『セイバー・イズ・フルチャージ(9)』
実は聖杯だったというイリヤは、すでに言峰に連れ去られてしまっていた。
遠坂は傷ついたものの命に別状はなく、今もグースカと眠っているはずだ。
例によってセイバーの魔力を回復した後、俺達は聖杯の出現場所となる柳洞寺へと向かった。
柳洞寺の境内で俺達を待つのは、当然ランサーである。
「言峰が聖杯の前で待っているぜ」
俺にかけられた言葉に答えたのはセイバーだった。
「何を言っているのです?」
「なに?」
「貴方を倒した後、わたしも一緒に言峰を倒しに行きます。なにもシロウ一人を向かわせて、危険にさらす必要はない」
……セイバーの気持ちは嬉しいのだが、セイバーだけに戦わせて、俺は後ろで守られているだけというのは、情けない気がする。
聖杯戦争の戦いは全てセイバー任せだったもんな。まるで、ヒモみたいだ。
「まあ、それはいいんだけどよ……」
ランサーがジト目でこちらを見る。
「この”話”で、最後まで残ったとして、俺に見せ場なんてあんのか?」
実に重要なことを口にした。
「たぶん、ないでしょう」
セイバーの返答は身も蓋もない。
「それでも、あの地下室で戦いの描写もなく退場するよりはマシでしょう? なにより、ギルガメッシュを倒せましたし」
「違いねぇ」
ランサーは実に楽しそうに笑った。
「おそらく、私が勝つでしょう。だからこそ、貴方は全力を尽くして戦えるはずです。私の誇りに賭けて、貴方の全てに応えましょう」
「そいつはいい」
ランサーは一度だけ穏やかな笑みを浮かべ、次の瞬間には全く違う表情となった。
生死を賭ける戦いに挑む、戦士の顔。
「シロウ、離れてください」
セイバーもまた、騎士の顔となっていた。
俺は素直に従って、境内の隅まで下がった。