山下ゆたか『暴虐外道無法地帯 ガガガガ』講談社

 やはり漫画の最盛期は90年代だった。2000年代から漫画は冷え切った。その冷え切った漫画界の中で唯一の光が去年のアフタヌーンでの『ガガガガ』復活だ。実はこの漫画、ヤングマガジンで連載されていたのだが突然打ち切られてしまったのだ。そして、3年ぶりの奇跡の復活。しかし、厳しい状況での連載らしい。2巻発行となるものの。予定より1ヶ月遅れでの刊行。そして1巻復刊ならず。でかい本屋でさえ入手困難な発行部数。最初は50ページの連載だったものの、最近は月刊にもかかわらず20ページになってしまっている。

 山下ゆたかの漫画を松本大洋や上条淳士と似ているという意見もあるようだが、全然違う。漫画では当たり前に描かれる暴力。その世界のまっただ中にいた作者が繊細な線で、その痛みとルサンチマンを紡いでいく。

 『ガガガガ』の舞台は石井聰亙の映画『爆裂都市』をさらに気だるくしたような朧灯地区とキカイ島という元工業地帯のゴーストタウン。そこに巣食らう武装グループ達の日常。その日常は誰の意図にも従わず、無常のままに刻々と変わる。作者はその登場人物達のくっつき、離れる微妙な関係と、打算的な行動のつなぎ方がものすごくうまい。そこには香港映画のように必然など存在しない。タイトルに『狂い咲き産業道路』というタイトルがあった。石井聰亙の映画『狂い咲きサンダーロード』をもじった題だが、元よりも味のあるタイトルとなっている。

 ストーリーは、ある日、朧灯地区に3兄弟という新興勢力が現れ、朧灯地区を席捲していく。そして、キカイ島のドラックを強奪する。その盗まれたドラックを主人公ベニマルが取り返しに行くというものだ。ベニマルは、すぐに銃を振り回し、脅したりすかしたりするのは得意だが、撃ち殺すことはできない。痛さを知っているが故に暴力の加減を知っている。しかし、意のままに進まない打算的な暴力の現状の中で、誤ってキリという女を撃ち殺してしまう。その時の表情の描写がすごい。そして死体をどうかたづけようか悩む。

 日常から非日常への落とし込んでしまう暴力というものは90年代に結構描かれてきた。または、『ガガガガ』よりも激しい暴力は少年誌で当たり前のように描かれている。『ガガガガ』は娯楽作品のような暴力の世界にありながらも、そこにまた日常があって、すれすれを通っていくか細い蛍のような登場人物達が死にかけ、痛みと儚さをもって暴力の後始末をするというところが今までのものと違う。その表情はとても繊細だ。

 舞台設定、ストーリー展開を見ても、映画に出来るくらいの出来だ。それなのにこの漫画を囲う状況はとても厳しい。暴力の痛さのような臭い物には、蓋をしろと時代が変わってきたためなのか。90年代には高度経済成長で築き上げてきたのっぺりした日常が壊れる不安、それ自体の不安を問えたのだが、歩き煙草もできなくなった現在は、裏も表もルール化されて、搾取もルールで行われる。こぼれたものはいくら輝いていても見向きもしない。


H18.06.25

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