資料室へ行こう!:2




「クッ・・戻れると思うのかィ? まるも――俺も」
「っ!?」
 下腹部をグイと重ね合わされ、顔一面に朱が散る。スラックスを隔てていても、臨戦態勢なのは明らか。ゴドーだけでなく、二人共。
「それとも・・俺はあそこでもイイぜ」
 思わせ振りな視線を辿れば、『倉庫』のプレートが掛かったドアが。
「鍵はかからねぇが、個室だ。スリルがスパイスになるだろうよ」
「お断りしますっ!」
 今度は、間髪入れず正しい物言いができた。恐ろしさで、少し頭が冷えたらしい。ゴドーなら、スリルは勿論、いつ人が入ってくるか、物音でバレないかとビクビクする成歩堂の姿こそを楽しむのは間違いない。
 トンガリが乱れるまで頭を振る成歩堂に、ゴドーは喉の奥で忍び笑い。
「ホテルか、ココか。まるほどうの好きな方にしちゃうぜ!」
 堂々と鬼畜な二択を突き付けてきた。ドッと冷や汗が流れる。どちらも嫌ですと言った場合、ゴドーの性格からしてほぼ100%、倉庫に連れ込まれる。それはどうしても、避けたい。
 となれば―――。
「うう・・・ホテル、で・・」
 小さな小さな声で、呟く。火を噴くような恥ずかしさを、スリルの代わりに味わいながら。
「俺のコネコちゃんのお強請りとあらば」
 ゴドーの笑みが悪辣さを増し。エロ親父より酷いエロ大魔王だ、という心の中のツッコミまで読んだ訳ではなかろうが、トドメなのか念押しなのか再度腰砕けのキスを成歩堂に奢り。
 茫然自失になった成歩堂を椅子に座らせて十秒で後始末し、御用達の老舗ホテルにしけ込んだのである。




 数時間後。辛うじて声が出るようになった成歩堂は。すっかり馴染みになった―――全くもって嬉しくない馴染みだ―――天井を見上げながら、恐る恐る尋ねた。
「あの・・・何か、ありました・・?」
「ん? 何の事だィ?コネコちゃん」
「コネコじゃありません!」
 するりと零れた異議に、もう一つ嬉しくない事を思い出す。資料室にいる間ずっと、コネコ呼びをうっかり容認していたようだ。
「それから、コネコ関係のジョークも禁止します」
 悔しいので、『美味そうにミルクを呑んでただろ?』などとからかわれる前に先手を打つ。尤も、ゴドーの唇に貼り付いているいやらしい笑みは一向に消えなかったが。
「クッ・・ツッコミのきついコネコちゃん、嫌いじゃないぜ!」
 ゴドーはペロリと成歩堂の頬を舐め、それから『で?』と話の続きを促してくる。こういう成歩堂の言葉を一言たりとも漏らさない優しさを、別の場所に発揮してくれればと詮無い事を思いつつ、成歩堂はまた怖ず怖ずとした口調に戻って肝心な質問をする。
「資料室で、急に・・・その、そういう雰囲気になったのは・・何故なんですか?」
「ぁあ?」
 ゴーグルをかけているから、想像混じりだが、ゴドーは一瞬虚を突かれたような顔をした。その後、顎に指をあてたのは、記憶を辿っている時の仕草で。
 ドキドキと待っている成歩堂に与えられたのは。
「別に、特別な理由はないな?」
「ぇえっっ!?」
 衝撃的すぎる回答だった。理由もなく数時間も持続する劣情を催すなんて、病気の範疇に入るのではなかろうか? ビリジアンになり始めた成歩堂を面白そうに眺めるゴドーが、更に言葉を繋ぐ。
「まぁ、強いて理由を挙げるなら・・・そこにまるが在るから、かィ?」
「何ですか、そのマロリーのパクリは!!」
 ビシリと突き付けられた指先にゴドーは口付け、ニッと口角を引いた。
「愛しいコネコが側に居れば、24時間365日、アンタに登りたくなるって事さ」
「―――――」
 成歩堂は、精根尽き果ててシーツに突っ伏した。
 ようやく理解した。
 エロ親父にスイッチするボタンなんて、ないのだ。
 ゴドーには。
 ゴドーの言を紐解けば、成歩堂自身がボタンで、近寄るだけで自動的にスイッチが入る事になる。
 会わないという極論に走れないのなら―――この作戦も、失敗だ。
 『もう、どうすればいいんだ・・』とピンチに陥っていた為。
 成歩堂は、ゴドーが無防備というより不用心に素っ裸を晒している成歩堂にイソイソと登り始めた事に気付くのが、遅れた。
                                          


流されて丸め込まれて喰われるまる。山端さまの所に行って、少しは小悪魔モードを身に付けてくるとイイよ(笑)