御剣、愛を語る : 「tea break」番外編




「成歩堂、キスしてもよいだろうか?」
「・・・ダメに決まってんだろ」
「フレンチキスならば、承諾してくれるのか?」
「レベルアップするのは、おかしくないか!?」
「貴様への想いは、日々成長しているからな」
「そんな無駄な成長、いらない。今はエコの時代だぞ」
 当意即妙な受け答えに、御剣が誇らしげな笑みを浮かべた。成歩堂との会話はいつも息がピッタリあっていて、二人の相性の良さがこんな所にも顕著に現れていると嬉しくなったらしい。
 だが、そもそも話の根本(二人の意識)が擦れ違っている事を御剣は綺麗に無視している。なまじ端整な貌をしているだけに邪さが際立つ笑みから、御剣のダメダメな思考を読み取ったのか、成歩堂は嫌そうに眉を潜めた。
「大体、そういうコトをする間柄じゃないだろ? そこんトコを、何で都合良く省くんだ?」
 冷たく至極当然な突っ込みを受けて、フム、と御剣が顎を擦った。
「では原点に立ち戻って、文通から始めるというのはどうだ?」
「・・・お前、一通も返事をくれなかったからヤダ」
 今まで半眼で素っ気なく対応していた成歩堂が『手紙』の件を持ち出した途端、プイ、と唇をへの字にしてそっぽを向く。その20歳をすぎた成人男性だというのに、激烈に可愛い語尾と仕草に、御剣はギザ萌えた。
 ガツ、と成歩堂の両肩を掴み、真剣な表情でお願いする。
「成歩堂っ! 必ず後始末すると誓うから、中出しさせてくれ!」
「その極端な揺れ幅は、どういう事だよ!? っていうか、殴る!」
 成歩堂の堅く握られた拳が、宣言より早く繰り出されたのを視界の端に捉えた御剣は、素早くきっかりリーチの分だけ距離を取った。
 成歩堂の愛情表現とはいえ、Mではないので、避けられるものに関しては避ける。愛がこもっている所為か、威力は半端ないのだ。
「逃げる位なら、殴られるような変態発言はするな」
 もう5o下がった口角が、不満を露わにしていて。
「ム・・鬱憤が発散できなかったようだな。ならば喜んで、欲求不満を解消してやろう」
 いつものごとく自分本位の脳内変換をした御剣は、開いていた距離をまたしても一挙につめて成歩堂をソファに押し倒した。片手で成歩堂の両手を抑え、片手で成歩堂のネクタイを引き抜く。
 この動作をワン・ツーとわずか2秒半で淀みなく行った御剣だが、未だに折り鶴は5oずれてしか折れない。冒頭の台詞といい、間違った方向にしか成長しないのは、出発点が『下心』故だろう。
「不満があるとしたら、この状況だって! 今すぐ、ど・け!」
 成歩堂は慌てず騒がず、法廷で怪しい証言者を問い詰めている時と同じきっぱりした口調で命じた。
 最初の内こそ押し倒される都度慌てふためき、きゃわきゃわ騒いでいたのだが、成歩堂が恥ずかしがったり狼狽すればする程、余計に御剣が昂ぶるらしいと把握してからは対応をすっぱり切り替えている。こちらは正しく成長している成歩堂であった。
 渋々起き上がって成歩堂を解放した御剣だったが、その代わりとばかり眉間の皺を1本増やして詰め寄ってきた。
「私としても、この状況に異議を申し立てたい。欲求が募りすぎて、毎晩毎晩、成歩堂で処理せざるを―――」
「黙れっ!ストップ!!」
 ピシャリと手を叩き付けて、発言を遮る。御剣の言動にはだいぶ耐性がついてきたが、それでも『成歩堂が夜のオカズ』宣言は生々しくて聞くに耐えない。夜、悪夢で魘されそうだ。
「お前さぁ・・・」
 成歩堂は、御剣が口を噤んだのを確かめると、それはそれは重い溜息をついた。こんな事は聞きたくなかったし、ましてや男の身でこんな事を言う日が来るとは想像もしていなかった、と。


                                          


久々、ヘタレミツですが・・・イイ!(笑)