ひみつの melting kiss :1





 神乃木は、考えた。
 優秀な頭脳を、ここぞとばかり稼働させた。
 一つでも多く楽しい思い出を大切な子供に贈るべく、様々な所に連れて行きたいし連れて行ったが。
 プールは、ダメだ。二人きりのプライベートビーチならともかく、他人がいる所での水遊びは危険すぎる。
 成歩堂の、真っ白で瑞々しい肌や。
 プニプニの腕やら、美味しそうな果実が二つ飾られた胸やら。
 すべすべでいつまでも撫で回したい腹やら、子鹿なぞ比較にならない、すんなり伸びた脚やら。
 むっちりと張っていながらどこまでも柔らかくて、挟んでもらうと天国が見える太腿とか太腿とか太腿とかを晒していては、あまりの可愛さにヤられた変態ケダモノ達に誘拐されてしまう。
 勿論、万が一の事が起こらないよう片時も離れないけれど。
 今度は、別の問題が持ち上がる。
 すぐ真っ赤になってしまう皮膚を護る為に、日焼け止めを隅から隅まで念入りに塗ってやったり。
 落とした照明ではなく、成歩堂の産毛さえも見て取れる陽光の中で生肌をたっぷり拝み。どれだけいちゃいちゃベタベタしていてもOKで。成歩堂も大胆に(←神乃木視点)成長途中の手足を神乃木の身体に絡みつかせてくるのだ。
 頬が緩みまくる位、嬉しい。
 しかし嬉しいだけに、ある一部分が少々困った状態に陥ってしまう。神乃木こそが変態のレッテルを貼られないよう、強靱な精神力で何とか持ち堪えたものの、そう何回も使える技ではない。
 成歩堂への尽きせぬ情欲を抑えるには、E☆になる薬でも服用しなければ到底無理だ。
 そんな一方的な大人の事情により、夏のイベントからプールの回数を減らす必要があった。しかし炎天下を歩き回らせるのは、避けたい。
 そこで神乃木がチョイスしたのは、屋内メインで成歩堂の興味を引いて、尚且つラブラブできる(最重要項目だ)場所―――水族館だった。




 成歩堂が生き物で苦手としているのは、チョコレートランナーくらい。後は犬でも猫でも、触れ合う機会があれば大きな目をキラキラさせる。
 日中、成歩堂は学校、神乃木は店と家を空けるからという理由で何も飼育していないが、その理由をクリアしたとしても、結局ペットを飼えないだろう。
 ―――成歩堂が、ペットばかり構うのを予防する為に。とことんダメで狡い大人の思惑をほんのちょっぴりは反省しているのか、動物園やペットショップへ頻繁に訪れるが・・そういう問題ではない。
「ぺんぎんって、ムキムキなんだねー」
 親の心子知らず―――この場合は知らなくて良いし、知らない方が良い―――で、成歩堂は神乃木の葛藤を余所にほのぼのと遊んでいる。
「海の中を、すごいスピードで泳ぐからな。実は殆ど筋肉のマッチョなのさ」
 何気に知識を披露して、『パパってかっこいい』の眼差しをもらっているが、常日頃からどんな質問をされても答えられるように勉強している事も、決して成歩堂には気取らせない。
 甚だしく方向性の曲がったプライドの持ち主は、寛大で優しいパパの仮面をキープしつつ、ふれあい広場で成歩堂が満足するまで戯れさせ。
 疲れた頃を見計らってこの水族館で一番人気の、数階層分の高さを誇る巨大円形水槽へと移動した。
 水槽を中心にして観覧通路が取り囲んでおり、各フロア毎に、まるでシアターのように座って眺める為の椅子が備え付けられていた。
 最前列に、成歩堂を膝へ乗せて座れば。
 見上げても。
 右を見ても、左を見ても。
 瞳が捉えるのは、プラネットブルースクリーン。
 まさに、蒼い液体に包まれているようだった。
 水中で起きる波は、透明と白とが混ざり合っており、その彼方に不思議な空間をひらひらと映し出している。
 命が生まれ、育ち、やがて還る源の中で、背鰭を靡かせて流れに揺蕩う魚達。ぶつかりもせず争いもせず泳ぐ姿は、心を洗う。
「なんだか、ねむくなるね・・」
 時も忘れて鑑賞していた成歩堂は、ぽつりと呟いた。その双眸も、癒しのブルーに染まっている。神秘的な陰翳のついた頬をそっと撫でた神乃木は、こちらも秘やかに言葉を紡いだ。
「まるも俺もみんな、生まれる前は水の中に浸かってたんだ。それを頭のどっかで覚えているから、気持ちよくなるんだと」
「えぇ? おぼれないの?」
 羊水の知識などない成歩堂は驚いて、水槽から視線を戻した。
「腹ン中にいる間は、特別なのさ」
「生まれてからも、息ができたらよかったのになぁ・・」
「・・クッ・・」
 成歩堂がプールの授業で散々息継ぎに苦労したのを思い出した神乃木が、忍び笑う。恥ずかしいのを誤魔化してか成歩堂の唇がツンと尖ったが、再度水の世界を眺めている内にゆるゆると解けていった。


                                          


神乃木パパが変態なのは、デフォです。そして、捏造もデフォです(苦笑)