日  程 2003年8月30日
地  域 岐阜県・奥美濃 板取川 川浦谷 海ノ溝谷遡行
メンバー 藤田(誠)・河野・梁瀬(記録)

「ウォーターボーイズ・フルスロットル!」
  ***海ノ溝に突入せよ!*** 

 「奥美濃の名渓、川浦谷」、当会の名物某軍曹のお気に入りフレーズの一つ(その他、「剣岳は岩と雪の殿堂である!」、「朝日に輝く奥鐘の・・・」、等々)であるが、この川浦谷(カオレ谷と読む)、一般的には左門岳に突き上げる銚子洞をさし、日本百名谷に紹介されているのもこの銚子洞。この谷には岩魚がウヨウヨいたのでまた行ってみたい(釣に)のであるが、遡行自体は特に困難な箇所はない。しかしながら、本来川浦とは、「奥美濃の黒部」、「男一人をカオレにやるな」、と表されるほどのところ。銚子洞の下流に位置する本流ゴルジュを指してのことだと思うが、この本流ゴルジュに合するさらにもの凄いゴルジュ谷があるとフジッコから聞いたのは数年前だったろうか。何せあのフジッコが(フジッコだから!?)入り口を覗いただけで震え上がって帰ってきたらしい。その谷の名は海ノ溝洞といった。往々にしてフジッコの言うことは大袈裟でその信憑性が問われることが多いので、「ショボイなフジッコ。」くらいは言ったかもしれんが、基本的に聞き流したような気もする。しかし、昨年久々に結成した河童同人で池郷中流ゴルジュ帯をやったのを機に、遡行図中に黒く塗りつぶされた箇所の多い谷(要するに泳ぎを要する大きな釜や淵の多い谷)にすっかり魅了されてしまった我輩は、他に関西からお手軽に行けるエキサイティングなヤツないかな〜、と物色していたところ、海ノ溝のことを思い出した。その後、いくつかのHPや最近知り合ったスーパー沢マンの「えのもっちゃん」からの情報によると、この海ノ溝、相当面白いのは間違いないらしい。これは行かな!っちゅうことで虎視眈々と機会を窺っていた。

 8月30、31日、1泊でそれなりの沢に行く予定だったが、31日の天気が悪そうだったので、30日のみの日帰りで “それなり”の沢に行くことにした(なぜか31日はボーリング大会になり、我輩は圧勝したのであるが、これはまた別の物語)。そんでもっていい機会とばかりに海ノ溝を提案したのであるが、フジッコは前回の恐怖が思い起こされるのか、当初難色を示したものの、最終的には「い〜マジ!? はあ・・・」と、意欲的な返答を得た。さらに、悪天で北鎌行きを延期したこうのすけも加わり、かくして、対海ノ溝ウォーターボーイズが結成された。あまり役に立つとも思えんが、一応全員5.12クライマー。とはいえ、一人は「腰痛持ち」、一人は「かつては・・・」、一人は「ウソっぽい」であるが。

 これから泳ごうという者にとっては、自分の行為を考え直したくなるような涼しい朝を迎え、準備を整える。我輩は本ゴルジュ突破のため、キャメロット、ストッパー、各種ピトン、アブミ、スカイフック、さらにボルトキットまで持参した。一方、リベンジ戦(の筈)のフジッコの持参したものといえば、釣竿、釣エサ、釣仕掛け、釣鉤、釣糸・・・極めつけは水槽みたいな防水ケース入りビデオカメラ!。リベンジする気あんのか?。全員ウェットスーツ、ライフジャケットに身をかため、板取キャンプ場より入渓。特筆すべきは、フジッコ、ウェット3枚重ね!(アホ!)、こうのすけのライジャケ、子供用!(浮くのか?)。およそ登山とかけ離れたいでたち。これでキャンプ場の中を歩くのはちょっと恥かしい。しばらく川浦谷の本流ゴルジュを遡行すると左岸より海ノ溝が流入してくる。いよいよ、海ノ溝ゴルジュの始まりである。ウォーターボーイズ・フルスロットル!

 入谷してすぐに2mもない小滝。が、2〜3m程の谷幅一杯に水が流れ落ちている。いくつかの記録では左から滝の裏側に入り右から抜けるようなことが書いてあったが、凄まじい水圧でとてもそんなムードではない。幸い空身で滝左をそのままフリーで抜けることができ、恐ろしいチャレンジをせずに済んだ。が、水圧で荷上が大変だった。

 全く日が差さなくて薄暗い文字通りの廊下を進む。凄いところだが、岩は明るい茶色で水は青く美しい。先日行った甲川よりも明るい印象を受ける。甲川は真黒な岩にびっしりと緑色のコケが生え、なんか気持悪かった。しばらく行くと、また同じような滝が現れた。フジッコが開口一番「ありゃー、ダメだコリャ」ホンマ諦めの早いヤツ。とはいえ、確かにこの水量じゃフリーは絶望的に思える。が、うまい具合に落ち口に続く水平クラックに残置ピトンがあった。こいつにアブミを掛け落ち口に近づく。さらにもう一本ピトンを追加していたら、いきなり乗ってるピトンが抜けた。当然、釜の中にドボン。くそー、なんてこった。やけくそになって、落ちたついでにフリーで行けるかどうか滝の中に突っ込んでみるが、あえなく吐き出され、しょうがなく、抜けたピトンを打ち直す。さっき途中まで打ってたヤツもそのまま使えそうだったので、そいつを利用して落ち口に抜けた。

 その後、一瞬谷は開け、大きな釜を持つ5m位の滝。水量が少なければ、右から取り付き、水流を横切って左に抜けれると思うが、この水量じゃ重量級の我輩でも吹飛ばされるだろう。幸い右壁を小さく巻けそうだ。フジッコは呑気に釣竿出してる。潅木支点に渋い巻きで滝を越えると、再び廊下となり、奥に小滝をかける10m位の淵。淵全体に流れがあり、これを泳ぎで突破するのは河童同人オカムラでも難しそう。マット・ビオンディ(古い!?)なら行けるかな。ワシはビオンディでもソープでもないので八つ目ウナギ泳法でいくことにする。左の方が若干流れが弱いが、壁がツルツル。右は流れが速いがホールドが結構ありそうなのでこちらから行く。岩と体の間に流れを入れないよう、ジリジリ前進する。半分くらい行ったところで滝に向かう反転流に乗ることができ、ラッキー!、と思いきや、そのまま落ち込みに吸い込まれそうになり、慌てて壁を蹴り落水の少ない左に逃げ、滝を越えた。この淵は、何もこんなことしなくても左岸のバンドから簡単に越えれたみたい。

 ここを過ぎるといきなり谷が塞がれた。これが噂の灰色チョックストン。なんとも凄い光景だ。インディ・ジョーンズとかの冒険モノでよくある、狭い通路の向こう側からデカイ石が転がってきて、それが狭くなった部分で挟まってるって感じ。しかもこのチョックストン、明らかに周りと岩質が違う。周りは茶色なのに、これだけ文字通り灰色なのだ。ホントに上の方から転がって来たに違いない!。感心してる場合ではなく、どうやって突破するかであるが、チョックストンの下から噴出する水流が強くてチョックストンにおいそれとは近付けない。まず、チョックストン右手前の凹角に入りたいが右側は流れ早くて進めない。そこで左側を限界まで進んでキャメロットを突っ込み、こいつに掴まって体をスイングしながら壁を蹴り、流れを突っ切ってお目当の凹角のヘリを掴んだ。が、流れが強くて体が完全に横になってまさに鯉のぼり状態。おまけに頭まで水中に沈んでしまい、こりゃイカン、あえなく流される。くそーっ。ちゅうわけで、トライアゲイン。またまた同じ状態になるが、水平マントリング(?)でなんとか凹角に入り込んだ。しかし、もうここはホワイトウォーターの中、ライジャケしてるのに全然浮力がない。しかも油断してると凹角から吐き出されてまた流されそう。とりあえず、凹角奥のクラックからキャメでセルフを取る。チョックストンは目の前だが、その真下に行くには凹角から出て岩のカンテを回り込まにゃならん。そこで流されたらまだ最初から。手掛かりがイル。カンテ部分にピトンを打ち込み、こいつを支点に体を振って一気にカンテを越えてチョックストン真下に入り込んだ。このままチョックストン右を越えようかと思ったが、被ってて悪いので、チョックストンのスタンスを拾って左から抜けた。

 チョックストンの裏側は凄いことになっていた。チョックストンのすぐ先には小滝があり、この小滝とチョックストンの間のプールはまさに洗濯機状態。ここに落ちたら一体どうなっちまうんだ?。幸いこんなところに飛び込む必要はなくて、右側のバンドから簡単に小滝の上に出ることができた。

 んが、すぐその先にまた小滝。もう腹一杯だぞ。滝右手のスラブが登れそうだが、この流れではビオンディでも近付けそうもない。ここまできて巻きたくない。しばらく見てたら、滝の2〜3m手前の左壁がフリーで登れそうな気がしてきた。そこまで八つ目ウナギで進み、サワノボルダー開始。が、思ったよりも傾斜が強く、思ったよりもホールドが悪く、あえなくドボン。それでもまだフリーでいけると思っている我輩、空身で再度トライ。が、それでもドボン。もう一回やってみるが、やっぱりドボン。パンプしてしまった。最近フリー行ってなかったが、まさか沢でパンプするなんて。諦めてサワノエイドで行くことにする。が、流れに耐えながらピトン打てんので、まず、スカイフックに乗ることにする。しかし、なかなかいいフッキングポイントが見付からず、何回かフックが外れてドボン。もう!(怒)、今日はフリークライミング以上に墜落してるぞ!。やっとそこそこ安定した1cmほどのエッジに乗ることに成功し、上のクラックにピトンをぶち込む。ところが、打ち込んでる最中、またまたフックが外れてドポン。外れる瞬間、火花が散ってた。おまけにビレーとってなかったアブミはそのまま流されてなくなってしまった。あの軽量アブミ結構気に入ってたのに・・・。不幸中の幸いか、打ちこみ途中のピトンは結構効いていたので、それをそのまま利用し、さらに上にもう一本打ち、あとは簡単なトラバースで滝上に出ることができた。結局、ゴルジャーにとっては5.12登れることよりも、手際のいいピトンワークのほうが大事ってことかな!?。

 この滝を越えると突然谷は開け穏やかになった。しかし、まだ油断できん。しばらく警戒しながら進むが、なにも出てこない。どうやらゴルジュは終わったようだ、っちゅうわけで、カップメン食って釣大会開始。我輩はゴルジュ突破に集中するためフライタックルを持参しなかったので、誇り高きスポーツフィッシャーマンとしては誠に不本意ではあるが、フジッコのを借りて卑怯なエサ釣りなんぞをやるハメになった。エサはブドウ虫とかいうイモムシ。気持悪い。よくこんなもの使うよ。ブドウ虫にはなりたくない。鉤に突き刺された上、水中に放り込まれ溺れさせられて、挙句の果てには魚に食われちまうんだから。しかし、エサ釣りはゲーム性がなくて面白くないな。そもそも魚がエサに食いつくのは当り前の話なのだ。フジッコは兎も角、釣なんかほとんどやったことないこうのすけでも釣れてしまうんだから。とはいえ、奴らが釣ってたのは、煮干みたいな極小アマゴだけどね。我輩がまあまあのサイズを掛けたが、可愛そうなので、一瞬でリリースしてやった。

 そうこうしている内に、遡行終了地点に着いてしまったので、しつこく煮干釣りをしているフジッコを呼び寄せ、林道に這い上がった。1日谷の中で遊んでいたが、林道歩きはたった30分で終了。なんとも濃い谷であった。

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