巌ナル

J'adoube




 青いナイトを取り囲む、幾つもの赤いポーン。
 それと同じように、ナルホドちゃんの心を守る、幾つもの想い。
 だいぶ、摘み取った筈だケド。
 あと何個壊せば、ナルホドちゃんは『堕ちる』のかな・・・?



 夜遅くまで照明の点いている検事局ではあるが、真夜中を過ぎた時間では、流石に警備員以外は在局していなかった。
 が、非常灯のみの廊下に複数の足音が響いている。
 規則正しいものが、3つ。不規則に乱れたものが、1つ。
「さぁナルホドちゃん、着いたよ。アト少しだから、頑張ってネ」
「ここ、は・・・」
 巌徒が扉をあけて示した室内を見た成歩堂の、霞んだ双眸が驚愕を宿した。思考がぼやけていようとも、見間違える筈はない。親友の、執務室を。
「そこに、置いてくれるカナ? ン、ありがと」
 主不在の執務室にどこからか調達した鍵で悠然と入った巌徒は、両脇から成歩堂を支えていたSPに命じ、己は御剣が気に入っている重厚な造りの椅子に腰掛けた。
 背もたれに寄り掛かり、腹の辺りで黒手袋を装着した組み合わせ、執務机の『上』に乗せられた成歩堂を、愉しげに見遣る。
「ミツルギちゃんの机にチョット悪戯をして、今日は終わりにしようカ」
「・・・っ・・」
 それ程SPの扱いは粗雑ではなかったが。成歩堂の息は荒く、巌徒を辛うじて睨む目は熱く潤み、身体は震えてたかだか数十pの机から降りる事すら叶わない。
 夕方前から呼び出され、ホテルからここへ移動する間以外、延々と弄ばれていたのだ。
 目をしばらく瞑っていたらすぐさま眠りに落ちてしまいそうな位に疲弊しているが、盛られた薬で強制的に昂揚と覚醒を持続している状態だった。
「下だけ脱いで、自分で慰めてごらン?」
 口調だけは柔らかい残忍な命令に、殆ど反射的に頭が振られる。
 が、パン!と革手袋が一度高く打ち鳴らされると成歩堂は力なく項垂れ、後は諾々と従った。
 巌徒が証拠など残す訳がないから。
 いくら御剣の執務室を穢しても、翌日―――いや今日御剣が出勤した際には、狂った遊戯の痕跡は完璧に拭われているのだろう。
 成歩堂の羞恥と、御剣への罪悪感を煽る為だけの状況設定だ。そう分かっていても。巌徒の思惑に踊らされたくなくとも。
 剥き出しにした下肢を、布地から解放しただけで半ば勃ち上がっている欲望を、ちょうど巌徒の目の位置に晒すのは、食い込ませた歯が唇を噛み破る程に情けなく。
 辿々しい手付きで要求された行為をしている内に、奥の窄まりが収縮してドロリと大量の白濁を吐き出し。何人分か考えたくもないそれが天板へと滴った時には、御剣への謝罪が激しく胸に吹き荒れた。
「ん・・っ、く・・」
 この悪辣極まりない舞台から降りる方法は一つしかなく、居たたまれなさと矜持と後ろめたさを押し込め、機械的に感じるポイントだけを擦り立てた。
「・・ふぅん。そんなに早くイきたいの? なら、手伝ってあげようか」
 そんな必死の心情も、巌徒にとっては予想通りの『1手』にしかすぎないのだろう。M字に開かせた脚を抑え、もう片方の革手袋が摘んだものを見せる。
「赤のポーンは青のナイトを守ってるみたいだカラね。きっと、活躍してくれるヨ?」
「・・・?」
 見慣れたチェスの駒がどんな役割をもつのか理解できない成歩堂の視界から、赤のポーンが消え。
「ぁあっ!や、やめて、くださ・・っ!」
 成歩堂が激しく抗った所為で、机上にあった何かが派手な音をたてて薙ぎ払われる。しかし成歩堂には気にする余裕などなかった。
 全身で抵抗したにもかかわらず、右腿に添えた左手だけで成歩堂は縫い止められ、巌徒は悠々と目的を遂行した。
「巌徒、さ・・や、め・・っっ」
 ぬくり、とソレが胎内に潜り込んだ瞬間、逆に指一本すら動かせなくなってしまう。焼け爛れた粘膜を割り広げる、冷たく硬いモノ。
 小さくて細い異物は、内側がぬめっている事もあって、成歩堂の秘肉が嫌悪に強張っても易々と侵入し続ける。
「い、や・・ぁ・・」
 ポーンは全て埋没した辺りでそれ以上押し込まれる事はなかったのだが、成歩堂は絶望に顔を歪めた。巌徒の目論見に、気付いてしまったのだ。
「あとどれくらい、イけるかな?」
 寧ろ無邪気ともいえる表情で巌徒は嗤い。埋め込んだポーンの先端で、成歩堂の前立腺を的確に刺激し始めた。



 何度も放出された白濁の一部が机の縁にかかり、ポタ、と磨き抜かれた床へ落ちていった。ポロ、と閉じられた眦からも透明の雫が机へ散る。
 それは、紛う事なき屈服の証なのに。
 ゆるりと露わにされたオニキスからは、未だ意志の光が消滅していなくて。
「また遊ぼうネ、ナルホドちゃん」
 巌徒は挨拶代わりの『続行』を告げ、己だけ先に退室していった。



 非力で、無垢で、世間知らずで、青臭い理想にしがみついている年若い弁護士との遊戯は。
 成歩堂には教えていなかったものの、『心』が壊れるまでの暇潰し。
 けれど、青のナイトは中々堕ちず。
 ゲーム自体に興が乗りつつある。
「意外に丈夫なオモチャで、嬉しいナ・・」
 碧の双眸が、禍々しい愉悦で細められた。