はなしの花

薄失せ 南蛮煙管 何思ふ

 前回のお話で「ナンバンギセルの写真を掲載する」と予告しましたので、公開します。

ナンバンギセル小
※写真をクリックすると拡大されます

 たいした作品ではありませんが、筆者にとっては、ようやくナンバンギセルらしい花が撮れたという感想。

 この花、咲く時期も毎年違うし、暗い場所に咲くし、周りはススキをはじめ雑草に覆われているし―と悪条件が重なり、なかなかいいものが撮れませんでした。

 また、都市開発によるススキの伐採が進み、生育地が減ってしまったことも、悪条件の要因といえるでしょう。ススキに寄生するナンバンギセルにとって、「家」が無くなってしまっては、生きながらえようもありませんから。

 今回は多摩丘陵公園で撮ってきましたが、ロープを張ってしっかり保護されていました。

 ところで、この花の名前の由来ですが、花の形が南蛮人が持ち込んだ「パイプ=煙管」に似ていることから「ナンバンギセル」となったとか。

 形といい、色といい、パイプを連想させるので、洒落たネーミングだと思います。

 ただし、この花、パイプと共に輸入された花でははありません。古来より日本に生息し、万葉の時代には「思ひ草※」として歌に歌われていました。

 道の辺の尾花がしたの思ひ草 今さらになど物か思はむ  (巻十 二二七〇)

 「尾花」はススキの別称。ススキの陰で俯き加減に咲くナンバンギセルの姿を、「恋わずらい」と重ね合わせるなんて、万葉人も粋ですよね。

 時は移って現在、自然破壊で強制退去を余儀なくされた「思ひ草」に、恋なんて悠長なことを言ってる暇があろうものか。

 気の毒なことに…

 きっと自らの、明日の生活を思うことで精一杯なのでしょう。そして、我々にとっても、決して他人事ではありません。

(10月5日 記)

※思ひ草には、その他「ツユクサ」「リンドウ」「オミナエシ」など諸説あります。


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