A 媚薬を飲んだのは、『成歩堂』:アタリです!





 効果は、すぐ現れた。
「……っ…!」
 ドクドクと、速くて大きい血流と鼓動の音が、全身に響く。
「気持ち悪いとかは、ないかい?」
「……ぁ……」
 ゴドーが成歩堂の肩を抱き、耳元で尋ねる。柔らかい抱擁と、気遣う言葉。何ら特別なものでもない、仕草。しかし成歩堂は己の身体が過敏な反応を返すのを、まざまざと知覚した。
 ゴドーが触れる所から、どんどんと熱が広がっていく。耐え難い程に、熱くなる。
 耳朶にかかる吐息が。耳殻をなぞって脳内に滑り込んでいく深みのある声が、内側からの震えを引き出す。
「ゴ、ドー…さ……っ…」
 成歩堂は両腕を伸ばしてゴドーに縋り付いた。ゴドーは自分の腿の上に乗せて包み込んでくれたけれど。宥めるように、服越しにソフトタッチで摩ってくれたけれど。
 そんな甘い愛撫は、成歩堂の焦燥を募らせるだけ。
「具合が悪くなったら、すぐに言うんだぜ?」
 バードキスが、言葉の合間に幾つも振る。ペロリと、鼻の頭が舐められる。情熱的なキスを求めて顔の角度を変えても、皮膚しか触れてくれない。
 はぐらかされている。それは、明らかだった。
 いつもなら成歩堂が嫌がっても舌と舌をねっとりと絡めるディープキスを施しながら、長い長い接吻が終わる事には一枚残らず剥ぎ取られているのに。だが、ゴドーの悪巧みが分かっても、責める余裕すら成歩堂にはない。次々と沸き上がる情欲に内から灼かれ、喚きそうになるのを抑えるので手一杯なのだ。
「ん…っっ……」
 霰もない声で叫ばない為には、口を塞いでしまえばいい。まだ思考の白く焦げ付いていない部分で判断した成歩堂は、自分から唇をゴドーのそれへぶつけるような勢いで重ね合わせた。
 少しだけ開いていた隙間からゴドーの前歯で上皮を削りながら侵入し、淫らな悦楽を与えてくれる舌を目指す。
「ぅん…っ…ふ、…ぁ…」
 鼻から漏れる吐息は酷く濡れていて、羞恥が沸き上がってきたものの、ゴドーの巧みな舌が肉の縁をなぞった瞬間に消え去った。
 首へ巻き付けた腕に、弓なりに反らした背に、丸めた爪先にぐっと力が籠もる。
 そして、欠片の刺激も受けていないのに痛々しく勃ちあがっている肉棒を、ゴドーの堅い腹筋へ浅ましい腰使いで擦り付ける。
 布を通して筋肉のうねりを感じた刹那、
「ぁあ……っ!!」
 成歩堂は呆気なく、着衣のまま、達してしまった。
 ビクビクと下肢が跳ねる度に下着に広がっていく滑りは、本来なら不快な筈なのに。ゴドーが意地悪くも弄ってくれないものだから、ヒタリと過敏になった粘膜を包み込む布地をゴドーの手だと思い込み、官能を拾い上げる。
「すっきりしたかい?コネコちゃん」
 顎を伝う銀色の糸を舐め取りつつ、ゴドーは相変わらず含みのない手付きで、戦慄く背筋を撫でた。一度の吐精では満たされないのを承知の上で。
「…ゴ、ドー…さ…」
 予想通り、餓えたコネコはやや呼吸が落ち着くと再度ゴドーの口付けを強請り、思わせ振りに身体を揺らし、発情しきりの啼き声でゴドーを煽る。今し方達したばかりの雄身は早くも隆起し始め、このまま放っておいても、触れずとも、容易く爆ぜてしまうに違いない。
 しかし、夜毎ゴドーに愛された身体は、前だけの絶頂で満足できる訳もないから。ゴドーは己の情欲をギリギリの所で捩じ伏せ、待った。
 成歩堂が、堕ちるのを。
 『その言葉』を発するのを。
「…ゴド……抱い、て…くだ……っ…」
 上擦り、呂律も怪しくなってきていたが、成歩堂は確かに希求した。
 ゴドーの望みを、叶えた。
 が―――。
「ちゃんと、抱いてるぜ?」
 あれだけ拘ったにもかかわらず、さらりと躱す。触れるか触れないかだった腕を、服の下でツンと勃った二つの突起と、腰骨から脇腹にかけての性感帯を掠める形で締め付け、『抱いている』事を強調する。
「ち、が…っ…」
 初めてもたらされた意図的な刺激にあわや昇り詰めそうになりながら、ゴドーの背中に爪を立てて激しく頭を振る。
「何が違うんだい?言ってみな、まるほどう……どうして欲しいのか、言っちまいな…?」
 ぐい、と強く項を掴んで固定し、耳朶へ唇を直接付けて成歩堂が最も弱い音域で問う。
「あ、ぁ…」
 成歩堂と同じ位に昂ぶって形を変えているモノを、成歩堂の下半身に押し付ける。押し付けて、挿入時を想起せずにはいられない動きを伝える。
 項に添えていた手を外し、背筋からウエスト、そして双丘の狭間を辿って奥深くに息づく蕾を的確に布の上から探り当てると、成歩堂が鋭く息を呑んでゴドーの首筋に鼻先を埋めた。布を巻き込んでも構わないから、内に入ってきてくれる事を待ち侘びるかのように。
 だが、待ち侘びているのはゴドーの方なのだから、引き込もうとする蠢きに逆らって、窄まりの周辺を緩く軽くなぞるだけ。
「やっ…も、…ぅ…」
 奔流さながらの劣情を持て余した成歩堂は、見開いた瞳一杯に雫を溜め、ゴーグルなどないかのごとく真っ直ぐゴドーの双眸を見詰めた。
「ゴドーさんが、欲しい…っ……もぅ、来て…下さ…ぃっ!」
 昂ぶりきって言葉も途切れがちだったが、必死に哀願を紡ぐ。
 嘘偽りのない本心を、晒け出す。
「ゴドーさんが、好き、だから…っ…沢山、愛し…て…っ…」
 成歩堂の告白に。
 その眼差し同様、曲がった所のない告白に。
 ぐらり、とゴドーの視界が歪んだ。
 愛しさで。
 欲望で。
 ゴドーに媚薬なんて、必要ない。
 成歩堂こそが、媚薬そのもの。
 成歩堂の存在を感じるだけで、熱く猛り、酔い、溺れる。
「今夜の俺は、コネコちゃんの従順な下僕だ。お望みのままに」
 厳かに誓った後は。
 成歩堂しか喰らえなくなった哀れで幸福な獣へと、変化していった。






 とまぁ、薬の力を借りて大層甘い一日を過ごしたゴドーと成歩堂であったが。
 薬が抜けてからは、そう上手くいかなかった。
 媚薬を服用した時点で覚悟はしていたから、翌日ベッドから起き上がれない事に対しては、眉尻を情けなさそうに下げて終わり。
「ゴドーさん、来て下さい」
 が、上掛けに丸まって顔と手だけを出してゴドー特製のカフェオレを飲みながらゴドーを呼んだ成歩堂は、裁きの庭で真犯人を追い詰める時さながらの迫力を醸し出していた。
「おかわりかい?まるほどう」
 台詞自体は昨夜何度も聞いたものと同じなのに、天と地程印象が違うな、とゴドーが未だピンクに爛れた思考でノコノコとベッドサイドに立つと。
 成歩堂はマグカップを持っていない方の手を、差し出した。
「ゴドーさんなら、当然ご存じですよね? 盗撮は、犯罪だって事」
「・・・・・・」
 唐突すぎる質問だったが、ゴドーが質問の意図を尋ねる事はなかった。
 『撮っていたのは、知っています。さっさと出して下さい』と、成歩堂の些か冷ややかな視線が物語っていて。
「クッ…可愛いだけじゃないコネコちゃん、大好きだぜ?」
 なかなか手強くなってきた成歩堂に、それでもどこか嬉しそうな雰囲気で、ゴドーは素直に白旗をあげた。
 


                                          

導入部よりエロシーンの方が少ないのは、やっぱりマズイですよね…(汗)環さま、ヘタレな管理人で深くお詫び致します!