hideaway:4




 成歩堂の思い込みが凄いのか、ただ鈍いのか。
 そして直斗達の妙な反応は、このシャツが原因だとやっと結びつく。
「ははは・・・」
 引き攣った笑いと共に、そっと視線を巡らせば。
「速やかに、詳細を説明したまえ」
「気に入らねぇな・・?」
「何か、嫌な展開だねー」
 御剣・ゴドー・直斗が犯人を追い詰める時そっくりの表情で成歩堂を凝視している。
 冷や汗をだらだら流しながら窮地に陥れてくれ(やがっ)た矢張を睨むと、『てへ☆』といった感じで笑い。片手は親指を立てて『頑張れ!』ポーズ。もう一方で暢気に携帯を操作していた。
 『ケー番もアドレスも消去してやる!』
 成歩堂が心の中で叫んだが。それを御剣が聞いたとしたら、『だから貴様は甘いというのだ』と突っ込まれていただろう。




「正直に話すのだ、成歩堂」
「素直にさせてほしいのかィ?」
「怯えてるベイビーも可愛いけど・・・うっかり泣かしたくなるね」
「・・ひぃ・・」
 絶対絶命。成歩堂は、ぶるぶる震えていた。勿論、顔色はビリジアンだ。もうそろそろ、三人の追求を躱すのも辛くなってきた。だが、吐露する訳にはいかない。
 成歩堂だけの問題ならともかく、相手がいる事だし。―――狼は一刻も早く皆に公表したいと言って憚らないが。
 恥ずかしくて、恥ずかしいし、恥ずかしいから。―――同性の恋人がいても、彼等に蔑まれる事はないと思っているが。
「たまたま、間違えて着ちゃっただけです・・っ」
 いや、前の二つは取って付けた言い訳。必死で誤魔化そうとする理由は―――『何となく』。
 数々の修羅場(らしきもの)を乗り越えてきた成歩堂の第六感が、彼等には知られてはならないと警鐘を鳴らしている。
 根拠も何もないが、とにかく狼の事はタブーだとの妙な確信があるのだ。成歩堂はゴドー達の想いを厳密には理解しておらず、単なる好意だとしか受け取っていないのに本質を無意識で見抜き警戒する辺り、ある面だけでは鋭いのかもしれない。
「その場しのぎの弁論は止めろと忠告した筈だ」
 しかし組んだ腕へトントンと指を打ち付ける御剣は、逃がしてくれそうになかった。
「『誰』のと間違えたのか、言ってみな?」
 それはゴドーも同様。ずばりと一番突っ込んで欲しくない部分を聞いてくる。
「あのハイテンションはお友達じゃない事は、分かってるから」
 直斗もまた、先回りして退路を塞ぐ。矢張は最も害がなくて、笑い話で有耶無耶にできて、多少のとばっちりならいいか、と思える唯一の人物だったのだが・・・。
「う、その・・あの・・・」
 万事休す。一層汗を掻き、後先考えずとりあえず逃げてしまおうか、と成歩堂が破れかぶれに出口を伺った時―――。
「待たせたな、龍一」
 馴染んだ声、フレグランス、体躯が成歩堂をふわりと包んだ。
「狼捜査官・・?!」
「クッ・・そうきたかィ」
「ダークホースならぬ、ダークワンコだねぇ」
 成歩堂は驚きのあまり固まり。いち早く硬直から復活したのは、御剣達の方。全てを悟った彼等の目が、すぅっと据わる。
「もう、お食事会とやらは終わったんだろ? 迎えに来たぜ、龍一」
 刺すような視線を浴びている事など素知らぬ顔で、成歩堂へ甘ったるく囁きかける。
「し、しりゅ・・・どうして、ここへ・・?」
 旋毛に柔らかくキスされ、その感触でようやく此方から戻ってきた成歩堂が恐る恐る、モゴモゴと呼び名すら曖昧に暈かして尋ねる。絶対に、直斗達の方は見ない。
「矢張からメールをもらってな。恋人のピンチに駆けつけなきゃ、男じゃねぇだろ」
「っ!」
「こっ、恋人・・・だと!?」
「―――イイ度胸だ、青二才」
「あらら、宣戦布告されちゃったよ」
「兄貴、かっこいー!」
 お気楽な反応を示したのは、やっぱり矢張。再度GJポーズを決め、悦に入っている。
 ひょんな事から成歩堂と狼の関係を知った矢張は、一晩狼と飲み交わした後から何故か―――経緯を聞いたら、狼はニヤリと傲岸に笑うだけだった―――狼を『兄貴』と呼んで慕い。余計なお世話だと何回断っても、狼との仲を積極的に応援してくる。
 今日、検事局に現れたのもメル友になった狼から情報を聞き出したのだろうし。狼が突然来たのも、矢張がいらぬ気を回したから。
「矢張め、当分は相談にも乗らないからな・・っ」
 やり場のない憤りを抱え、フルフルする成歩堂。・・・現実逃避だ。成歩堂の頭上で飛び交う冷気と牽制と怪電波に、割って入れる勇気はない。
「優秀な奴ばかり揃ってるから、説明する必要はねぇよな。ちょっかい、かけんなよ?」
 後ろから手を伸ばして成歩堂の顎を包み、思わせぶりに唇へ指を這わせながら狼は言い放った。途端、凄まじく膨れ上がった負のオーラに成歩堂が身を竦める。
 一方狼は、その中身が嫉妬と敵愾心だと分かる性格なら話も対策も違ってくるんだろうな、と思ったものの。
「じゃ、失礼するぜ」
 成歩堂に教える筈もなく、最後に鋭すぎる目付きで睨んでくる御剣達を悠然と見返し、成歩堂を腕に納めたまま歩き出した。
「士龍さんっ、待って下さいって・・!」
 成歩堂はジタジタ暴れるが、猫の子でも摘むようにあっさり運ばれ。再び連れ込まれた狼の部屋で、狼がちょっぴり仕組んだ今回の顛末を聞かされるまで後数時間。




 そして騒動は収束したのではなく、始まりに過ぎなかったと知るのは、その翌日。

                                          


尻切れトンボっぽい…。素敵リクなのに、申し訳ございません(泣)