやいや、チョコはもう食べましたよね!?」
 力が抜けそうになりながら、ここで折れたら今までの苦労が水の泡なので、必死で抵抗する。
「アレは、まるからのチョコだろう? コレは、俺からのプレゼントさ」
「詭弁ですっ」
「却下。アンタは欲しくない、って言ったかィ?」
「う!」
 暴れていた成歩堂が、固まった。
 バレンタインイベントの主導権を取る事に集中して念押しするのを忘れていた、といえば多少聞こえはよいけれど。
 真実は、ちょっと違う。
 極論的には男同士なのだからどちらがどちらにチョコを贈っても可笑しくはない筈だし、もっと正直な気持ちとしては、恋人であるゴドーから貰うのは嬉しい。敢えて『いらない』なんて言う訳がない。
 問題なのは、程度。そう、昼間のようにほのぼので終わってほしいだけ。
「クッ・・素直にお強請りできないコネコちゃんへ、愛がたっぷり詰まったチョコをあげちゃうぜ!」
「まっ――っん!!」
 格好いいですけど悪寒しかしません!と叫びたくなる悪辣な笑みを湛え、ゴドーはシーツへ置いた箱からチョコを一粒取り出す。そして思い留まらせようと成歩堂が口を開いた瞬間、素早く中へ放り込んだ。
「うわ、これって・・・ん、むッ」
 反射的に口内のモノを噛んでしまった成歩堂は瞠目し、叫んだ―――所へ、第2弾投入。大きな瞳が、限界まで見開かれる。
 ザァッ、と。口腔の隅々にまで広がる、熱い液体。
 実際には冷たいのだが、その成分が粘膜を、神経を激しく灼いた。痺れに近い程の強烈な刺激が歯茎の奥へ染み渡った後は、砂糖の優しい甘さとカカオの濃厚な甘さが、ドロリと膜を作る。
「ケホ・・ッッ!」
 軽く咳き込んだ隙間から、第3弾。成歩堂の口の中は、チョコとアルコールに占領された。齎された熱は秒毎に身体中を侵食し、視界がどんどん歪んでいく。
 ブランデーとウイスキーの違いも分からない、成歩堂。缶酎ハイでお手軽に酔っぱらえるレベルのアルコール分解酵素しか持っていない為、高々ブランデー(もしくはウイスキー)ボンボンでもキツかった。
 しかも、昔間違って食べてしまったブランデーボンボンは頬がうっすら赤くなる位で済んだのに、これはゴドーに促されてゴドー御用達のスコッチウイスキーを一口含んだ時と等しい衝撃という事は。
 度数か。質か。量か。あるいは全て、普通チョコ菓子には用いられないレベルのアルコールが入っているのだろう。
「う・・・」
 成歩堂が正常な思考を保てたのは、そこまで。
 ゴドーがゆっくり覆い被さってきて。淫らにカーブした口唇が重なって。肉厚の舌と共に、今度はチョコと酒が既に混ざりあったモノがドロリと流し込まれ。喉を通ると、昂揚や快楽へと変化して神経を支配していく。
 どちらのものか分からなくなる位、密接に絡み合う肉片。先端を柔らかく噛まれれば、重く下肢が疼く。もう、抵抗なんて出来はしない。
「・・ん、む・・・っぁ」
 その後も、巧みに歯と舌と唇を使ってゴドーは幾つものチョコを成歩堂に食べさせ。アルコールですっかり理性と羞恥心が麻痺した成歩堂を思う存分喰らい。
 翌日、目覚めた成歩堂は。
 朧気で強烈に恥ずかしい記憶と。頭と喉と筋肉と―――あらぬ所の痛みに苛まれた。