ひみつのおやつ (ひみつのやくそく続編)
店ではカフェエプロンをつけているが、家ではソムリエエプロンが定番。
ソムリエでもない神乃木が、何故ソムリエエプロンなのかというと。家事をするにあたって、上半身まで覆うタイプを探しに行った時、たまたまマネキンに着せてあったソレを成歩堂が見付けて神乃木に着るよう強請り。
『すっごくかっこいいよ!パパv』の一言で、神乃木の家エプはソムリエエプロンに決定した。
―――どこまでいっても、成歩堂中心の神乃木である。
ちなみに子供用ソムリエエプロンをネットで検索しまくって取り寄せ、成歩堂がお手伝いをする際は必ずつけさせている。だが、ソムリエエプロンをつけた成歩堂があんまり可愛いので、店で着るのは禁止した。
こんな愛らしい姿を、神乃木以外に見せてなるものかとの独占欲により。アブナイ人への階段を、日々着実に登っている事が顕著な一件だった。
「パパ、じゅんびできたよー」
「よし。じゃ、始めるか」
本日は店の定休日。朝からずっとイチャイチャベタベタしていた二人は小腹が空き、ちょうどおやつの時間でもあったのでスフレを作る事にした。
材料も作り方もシンプルなスフレは、成歩堂と作業するにはもってこいのレシピだ。
「こうでイイ?」
「あ、ああ。上手いぞ」
容器の内側へ溶かしバターを刷毛で一所懸命に塗る成歩堂の傍らで、その刷毛を利用した悪戯をピンク色の脳内で妄想していた神乃木は。キラキラの純粋な双眸で見上げられ、ちょっとばかり噎せた。
「パパ、風邪ひいたの? ねる?」
途端、心配そうに顔をくしゃくしゃにする成歩堂に、慌てて『ただ喉に支えただけだ』と宥めながらも、『ねる?』というお誘い(←誘ってない)に心揺れる神乃木は人として終焉崖っぷちである。
しかし何とかその場は踏み止まり、お菓子作りを再開する。
「そうそう、周りの所にもな」
バターを塗った容器に砂糖を入れ、回しながら塗していく。ここでのポイントは、焼き上がりをよくする為に底だけでなく横面にも満遍なく砂糖をつける事。
「おいしそうなモモだねぇ」
「・・・・・・」
次は、底にスライスした桃を並べるのだが。白くてプルプルしていて瑞々しい桃を選んだのは、間違いだったかもしれない。別の、もっと美味しい桃が無性に食べたくなってしまったから。
成歩堂の手元を見守ってやらなければならないのに、どうしても神乃木の立ち位置からバッチリ見える、ソムリエエプロンに包まれた『桃』に視線が流れる。
「パパ、次は?」
やや歪ではあったが桃を敷き詰めた成歩堂が声を掛けなければ、神乃木のガン見はいつまでたっても終わらなかった筈。
「次は卵、だな」
脳内はともかく、表面上は何でもないように取り繕うスキルがかなり上がった神乃木は卵を渡し、成歩堂は少々危なっかしい手付きではあったが、殻を混ぜる事なく割って黄身と白身を分けた。
「よくやったから、まるはちょいと休憩だ」
卵白を泡立てるのはまだ無理なのでここは神乃木が受け持ち、手早くハンドミキサーでメレンゲを作り、砂糖を少しずつ加えていく。これを卵黄に足すのだが、成歩堂にゴムベラを持たせ、その手を神乃木が握って誘導してやる。
「きるようにザックリ、だよね?」
「その通りだ。コネコちゃんは覚えがいいなぁ」
成歩堂が以前のお菓子作りで教えたポイントを忘れなかった事に、神乃木は顔が脂下がるのを止められない。典型的な親バカと言えよう。
「なんで、あっためるの?」
タネを流し込んだ容器を湯煎にかけると、成歩堂はクリッと小首を傾げた。大抵のお菓子は型に入れたらすぐにオーブンで焼くから、不思議に思ったらしい。
「桃を暖めておくと、桃もメレンゲも仲良く綺麗に焼けるのさ」
「ふーん」
当然仕組みなど分からない成歩堂だが、『なんでも知ってるパパ』の評価は加点されたようだ。まんまるな黒目に、キラキラなお星様が浮かんでいる。尊敬されて満更でもないどころか、評価を下げない為に日々(こっそり)勉強している神乃木は、心の中でグッと親指を立て、最後の仕上げにオーブンへセットした。
おぎゃさまに描いて頂いた、ソムリエエプロンゴドさんと子なるイラストが元なんですが・・・似ても似つかぬものに(汗) 神乃木さん、変態過ぎる(滝汗)
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