巌ナル

聖誕快楽




 「ねぇ、成歩堂くん。ちょっと聞きたいんだけどさ」
 『今日のお昼は何にする?』程度の気軽さで発せられた直斗の質問だったが。成歩堂の身体はピキリと固まった。直斗が至って普通の態度をとっている時に繰り出される言葉は、何故か問題発言の確率が高い。
「局長って、クリスマスイベントするの?」
「―――――」
 嫌な予感はぴったり的中し、成歩堂は頬を引き攣らせた。プライベートな内容を聞かれた所為もあるけれど、直斗の笑顔が爽やか且つ興味津々且つ愉しげで、無難な展開は望めそうになくて。
 そして直斗が問うた瞬間、局長前室は妙な空気に包まれた。警察局のトップを補佐する彼らは精鋭中の精鋭故―――何せ法曹界のフィクサーが近くにいる事を許したのだ―――仕事の手を休めたりはしなかったが、意識はがっつり成歩堂と直斗の会話へ向ける。
「平日なんで大々的ではないですけど・・・」
「やるんだ?」
「ええ、まぁ・・」
 片方は聞かれている事に全く気付かないまま、そして片方は聞かれていても全く気にしないまま、話を続ける。
「飾り付けは?」
「・・・内も外も」
「プレゼントは?」
「・・・毎日1つずつ」
「アドベント風なんだ。流石、お金持ち。―――で、今夜はミニスカサンタコス?」
「いやいや、しませんよ!」
「えー、本当に?」
「・・ほ、本当ですっ!」
 『詰まったな』
 『一瞬、間があったよね』
 『ミ、ミニスカサンタ・・』
 聴覚と思考が釘付けになっている彼らの脳裏を、成歩堂ばりのツッコミが過ぎる。誰からとは明白に言わない(言えない)ものの、時々、局長がスゴい格好を成歩堂にさせていると聞いた事がある為に。
 種類も程度も様々とはいえ、この部屋にいるのは皆、成歩堂に好意を持っている者ばかり。
 一般常識とか『普通』とか、問題になりうる所を問題にしないで巌徒と成歩堂の仲を応援しているし、ぶっちゃけ最終兵器・最後の良心・堅固な防波堤として成歩堂には末永く巌徒の傍らにいてほしいと切に願っている。
 それに、『あの』を100個位つけたい巌徒の溺愛っぷりを身近で見ていれば、コスプレ前後を想像するなという方が無理。
「じゃあ、ここでクリパする? 勿論、成歩堂くんはミニスカサンタコスで」
「異義あり! 普通の格好でいいじゃないですか。イロモノは止めましょうよ!」
 巌徒に次いで恐れられている直斗が爽やかに、全く爽やかでない提案を投下してのけ。当事者の成歩堂を始め、部屋に居た者達は度胆を抜かれた。成歩堂が参加しての打ち上げは賛成だが、ミニスカサンタコスなんてプレゼントは畏れ多い・・・以前に実現可能なのか。
 年の終わりが、人生の終わりになるかもしれない。聡い彼らだけに、懸念を抱く。
「―――最期位は、華やかにしてあげようカ?」
「!!」
 部屋の気温が、一気に下がった。かなりの人数がいるのに、誰も巌徒の登場に気付かない。それが、巌徒クオリティ。
 『ひぃィ!』
 『ラスボスが来ちゃったよ・・』
 『ど、どこから聞いてたんだろう』
 『絶対、“最後”じゃなくて“最期”って言った〜』
「あ、局長お疲れ様です。で、成歩堂くんのミニスカサンタコスはOKですか?」
 ちなみに空気を敢えて読まず地雷をさっくり踏みまくるのが、直斗クオリティ。優秀な補佐達は手元の資料やパソコンを痛い程にガン見しながら、必死で空気に徹した。巌徒と直斗の間に入るのは、人生を儚む時だけと全員決めている。
 そんな彼等を巌徒はゆっくり見渡し。今度は足音をたてて成歩堂の元まで歩いて柔らかく抱き寄せ。ニッコリ笑って―――告げた。
「あんまり調子にのってると、妄想もできなくしちゃうヨ?」
「!!!」




 ちょっぴり恐怖の降った、クリスマス。
 どうやら成歩堂から巌徒へのクリスマスプレゼントは、ミニスカサンタコスだったらしい。巧みに誘導してそんなニュアンスの言葉を直斗が聞き出し、周りで聞いていない振りをしてしっかり聞いていた彼等は、隣の局長室にいる巌徒を気にしつつも妄想せずにはいられなかった。