日  程 2000年4月29日〜5月1日
地  域 北アルプス 剣岳R4
メンバー 梁瀬兄弟(兄・記録)

「R4エピソードU、栄光編」

4月29日
名残惜しい小窓尾根へのトレースに別れを告げ、トレースの全くない池ノ谷に突入。
時折左右から落ちてくる雪崩にびびりながら前進するも、そのうちバテてきて、「なんで誰も池ノ谷に入ってねーんだ。県警の奴等ちゃんとトレースぐらいつけとけ」と、愚痴りまくる。16時頃、ヘロヘロになってやっと剣尾根末端に到着し、とても三ノ窓まで行けないのでここをベースとする。

4月30日
早朝5時、雪がしまっていることを期待して一歩を踏み出すも、いきなりズボッともぐる。それからは、半分、というか7割方キレまくりながら登高を続け、8時半頃やっとR4取付に到着。著しく体力を消耗し、去年よりマシだが相変わらず極悪そうな1ピッチ目にビビり、また敗退したくなってくるが、昨年執筆の「R4エピソードT、敗退編」のおかげで、俺が今年もR4に挑むことがOGKUの間では周知になってしまっていたので、カッコ悪いまねも出来ず、話のネタくらいはつくろうとやれるとこまでやることにする。

1P目(俺リード):
ネイリングを交えて下部ミックス部を突破し、氷壁へ。ところがこの氷、砂糖菓子みたいで、スクリューが全然利かない。アックスはとりあえず刺さるので、ランアウト著しくビレーできそうな露岩へ。が、ピトンをきめられず、結局ボルトを1本打ってビレー。

2P目(弟リード):
ガリーの中に入り、短いが傾斜の強いアイスフォールを超える。相変わらず氷が悪くビレーアンカーも得られないので、弟まで「ボルトを打つ」と言ってきたが、結局なんとかタイオフでピトンを一本きめ、それと氷に突刺したアックス、利いてないスクリューでビレイしていた。

3P目(俺リード):
継続してアイスガリーを登る。難しくはないが、相変わらずスクリューは使えない。ハング下の残置ボルト&残置ピトンでビレイしようとしたら、ピトンが簡単に抜けてしまったので、打ち直した。ルート中唯一まともなアンカーが得られた個所である。

4P目(弟リード):
ハングを回り込むようにして、岩に張り付いた氷を登る。一瞬氷質が良くなったが、すぐに元に戻り、相変わらずランアウト著し。45m程で弟がなんかゴチャゴチャ言ってきたが、頭上のハングに遮られ、何言ってるかさっぱりわからん。しばらくして、ロープが引かれたので登っていくと、なんと、こんな氷で短スクリュー2本、中スクリュー1本のタイオフでビレーしていた。ヒエー。

5P目(俺リード):
似たような氷壁を登り、やや傾斜の落ちた氷雪壁へ。残置ピトン1本にセルフをとり、スタンディングアックスビレー。

6P目(弟リード):
最後の氷壁を越え、上部雪壁帯へ。この頃背後の小窓尾根に数パーティ出現する。

7〜9P目:
背後の小窓尾根パーティに、我々の勇姿を見せつけんがため、勇猛果敢に登ろうとするも、既に体が言う事を聞かず、ヨタヨタ状態で上部雪壁をこなし、ドームの頭に至る。所要7時間の激闘であった。

ドームの頭からは、R2を下降すべくコルBに向かう。途中、小ピークをリッジ通しに行こうとしたら、絶壁に阻まれ少しパニック。その時、ちょうど背後の小窓尾根パーティが訳のわからん奇声を発したので、錯乱状態の俺は思わず「うるせー」と怒鳴ってしまう。後から考えるとあれは我々へのエールだったのかとも思えるのだが、もしそうであったならゴメンナサイ。こんなとこで謝っても意味ないけど。小ピークはなんとか雪壁をトラバースして突破し、無事コルBに到着。後はR2を、駆け下りたいけど恐いので後向きで慎重に下って池ノ谷に降り立った。R4の取付きでギアを整理した後、相変わらずズボズボもぐる雪に、相変わらずキレまくりながらBC帰着。

5月1日
前夜から降り始めた雨(雪)が止むのをまって昼頃撤収しようとしたら、あちこちで雪崩が発生し始めた。こりゃヤバイとしばらく様子をみることにする。ボケッとしててもしょうがないので、ビーコンの練習をする。大して深く埋めていないのに見つけるのに22分もかかってしまった。これじゃもう死んでるって。あらためて、我々がビーコンを携行することにどれほど意味があるのか真剣に考えさせられてしまった。
少なくとも現時点では、荷物を少しばかり重くしているくらいの、あまり好ましくない役割しか果たしていないようだ。
相変わらず雪崩は頻発していたが、見ていると、雪が重いためかあまり長い距離は走っていないようなので、出発する事にする。下降中も、始終谷の左右から雪崩れてきたが、対岸に達するようなものはなかった。一度休憩中、俺に向かって右岸から雪崩れてきたとき、ザックを引っ張って逃げるか、空身で逃げるかうろたえたが、幸い20mくらい距離をおいて止まったのでことなきを得た。

快調に下降を続け池ノ谷ゴルジュに到着したとき、我々は目をまるくした。入山時は真っ白であまり迫力のなかった池ノ谷ゴルジュが、まるで爆弾でふっ飛ばしたようにメチャメチャになっていた。谷は草や土の混じったグチャグチャのデブリで埋め尽くされ、側壁は黒々と悪相のスラブを露呈していた。我々の入山中にスイッチを押したかの如く、冬景色から春景色に切り替わったのだ。大自然の、ぞして剣のパワーに只々感動するのは5秒くらいにして、まだ不安定な雪が側壁に引っかかっているゴルジュをダッシュで降ったのでした。

下山後、R4をしとめた勢いをかり、白萩川の大イワナでもしとめようと、山道具と共に車に積み込んでおいたフライフィッシングタックルを組もうとしたところ、ロッド、フライ、ゴム長etcすべて揃っているにも関わらず、リール(当然フライラインも)を忘れたことに気付き、大イワナの夢は露と消えたのであった。ちゃんちゃん。


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