日  程 2004年9月16日〜26日 画像はこちら
地  域 アメリカ ヨセミテ フリークライミング
メンバー 梁瀬・河野

聖地巡礼(その1)−プロローグ
      (その2)−偽りの晴天
      (その3)−R.ロビンスの洗礼
      (その4)−嵐の帝王 
 
     (その5)−狂乱クラック
       
(その6)−遙かなるハーフドーム〜エピローグ 


聖地巡礼(その1)−プロローグ

ヨセミテ・・・かつてクライマーであれば誰もが憧れた聖地である。当然自分もその一人であり、ビッグウォールの代名詞エル・キャピタンにはいつか登りたいと思っていた。サラテウォール、ノーズをはじめ、ザ・シールド、エクスカリバー、ウォール・オブ・ジ・アーリーモニングライト、パシフィックオーシャンウォール、ノースアメリカウォール、オーロラ、アイアンホーク、ゾディアック・・・聞いただけでも十分登高欲をそそるルート名を意味もなく憶えたものだった。しかし、いつしかこの想いもアルパインクライミングへのモチ低下と共に色あせていった・・・・。

新婚旅行の行き先は漸うとして決まらなかった。まあ自分としては何処でも構わなくて、たまには南の島でボーっとするのも悪くないと考えていたのだが、こうのすけにはさらさらそんな考えはなかったようだ。彼女曰く、そんなの誰とでも行ける、自分らでないと行けないところがいい、ってなわけだ。要するにクライミングがいいってことで、まあリーズナブルな考えではあるが、自分は一体誰と南の島にボーっとしに行けばいいんだ? それはいいとして、じゃあクライミングなら一体何処へ? ボルトルート全盛の昨今、真っ先に思い浮かぶのは、フランス、スペインか。アメリカならスミスやライフルか?

これらの場所に不満があるわけではなかった。しかし、どうもピンと来ない。そう、海外にクライミングしに行くなら何処へ、と聞かれたときの答えは、自分には一つ、ヨセミテ以外あり得なかった。とはいえ、ヨセミテ行くならエル・キャプをという気持は変わりなかったし、フリーをやるにしても、こうのすけはクラックはチョットという感じであった。まあ無理だわな、と思っていたのだが、自分の想いを汲んでくれたのか、全く意外にも、ヨセミテでもいいと言う。これには逆にこっちが焦った。エイドの経験不足からしてエル・キャプは論外なので、フリーするしかないのだが、自分は兎も角、ほとんどクラックもやってないこうのすけは大丈夫なのか? もちろんフォローなら何の問題もないだろうが、フォローで満足するようなやつじゃないし。一応、今後毎週クラックトレに付き合うという条件を提示されたのだが、もう6月。真夏なんかほとんど近場でクラックなんて無理だし、毎週天気がいいとも限らない。ホンマにヨセミテでええの?と確認する間もなく、行動の早い彼女はサンフランシスコ行きのチケットを予約していた・・・

こうなったらもう覚悟を決めるしかない。まあ大して上達できなくても、それ相応のルートをヨセミテは提供してくれるに違いない。そう信じてトレーニングは開始された。当初はジャムの効きが分からず、仏頂面、というかキレ気味で登っていたこうのすけも、それが体感できるようになるにつれ、面白くなってきたようだ。盆の合宿では、湯川のバンパイアをゲットし、小川山のカサブランカも実質的にほぼ一撃してしまった。こうのすけに関しては、想像以上の成果をあげたといえるだろう。自分の方はと言うと、今まで登ったルートを登り直すことが中心となったが、期間の短さは承知の上として、天候不順、暑さ、仕事疲れ等で、当初考えていた程は登り込めなかった。しかし、光陰矢のごとし、あっという間に出発の日になってしまった・・・
(Y記)


聖地巡礼(その2)−偽りの晴天

9月16日(木)

成田からの直行便しかとれなかったので、朝から伊丹発の接続便に乗り込む。成田発は夕方なので、空港でダラダラ過ごす。
夕刻出発するも、長いフライトなのに全然寝付けない。今寝ておかないと、時差でつらいことになるのに何故か寝不足なのに寝れないのは、緊張からか?

同日11時過ぎにサンフランシスコに到着。
入国審査で長蛇の列、審査が厳しくなっており、全員が管理官から質問責めにあっている。私も何やかんやと訊かれ、
「一人で旅行してるんか」
「ちゃうで、彼と一緒。(と向こうの列のヤナッチを指さす)」
「…アンタの息子か?」
「は?!ハズバンド!! 私そんなババアとちゃうわ、ボケ!」

空港からレンタカーを借りたが、これがまたうんざりするほど長蛇の列。日本から予約をしていったにも関わらず、2時間くらい待たされた。手続きを済ませて、やっとの思いで車をゲット。アメ車のポンティアック。10日間、どうぞ宜しく。

レンタカーは自分の名前で借りたので、まずは私から運転開始。左ハンドル右側通行、いきなり上手く運転できる訳がない。何度もウインカーとワイパーを間違えるし、ワイパーを止めようと思ったら更にせわしなく動いたり…。
ヨセミテまでの地図は、レンタカー会社でもらったフリーマップのみ。空港からはすぐにフリーウェイにのるのだが、これがまた非常に分かりにくい。分岐などの標識が急にでてくるし、片道4車線をウインカー出さずに右往左往する車が多いし、スピードもすごい出すわ、マナー悪いわ、もう恐いっちゅうねん!だいたい、メーターで80キロくらいしか出ていないのに、どうも早く感じると思っていたらキロじゃなくてマイルやんか!めっちゃスピード出てるやん。(130キロね)

しかも眠い。当然やけど。もう今日起きてから何時間たったか。
途中で運転交代するも、どちらも睡魔には勝てず、かなり近くまで来たと思われる真っ暗闇の道路の脇で、崩れるように仮眠…。

…こんな所で寝ていたら熊に襲われるかも。再度運転開始、何とか公園にたどりつき、全く地理も分からないままにキャンプ4を目指す。周りは素晴らしき眺めなんだろうが、真っ暗闇で何も見えない。これまた何とかキャンプ4にたどり着くも、駐車場に空きスペースがない。探してウロウロしていたら、レンジャーが来て、パーキングパスをもっているかと訊く。もってないけど、明朝取るから車で寝させて欲しいと頼んだものの、ここはスペースがないからハウスキーピングなるところへ行けという。こっちは遠路遙々辿りついてクタクタやっちゅうねんと言いたいところだったが英語がうかばないのでそそくさと退散…。トポの地図を頼りにそちらに行くと、駐車場はがら空き、とにかく駐車して車で仮眠、時すでに0時。
何と長い1日だったんだろう。でも、とにかく無事来れてヨカッタ。


9月17日(金)

6時起床、6時半からテントサイト確保のためにキオスク前に並ぶ。4番目。前に並ぶ強者にならい、シュラフで寝ながら時間まで待った。
8時半頃目をさますと、えらい列になっていた。暫くして受付が始まったが、25番目付近の人でアウトだったようだ。

無事テントサイトを確保し、幕営。これで一息ついた。同じ区画内にはドイツ人パーティーと、神奈川からきた男性日本人ペアが一緒。このお二人にはこの後も色々と情報を頂き、大変お世話になった。

遅い朝食を済ませ、まずはチャーチボウルを目指す。
天気は上々、抜けるような青空、そしてそびえ立つ岩壁。やっとヨセミテまで来れたとようやく実感がわいてくる。

●Bishop's Terrace 5.8 ☆☆☆☆☆

駐車場から歩いてそこ、という超近アプローチ。長屋坂もびっくり。2P 五つ星の好ルートということで選んだ記念すべき1本目のルート。

小生からスタート。少し上のテラスからいい感じのクラックが続く。ルート途中にボルトがある訳ではないので、どこで区切るか少し悩む。快適なクラックがつづき、もうちょっと、もうちょっと行こう、と登っていると、2P目も随分登ってしまったみたいで、ダブルクラック近くのちょっとしたスタンスできる。無理矢理支を点つくって、無理な体勢でビレイ…。アカン、ちゃんとこういうことも考えないとダメなんや。
日差しがきつく、半袖でもかなり暑い。たった1P登っただけなのに、もう喉がからからだ。

ここからトップ交代。これが5.8?!かなり難しく感じる。だがフォローだし楽しく登った。ダブルクラックが面白かった。

●Church Bowl Lieback 5.8 ☆☆☆☆

この岩場でどこか適当なところないかな〜と物色中、同じテントサイトのお二人にお会いし、勧められて登る。ヤナッチが登り、フォロー。…これでも5.8か…ムズイやん…フォローでヨカッタ…ヨセミテってグレード辛いんか、自分がヘボいんか。

2本しか登っていないけど、寝不足で最初からとばすのもよくないのでこれにて終了。

ヨセミテビレッジをウロウロし、ビレッジストアで買い物をしていると上中さん、ハタネー達に会う。ずっと天気も良く、エンジョイされいてる様子。しばし立ち話をして、C4に戻る。
サンドイッチやハンバーガー等を買ったのだが、このハンバーガーが悲しいくらいに不味かった。というか逆に感動を覚える不味さであった。こんなものでも売り物になるのか、と言う意味で食べる価値があったかも…。
(K記)


聖地巡礼(その3)−R.ロビンスの洗礼

昨日とは打って変わって怪しい空模様の下、Manure Pile Buttressへと車を走らせる。本日のお目当てはNutcracker。かの有名なロイヤル・ロビンス翁がヨセミテで初めてオール・ナッツで登った由緒あるルートである。お手頃な(あくまでもヨセミテでの話だが)マルチピッチルートとして、日本でも有名なルートである。

混雑が予想されるので、早起きしたにもかかわらず、道がよく分からず、公園内を2周するハメになる。そんなことをしている内に何やら天から液体らしきものが無数に落下してきた。もしかしてこれは雨ってやつか!? 同じテント区画の日本人Iさん、Mさんは、9月頭からクラック修行に来てるらしいが、一度も雨に遭っていないと言っていたゾ。闇の帝王ヴォルデモード卿ならぬ、嵐の帝王コウノスーケ卿の支配圏は、日本だけではなかったようだ。

相変わらず空模様は怪しいが、何とか雨は止んだようなので、とりあえず行くことにする。壁には既に取り付いているパーティがいる。さらに、駐車場でギアを選別していたら、スペイン系のセニョール達がサァーと来て、サァーと壁に向かって行った。くそ、折角早起きしたのに・・・。

さて、岩場に着き、1P目を見上げる。長っ!しかもホンマにエイトか?上部なんかフィンガーサイズに見えるが。 昨日のBishop’s TerraceやCharch Bowl Liebackでヨセミテのエイ
トは侮れないことを体感していたので、気を引き締め、先行のセニョール達が2P目に取り掛かるのを待って、攻撃開始。

1P目(5.8、梁瀬)
コーナークラックを行く。真中付近から右壁が立ってきて、ジャミングでないと進めない。上部ではさらに右壁は被ってきて、クラックは細くなる。左壁の傾斜は緩いがツルツルときた。しょうがないので突撃レイバックで抜ける。ホンマにエイトかよ。どう考えても、小川山レイバックより難しい。

2P目(5.4、河野)
バンド状を右上して広いテラスへ。易しいがプロテクションは取れない。

3P目(5.7、河野)
2P目が易しかったのでこうのすけに譲る。テラスから一歩右へトラバースしてハンドクラックに取り付き、フレーク状クラックをつなげて、ループ下のビレーポイントへ。
フォローだったので、正直あまり憶えていないが、大胆にレイバックにならなきゃイカンかったような、バランシーだったような。いずれにしろ、オッ!なかなかやるな、と思わしめたパフォーマンスであった。
それよりも驚いたのが、ビレーしていたら、不意にガイジンが現れ(ここでは自分もガイジンなんだが)、もう後続が来たかと思いきや、なんと!このガイジン、ハーネスもしていなければ、ロープもつけてない。フリーソロだと認識するのに数秒かかった。結局この人、3P目をこうのすけが登っているのを見て、テラスの右端から降りていった。当然フリーソロで。

4P目(5.8、梁瀬)
雨こそ降っていないが、相変わらず空模様は怪しい。しかも、この辺りまで来ると風が非常にきつくて、寒くて震えが止まらない。冬壁気分だ。ビレーのこうのすけは雨具を着込む。
先行セニョール達は、ルーフを左から巻いていったが、我々はトポ通り、ルーフを右から越し、ルーフ上のスラブを左にトラバースしてクラックへ。このスラブのトラバースは恐かった。このルート、ビレーポイント含め、ピトンやボルトの類の残置が皆無なのである(すなわち、敗退の際はギアを残置しなければならない)。おまけにチョット余裕のある硬めの靴を履いてきたからスラブでの足裏感覚が・・・。
クラックにたどり着いてやれやれと思いきや、これがまた長ッ!ときおり非常に強い風が吹き付け、バランスを崩されそうになる。ようやくレッジにたどり着いたが、ビレーポイントはもう一つ上のレッジなので、一息ついて行こうとしたら、いきなり「ビレー、解除−!!」とこうのすけの声。ウソー!!どうやら、他パーティの声を俺のコールと勘違いしたらしい。まあもう40m位ロープ出てるし、風もゴーゴー唸ってるから無理もないが、そのまま行くわけにもいかんので、「ちがー!!解除ちゃうでー!!」、「わかったー」、ホッ。そして、最後の核心垂壁下のレッジへ。

5P目(5.8、梁瀬)
ビレーポイント上の垂壁を登る。垂壁の出口でマントルするらしい。そこで落ちると下に激突して踵粉砕とトポにある。マントルガバを取るのにリーチが必要だとこうのすけにはヤバイので、俺が行く。慎重にプロテク取っていたら、指入れる場所がなくなってしまった。しかし、踵粉砕はゴメンなので、そのまま何とかガバを取ってマントル!って言うほど難しくはなかった。寧ろ、そこに立ち上がった後、ランナウト状態で一歩立ち込まないと次のプロテク取れないとこの方が恐かったかな。きっとリーチのあるガイジン(ここではオレもガイジンなんだけどね)なら、立ち込まなくても届くんだろう。あとは易しく登って平らな終了点へ。

本来なら、ここでゆっくりしたいところだが、もう寒くてしょうがないので(おまけにまた雨がパラついてきた!)、さっさとギアを整理して退散することにする。下降は明星みたいに(もっと分かりやすい)壁の左から歩いて降りれる。

取り付きに戻り、クリフバーを食ったり、After Sixをフリーソロ!するガイジン(ここではオレもガイジンなんだけどね)を眺めたりしていたが、時間もあるので、Nutcrackerのバリエーションスタートを登ってみることにする。こちらはフェースに走るフィンガー〜ハンドクラックである。

何となく、ヨセミテのグレードってのが分かってきたところだが、やはり、これもホンマにナインか?である。特に下半部のフィンガーのセクションは、クラックの形状も複雑で、かつフェースムーブを強いられるため、何処でもいつでもプロテクションをセットできるわけではなく、非常に緊張した、というより、止めときゃ良かったと思った。

当初はこうのすけもリードするつもりだったようだが、俺の危なげな登りを見ていたので、「どうする?」って終了点から聞いたら、即座に「フォロー!」と返ってきた。ホッ。

もう、お腹いっぱいになったので、これにて退散することにする。昨晩の飯は最悪だったので、この晩は、ヴィレッジストア近くのピザ屋に行った。BBQソースのピザがなかなか絶品であった。しかし、量が凄ッ!

それにしても、噂では聞いていたが、想像以上にヨセミテの厳しさを実感した一日であった。ここでは5.7や5.8でもそれなりに意味をもっている。日本では実質的に5.9以上でないと、フリークライミングルートとして確立されていない感があるが、ここには、5.6の★★★★★ルートがあったりするのだ。

単にグレードが辛いと言ってしまえばそれまでだが、それだけでもなさそうだ。兎に角、1Pが長い。ここでは、バックロープ引いて登るのが当り前。いくらエイトまでのムーブしか出てこなくても、それが40mの間に、レストポイントを挟んでいるとはいえ、何回も出て来られては、くたびれてしまう。ただでさえ、ナチプロは疲れるのに。それでもエイトはエイトなのである。

1Pが長いと言うことは、持って登るギアの量も増える。ランナウトさせることが出来る人はいいが、俺はランナウトより、ギアが重い方を選ぶかな。

結果としては、別にフォールしたわけでもテンションしたわけでもないので、悪くはなかったのだが、正直、Nutcrackerは小手調べ程度にしか思っていなかったので、R.ロビンスのオヤジには、一発カウンターを食らった気分であった。

時折軽く雨がパラついたものの、なんとかクライミングに支障が出ない程度(ムチャクチャ寒かったが)には天気も持ち、そう意味では嵐の帝王コウノスーケ卿もウォームアップだったようだ。しかし、この後いよいよ帝王は、その恐るべき真の力をこの地においても遺憾なく振るうのである・・・
(Y記)


聖地巡礼(その4)−嵐の帝王

しかし、ひどいタイトルやな。誰や、こんなんにしたんわ(怒)

9月19日(日)

たっぷり朝寝してからクッキークリフに向う。今日もすっきりしない天気で、駐車場についた時点でかなり怪しい空模様。アプローチは5分くらいなので、とりあえず岩場へ。
ここにはOuter Limits、Crack a go goなどの人気ルートがあり、ヤナッチのお目当てOuter Limitsは順番待ちになっていた。フレークになったクラックが遙か上まで続いている。おーかっちょいー登りたーい。
…ぽつ。ぽつ。
…ん?ぽつって、これって
「何やら天から液体らしきものが無数に落下してきた。もしかしてこれは雨ってやつか?」っていうやつか?まじ?
岩場の陰に隠れるが、あっという間に本格的な降雨になった。とても止みそうな雨でない。仕方ないのですぐに車にもどる。
雨、雨、なんでだ?9月に入ってから、一度も雨が降っていないというのに、私らが来たら何で雨が降るんだ(怒)♪あめあめ ふれふれ こうちゃんがぁ カッパ着て歩くの楽しいな♪脳裏によみがえる恐怖の雨女賛歌。何?私のせいとな?だまらっしゃい。 

雨のヨセミテは、景色も悪く、観光する気にもならない。ガソリンを近くの町まで入れに行ったり、小雨の中、エルキャプをぼんやり眺めたり、店をぶらぶらしたりして過ごす。


9月20日(月)

本来ならば、今日はMiddle CathedralのEast Buttressに行く予定だったが、雨は結局一晩中降り続き、とても行けるような状態ではなかった。雨はあがったものの、今にも泣き出しそうな様相を呈している。ロングルートは諦め、アプローチの近いReed's Pinnacle へ行くことにした。

駐車場から壁を見あげると、真っ直ぐ続く一筋のクラック。しぶすぎる。あれに登りたい!!

五つ星のルートとあって、これから取り付く先行Pあり。ではどこを登ろうかと物色するも適当なルートがなかったので、順番待ちをすることにした。

●Direct Route 
1P目、ヤナッチスタート。適度なハンドサイズのオフセットクラックがカーブし、最後はフィストより少し広めになる。見た目よりも面白い。

2P目、駐車場から見える顕著なクラック。真下まで来ると、結構ガタガタしていているし、めっっっちゃくちゃ長い。こんなルート、本当に自分が登れるのかしらと思いつつも、ルートが空くのを辛抱強く待つ。先行Pは3人組で、フォローも一人ずつ登っているのでかなり時間がかかっている。
3人目のお姉ちゃんは、今回でクラック登るのが3回目、という私よりも更に初心者だった。クライミング自体、まだ10数回目とか。話していると、英語の教師として青森に赴任されていたことがあり、日本語も話される先生だった。お姉ちゃんは、金髪の可愛いガイジン。なんで、C4などで日本人男性が自分のことをパツキンがどうのとか日本語で言っているのを分からないふりをして聞いているそうだ。「ニホンジンのダンセイ、スケベ〜。」日本人男性諸君、外国で日本語が通じないと思って変なこと言わないよーに。

さて、いよいよやっとお姉ちゃんが登る番になったら、「ナッツキーアリマスカ?」バックアップに使ったナッツを取りたいそうだ。で、貸してあげて回収しようとしても動かない。3人がかりで何とかならんかあーだこーだやっても、びくともしない。悪戦苦闘の末、「モウイイデス」とやっとお姉ちゃんが登り始める。が、全然、全然、全然進まない。登れない。本当に少しずつ上がっていくが、見ているのも可哀想。
「アイキャァァァントクラァァァィム、オーレディパァーーンプ!!(泣)」 。「プリーズ、ロワーミー、プリーーーーズ(泣)」 降ろして〜降ろして〜というお姉ちゃんの空しい叫びが続く。鬼ビレイヤーなのか、全く降ろしてはもらえない。その後、お姉ちゃんは勇気を振り絞って、恐ろしく時間を使って登っていった…ように見えた。
というのも、お姉ちゃんのことは構ってられない状況に陥った。

待っている間、真っ黒な暗雲がどんどん迫ってくるのが見えていた。何か、どっかで遭った光景。(プラナンの写真を見てね!)やばいやばい、やばいぞーー。
とうとうポツポツ来た、と思いきや、またアっという間に土砂降りになった。しかも霙というか霰というか、ただの雨でない。長袖のシャツを着ていたが、尋常でなない寒さに急変した。やばい!ここで雨宿り、というレベルじゃない。急いで下降しなければ。震えながら懸垂の準備をして、慌てて下降。さっき登っていたおねえちゃんは半袖だった。大丈夫だっただろうか。テラスまで無事登れたのだろうか…。
取付から少し離れた荷物の所まで戻ると、テントサイト仲間のIさん&Mさんが、我々の荷物をひとつにまとめてレジャーシートの下に入れていて下さっていた。何と嬉しかったことか!お二人とも大変やっただろうに、そのお心遣いに心から感謝。

這々の体で駐車場まで戻り…♪あめあめ やめやめ こうちゃんが 祈るもむなしく大嵐♪またもや蘇る恐怖のフレーズ。…二日連続雨ですかいな。勘弁してーや。…何?私のせいとな?!だまらっしゃい。

先行Pは、上のテラスのどこかで雨宿りしていたようだ。雨が小降りになってから、懸垂で別ルートから降りて来られるのが見えた。とりあえず、無事だったみたいで安心した。

二日も続けてこうなると、落ち込み度も大きい。
どこに行く気にもならず、そのまま駐車場でボーっと壁を眺める。

どれくらい経っただろうか。雨が止み、青空がちらっと見えてきた。
これから、どうしようか。もう4時近いよね。移動する時間もないし、もう一度この岩場に戻ってみようか。

誰もいない岩場に戻る。そう、せっかくヨセミテまで来ているのに、登れないなんて悔しすぎる。悪循環を断つためにも、今ここで登らなければ!

1Pでトライできそうなルートをそれぞれ選び、時間がないので一発勝負。

●Stone Groove 5.10b ☆☆☆☆

ヨセミテにしては短めのルート(50mロープでもロワーダウン可)で、サイズが小さめなので自分向きかと思いトライ。結果は惨敗であったが、10台のクラックを何とか自分で登り切っただけでも嬉しかった。もう一度トライしたら登れるような気がしたけれど(厚かましい)、きっとまた来るその日まで、大事にとっておこう。

●Lunatic Fringe 5.10c ☆☆☆☆☆

この広きヨセミテにおいてベスト10台クラックルートの一つ、とされるルート。マイクロキャメ、エイリアン連発の恐ろしそうな42mのロングルートだ。トポによると、フィンガーからシンハンド、レイバックにフェースとなんでもありのよう。ヤナッチOSトライ。時間をかけながら慎重にロープが伸びていく。いやまーすごい持久力というか、粘り強いというか、しつこいというか、とにかく、もうダメか?!と思わせてからが、長い。ゆっくりと難所をクリアしていき、あとはもう終了点まで数手…というところでまさかまさかの痛恨のフォール。本人曰く、クラックが終わってからのフェースで燃え尽きたそうな…。残念。「悔しいけれど悔いはない。」ヤナッチ談。

この日の夜は、雨こそ降らなかったが、一晩中ものすごい風が吹き荒れていた。鎮まれ、嵐の帝王よ。


9月21日(火)

本来ならばレスト日なのだが、これまでの嵐の帝王の大活躍で、あ、いや、私のせいではなかったんだが、レストなんかする暇がなくなってしまった。いよいよ待望の青空が待っていた。
昨日は高所では雪だったようで、C4から見上げるいつもの岩壁の上には真っ白な霧氷ができていた。さぶいっ。しかし、C4は変なところで、ダウンジャケット着込んでニット帽を被っている人の脇を、半袖短パンでサンダル履いて歩いていく人がいる。ちょーちょー寒くないのアンタ?!

昨日1Pで敗退したあのルートに登りたいので、再びReed's Pinnacleへ。

●Direct Route〜Regular Route 5.9 ☆☆☆☆☆

今日は一番のり。昨日と同じく、ヤナッチから1P目スタート。

1P目(5.9 梁瀬)
出だし、壁に乗り込むのがちょっと嫌。シンハンドからハンド、フィストとちょっとづつ広くなっていく。楽しいピッチ。

2P目(5.9 河野)
34mの長ーいクラック。3セット近いカムの重みでよろよろしつつ、意を決して登り始める。クラックがガタガタしていてプロテクションが決めにくい。昨日とうってかわって今日は日が差し、必死で登っているのでめちゃくちゃ暑い。とにかく全力を出したのが、力不足でテンションを入れてしまった。一度テンションを入れてしまうと、緊張した糸が切れたように、テンションの嵐…。上部は大嫌いなキャメ#4くらいのオフィズスが続く。悲しいかな、登り方すら分からず、A0行進。そう、こうなったら自力で終了点に行くのが目標じゃ!という情けない状態でへろへろとテラスへ…。
…ここのグレード、5.9やったよな…。どう考えても小川山レイバックの10倍難しいで。嗚呼、やっぱりヨセミテは厳しいのであった…。

3P目(5.8 梁瀬)
ここからはRegular Routeへ合流。トポによると点線になっていて「トンネル」と記載されおり、「Squeeze」とある。スクイーズっちゅうたら、グレープフルーツとかむんぎゅーって絞るってことやんな。人間絞り状態になるんか?!果たしてどんなピッチなのかがとても楽しみだった。
取り付きへ行くと、へ?!という感じ。壁に別のピナクルが倒れかかっていて、その隙間が辛うじてトンネル状態になっており、中は真っ暗闇、その先にポコッと青空が見えている。まさに「トンネル」。こんなルート見たことない。
ヤナッチがリード。入り口付近はカムを使えるが、途中頭の上にピトンがひとつあるだけで、後はプロテクションを取るところもない。めちゃくちゃ狭いらしく、ヘルメットがつっかえて、方向転換すらできないようだ。ぎゃーぎゃーとわめきつつもどうやら無事外へ脱出できた模様。

余ったロープを引いている途中、バックロープが動かなくなってしまった。どうもどこかの岩にかんでしまったようだ。仕方ないので、とりあえずフォロー開始。ホンマにおっそろしいピッチだ。フォローといえども、ピトンのランナーを取ってしまえば、真横トラバースなのでフォールしたらえらいことになってしまう。しかも狭い!とにかく狭い。はさまったまま動けなくなりそう…そう、これこそ人間絞りなのだ。途中、岩にかんでしまったロープを回収するために、更に狭まった岩間に降りていったが、ヤナッチだったら腹がつっかえて無理だったろう。何とか、フレークに挟まっていたロープを回収し、また登ってトラバース開始。ギアすら邪魔になるほどめちゃくちゃ狭い。私もやっぱりぎゃーぎゃー吠えながら出口へ脱出。いやはや、青空のまぶしいこと!
ケービングってこんな感じなんでしょうか。このピッチ、チビな私でも苦労する狭さなので、フツーのガイジンとか○○○○さんとか通行可能なんだろうか。とにかく、背中側にはギアはもちろん、チョークバックも回さないこと、ヘルメットは取っておくこと(チョックストーンならぬチョックヘルメット状態になり、頭が動かなくなる。まじで。)が必須だ。
いやはや、でも異色のピッチでごっつう面白かった!!

4P目(梁瀬 5.9)
最後は自分の番だったが、2P目で全力を出しきったので、ヤナッチに譲った。前半はフィンガー気味、スラブをトラバースして終了点は、ピナクルのてっぺん、2畳ほどのテラスにあった。んー!最高!!

2P目の登りは情けないものだったが、今の自分の実力では仕方ない。もっと上手くなりたい。
今日のこのルートはそれでも自分の力を出し切ったので、スカッと気持ちがよかった。十分満足して、これで下山。

今日は本当にいいお天気に恵まれ、初めてゆっくりとエルキャピタンの全容を見ることができた。ってもう6日目。6日目にして、やっと…。圧倒されるビッグウォール。私にとっては、憧れというにはおこがましく、神々しく見えた。

この日は初めてシャワーを浴びにHousekeepingへ(こちらも6日目にして、やっと、か?!)。2$でタオル付き。でも自由に出入りできる所にあって、チケットがなくても入れてしまうらしい。C4の日本人は、一度2$払ってチケットもらったら、その後はフリーパスしているとかなんとか。ふむ、とりあえずこのチケット、とっとこ。
(K記)


聖地巡礼(その5)−狂乱クラック

ようやく嵐の帝王の魔力も弱まり、首尾よくReed’s Pinnacle Directにリベンジを果たし気を良くしたものの、あとたった3日しかこのクラック天国に滞在できないことに気付き愕然とする。しかも、最終日は買い物とかもせなあかんし、夜のうちにヨセミテを発たねばならいので、この日は登れるかどうかわからない。ということは、実質あと2日しかない。まだ、全然登ってないのに・・・。

残り2日間、悔いのない登りをせねばなるまい。で、何処に行くか。1日はやはり、Half DomeのSnake Dike、これは外せない。クラックではないが、この惑星上(!)で最も栄えあるルートの一つ(とトポに書いてある)である。ここまで来てこれは登らんわけにはいかんでしょ。なんたって、「惑星」級である。

当初の計画では(絶対実現できないと思っていたが)、Snake Dikeの他、Middle Cathedral RockのEast Buttress、あわよくば、Royal Arches AreaのSerenity Crack〜Sons of Yesterdayなんて考えていたが、後者の方は、チト登り込み不足かなー、あっさりパス(折角、ピンスカーに突っ込むエイリアンも買ったのに)。残るはEast Buttressであるが、出発前は、こいつ とSnake Dikeさえ登れれば、あとは観光でもいいや、と思っていたくらいだったが、このルート、結構日本の本チャンチックでジャミングを駆使して登るルートでないらしいことを聞き及び、若干興味が薄れていた。もっとも、これのみで北米ベスト50(こちらは惑星級ではない!?)に入る名ルートを外してしまうのは、いささか理不尽であるが、折角ヨセミテにきたのだから、日本では体験できないようなルートをと思うのはしょうがない。ましてこの時は、何よりクラックが登りたかったのだ!

そこで、ちとキツイかもしれないが、同じMiddle Cathedral RockのCentral Pillar of Frenzyに行くことにした。一応、このルートも当初から念頭にはあった。が、僅か5ピッチ、最高グレード5.9にもかかわらず、フィンガーからチムニーあらゆるサイズのクラックが出てきて、多彩なジャミングが要求されるらしい。這々の体で1P目の終了点に達したものの、そのまま下降、なんて記録を読んだりしてたので、途方もなく時間があったら(あるわけない)トライしてみよう、程度にしか考えていなかった。ワイド嫌いのこうのすけに至っては、全く眼中になかったらしい。それでもヤル気になったのは、Reed’s Pinnacle Areaにおいて、
単純に結果だけ見ればショボかったものの、内容的には2人とも自分に納得の行くクライミングが出来たからだろう。

ところで、このCentral Pillar of Frenzy、フレンジーおじさん(誰?)が拓いたからそう命名されたのかと思いきや、実は、モンブランの有名なCentral Pillar of Freney(古のクライマーには、フレネイ中央岩稜、と言った方がピンとくるかな!?)をモジったものらしい。なんじゃそりゃ。因みに”frenzy”とは、熱狂とか狂乱とか、激しい興奮状態を表すらしい。

最初は、優先順位の高い方から、Snake Dike、Frenzyの順でやるつもりだったが、のんびり食事してたらビレッジストアが閉まってしまい、朝飯、行動食が買えなくなってしまったので、とりあえず、時間的には余裕のあるFrenzyを先に片付けることにした(結果的にはこの方がよかった。Half Domeに先行っていたら、翌日動けなかったろう)。

ビレッジストア近くのコーヒーショップで不味いサンドイッチの朝食を済ませ、Middle Cathedral Rockへ向かう。予めアプローチは確認済みだったので、難なく取り付きに到着。既に1パーティ登っていた。やはり、リードしているガイジンのおっさん(ここでは俺もガイジンなんだけどね)、何度もテンション入れて苦労している。ビレーしてるのは小さなコ(こうのすけより小さい)で、最初は子供かと思ったが、そうではなかった(奥さん?)。このコ?がフォローし終わるのを待って、我々も攻撃開始。

1P目(梁瀬、5.9)
Pillar(?)の右端を形成する、チムニーというか凹状というか、まあそんな感じのところ登る。所謂、悪いピッチ。上部でオフウィズスになるが、自分的には下部の方が、プロテクションがイマイチ効め辛かったり、右側のツルツルの壁を登らされたりで緊張した。最後はクラックから左のフェースに出てビレーポイント。このルート、ビレーポイントだけはボルトアンカーがあっていつでも撤退OKである。

2P目(河野、5.9)
正直、このピッチは威圧的だ。上部に立ちはだかるルーフに向かって、非常に露出感のあるフェースを、あまり綺麗とは言い難いフィンガー〜ハンドクラックを頼りに登る。先行パーティは1P目で降りてしまった。折角一緒にハマってくれると思っていた同志が去りちょっと不安になる。次はこうのすけの番だが一応、「どうする?何ならオレ行くけど」と聞いてみる。少し考えた後、緊張した面持ちで「行ってみる・・・」 ホンマ大丈夫かなー、と思ったが、本人の意思を尊重し(クライマーたる者、自分のケツは自分で拭けにゃイカンからね)、行ってもらう事にする。と書くとなんか偉そうだが、実は内心、恐そー、交代してくれって言われなくてよかったー、と思ったことは内緒である。結果的には、こうのすけは見事オンサイトで登りきった。でかした!! 気合のいるピッチであった(オレの番じゃなくてよかった、というのも内緒である)。

こうのすけが2P目と格闘している最中、後続パーティが登ってきた。「そこ(ビレーポイント)に上がっていいか?」実に紳士的である。自分の経験した限りにおいては、ヨセミテのクライマーはみな紳士的であった。日本だと、フォロワーが登り出すとすぐ、次のパーティのトップがピッタリ後ろに張り付いてきたりするもんだが(上げた足を戻そうとすると、もうそいつの手があったりする)、ここでは、先行パーティが次のピッチに取りかからない限り、後続パーティも自分のピッチにとりかかることはなかった。

「日本人?」って聞かれたので、「いかにも!汝等はドイツ人か?(なんかドイツ語っぽかったから)」「いや、ベルジャン(ベルギー人)だ」「へえー」これ以上の会話は俺のコミュニケーションアビリティーを超えてしまうので、やめておいた。ホントは、ベルギーチョコより、俺はロッテクランキーの方がうまいと思う、とかそんな会話がしたかったのだが。

3P目(梁瀬、5.8)
さらにルーフに向かって、快適なハンドクラックを登る。しかし、先は長いのであまりプロテクションを消費するわけにはいかない。そしてルーフ越え。ハンドジャムが効まるとはいえ、このセクションのグレード、たった5.7!! ルーフやぞルーフ。スタンスだってないってのに。ルーフを越えると、いきなりクラックは広がる。しかし傾斜がきつくないので、それほど苦労しなかった。とはいえ、こうのすけには最悪のサイズか!? それにしても、広大な一枚岩にパッカーンと割れたクラック、全く日本離れしている(日本じゃないからね)。素晴らしい。

4P目(河野、5.8)
ハンドクラック。俺には概ね快適なサイズだった。ただし、こうのすけには少し広めで、ジャミングがルーズになり苦労したもよう。

5P目(梁瀬、5.9)
恐怖のスクイーズチムニーから始まる。と、ビビっていたのだが、奥のクラックからプロテクション取れたし、チムニー内にも結構ホールドがあってそれほど恐くもなければ、難しくもなかった。チムニーから出て、細いクラックでレイバックするところが、ワンポイント5.9。これも大したことない。さあ、あとは5.7のみ。と思いきや、これが長っ。ある程度ランナウトさせないとプロテクが・・・でも、とらないでムーブ起こすのコワイ。というか、ホンマにこれセブン? などと相変わらず進歩のないクライミングを繰り返し、やっとこさ終了点に着いた。

人が奮闘している間、こうのすけは後ろのベルジャンと談笑していたらしい。なんでも、ヨシダカズマサの話題だったとのことだ。いいねえ、イングリッシャブルな人は。ところで、ちゃんとビレーしてたんだろな。

オリジナルはここからさらに上までつながっているが、ほとんどの人がここで終了する(持ってきたトポにもここまでしか載ってないし)。当然、我々も。下降はルートの左側に設置された下降用アンカーを辿る。大き目のハンガーに直接ロープを通すので、ロープ回収時の摩擦が大きいはずだか、スルスル抜けてくる。後ろのベルジャン達が、手伝ってくれていたのだ。

お世話になったベルジャン達にお礼を言って(彼らは下りてくるなり、さっさと帰っていった)、我々も早々岩場を後にする。帰り際、今日はレスト日のIさん、Mさんに出くわした。なんでもHigher Cathedral Spireに行くので、その偵察に来たとのこと。我々も、翌日暗い内から歩き出さねばならないので、Half DomeへのJohn Mure & Mist Trailの起点、Happy Islesへの道、駐車場を確認しに行くことにした。

Central Pillar of Frenzy、ヨセミテでのクラッククライミングのフィナーレを飾るに相応しいルートであった。大袈裟だけど。たった5.9だけど。されど、クライミングの素晴らしさは数字でないことを、さらに翌日、ヨセミテは実感させてくれるのである。
(Y記)


聖地巡礼(その6)−遥かなるハーフドーム〜エピローグ

9月23日(木)

●Snake Dike 5.7R 8P ☆☆☆☆☆
いよいよスネークダイクの日。このルートはハーフドーム南西壁のスラブに走るダイクをランナウトに耐えてぐいぐい登っていく。Rはランナウト(Runout)の意味。トポの紹介では、「One of the most glorious moderate climbs on the planet」とあり、まさに惑星級の凄さらしい。写真は、全くプロテクションなしにダイクを登る姿。果たしてビビリの2人が恐怖のランナウトに耐えられるのか?!

5時半、まだ真っ暗なHappy Isles駐車場を出発。時折、闇の中でカサコソと音がすると、熊じゃないかと結構びびる。John Muir Trailを辿り、バーナル滝のあたりで段々明るくなってきた。急な階段を上りきると、滝のすぐ落ち口まで行ける。暫く歩くとネバダ滝が姿を現す。休憩するとコバルトブルーのカケスやリスがよってくる。こんなトレイルをのんびりと歩くのもいいものだ。

途中、踏み後が左手に入っており、ここがLost Lakeへの入り口だ。湖は干上がってしまっているが、その辺りまでくると、ようやくハーフドームが見え始めた。そこから取り付きまでは、ケルンが導いてくれる…はずであったが、もうすぐ基部やろ?というところで迷ってしまった。右往左往、結局変なところでロープを出すはめに。ちょうどそこに歩いてきた日本人的アジアンに流暢な英語で「そのルート何?」と聞かれたので、こちらも流暢とは言い難いが、ヤナッチが負けじとエーゴで「スネークダイクへ行きたいんだが、アプローチで迷っちまった」と言ったら、ハハンとスタコラ行ってしまった。

1時間ほどロスしてやっと取り付きに到着。ルートを見上げると、アメージング!グロリアス!ワンダフル!スゲー!何にもない、でっかい壁に血管みたいにダイクがうねうねしている。大人気ルートだけあって、順番待ち。時間的にも結構ヤバイとも思われたが、苦労してここまで来たのだから是が非でも登りたい。取り付きでベラベラ日本語でしゃべってたら、先程のアジアンが「日本人だったんですか」と。それはこっちのセリフだよ〜。

風が結構強く、カッパを着込む。出発が12時前とかなり遅くなってしまったが、いよいよヤナッチ先行でスタート。

1P目(梁・5.7)
先行パーティーが下部のスラブでかなり手間取っていたため、何でかな〜と思いきや、ヤナッチも同じようにはまっていた。そんなに悪いのかとフォローして納得、つるっつるスラブで、スタンス全くなし。しかもフォローだと、トラバースに入る前にカムを回収するので、こっから落ちられないやんかっ。危うく難は逃れられたが、まじでいつフォールしてもおかしくない状態だった。60mの方のビレイポイントまで。

2P目(河・5.7)
少し右にトラバースして、ダイクに向かって登っていく。途中のポケットにエイリアンが使える。

3P目(梁・5.7〜5.4R) 
上の方に、間違いのボルトが光っている。まさかこんなつるつるのところ、登れないし。ちょっと嫌なフリクションで左上するとすぐボルトあった。さらに左にトラバースして、いよいよダイククライミングがスタート。

4P目(河・5.4R)
40mでプロテクションひとつ。易しいとはいえ、ものすごいランナウト、何とも言えない感覚。恐くて下も見れない。所々に、「チキンヘッド」と言われるぽこっとした岩の突起があり、これに細いスリングを使えばプロテクションになる、と事前に情報入手していた。が、せっかくこのために買ったダイニーマのスリングも、結んで上に動いた途端にはずれ、空しくビレイヤーの元へ落ちていった。ああ。

5P目(梁・5.5〜5.3R)
フォローの方が精神的には楽だが、体力的にはしんどい。フォローがザックを担ぐのだが、二人分の荷物にバックロープも入っているので、結構重くて足が思うようにあがらない。早く交代したいよー。

6P目(河・5.3R〜5.4)
いやもう、頭の中はアメイジング・グレイス♪ 自然が作り出した奇跡の道。
ダイクから小さな段を越えると、安心のボルトあり。

7P目(梁・5.2)
トポの直上は間違いで、右にトラバースしてからダイクを登る。Super Topoの掲示板で話題になっているのを見ていてよかった。ていうか、トポ通りに直上なんて、とても出来るようなところじゃないぞ。

8P目(河・5.2)
ダイクも終わり、適当にロープをのばして小さな易しいハングを越えて、終わり…
かと思っていたが、ここからがある意味スタートであった。

「slabs forever」とのトポ記載通り、スラブが永遠に続く。あそこが頂上かな〜という期待を何度も裏切られ、いい加減重いロープを外そうかと思うのだが、ここで外してもしつるっとこけて、ころっと転がったら、そのままころころ取り付きまでか?!と思うと重くても我慢して登る。でも途中でギブアップ、ロープをたたんだが、それでもまだつかないし勘弁してくれ〜と泣きが入りかけたところでいよいよこれ以上高いところがなくった。誰かが石で作ったゴールのGが出迎えてくれた。やったぁ!と思いきや、ん?頂上はこっちじゃないの??向こうの方にまだ広い斜面が広がっていて、人が見える。う。あっちか。へろへろと人のいる方へ。
16時にやっと到着。こんな時間だけどまだハイカーがいて、やったね!と声をかけてくれる。

今、あのハーフドームのてっぺんにいる。

ハーフドームから眺望は、圧巻につきる。なぜこんな素晴らしい景色が作られるのか。空はどこまでも蒼く、静寂につつまれたこの空間は、時間が止まっているのかのよう。美しい渓谷と山々が折り重なり、見渡す限りが太古からの大自然のままだ。
…こんな何もない頂上にまで、豚リスがうろうろしているのも驚きだが。
1時間くらいボーっと絶景を楽しむ。でもそろそろ下山のタイムリミット。惜しみながら頂上とはお別れ。

降り口は、手すりのケーブルに木の足場。めちゃくちゃ急で、恐ろしいことったら。革手が必携とは納得で、これがなければケーブルを保持できない。手を離せば、そのまま一巻の終わりだ。これがハイキング道?!ケーブルの終わる地点につくと、手袋がたくさん用意されており、誰でもここで借りて登れるようになっていた。

ここから、朝通ったトレイルまで戻るのが長い道のりだった。そのうち辺りはまた真っ暗闇となり、ヘッドラン山行となる。途中休憩していたら、どこからともなく楽しそうな歌声がきこえ、暗闇から3人組が現れた。げ、ヘッドランは?「電池がきれてね〜」とまた奇声を発しながら明るく闇に消えていった。ほんとに真っ暗である。分岐だって見えないだろうし、足下だって結構悪い。んー、変なガイジン。

駐車場についたのは、21時。本当に長く、しんどく、でも素晴らしい1日であった。

テン場にもどって食べた日清の素ラーメン。涙が出るほど旨かった。

9月24日(金)

ヨセミテ最終日。昨日のハーフドームで疲れ果てたので、今日は観光や買い物をして過ごす。エルキャプからハーフドームまで一望できるトンネルビューや、グレイシャーポイントへドライブ。いずれも素晴らしい景色を満喫できるので、ヨセミテに来たらレスト日にでも一度は行ってほしいところ。

最後の晩餐は、やっぱりカリービレッジのバイキング。早めに切り上げ、撤収準備。お世話になったIさん、Mさんともお別れ。11月まで頑張って下さい。
夜中に駐車場をがさごそしていたので、レンジャーに熊には十分注意して、と声をかけられた。幸いにも滞在中一度も遭わなかったけど。

9月25日(土)

夜中3時半に起床、星が瞬く下でテントをたたみヨセミテを後にする。真っ暗なので、残念ながら景色は見えず。
来た道を再び戻り、フリーウェイをひた走り、サンフランシスコへ。
最後に橋を渡るのだが、行きは確かに料金所などなかったのに、料金所があった。道もまちがっていないはず。3$なり。二人の財布の中身をかき集めてちょうど3$。げげっ!や、やばかった!
お世話になったポンティアックともお別れし、機上の人へ。

9月26日(日)

日付が変わって成田着。国内線を乗り継いで、喧騒の街にもどってきた。


--- エピローグ ---

今は冬、あれから早4ヶ月近くが過ぎた。バタバタと時間に追われる毎日が続く。
ふと、夕焼けに紅く染まるハーフドームを思い出す。エルキャプメドウの草原から見上げた、憧れのエルキャピタン。
今週末の天気、どうだろう。寒くなかったら、クラック登りにいきたいな。

かの地、ヨセミテを夢見て。

<<完 >>


ここまで駄文を読んで下さって、ありがとうございました。
<K記>

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