『アホっぽい人』

 

 

 

「わあ……」

「なんかの遺跡だな」

 オアシスの中にある建造物を見て、ネギと千雨が感心したようにつぶやいた。

 彼らが砂漠を越えてまでここへやってきたのは、人捜しという目的があったからだ。

「本当にそんな強いやつが、こんなところにいんのかよ?」

「ええ。そう聞いています」

 やがてくるフェイト達との戦いを前に、ネギはどうしても強くなる必要がある。

 強い人間の噂を聞きつけた彼は、その実力を一目見ようとここまでやって来たのだ。

 やがて、ふたりは一人の男を見つけ出す。

 

 

 

「……腹が減っちまって、力が出ねぇや」

 しおれている男からは覇気や貫禄といったものが全く感じられない。

「ネギ先生、アレ見ろ! アレ!」

 千雨の目に映ったのは、青空から舞い降りる小さな影。

「まさか……」

 シルエットからその正体は理解できた。

 影が小さいのはあくまでも距離がありすぎるから。

 その正体は巨大なドラゴンだった。

「また来たのか。こりねぇ奴だなぁ」

 目前の危険を自覚していないかのように、男はのんきな反応を示す。

 爪を受けて弾き飛ばされても平然と立ち上がり、噛みつこうとしたドラゴンの顔を逆に殴り飛ばし、長大なしっぽを引きちぎってしまった。

 ドラゴンは這々の体で逃げ帰っていく。

 ぴくぴくとうごめくしっぽを見て彼がつぶやいた。

「こいつでも食うか」

 手刀でしっぽを切断した彼は、火をおこしてあぶり始める。

 モグモグモグ。ゲプっ!

「あー、うまかった」

 原始人もかくやと思われる野放図な行動であった。

「腹も膨れたから、修行でもすっか」

 変なポーズを取るなり、彼は光線のようなものを発して岩山を破壊してのけた。

 ネギの直感が告げる。

「アホっぽい人だ……」

 その認識は正しい。

「千雨さん、覚えてますか? 僕が強くなるためには、アホっぽさが足りないって話……」

「ちょ、まてバカ! はやまるな!」

 千雨が止めるのも聞かずに、ネギは男の元へ駆け寄っていた。

「僕に……戦い方を教えてください!」

 ふたりが身を潜めていたことに気づいていた男は、さして驚くこともなく聞き返す。

「誰だ、おめぇ?」

「僕はネギと言います」

「どっかで聞いた名だなぁ……」

 首をかしげる男に、ネギもまた尋ねていた。

「あの、名前を教えてもらえますか」

「オラは悟空。孫悟空だ」

「……孫悟空さん? 父さんの仲間だった悟空さんですか?」

「父さんって誰のことだ?」

「サウザンドマスターのナギ・スプリングフィールドです」

「え!? ナギの!? ほ、ほんとにナギの息子なのか、おめぇ?」

「はい」

 まじまじと見つめた悟空は納得のつぶやきを漏らす。

「似てる……、そういえば似てるや……。あ、あいつがオヤジになぁ……」

 友人の息子というのは、彼にとっても感慨深いようだ。

「そうかぁ。きっとアリカとくっついたんだな」

「……え?」

 さらっと告げられた言葉に、ネギの方がひっかった。

「ちょっ、ちょっと待ってください。誰ですって?」

「だから、おめぇの母ちゃんはアリカじゃねぇのか?」

「あ、あのっ、教えてください! そのアリカさんってどんな人だったんですか!?」

「女だったぞ」

「当たり前じゃないですかっ! 他に知っていることを教えてください!」

「他にって言われても……」

 むむむと記憶をさかのぼってネギに答える。

「わりぃ。覚えてねぇや」

「思い出してくださいよーっ!」

「まあ、いいじゃねぇか。こまけぇことは」

「こまかくなんかありませーん!」

 ネギがどれほど追求しようと、失われた記憶は戻ってこない。

 突然知らされた情報と、その先がとぎれている事実に、ネギはどんな表情を浮かべるべきか戸惑っている。

 代わりに千雨が問いかけた。

「それよりアンタ。私達がこっちに来た日に会う予定だったんじゃないのか? それがなんでこんな田舎にいるんだよ?」

「そ、そういや、タカミチが言ってたなぁ。……忘れちまってた」

 今になってその事実を思い出したのか、狼狽を見せる悟空。

「……まあ、会えたからいいじゃねぇか」

「よくねーよっ!」

 あまりの天然ぶりに、千雨は頭が痛くなってきた。

 

 

 

「まずは、どのぐらいの強さか見せてもらうとすっかな。オラの腹を思いっきり殴っていいぞ」

「で、でも……」

 唐突な申し出に戸惑いを見せるネギ。

「オラなら大丈夫だから、思いっきりやれ」

 そう告げても、もともと心配性なネギは逡巡を見せる。

(しょうがねぇ。こうなったら……)

 悟空がらしくもなく挑発を試みた。

「おい、こら! さっさときやがれカッペヤロー!」

「……え?」

「え……と、え……と、お前の母ちゃんはでべそだったぞ!」

 悪口を言い慣れていない悟空に、ボキャブラリーが足りないのは仕方のないことと言えよう。

「僕の母さんがでべそなはずありません!」

「じゃあ、うんこたれだ。やーい、やーい、うんこたれ! お前のとうちゃんもうんこたれだっ!」

「僕の父さんも母さんも、うんこたれなんかじゃありません!」

 腹に据えかねたのか、ネギは魔法の矢101本を自分の拳に装填する。

「桜華崩拳っ!」

 その威力は悟空の身体を貫通して、背後の湖水を巻き上げるほど強烈だった。

「い、いぢぢぢぢっ!」

 痛みを訴えながらも、ほとんどダメージを感じさせない悟空を見て、ネギは素直に賞賛する。

「む、無傷!? 凄い!」

「おー、痛ぇ。これだけの強さがあるなら、これからオラがおめぇを鍛えてやるよ」

 

 

 

「修行の前におめぇがどのぐらいの強さか教えとく。わかりやすく書くとだなぁ」

 小枝を手に、悟空が土の上に書き込んでいく。

 

 0.5 ネコ

 500 ネギ

 

「こうなる」

「ちょっと、待て! ネコと先生だけじゃ、比較になんねぇだろ!」

 あまりに大雑把なため、千雨は思わずツッコんでいた。

「悟空さんはどの程度なんですか?」

「オラか? オラは……このぐらいか」

 指折り数えて彼が書いた数値は、

 

 150000000 オラ

 

 彼が数えていたのは桁数だった。

『いっ、1億5000万っ!?』

 莫大な数値を目にして、ふたりは驚きの声をあげた。

「ほっ、本当ですか?」

「フリーザと戦った頃でこんなもんだから、今はもっと成長してるけどな」

 逆方向に否定されて、ネギは呆然と悟空の顔を見上げる。

「悟空さんは天才なんですね」

「オラはしょっちゅう頭が悪いって言われてるぞ」

「違いますよ。戦う素質があるってことです」

「いや〜、それもねぇだろ。オラはエリートじゃなく、下級戦士だって言われたしな」

「……そんなに強いのにですか?」

「素質のあるなしなんて関係あんのか? 強くなるには修行するしかねぇんだし、頑張ればなんとかなるんじゃねぇか?」

 その言葉を聞いてネギは理解する。悟空は『究極の努力の人』だと――。

「なあ、ネギ。おめぇが修行して完璧になったらさ、オラとちゃんと勝負しような!」

「あ、はい……」

「わくわくしねえか、ネギ! すっげぇ強いヤツと出会うなんてよ!」

「はいっ!」

「だよなーっ! もっと強くなるぞーっ!」

「はーいっ!」

「違う、違う。『オーッ!』って言うんだよ」

「オーッ!」

 

 

 

 ネギと悟空の物語をみなさんにお見せできるのは、ここまでです。

 これからも様々なトラブルが起きると思いますが、彼らはきっと乗り越えていくことでしょう。

 彼らには、ネギの開発力があるんだから。

 

 

 


THE−END
――おしまい――

 

 

 
あとがき:ラカンの『アホっぽさ』や『でたらめな強さ』から悟空を連想しました。単発ネタなので、難しいことは考えずに流してください(笑)。悟空の数値はWikipediaから。


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