資料室へ行こう!:1
ゴドーのスイッチは、どこにあるのか。
普段は渋く男前で、『できる男』の色香をビシバシと醸し出しているゴドーが、一瞬にして『エロ親父』に変貌してしまうボタン。
仕草か。匂いか。シチュか。表情か。言葉か。
何故、そんな事を調査しているのかと言うと。
『エロ親父』モードのゴドーだって、とどのつまりは好きなのだけれど。場所も時間も選ばずモードが変わってしまうので、非常に恥ずかしい思いをする事も多々!あるのだ。
故にスイッチを把握して、『いやちょっと待って下さい』的な状況下では事前にエロ親父の発動を避けられるよう活用したかった。
随分と消極的な作戦かもしれない。
しかし、これまで怒ってみたりお願いしたり嫌がったり甘えてみたりと色々試し、悉く失敗し、ゴドーの手管に抵抗できるスキルが己にない事がよーく、身に染みて、分かった。
この際搦め手でも何でも、対抗措置に成り得るものなら喜んで採用しよう。
大層な気合いの入れようで観察していた成歩堂だったが。
検事局の資料室で。見えない場所にいるとはいえ、二人きりでもなく。一言二言事務的な会話をしただけなのに。
「む〜〜っっ!」
どうして今、丸呑みにされんばかりの烈しさで唇を貪られているのだろう。何が切っ掛けなのか、全く見当もつかない。
突然ゴドーに棚と壁でできたコーナーに押し込められたかと思うと、両手は一纏めで頭の上の壁に磔状態。両脚の間には、ゴドーの長い脚が片方入り。おまけに大きなゴドーの手が顎を包み、節くれ立った指は頬の窪を押して成歩堂の唇を開き。
と、鮮やかとしか表現しようのないワン・ツー・スリーで、成歩堂をディープキスに強制参加させた。
余計な注目を集めたくないから、大声は出したくないし、第一出せない。付け根が痛くなる程、ゴドーに舌を吸われている最中なので。抗議も唇も舌も、ついでに酸素も全部ゴドーが奪っている為、呼吸困難の方が緊急に解決すべき問題のような気もする。
このパターンは、非常にマズイ。五年間、イメージトレーニングで技に磨きをかけたんですか、とツッコミたくなる位に熟練したエロテクを有しているゴドーが、最初からその気だ。成歩堂から『現実』を根刮ぎ攫ってしまうキスを仕掛けてきている。
こうなると成歩堂に抗う術はないから、ひたすら人に見付からない事を祈るだけ。しかもキスが終わる頃には頭の芯がすっかり鈍って、その祈りさえ途切れがちになる。
もしこの場でゴドーが成歩堂を全裸に剥いて奪おうと決めたなら、多分、流される。その後は憤死一直線でも、只中はゴドーだけが成歩堂の全てになってしまう。ゴドーのキスは、いやゴドーそのものが、成歩堂に対して抜群の影響力を有しているから。
「・・〜ッ、ぁ・・ん・・」
膝の力が入らなくなった身体を足一本で支え、ゴドーは途中からフリーになった両手を我がもの顔で成歩堂の性感帯に這わせて更なる落とし込みをする。背中一面に、ゴドーしか解読できない妖しい紋様を指で描き。シャツの上からでもすぐ見付けられる程尖った突起を抓み、クリクリと弄んだ。
身を捩って逃げても、ターゲットをもう一つの蕾へ定めて嬲るものだから、結局両方とも硬く痼り、布に擦れるだけでも背中が波打ってしまう。
その背中の、背骨と脇腹の中間にある盛り上がりを指よりももっと堅い何かでグ、グ、と指圧のように押し込まれ。ゴドーが指輪で成歩堂の感じるポイントを刺激しているのだと理解する前に、走り抜けた電流でびくりと跳ね上がり、ゴドーへと倒れ込む。
「ん、ぅ・・っく・・」
成歩堂はゴドーのベストに強く顔を押し当て、僅かに残った理性で喘ぎを相殺した。こんな場所でという思いよりも、身に生じた悦楽が上回りつつある。その段階を正確に読み取ったゴドーが、耳朶ごと咥えながら誘惑する。
「なぁ、コネコちゃん。仕事を切り上げて、ちょいとホテルに行こうぜ?」
「なっ・・! 行きません!」
ストレートすぎる誘いに今更だが羞恥が戻って焦って拒絶し、その後、『お断りします』にすべきだったと後悔する。
「アンタは、イきまくりだと思うがなぁ・・」
そう、こんな風にゴドーのニヤニヤ笑いとエロ親父発言を誘発する台詞だった事を悟って。
「仕事に戻りますので、放して下さい」
エロトークはわざと無視して、腕を突っぱねる。いきなり解放されたらきっとへたり込んでしまうだろうが、そこはハッタリをかます。しかしゴドーにハッタリは通じない上、繰り返しになるが完全エロ親父モードだったのである。