スイス&イタリア放浪記---by Y.Hiraoka

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1、序章

 8年チョイ勤めた会社を辞めた。辞めたその足で航空チケットを予約した。行き先なんてどこでもよかった。これからの事、引継きれなかった仕事の事、煩わしいもの全てから逃れるように一人、スイスへ旅だった。
 と、カッコつけた報告にしたかったが、出だしいきなり失敗。行き先がスイス、という事でいつもよりちょっとお洒落して関空を探検する私、シャツを前後逆に着ている事にも気付ずかずに。ウロウロ・・・ウロウロ・・・。誰かゆってーや(T_T)。 

2、明の前半 〜童話の世界〜

 スイスで最初に訪れたのはアイガー麓の小さな村、グリンデルワルト。
 チョコレート色に統一された山小屋風の家、色とりどりの花で飾られた窓。辺り一面に草原が広がっていて、後ろにはアルプスの山々。まるで童話の世界。周りを行く人もとってもキレイ、子供なんてもう不思議の国のアリスに小公子?って感じよ。アジアの国のようにやたらめったら話しかけてくる輩も居なけりゃ、チョコくれ、ペンくれとつきまとうガキンチョも居ない。誰も私なんかに注目しない、自由気ままな旅。
 さー、明日から2週間、好きな時間に寝て起きて、好きなところに行くぞー!
 一人暮らし経験のない私には、その小さなホテルの一室が我が城のように感じられた。

 翌日から私は、実に精力的に動き回った。午前中は山に行き、午後から村を散策したり、タダ券使って近所のプールに行ったり。プールには地元の子供がいっぱい来てて、とっても賑やか。小公子もアリスも狂暴化、同級生を水に沈めるわ、口に水を含んで相手に吹きかけるわ・・・。やっぱガキはガキね (^^;)
 バスでびゃーっと周りの山に登り、後はのんびりお花畑の帰り道。山小屋の横には樅の木があって、ベルつけた牛が居て。ほんっとハイジの世界。そして目の前にはで、でーんと立ちはだかるアイガーの壁。ここ登ろうと思ったんだからなー、すごいよ。

 すごいと言えば、もう一方のユングフラウヨッホもすごかった。「トップオブヨーロッパ」と呼ばれる、登山鉄道で登れる山。お陰で大勢の人が山を間近で楽しむ事ができる。アイガー(3,970)、メンヒ(4,099)、ユングフラウ(4,158)、錚々たる顔ぶれを前にテラスでランチ。んー、なんてお洒落。(食ってるモンは朝食の残りのパンだったけど。けち。)
しかし、スイス人ってスゴイ事考えるよね。まだ日本が汽車の時代に、アイガーの岩盤くり抜いて電車通してしまったんだから。因みにこの鉄道、スイッチバックという事で大層楽しみにしていたけど、途中の駅から進行方向が変わるだけで、別にどってことなかったよ。
 
 さてお次は・・・スイスと言えばやっぱマッターホルンでしょ。
というワケで、ツエルマットへ移動。一日遊んだ後で移動するから向こう着いたらもう夜。ヨーロッパは緯度の関係で、夜9時過ぎまで明るいのだが、この日は何と10:30、当然辺りは真っ暗。ナメてんなー私。後で痛い目に会うよ、きっと・・・。
 世界的な観光地といえどツェルマットもさほど広くはなかったので、あっちの村からこっちの村、山々に至るまでほんと朝から晩まで12、3時間歩きまくった。
 マッターホルンもユングフラウ同様、あちこちにバスやロープウエーが張り巡らされ、色んな角度や高さから山を楽しめるようになっている。一番形がキレイに見える場所、間近に迫って見える場所、等々。ほんと、よくまーこんなトコにロープウエーかけたなぁ!って思うようなトコにまで。それにスキー場も整備されてて、夏でも大勢の人が滑ってるし、皆、生活楽しんでるよ。

 ココ来て思ったのは、すごく自由、って事。勿論それは個人の責任と不可分なんだけど、危険個所にも柵とか余りないし、ゴンドラなんかも自分で勝手に乗り降りする。自分で注意して、自分で管理して。あと、土足文化だからってのもあるとは思うんだけど、店でも電車でも、犬連れてる人って結構多い。ちゃんとご主人様の足下に伏せて、犬同志が鉢合わせになっても素知らぬ顔。まちがっても我が愛娘犬まるこのように無理矢理座席によじ登ろう、なんて絶対しないし。スイスの犬って賢いねー!感心、感心。でもこれ、小さい頃にきちんと躾されてるんだって。そっか、躾次第でガキんちょでも犬でもココまで賢くなれるんだ。バスでガキんちょ、お年寄りが乗ってきたらダッと総立ちだったもんな。こういうトコ、見習わなきゃ、ね。

感心ついでにもうひとつ、ココでは登山列車の駅のモニターで頂上の様子が確認できる。これってすっごい便利。スイスは物価が高くて有名だけど、登山列車に至っては往復5,6千円〜1万5千円くらいするので「あちゃー、曇りだワ」では済ませられない。
 そっかー、今、山の上は曇ってるのね。んじゃ今日は休息日にしよう。毎日盛りだくさん過ぎて疲れたし。買い物して、ハガキ書いて、メール打って・・・。
 
 翌朝。さ、今日はスイス旅行のハイライト、ゴルナーグラートへ行くよ!
 モニターで頂上の晴天を確認し、電車でGO!(古。)
 ゴルナーグラートからの眺めは圧巻だった。モンテローザ、その他の山々とその合間に輝く氷河、ここ(ってゆっても氷河を挟んだ向側だけど)に電車乗ってるだけで来られるんだもんなー。そりゃ、混み混みなワケよ。シーズン中だと写真撮る場もないくらい混雑するらしい。撮影用のセントバーナード犬なんかも居て、「仕事!」というと、ちゃんとカメラを向く。ほんっと賢いねー。まるこちゃん、スイス留学する?
 ここから大抵の人はそのまま折り返し、もしくは一駅だけ歩いて電車で帰るんだけど、私は逆さマッターホルンを見るために歩いて降りる事にした。そう、絵はがきなんかでよく見かける、湖に写る逆さマッターホルン!ソレが見たくてココ来たのよ。
朝食の時隣りに座ったおじいさんから色々見所をアドバイスして貰っていたので、皆の行く道から離れて歩く。こっち行くとマーモットが見られるのね。お、いたいた、マーモット!おや、あっちにもこっちにも、うわ、いっぱいいる〜!ついでに足下糞だらけ。
小一時間たった頃、リッフェルゼー到着。 湖に映る逆さ・・・・ナイ。湖が、ナイ! 
凍て雪に埋もれいるのであった。・・・そこまで調べてへん、ちゅーの! ガッカリ。
勿論、それを差し引いても真正面にずっとツェルマット見ながらのなだらかな下り道は本当に楽しかった。楽しかったけど、その楽しさを共有できないのってちょっとつまんないかなーとも思い始めていた。感動しても何を見てもひとり、食事をするのもひとり。観光客とも地元の人ともそんなに話すこと、ないし。(←話す能力、ないし。の間違い)
そう思うと、やたらめったら話しかけてくるアジアの人々が、旅先で友人が出来てしまうお国柄が、なんだかとても懐かしかった。

 さて、明日はどこ行こうか。

 実は、全く決めていなかった。念のためにイタリアのガイドを持ってはいたが、遠いし、あんまりいい噂聞かないし。スリとかすっごく多いんだって。ガイドブックに「被害コーナー」が設けてあるくらい。あと、しつこいくらいに男が声かけてくるらしい。やめた方がいいよ、そう何度も言われた。声かけられてもついて行ったらアカンよ、って。(行くかい!^^; )←この件に関しては、まっっっったく問題なかった。声なんて全然かけられなかった。一度も。なんでだろ〜なんでだろ♪  
 イタリアを候補に入れていたのは二つの目的があったから。一つはカプリ島に行って青の洞窟を見ること。長靴の甲の辺りにあるナポリから船で渡る島。かなり、遠い。そしてもう一つはフィレンツェでラファエロの絵を見る事。 似合わん、て? あらー知らないのね、ワタクシ、少しは絵心あってよ?んじゃ、試しに行ってみる?

 どきどきしながらイタリア行きのチケットを予約した。うわー、どないしょ、一人でイタリア! もう引き返せないよー!! ほんまに行くことにしちゃったよー!!
 
 ドデカザックを抱えてイタリアを歩く自信がなかったので、ライゼゲペックを利用して送る事にした。スイス国内どこでもFr10(約1,000円)で荷物を別送してくれる制度だ。3日以内だと無料で保管も可能。イタリアから戻って来た時に立ち寄る予定のアンデルマットで受け取る事にした。便利ねぇ〜。
 荷物送りたいんだけど朝何時から駅空いてますか?と聞く私に「6:00!」と冷たくいい放つ駅員のオヤジ。スイスの駅員に珍しく感じ悪ィ。まあ、なら明日の朝でいいか。電車、7:10だし。という事で出発する時に手続きする事にしたのだが、この件でちょっとしたトラブルがあった。
 出発日当日。改札は確かに6:00に開くんでしょ。でも、荷物は7:00やんか〜!!昨日ちゃんと「荷物送りたい」てゆったのに!!クソ、あのオヤジめ。 私の英語がマズかったのか、(マズかったのだ。)荷物をツェルマットで保管、と勘違いした係りの人が保管用のチケットを手渡した。「違う、アンデルマットに送って!」そう言って「to Andermat」紙に書いて渡した。「えーっ、ツェルマットで保管じゃなかったの〜!!」「違う!送って!!もう時間ない、電車出る!」「ちょっと待ってて、偉い人呼んでくるから」ヌ、出てきたのはあのくそオヤジ。今日もやっぱ感じ悪ィ。「いいからホーム行け、5番乗り場だ」「でも、私の名前とか書いてないよ!」「大丈夫、半券持ってるだろ?」「ほんまにOK?アンデルマットよ、ちゃんと送ってよ?」「OK、いいからはやく電車乗れ。」
結局あのオヤジの権限に助けられたワケよね。案外仕事の出来る、いい人かも。そういやS部長にちょっと似ている。彼も最初感じ悪かったもんなー、どこにでも居るんよね、ああいう上司って。
でも、これで荷物届いてなかったりしたら笑っちゃうよねー、なんて思いつつイタリア行きの電車に乗り込んだ。
さいなら、スイス。君はキレイな街だった。さ、今度はイタリアだー。

3、暗の後半 〜ないっ!!〜

 延々電車に乗ること12時間。車窓からの風景はまるで絵はがきだった。レールが流れるような曲線を描き、左右にはずーっと草原が広がっている。湖が見えたかと思うと今度は山。草原にはどこもキレイな草花が咲いているので感心していたが、何もこれは勝手に咲いているわけではなかった。こんな線路沿いの草むらにまで!と思うようなところでも自動水撒き機が朝に夕にじゃかじゃか水を撒いていた。
人々が植木の手入れをしている場面もよく見かけたし、何事もそうよね、努力ナシに成功なんてあり得ないんよね、きっと。 飛躍しすぎ?
 国境を越えるため、検札とは別にパスポートチェックが二度あった。なんだかものものしい雰囲気。向かいの席の男の子はかばんの中身をくまなくチェックされていた。
  やがて車窓の風景がだんだんイタリア化する。草原が広大な畑に姿を替え、オレンジの屋根の家々が表れた。スイスに比べればかなり生活感漂う町並みだ。 人が住んでるトコなんだから、何とかなるっしょ。
 そう思った私がアマかった。
 
 ナポリはごみごみした都会だった。人も車もものすごい数。色んな人種が混じり合ってて、あちこちに露店が立ち並ぶ。クラクション鳴らしまくりで、なんかちょっとコワイ雰囲気。取りあえず今宵の宿を確保せねば、とホテルを数件あたったが、全部満室だったり潰れていたり、受付がラリッてそうな奴だったり。
・・・今宵の宿がないっ!だんだん暗くなって来たし、これってすっごい不安よ? てゆーかナメすぎ。
辺りを歩き回り、受付がおじいちゃんの(なんか安心だし)、小さなホテルに飛び込んだ。空き部屋あり、30ユーロ。駅前。泊めてっっ!!
 ガイドブックによると青の洞窟はナポリ駅からバスまたは電車で船乗り場まで行き、フェリーか高速船でカプリ島に渡る。そこからさらに洞窟行きのバス、または船で洞窟前まで行って、小型の船に乗り換えて洞窟に入るらしい。ほんまに行けるんやろか、私。
船乗り場まで行くのはバスより電車の方がいいかな、降りる駅確実だし、と思い、受付のおじいちゃんに聞いてみた。すると、返ってきた答えが「ノ〜! トレ〜ノ〜!!」は? トレ・・・トラムか何か走ってんのか? でも、そんなのないぞ。もっぺん聞く。「ノ〜!トレ〜ノ〜!!」7カ国語対応電子辞書登場。(伊)トレーノ=(英)トレイン であった。”ノー”ちゃうやんけ!・・・ってゆーか、ひょっとして、じいちゃん英語喋れないの・・・?
「(英)雨、降るかなぁ。」
「・・・?」
「レイン、RAIN(メモに書く)」
「ノ〜〜〜、イングリッシュ!!!」
・・・(-_-;)  身振り手振りで「雨」を表現してみる。
「・・・シャーワー?」
今度はこっちが「ノ〜〜〜、シャーワー!!!」 つ、疲れるなァ、もう(-_-;)。
傘と雨の絵を描いてみた。
「ノー、ノー、(伊)雨は降らないよ(←多分、こう言った)」
絵心あって?よかった。 でもコレって・・・原始人レベルじゃん・・・。
そして時刻表出してきて、わわわわわぁーっと何かを説明し始めた。どうやら船の出航時間を教えてくれてるらしい。 アカン。そんな話題、高度すぎる。いいよ、別の人に聞くから。適当にふんふん相槌打って、夕食がてら、確認しようと外に出た。「青の洞窟行きたいんですけど・・・」というと、「ブス(=伊:バス)ナンバー1!」と、バス停を指さす駅員。多分、銘々が私が行きやすいであろう方を進めてくれてんだ、と善意に解釈。でも混乱してきたぞ。トレ〜ノ〜!は?それにガイドブックにはバスはナンバー1じゃなく21って書いてあるんだけど・・・。でも2、3人に聞いてもやっぱりブス・ナンバー1!って言うんだけど、(まさか、分かってて別の意味で言ってたとか!?しばくどー)なんかよく、というか全然分からん。これで行けたらスゴイ。無理かも知れん。とにかくおなかすいたな、お金両替しなきゃ。でもキャッシュコーナーがナイぞ?あれ、オマケに英語の表示もナイっ!アワワ、どーしよ、マジで。 困った。これで「青−−」行ける方がビックリだ。ふと振り返ると日本人の女の子が二人歩いてる。何でもいいから情報が欲しかった。
「ちょっと行ったところにキャッシュコーナーありますよ?何なら一緒にご飯、食べません?」
驚いた事に、偶然声をかけた彼女はイタリア語がペラペラだったのである!助かったぁぁーーー!!!(ToT) =捨てる神ありゃ、自分でとっ捕まえろ。駅前のピザ屋で夕食を共にする。余談であるが、ここの店、ピザって、ピザって・・・こんっっっなにも美味しい食べ物だった!?ってくらい、カリっとして、モチっとして、トロ〜っとして、ほんとにほんとに美味しかったぁぁー (ToT) 。
そして超〜有り難いことに彼女は私の宿のじいちゃんとの通訳を買って出てくれた。
 ホテルにて。さっきおじいさんが3つの時刻表を指して言っていたのは、ナポリには3つの船会社があるんだけれど、ウチでは○○社のチケットを扱ってるよ、という事であった。
「”この話は彼女にすでにしたのに・・・”ってゆってるけど・・・」分かんないって (=_=) 。
「”大きな地図持ってたでしょ、アレ見せてご覧”てゆってるよ」
「そんなの持ってないよ」
「”いや、持ってたよ”ってゆってるけど、多分別の人と勘違いしてるだろね」  
「持ってないよー」「(伊)持ってたよっ、ほら大きい地図!」
ふー、疲れた。まじで疲れた。
今夜の宿はスイスのように「我が城」ではなく、コワイものから辛うじてかくまってくれる隠れ家のような存在であった。。。

 翌日、タバッキというコンビニみたいなところでチケットを購入して、バスに乗り込んだ。む?なるほど、乗ったら刻印機に通すのね。周りの乗客のマネをする。言われた通り二つの塔が右手に見えたところで降りると、向こうの方に港が見えた。
 カプリ島に渡り、今度は島の裏側にある青の洞窟へと向かう船に乗り込む。10人乗りくらいのモーターボートだ。洞窟前に着くと、観光客を乗せた手漕ぎボートが大勢入り口前で待機していた。
私もボートに乗り込んで順番を待つ。洞窟の入り口は直径1mくらいと相当小さく、波が上下するのを見計らって、船頭がエイヤッと洞窟に入る様は、まるで巨大な岩が小魚をつるりと飲み込むみたいだ。
私の船の番が来た。船頭さんに促され、皆仰向けになる。穏やかな波も、1mの入り口にとっては上・・・下・・・上・・・。波が下に来た瞬間、しゅるっっ、と岩の中に一瞬飲み込まれたかと思うと、真っ暗な洞窟の中に躍り出た。
「後ろをご覧。」振り返った私は言葉を飲んだ。

青い・・・・・・・
ほんっとに青い・・・・・!!

透き通るような、輝くような、不思議な青だった。

洞窟内は一戸建ての家がまるまるはいるくらい大きかった。中に一本柱があって、周りを数漕の船がまわっている。響きわたるサンタルチアの歌声。あぁ、これぞラテンの・・・
「チップ。」
 ンも〜、分かってるからもうちょっと後にしてね、気分壊れるから (-_-;)

 帰りのバスはもう大丈夫、ちょっと余裕で乗り込んだ。途中、アコーディオンのもの哀しい歌声が聞こえてきた。7、8歳くらいの男の子だ。貧しい国ではよく見かける光景。働く事が不幸だとは思わない。でも、だからといって、こんな小さな子にこんな仕事・・・誰にも相手にされない、男の子のつぶらな瞳に胸がつまった。茶、一杯分のコインを瓶に入れた。
「グラッチェ」
 
 最初コワかったけど、そんな悪い街でもなかったな。
 このごみごみした街を最期に一枚、撮っとくか。とカメラの入ったポケットに手を伸ばしたら・・・・・
・・・・・・ナイっっ!! 私のカメラがナイーーーーっっ!!!まじで? いつの間に!? そういやアイツ・・・バスを降りるとき、なんかモタモタしてるおかしな男が居たんだけど、きっとアイツだ、絶対ヤツだ! あンのやろ〜!! 私のカメラ、返せっ!! くっそー 青の洞窟全部パーやんけっ、フィルムだけでも返せーっ!!やっぱこんな街、でーっきれーだー! アイツに不幸あれ、ガッテム(怒)!!
 
 怒り心頭の私はフィレンツェへ向かう列車に飛び乗った。

 フィレンツェ到着もやはり夜、ホテルもあまり気に入らなかったけど2件目で決めた。
 駅前だったらどこでもいーや、どーせ明日にはスイス戻るんだし、また探すのしんどいし。たった一泊だもんね。見るモン見てとっとと帰ろ! フンっ。
 翌朝、取りあえず明日のチケットを入手せねば、と駅に向かったが・・・すンごい長蛇の列。混んでいる、とは聞いてはいたが、まさかここまでとは。散々待った挙げ句、駅員に言われた言葉が「先に鉄道インフォメーションで時刻調べてもらうように」マジで!?1時間近く並んだのにっ! くっそー。 せめて英語の表示くらい出しとけよなー!(←見栄っぱり!あっても理解できんクセに。)インフォメーションでユーロナイト(国際夜行列車)の時刻を聞き、もう一度並んだ。ENだと追加料金かかるだろな、でもそんなのどうでもいい、今夜中にこんな街出てってやる!「11:10のEN、スイスのブリーク行き。」「・・・ソレ、ストで動かないよ。」「は?」「ストで中止。」ま、マジ・・・?じゃあ、その前のスイス行きは?「13:30のがあるよ。」 
13:30だぁ〜!?今日の午後?・・・ラファエロ見んと帰ろかいな・・・。一瞬、考えたが、いやいや、何のためこんな街に来たんだ、私は。もういーや、こんな所で時間潰したくない、チケットは後にしてさっさと美術館行こ! 
半ばヤケであった。
帰りの切符の問題を放置したまま、私はフィレンツェの街を探索に出た。情けない事に、昨日と今日、相当歩き回ったのに一向に土地勘がつかめず、すぐに駅を見失ってしまう。私、ちょーヤバいかも・・・と思ったけど、建物が高いのよ、ビルも家も。せいぜい3、4階建なんだけど、すごい高さ。ドアだけで3m近くある。だから目安となるモノが全然見渡せず、すぐ迷ってしまう。心細さと相まって、ルネッサンス時代のゴシック建築がすごい威圧感を与える街だった。
道路標識は全部イタリーだし、道を尋ねようにも英語全然通じないし。ではどうやって駅に戻るのか?ほっほっほ、トレーノ(トレイン)、スタチオーネ(ステイション)、右?左?と指さす。コレで全てOKさ!フィレンツェのみなさん、グラッチェ、グラッチェね!!

 同じように「パラティーナ、←(指さし)、→!?」でたどり着き、ラファエロ『小椅子の聖母』と対面した時、私はしばらく動けなかった。中学時代、美術の教科書で知り心奪われた美しい絵。まさか20年近くたって本物を見る日が来ようとは。
『そう・・・来たの・・・』優しく、そして冷たく微笑んでいるかのようだった。
展示してある絵の多さもさることながら、その展示の仕方がまたスゴかった。どでかいシャンデリアで光輝く部屋に、豪華な金細工の額縁に飾られた数々の絵。ドーム型の天井にもめいっぱい描かれていたり、大理石の像がセンスよく並んでいたり、そりゃもうすっごい迫力。そんな部屋が縦に奥にと、それ見るだけでも十分楽しめる。さすが、本場は違うなァ〜!
 
 十分満足したら、腹が減ったぞ。イヤな国だけど、悔しいことにあのピザ、涙でるほど旨かった。よし、ピザ食べよう。やっぱイタ飯は本場よねー。近くにあったオープンカフェ風の店に入った。ところが・・・不味い。かなり、不味い。日本の、冷凍モンのピザみたい。
 くっそー、やっぱキライだ、こんな国ー!!と思ったが、店のじーちゃんがやたら愛想いいので「エラトットヴォニッシモ!(伊:美味しかったです)」と言っといたら、「グラッチェー!!!」と握手求めて来て、「なんちゃらかんちゃら〜ワワワワワ〜」は?
「なんちゃらみーれー!ナメー?」
「へ?名前?私の?」日本語で聞いたのに頷くじいちゃん。「ゆうこ。」
「オー、ヨコー」時々ガイジンにはヨウコ?と聞き直されるけど、何でア行とウ行が一緒に聞こえんねん! やっぱガイジンってヘン!!
「ゆうこ。」
「ヨーコー!」
「ゆ・う・こ!!」
「ユーコー」
「そう。」
「タンキュ〜、ユ〜コォ〜、グラッチェ、ユ〜コォ〜」 その為に、でしたか・・。そりゃどうも(^^;) 

その後、スイス行きのチケットを手に入れ、警察で盗難証明も作成して貰った。宿も気に入るところに移ったし、日本語対応のネットカフェも見つけた。おし、やること全部やったぞ、というか、やらなきゃならない事だけでほとんど一日終わってしまったぞ!あー、これでやっと「トレーノ、スタチオーネ!」から解放される(イタリア人が!?)と思うと嬉しかった。 さらばじゃ、イタリア! 
 
4、暗黒の結末 〜トドメを刺す!〜

 電車は国境を越え、スイス・アンデルマットへ。ここでザックを受け取って、今夜のうちにルッツェルンへ移動、残りの二日をチューリッヒに近い観光地で過ごすことに決めていた。
「すみませーん、私の荷物、届いてますかぁー?」半券を差し出す私。
「これ、ツェルマットの半券じゃない。」
「知ってます。でも、買った時に時間なくて、係の人がこれでいいからアンデルマットに送る、って言ってくれました。」
「そう。じゃ、ちょっと見てくるね」
 そして、悲劇は起こった。 
 まじで!?・・・・あンのオヤジィ〜・・・・!!!(怒)
「ツェルマットにあるはずよ。」
「いえ、絶対そう言いました。私、紙に書いたもの!どっか間違って送られてるかも」
「じゃ、電話して聞いて見るわね。」
果たして、私のザックはツェルマットに放置されていた。アイツめ〜・・・・!!! ガッテム!!(怒×10)仕方ないので私がこれから向かうルツェルンに送って貰うよう連絡し、私は単身移動する事にした。日本へのフライトは明後日の昼過ぎ。絶対届けろよ、くそっ。

 ルツェルンでも相変わらずあちらこちらと動き回ったが、もう中世のお城も教会(そこの目玉ね)も、半ばどうでもよかった。船やバスが頻繁に出ているため、かなりの範囲で行動し、奪われたフィルムの分を取り戻すべく「写ルンです」(イタリアで買ったさ(=_=))で写真も撮りまくった。
「すみませーん、写真撮って貰えますか?」 犬連れのご婦人にお願いする。
「いいですよ。ハイ、スマ〜イル・・・、あ、こら、もう!!」犬が綱を引っ張る。
うぉぉぉ〜、いやじゃ〜、行くんじゃ〜、とばかりに全然言う事聞かない犬。こら、シャッター押す間くらい待たんかい、このバカ犬!まったく後半に至っては犬までダメ犬じゃ!あー、ツイてない、ほんっとツイてないっっ!

駅。
「荷物、来てませんか。」
「来てないわぁ。3時頃、もう一度来てくれる?」
はぁー。コレでもし荷物来なかったら、どうなんの、私?
選択肢1.放って帰る。
選択肢2.私も残る。
選択肢3.その辺の日本人捕まえて持って帰ってもらう。(ド厚かましい)
1〜2〜3〜、ど・れ・に・し・よ・う・か・なっ!!

3時。 駅。
「来てませんか?」
「来てないわぁ。昨日の夜でしょ、普通は二日かかるのよ。もし届いたらアナタラッキーよ。」
「ちゃんと4日前にメモに書いたんですって、ツェルマットで!」
「私に言われても・・・」
「今、どこにあるか分かったら取りに行くんだけど」
「確認のしようがないわ」
1〜2〜3〜。

 でも、なんだか戻って来そうな気もするぞ。もし戻って来たら、お祝いしよう。ルッツェルン名物・グーゲルパシュテーテ=子牛のクリーム煮パイ包み。よし、コレ食べに行こう。待ってる間、このオススメ印の店チェックしに行こう。戻らなかったら・・・夕食は、水だ。
 たっぷりのミルクコーヒーとフレッシュジュースを欠かさなかった前半の旅と違って、後半の私は夜中におなかが空いたとき、水道の水で空腹を満たしていた。蛇口からそのまんま、がばがばと。うーん、惨めだ!

 さて、最終の荷物が届く6:00過ぎ、最後の確認に行く。これがダメでも明朝があるさ。明朝にはもう空港行かなきゃなんないんだけどさ。
「・・・来てます?」
「ちょっと待ってね。 はい、コレね?」
「あーっっっ!!それ、それですー、イッツ、マインですーっっ!!!有り難う、本当に有り難うございました。ダンケシェっ!!」
「よかったわねぇ。普通は二日かかるのに。あなた、ラッキーガールよ (^_-) 」

・・・・・どこがじゃい!!!(怒×100)

 こうしてめでたく帰国前夜にザックを奪回した私は、協会前のレストランで一人、祝杯をあげた。我がザックとともに、無事帰れる喜びを噛みしめながら。
子牛のクリーム煮パイ包みなるもの、格別に旨かった。

   =完=
 

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