日  程 2002年8月16日
地  域 北アルプス 屏風岩東壁「大スラブ直登ルート」見学ツアー
メンバー 西村・河野・梁瀬(記録)

「マッカスだよ!!」 ***屏風岩東壁大スラブ直登ルート 試登編***

 「痛てててて・・・。全く、草ボウボウじゃねーか。しかもトゲトゲときた。きっと、しんちゃん開拓以来、人類が通っていないに違いない。おまけに足元見えなくて怖いったらありゃしない。何が歩いて簡単に行けるだ!」思いっきり悪態つきながら、マッカスを行く。「マッカス」ってのは、T4から大スラブを横切って1ルンゼに続くブッシュバンド。白山書房「日本の岩場」には、単に横断バンドと記されているが、しんちゃんによるとバッカスバンドと呼ばれていたらしい。それが時を経て(たった1日だが)訛り、我々の間では「マッカス」が定着していた。

 ひたすら藪こぎトラバースを続け、開拓時、しんちゃん達が住んでいたというブッシュテラスの真下に達するが、そこに這い上がる直前、ピンチを迎える。バーティカルブッシュ!、絶対落ちるわけにはいかない。何故なら、丁度この時、雲稜Rでの事故者救出のため、東邦航空のヘリがT4ギリギリを神テクでホバしており、しんちゃんもこうのすけもビレーそっちのけでヘリ見物に興じているに違いないからだ。なんとか危機を脱し、テラスに這い上がり2人を迎えるが、しんちゃんによると、取り付きはもっと左だという。なにやら明瞭なクラックがあるとのこと。開拓者が言うんだから疑いようもなく、再びマッカスを左に進む。ほどんど1ルンゼに出たところにビレイ点っぽいのを発見。しかし、しんちゃんの反応イマイチ。しかも、クラックは何処?。やっぱり、もっと右だ、ということになり、ホントにここにルート作ったんかいな、という言葉を噛み殺し、元来た方向へ再びマッカス始めたところ、「ゴメン、ゴメン、やっぱりこっちだ。上にボルト見える」ときた。戻って確認すると、確かに遥か上のスラブの中にコケにまみれたリングボルトが一本見える。しんちゃんとこうのすけはさらにその上にもう一本見えるという。両目とも視力1.5の我輩には見えんのだが。それはさておき、あそこまでどうやって行くんだ?。クラックってこの草生えてるやつ?。

 とにかく、折角来たので1ピッチくらい登ってみようということになるが、出だしからイキナリ悪い。なんとかクラック(しんちゃん曰く)にフレンズでプロテクとり、スラブの入り口へ。よくよく考えると、開拓時ここまでノープロで登ったしんちゃん達は偉大なのだが、この時は、なんでここにプロテク残置しとかなかったんだ、という非難の念しかなかった。
 さて、スラブはというと、やはり見えてたボルトまで2本ほどボルトが飛んでるようだ。打ち直さにゃいかん。体勢が不安定なので、ロストアローを一本打ってドリリング作業開始。いとも簡単に穴が開く。我輩も遂に人間ボッシュの域に達したか、と有頂天になってリングボルトを打ち込んだが、手応えがおかしい。ハンマーでこじったらあっさり回った。ちょっと深く掘りすぎたか。しかし、引っ張っても抜けないので恐る恐る乗ることにする。そして次のドリリング開始。なんせ、今乗ってるのがヤバイので大胆な体勢がとれず、低い位置にしか打てないが、最上段に乗ってチョンボ棒を延ばせば、例の残置ボルトに届くはず。今度は確実に効かすため、浅めに掘る。んでもってボルトを打ち込んだが、さっきよりもひどい状態になってしまった。どうも、岩がやわらかすぎ、穴が大きめに開いてしまい、エキスパンションしても効きが甘いみたいだ。さっきのも、掘りすぎたわけじゃないみたい。ナウなクライマーにしては、我輩、これまで打ち込んだボルトの数は多い方だと思うが、こんなやわらかい岩初めてだ。全くヒドイボルトだが、これに乗りさえすれば残置に届く、と意を決して乗込み、最上段に立ち上がってチョンボ棒を延ばす。が、悲しいかな、10センチほど足りない。ガーン。今乗ってるボルトの上面を見てさらにガーン。チップ見えてんじゃん。しかも、グラグラ動くし。

 そうこうしているうちに、雨まで降ってきた。ビレイも大変だなー、と下を見ると誰もいない。2人とも岩陰で雨宿りしてやんの。しかもカッパまで着込んで。一方、我輩はびしょ濡れだ。弾も尽きたので(ボルトは2本しか持参しなかった。しんちゃんにもっと持ってけと言われながら・・・)、最後の秘技を繰り出すことにした。アブミ最上段の繰り上げ。なんとかこれで残置ボルトに届き、ホッとしたのも束の間、上を見て唖然。次ないじゃん。誰だ次のボルトも見えるって言ってたのは。当人達に文句言うと、今はもう見えないだと・・・・。なんじゃそりゃ。ナメクジハング横へと続くボルトラダーは頭上に見えるが、これまたそこまで2〜3発抜けてるようだ。もうどうしようもないので、これにて終了、ロワーダウンで降ろしてもらう。降り際、2発目に打ったボルトを手で引っ張ったら、あっさり抜けた。ピカピカのリングボルトでAAとは・・・。1発目はクルクル回るものの、手では抜けんかった。

 さて、下降をどうするかだが、しっとり濡れたマッカスを戻るのもゾっとしないので、このまま1ルンゼを降りることにする。が、期待した下降支点は得られず、2回目の懸垂はショボイ残置にボルト一本打ち足して支点とし、3回目はディレッティシマ1P目終了点にトラバースしてこれを利用した。

 というわけで、しんちゃんら開拓の屏風岩東壁大スラブ直登ルートは、現在ハンマレスでは登れない状態。1P目だけでも、少なくとも4〜5発は打つ必要がある。いや待てよ、鮎竿級のチョンボ棒を持ってけば、打たなくても行けるな。10m位のやつ。カーボンだからそんなに重くもないし。しまった、今回そうすればよかった。ただまあ、傾斜の緩い1P目のみが上部からの雪崩の直撃でボルトが抜けてしまっているような気もするので、2P目以降はそんなことせんでも登れるかも?。行ってみなわからんけど。今回フリー化の可能性も探るはずだったんだが、それどころではなかった。しかし、この東壁大スラブ、このスケールでこれだけ変化のない一枚スラブも珍しい。スラブといってもフリクションだけで登るには傾斜が強すぎるので、フリー化は難しそうだなー。

to be continued!?

以下、続編!?
「屏風岩東壁大スラブ直登ルート 完登編」
「屏風岩東壁大スラブ直登ルート フリー化編」
「屏風岩東壁大スラブ直登ルート 冬壁編」
「屏風岩東壁大スラブ直登ルート フリーソロ編」

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