All's right with the world! :1





 朝、事務所のドアを開けたら。
「お早うございます、ゴドーさん」
 すっかり馴染みになった珈琲の香りがしたので、姿は見えなかったけれど、挨拶をした。
 週に二回、オブザーバーとして事務所に通ってくれるゴドーに合い鍵を渡していて、その日は必ず珈琲を入れて出迎えてくれる。
「いいタイミングだ、まるほどう。俺の想いを注いだアロマを、一息に飲み干してくれ」
「いやいや、熱いから無理です。火傷します」
「クッ・・コネコだけに猫舌かィ? 怪我したら、俺が念入りに治療しちゃうぜ! ―――舐めてな」
「コネコじゃありませんけど、猫舌です。舐められるのも遠慮したいので、少しずつ堪能させてもらいます」
 肉厚の唇を舌でなぞる仕草が、あまりにもエロフェロモンたっぷりだった為、成歩堂は思わず後ずさる。が、いつの間にか廻されていたゴドーの腕に阻まれ、しかもお尻をネチっこく撫でられ、ぎゃっと叫んで飛び上がった。
「ぅわっちぃっ!」
 自然の法則に従ってカップの中身も飛び上がり、けれど着地点が成歩堂のシャツだったりしたものだから。
 ゴドーに奢られる前に自滅し、その日最初の仕事は『着替え』と相成った。
「朝から、俺のコネコちゃんは積極的だぜ!」
「待った! 二ヶ所程おかしいですし、自分で脱げますって!」
 訂正。
 『着替え』の脱ぐ方は、遠慮したのにゴドーが嬉々として手伝ってくれた。 
 ゴドーは折につけ仕事面以外でもサポートしてくれるのだが、この件に関しては正直子供ではないんだから、と思ったし。
 ゴドーの息がちょっぴり荒かったのが、不思議だった。




 午後、用事があって検事局に出向いた。
 ゴドーは着いていく!と何故か強く主張していたものの、提出期限の迫っている書類を思い出し、スーツの裾を握って『お願いします・・!』と涙目になって頼んだら、ゴーグルから白煙を立ち上らせながらも引き受けてくれた。
 ゴドーの優しさが嬉しくて、つい笑顔になっていた成歩堂は。
「締まりのない顔を、周りに見せるものではない。(私だけに見せればいいのだ)」
 視界一杯に赤い布が広がり、牛ではないので突っ込む事なく停止した。
「悪かったな。どうせ、御剣みたいに鑑賞向きじゃないよ」
 彫像のような胸筋の前でこれまたマッチョな腕を組んだ御剣に、口をヘの字に結ぶ。
「フン。私がじっくり眺めて(舐めて快楽に咽び啼かせて)やるから、そんな(今すぐ押し倒したくなるような)拗ね方はやめたまえ」
「・・・遠慮しとこうかな」
 どうも最近、御剣の発言に違和を感じる。隠されている部分があるというか、真意が別にあるような気がしてならない。 
 昔、何でそんなに鍛えてるんだ?と聞いたら『結婚式と初夜は、姫抱きでなくてはな。準備は万端だぞ?成歩堂』と妙な自慢をされた事もある。
 けれど御剣が醸し出すオーラが、妙にゴドーと酷似していて背筋に寒気が走るので、今の所オール無視を貫いている。
 その後、何とか用事を済ませ―――依頼絡みだったから成歩堂も譲らなかったが、危うく御剣の執務室に強制連行されそうだった―――検察局を出たものの。
 五分もたたない内に、また足止めをくらった。




「・・・恭介さん、暑いですよ」
「俺の愛は、テキサスの太陽以上に燃え盛ってるからな」
 冬ならば兎も角、今は初夏。ぶ厚いポンチョですっぽりくるまれ、暗さと息苦しさと蒸し暑さで成歩堂はじたばた藻掻いた。
「うっ・・バンビーナ。そんなに暴れるもんじゃねぇ」
 成歩堂の身動ぎが伝染したかのように、動揺した声を出した恭介がぶるっと震え、とりあえず上半身は布から解放してもらえた。
 暑がりの成歩堂は早くも汗をかいており、頬も赤らんでいて、至近距離でその光景を見た恭介がますます挙動不審に目を泳がせる。
「俺のマグナムが火を噴いちまうだろ?」
 グイ、と腰辺りに硬いモノを押し付けられ、忽ち成歩堂が青ざめる。
「いやいや、安全装置をかけて下さい! 暴発なんて、洒落になりませんよ?!」
 恭介愛用の大型拳銃は、絶対に官給品ではない筈。事故でも起こしたら成歩堂の身は勿論、恭介も厄介な事になると、心配故の台詞だったのだが。
「確かに洒落じゃ済まないが・・・バンビーナは幼すぎるぜ」
 どういう訳か恭介はがっくり項垂れ、成歩堂を解放した。
 本格的に恭介の具合が気に掛かったものの、恭介が大丈夫と言い張るので後ろ髪を引かれながら、恭介を残しその場を離れる。

                                          


直斗さんを出したい所を、ぐっと我慢してみました(笑)