ひみつのおやつ:2 (ひみつのやくそく続編)
「ね、パパ。味見していい?」
「ん?」
オーブンから戻ってきた神乃木に、成歩堂がワクワクとした様子を隠さず尋ねる。成歩堂の前には、スフレのタネが入っていたボウル。出来上がりが待ちきれないというよりは、どんな味なのか興味があるのだろう。
「いいぞ。ほら」
神乃木はスッと指をボウルに滑らせ、成歩堂の口の前へ差し出した。極自然の動作に、成歩堂も極自然に桃色のちっちゃな舌を伸ばしてメレンゲを舐める。
「おいしい!」
「もっとか?」
「うんv」
クッキーのタネだったりすると?な表情になったりするが、今回のタネは仕上がりに近い味なのか、成歩堂は嬉しそうに顔を綻ばせた。成歩堂の要求に応えて、たっぷりと掬ってやる。
「ありがと!」
両手で神乃木の大きな手を握り、ぱくりと太い指を咥えて子供体温の熱い舌を絡み付かせる。皮膚を小さく滑る濡れた感触は、神乃木の下半身へと繋がる神経をここぞとばかり擽って。
「クッ・・いけないコネコちゃんだぜ・・」
思いっきり違うナニかを想像した神乃木が、少々掠れ気味に呟く。菓子作りの何ら変哲もない過程でイロイロエロ妄想をして勝手に一人で盛り上がっていた神乃木は、勝手に一人で限界を越えた。
「なぁ、まるまる。俺も、味見していいかィ?」
双眸に、今までとは異なる光を宿らせながら、何食わぬ口調で問い掛ける。チュポン、と稚い音をたてて神乃木の指から唇を離した成歩堂は、神乃木の変化に気付かないままニッコリ笑った。
「いいよ♪」
同じ事をしてあげようとボウルに伸ばされかけた手を握り返して引き止め、ひょいと抱き上げる。
「じゃ、遠慮なく」
ペロリと成歩堂の唇を一舐めすれば、驚いて大きい瞳を更に見開いたけれど、味見の方法が分かったらしくクスクス小さく笑って唇の合わせを解いた。
「・・・っ・・」
その隙間から肉片を忍び込ませ、甘味を刮げ取るかのように小振りの舌全体に絡み付いては吸い上げる。確かに成歩堂の舌は砂糖と卵の甘味がしたが、神乃木はすぐに成歩堂自身の甘い甘い蜜に夢中になっていった。
神乃木の小指の爪よりも小さい歯をなぞり、舌を一杯に広げて口腔内の半分以上を一気に味わう。
「ふ・・ァ、ん・・」
教えた通り必死に鼻から呼吸して、成歩堂は神乃木のキスを迎え入れる。その健気さが殊更劣情を煽り、息苦しくならないよう細心の注意を払いつつも、結合は深くなる一方だった。
「・・・っ・・は、ふ・・」
成歩堂の味しか感じられなくなった頃、ようやく『味見』を止めれば、翻弄されきった成歩堂の身体はくたりと神乃木に撓垂れかかる。
すんなりと伸びた項は、白から熟れた朱に染まって神乃木の目を釘付けにし。ミルクのような花のような匂いが鼻腔から刺激を次々と送ってくる。成歩堂の官能を目覚めさせるつもりの神乃木こそが、情欲に流される己を律せない。
「まーる。もっと、味見したいぜ」
濃い桜色になった耳へ低音で強請ると、敏感に身体が震える。
「・・・でも、パパ。スフレが・・」
更に舌足らずな喋り方で、成歩堂は少しだけ抗議した。オーブンからは、香ばしい匂いが漂い始めている。
だが神乃木は、真面目な表情で『まだ時間がかかるさ』と言ってのけた。
確かに時間はかかるが、焼き上がるまでに神乃木が満足するとは思えないから、これは確信犯。ダメダメなイケナイ大人、ここに極まれり。しかし神乃木に全幅の信頼をおいている成歩堂は、あっさり頷いた。
「ん。なら、いっぱい味見して・・?」
「―――――」
ちょっぴり恥ずかしそうに、紅く食べ頃に色付いた唇が告げた刹那。
右手だけで成歩堂を抱っこした神乃木は、左手にスフレのタネが残っているボウルを引っ掴み、寝室へ足早に消えていった。
スフレというものは。
時間が経つと、萎んでしまう。
神乃木によって余分な運動をさせられてくったりし、本格的にお腹が空いた成歩堂が見たのは、べっしゃり潰れた残骸で。
ウルウルと哀しそうな眼で見詰められた神乃木は、成歩堂の涙目に滅法萌える変態でも流石に欲情する事なく、慌てふためいてスフレを作り直したとか。
前作では誤魔化していたのですが、とうとうヤっちゃった(汗) あの素敵イラストを穢したような気がして、胸が痛いです・・。
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