初期化しました:2





 人間の身体というものは、なかなか上手くできていて。どこか一部を失うと、それを補おうとする仕組みが働く。ゴドーが視力を奪われた後、他の四感が研ぎ澄まされたのと同じく。
 たとえ一時的であっても、ネクタイで目を覆われた成歩堂は、それ以外の全てを総動員させてゴドーの動きを把握しようと必死になっていた。
「……っあ!」
 ゴドーの指が肌へ落ちる直前、先んじて産毛が接触を感じ取ってさあっと粟立つ。時間差で成歩堂を襲う、二倍に増した電流のような刺激。不定期に、セオリーを無視して、露わにした身体へ愛撫を施していくと、四肢が顕著に揺らぐ。
「いつにもまして、反応がイイじゃねぇか」
「……っ…く…」
 パサパサとまだ堅さを保っている髪がシーツに打ち付けられるが、成歩堂も己の反応が過敏なのは自覚しているに違いない。否定の言葉も出さずに、ただ唇をきつく噛む。流されないように。
 だが、理性を保つ事などゴドーが許す筈もない。空気の動きすら気取らせぬまま動き、緩く勃ち上がりかけた雄芯を大きな手の中に握り込んだ。
「あぁっ!」
 筒状にした乾いた皮膚で遠慮なく擦り立てられ、嬌声に近い叫びをあげる。
 ゴドーはそのタイミングに合わせて、開いた唇の奥まで舌を侵入させ。反射的に閉じかける歯を、自分のそれを支えにして阻止し、濡れた肉と肉を傍若無人に絡み付かせた。
 息もつかせぬ、いや呼吸ごと略奪する接吻に生理的な涙が溢れ、じわりと布が滲んだ。両手を拘束された成歩堂にはゴドーを押し退ける事も叶わず、爪先の丸まった足でシーツを掻き乱して酸素不足を堪え忍ぶしか術がない。
「ん…ぁぁ…」
 戦慄く脚の、膝から太腿を指一本だけで撫で揚げてやれば、ゴドーの口腔へ直接伝わる呻きはますます切羽詰まったものになり。既にすっかり育った欲望は、先端から透明な液体を大量に溢れさせた。
 チュク、と成歩堂の舌を最後に甘噛みしてから、ゴドーが長すぎる口付けを解く。
「こういうの、キライじゃないみたいだな…?」
 唇の外へ引き出された舌をそのままに、懸命に空気を取り込む成歩堂へ、赤裸々な問い掛けが投げられる。
「…ち、が…ぁっ…」
 豊かなバリトンを一層深みのあるものにする、情欲の艶やかさだとか。
 内に潜む淫靡さとか。
 些細な部分からもゴドーの『雄』を拾い上げてしまう成歩堂は打ち震え、縺れた舌を何とか動かして否定したが。
「そうかィ? だが、アンタのココはぐしょぐしょに濡れてるぜ?」
「ひ、ぁ…っ!」
 新たにコプリと鈴口から溢れた蜜を指で辿った途端、ヒクついた腰と零された和えかな喘ぎは、肯定しているも同然で。クツクツと笑ったゴドーは親指で先端部分を苛めつつ、幹を激しく扱きあげ、その下の膨らみをも巧みに弄んだ。
「〜〜〜く…ぁっ…」
 性急ともいえる追い上げに、成歩堂の喉が仰け反る。
 ゴドーの手は、痛みを与えたりはしないけれど。紙一重の鮮烈な感覚を成歩堂がついていけない速度でもたらし、成歩堂の意識と身体を悦楽の奔流に放り投げる。
 全ての工程をちょっとずつ荒く、早く進め、その微妙なラインで苦痛を官能にすり替え、戸惑いと自我を強引に消していく。
「…も…ゴ、ドー…さぁ…」
 そして。
 甘く切ない声で、成歩堂がゴドーの名を呼んだ時。
 ゴドーは尖らせた舌で、泣き濡れた小さな穴を抉り。
 言葉にならない成歩堂の希求を、荒っぽく聞き届けてやったのだった。
 



 リセットどころか。
 ゴドーの念入りすぎる攻めに意識を失った成歩堂は、疲労が一気に出たのか、二時間程身動ぎもしないで熟睡し。
 仮眠室から少しふらつきながら出てきた時には、その表情はだいぶ変化していた。
「座んな、コネコちゃん。目覚めの一杯を奢ってやるぜ」
 ソファで書類を見ていたゴドーは、入れ替わりに成歩堂を座らせ、成歩堂好みの甘いカフェラテを用意してやった。
「アンタ、スッキリしたって顔してるなぁ」
「……言い方が、ヤラシイです」
 両手でマグカップを持つ横顔は穏やかで、揶揄すると成歩堂はほんのり頬を赤くして睨め付けてきた。寝起きの潤む双眸では、全く威力はなかったが。
 それから、ふう、と深呼吸する。
「でも、落ち着きました。………リセットしてくれて、ありがとうございます」
 照れているのか、マグカップを見詰めながらの礼だったが。言い終えて、ちら、とゴドーを窺ったその眼差しが。
 ゴドーの意図を正確に見抜いている事や。
 ゴドーが側に居てくれてよかったと、伝えてきて。
「アンタの役に立てて、光栄だぜ」
 ゴドーこそが嬉しくなり、成歩堂の肩を抱き寄せて額、鼻筋、頬へとキスした。
 抗いもせず、反対に心地良さそうな表情をしているので、もっと堪能するべく誘っているのか微かに開いた花弁を摘もうとして。
「あぁっっ!!」
 成歩堂が突如、前触れもなく飛び上がった為、未遂に終わる。
「まるほどう……?」
「そうか、アレがあったんだ!そういう事か! ゴドーさん、糸口が見つかりそうですっ」
 味気ない布にキスしてしまったゴドーが憮然と見上げれば、そこには先刻までの可愛くも艶めかしい色香をすっかり払拭した、急成長中の才気溢れる若手弁護士。
「資料を見てきます!」
「………ああ」
 気力と共に都合良く体力まで回復したのか、危なげない足取りで溌剌と所長室へと消えていく後ろ姿を見送り。
 己のサポートで、今以上の高みを目指していく成歩堂が誇らしいような。相反して淋しいような思いに駆られる。
「退屈しない、コネコちゃんだぜ」
 逆転弁護士の名に相応しく、時折ゴドーの範疇を軽々と越えていく成歩堂。
 成歩堂がゴドーから引き出す感情は、失った色と視力と想いをただの過去にしない程、鮮やかで。
 側に居なければならない、ではなく。
 側に居たい、というのがゴドーの顕然な心情。
「……餌付けでも、するかい」
 クッとシニカルに笑ったゴドーは。
 奮闘中の所長に栄養補給させるべく、成歩堂が熟睡している間に仕入れてきた食料を取りに、給湯室へと向かった。

                                          


エろい事の、「エ」位で終わってしまい、申し訳ございません〜(汗)