日  程 2006年3月20日〜21日
地  域 北アルプス 唐沢岳幕岩 左方ルンゼ登攀
メンバー 一本松(記録)・岩佐/石田(須磨労山)

一昨日の唐幕は天候が悪く、たとえば、車がガンガン走っているトンネルの中にいるような風の音と吹きつける粉雪の中の厳しい山行でしたが完登できました。F1は雪に埋もれていて、実質的な登攀はF2からで、このルンゼの核心部でした。F3からF6までの滝は短く傾斜も立ってないので快適に登れました。
F6を越すとあとは稜線まで雪の斜面になっていました。右岸側の樹林帯に入りすぐの狭い沢をルート図にあるB沢右俣と思い下降しましたがそれは左方ルンゼに吸収される枝沢でまちがい、結局登ったルートを懸垂でおりました。懸垂支点は登った時のピッチごとの木(一箇所は残置ハーケン)で取れたので、下降もそれを利用しました。

参考タイムを書いておきます。
葛温泉高瀬館〜高瀬ダムまで2時間。高瀬ダム〜大町の宿まで3時間。
大町の宿〜左方ルンゼ取り付きまでラッセルで1時間。取り付き〜F6まで5時間。
取り付きまでの懸垂に2時間。大町の宿から高瀬ダムまで2時間

左方ルンゼは晴れていれば日帰りの楽しいアイスクライミングが可能なエリアだと思います。今年の状態だと4月に入っても登れそうです。

それよりもちょうど入山した時すでに大町の宿にテントが張られていたパーティーが夜になっても帰って来ず、心配していたら夜中10時ごろ帰って来ました。
完登と帰還出来た喜びを押さえる事ができないでさかんに吠えていました。テント越しで会っていませんが男女二人の会話から畠山ルートを完登。とても熱い登攀だった感じが伝わって来て寝てる僕も感動。お陰で寝れませんでした。関東のパーティーみたいですがアルパインクライマーと言える若者の会話で僕も翌日の悪天の登攀に気合いが入りました。

さて、さる2月5日大峰地獄谷で登山者の滑落事故がありました。その附近にたまたま居合わせた我々が協力して救助活動を行ない、重傷の登山者を無事救助することができました。何かの参考になるかと思い、以下にその時おこなった救助活動を報告させていただきます。

2月5日大峰地獄谷にある通称シェイクスピア氷柱群と呼ばれている氷瀑でアイスクライミングをしていた時、下の方から一人の女性が上がって来て、「この近くで、仲間3人のうち1人が雪の急斜面を下降中、滑落し谷底まで落ちて動けない。一人は下に助けを求めに行ったが、助けて欲しい」との依頼があった。
たまたま、その日はそこに京都府岳連、大阪府岳連、兵庫岳連加盟のパーティー13名と大阪労山に加盟されているパーティー4名が登っていた。救助の依頼を受けたので、登っているメンバーと協議する。全員が救助活動に参加する旨を確認。救助隊長を京都府岳連のメンバーに決め、早速現場に急行した。

事故者は60過ぎの男性で、顔面血だらけで蹲っていた。まずそっと近寄り小声で「大丈夫ですか?どうしましたか?」と尋ねると、最初はショック状態の様子で言葉が出なかった。「救助に来たので安心して下さいね」「もう大丈夫ですよ」と声をかけているうち、次第に声が出るようになって来た。顔からの出血もおおよそ止まった。事故の様子を聞きながら体の状態を見る。頭部、首、お腹、背中附近には損傷はない模様。どうやら滑落している間に顔を擦り、谷底まで落ちたとき右足を強打した模様。足を動かすことはできるが歩けない状態。現場は一般登山道がなく、谷沿いに踏み跡がある程度だが、道も雪が積もり隠れている情況。ここから一般登山道まで下ろすには、斜面をトラバースするような箇所、露岩帯、樹林の急斜面、アップダウンして谷を横断する箇所と単純には下ろすことができない。特に滝の落ち口を岩伝いに渡渉しながら下降しなければならない難所がある。

救助活動開始。まず事故者をシート梱包。4箇所スリングをセットして4人の救助者が持てるようにし、事故者の体にハーネスに代わるテープスリングをセットする。下降路にフィックスロープを張り、救助者はセルフビレーを取る。メインロープを事故者と梱包したシート両方にセット。上部で確保しながらロアーダウン開始。フィックス工作班は下へ次々にフィックス作業。回収班は回収したロープ等を速やかにフィックス班に渡す。また救助者の個人装備の回収にもあたる。ビレーヤー数名は下ろす方向を考えて、適切にビレー箇所を換える作業を迅速におこない、途切れることなくロープを送り出す。谷の横断は4名で担ぎ、少しの登りにはサポートが数名つき引き上げる。そして、滝の落ち口の渡渉箇所はロープの張り込みと2箇所からの確保をおこない、無事速やかに下ろすことができた。

そこから下は割合しっかりした道なので、救助者一人が束ねたロープを肩にかけ、事故者を背負って下ろす事にする。救助者の前後にサポートが付き、雪の道を下ろして行く。体重75kgと事故者は重いが、担ぎに自身のあるメンバーがどんどん下ろしていく。かなり下ろし、あと少しで車道に出る附近で、下から上がって来た消防署の救助隊員に無事引き渡す事ができた。

普通に下山するのに1時間かかるところを、およそ3時間で無事、救助活動を終えることができた。救助活動をするのに決してやさしい場所でないエリアでの救助としては、きわめて早い時間で救助する事ができたと思う。

今回、迅速な救助ができた理由として、救助活動に参加したかなりのメンバーが、日頃各岳連主催のレスキュー講習会に参加した経験があったことが、救助活動中での二重事故を起こすこともなく、遭難者を速やかに救出することができた大きな要因であると思います。

兵庫岳連では、年数回のレスキュー講習会を開催しています。事故に遭った時、または事故に遭遇した時、日頃のレスキュートレーニングが大いに役に立つと思います。どうぞ奮って講習会に参加されますようお願い申し上げます。

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