「で、ナルホドちゃんは、引き替えに何を差し出してくれるのかナ?」
巌徒の問いに、
「価値のあるものは大して持っていませんし、犯罪行為には加担する気もありません」
と正直かつ身の程を弁え、しかも尚厚かましく言ってのける所が、気に入った。
「じゃ、ナルホドちゃん自身で支払ってもらう事にするヨ」
「は・・?」
あからさまに要求しても、思いつきもしない純真さも。
「こういう、コト」
引き寄せて驚きの形に開かれた花弁を散々に踏み躙ってやれば、ようやく理解したようで。
「この身一つで、贖えるのなら」
寧ろ拍子抜けしたように、あっさりと契約を結んだ。
故に巌徒は、肉体が精神へ及ぼす影響力を少しも知らない、無垢で愚かな弁護士にちょっぴり世の中を―――悪を、教えてやる事にした。
ジクジクとした疼きが、成歩堂を苛み続けている。成歩堂はその感覚を意識の外へと締め出し、審理の事だけを考えようと努めた。
だが成歩堂の集中力をもってしても、30分前まで陵辱されていた肢体は、立っているのが限界な位に疲弊しきっていたし。身体の内側は未だ熱を帯び、一動作毎に燠火の存在を声高に叫ぶ。
鼓動とシンクロして鈍い痛みを訴えてくるのは、両脚の付け根より数p下、左腿のやや後ろ側へ付けられた噛み痕。
巌徒は指で位置を確認するように肌をなぞった後、軽い鬱血を残し、そこから勁い歯を食い込ませた。痛みの程度から血が滲んだ位だとは分かっていても、疼痛は収まらない。
加えて、どんなに肉体の異常を無視したくとも、淫靡で酷薄な刻印を施した張本人が傍聴席にいるのだ。遠く離れていても、色付きのサングラス越しでも、碧の視線が一挙手一投足に注がれているのを克明に感じる。
誰にも気付かれないよう静かに深呼吸し、成歩堂は証人の証言を注意深く聞いていた。そして、矛盾という綻びを見出した瞬間。
「異議あり・・っ!」
指を突き付け―――大きく身体を強張らせた。今の動きで、最奥に注ぎ込まれた白濁が溢れ出てしまった為に。
ドロリとした、ぬめる液体が皮膚の表面に添って下へと流れていく感触は喩えようもなく肌を総毛立たせ、成歩堂の脳裏を刹那とはいえ真っ白に焼き焦がした。
「異議を取り下げるのかね?弁護人」
現実に引き戻してくれたのは、御剣の皮肉げな、それでいて異変を鋭く嗅ぎ取った問い掛け。成歩堂は、きつく奥歯を噛み締めた。
「失礼しました。改めて、異議を申し立てます!」
頭の中の靄を払うように、丹田に力を入れて言葉を紡ぐ。
組んで口元にあてた黒手袋の影で、巌徒の唇が愉悦に歪んでいる事は、見えなくても分かる。それから伝い落ちる白濁が、おそらくは巌徒の狙い通り、腿の噛み痕で留まったのも。
だが、成歩堂は今度こそ余分な思考を全て閉め出して、ただ『真実』だけを追い求めた。
それが、今の成歩堂にできるたった一つの事。