99回 20115月の『人民日報』(2011710日)

 

20110505

●政治キャンペーン「群衆工作」のスタート

最近、中央宣伝部理論局が編集した『党の群衆工作を論ずる−重要論述ダイジェスト』が刊行された。その内容を広く党員幹部や末端の人々に学習させるため、『人民日報』では、昨日4日からその本の全文の連載が開始され、今日はその2回目。

 

共産党はずっと「群衆工作」を重視してきたのだが、今年の全人代以来、「群衆工作」をとりわけ強調している(「群衆」というのは、民衆とか大衆とか訳せるが、つまりは一般の人々のこと)。426日から連続4日間「新情勢下の群衆工作を立派に行うことを論ずる」と題する評論員文章が掲載されたのは、結局この本の刊行に関連してのものだった。そしてその後、本1冊まるごと掲載するという念の入れようで、「群衆工作」にかなりまじめに取り組もうとしているようだ。もちろん、共産党創立90周年を成功させるため、そして来年の第18回党大会を控えているので、なにかスローガン的に掲げているともとれる。しかし、党が群衆から離れていることで、さまざまな矛盾が深刻になっている現在、群衆とどう向き合うか、党はようやく政治キャンペーンとして「群衆工作」をかかげたということだろう。「群衆工作」は、来年の党大会に向け、かなり重要な政治キャンペーンになるだろう。いったい何をやるのか、できるのか。じっくり観察する価値はある。

 

20110506

●コスト高のインターネット管理

昨日5日の『人民日報』で設置が明らかにされた「国家インターネット情報弁公室」について、弁公室幹部がその職責を説明した記事が掲載された。

それによれば、弁公室の設置に至らせた軽視できない問題として、「ネット上の虚偽情報や悪意の宣伝、ポルノや低俗情報、ネット詐欺や賭博、違法ネット公報などの問題」を挙げた。

設立の目的については、「インターネットの建設、発展、管理に有利で、統一的な協調の強化や法律制度、行政の監督管理、業種の自律、技術保証、公衆の監督、社会教育を結合したインターネット管理システムの構築と完備やネット・バーチャル社会の管理水準の向上に有利」と説明した。

そして、この弁公室の設置を正当化するために、次のような点を説明した:中国のインターネット環境は、米国やイギリスのような先進国と同じ。国際的に少数の人は、基本的な事実を顧みず、二重基準をもって、中国のインターネット管理に対し勝手気ままに論じ、それとなく中国に恥をかかせ、全く明らかに下心があって、(しかしそれらは)成り立たない。

 

「国家インターネット情報弁公室」は、インターネットを使った共産党の一党支配体制を揺るがす事態が深刻であると共産党が認識して、強力に管理するために慌てて設置した機関だ。弁公室幹部は、いろいろ「軽視できない問題」を挙げている。しかし、こんな問題は今に始まったことではなく、ずいぶん前からあることだ。そのため、この時期に設置されたのは、間違いなく「中国版ジャスミン革命」集会の呼びかけにインターネットが利用されていることがきっかけである。しかし、弁公室幹部はそんなことは微塵にも出していない。そんな弱みを明るみにすることはできない。

そのため、弁公室設置の最大かつ唯一の目的は「管理」である。

それにしてもおもしろいのは、こうした国民のインターネット利用を管理する機関を設置するために、それが国際水準に合致していることだと、わざわざ説明していることである。それは、自分たちがやっている管理、規制が、理にかなっていない、おかしなことだと自ら認めているに等しい。

同時に「インターネットの持続的発展のために良好な環境を作ろう」と題する評論員文章も掲載されているが、当然弁公室設置に関連したものである。

国家機関が設置されたことで、インターネットに対する管理、規制は合法化され、さらに厳しくなるだろう。ただし、大多数の人はこの管理、規制に引っかかるようなインターネットの使い方をしているわけではない。少数の人による反体制活動に対するための管理、規制の強化である。しかし、そんな少数を恐ろしいと共産党は認識しているわけで、一党支配体制を守るのは、本当にコストがかかる。

 

20110509

●法の厳密な執行は難しい

 今日9日から始まる第3回米中戦略・経済対話の対する事前論評や、傳小強「反テロ最前線国家の観点から問題を考える」と題する米国のビンラディン殺害に対する論評、「野菜価格の変動は流通が引き起こす災いか」と題する山東省から北京市に流通する野菜の価格の変動と輸送コストの関係を分析した記事などが掲載されている。

その中で、佑思「食品安全事件がどうして多発するのか」と題する文章を取り上げる。それによれば、結局は法治に頼るしかない。しかし、監督管理の責任が農業部門にあるのか、品質検査部門にあるのかを法規が明確に規定していない。法規は厳密でも、法規執行が厳格でないので、法規が有する(当事者を)震え上がらせる作用を果たしていない。編制法制のネットワークと同時に、世論のネットワークの作用を十分に発揮しなければならない。

 

法は整備されていても、法の執行がうまくいっていないので、法が食品会社への抑止にはなっていない。これは、食品安全に限らず、現在の中国の法体制の普遍的な問題といえる。法の執行の厳格さというのは、政治システムの問題でもあるし、国民のモラルの問題でもある。それを指摘するのは簡単だが、実行は難しい。まあ、とりあえず、見せしめでも何でもいいから、何が何でも厳しく執行して見ればいい。それで食品安全が安定的に守られるようになればそれでよし。その場限りで、また発生するようならば、もっと構造的な問題だと認識できるし。

 

20110510

●深セン市政府が世論に圧され通知を撤回

深セン市住房和建設局(住建局)が、4月末に発表した「建築業種の農民工の賃金決算支払い工作を立派に行い、(ユニバーシアード)大会期間の社会調和的安定を共同維持することに関する通知」を撤回した。

通知の内容は、今年8月に深セン市で開かれるユニバーシアード大会期間中、いかなる理由による農民工の賃金飲み払いを禁止し、農民工の群体性上訪(集団的陳情)による賃金請求を禁止する。違反した企業には3カ月間、市のプロジェクト受注を禁止するレッドカードを与える。違反した農民工には刑事責任を含む厳格な処置を課す。というもの。

この通知に対し、世論の厳しい反応が見られた。深セン市住建局に、農民工の集団的陳情による賃金請求を制止するいかなる権利があるのか。まずやるべきことは企業の賃金未払いをなくすことだろう。

これに対し、昨日9日、深セン市住建局は、「言葉遣いに誤りがあった」「公文書の送付手順と審査チェックが厳しくなかった」ことを認めた。そして社会の関心と世論の監督に感謝を示し、広範な農民工にお詫びを示し、当該局の農民工の合法的権益維持と法に基づく合理的な訴えを反映するという原則を明らかにし、当通知の修正を行い、別途公布するとした。

 

深セン市住建局の対応について、2つの点に注目した。1つは、ユニバーシアード大会期間中の社会的安定を維持するために、こうした通知を出したことを公表していたことである。もう1つは、世論がこの通知を厳しく非難したことを明らかにし、当局が通知を撤回したことである。

ホスト側が、国際的な関心が集まる中で表面的な安定を装わなければならないためにいろんな規制を発表することはよくあることで、さほど驚くことではない。しかし、それが今世間で注目される農民工の未払い賃金の請求権を侵害する策を打った。KYな深セン市といったところだろう。その結果が、通知の撤回と市民への謝罪となったのだから、ある意味みっともない話である。

こんな話がキチンと報道されたこと自体をおもしろいと思ったが、私はこの一連の出来事を「世論の勝利」などと称賛はしない。確かに、市民の意見が市の政策を動かしたと言えるかもしれない。しかし、深セン市政府が、過去のほかの政府と同様にこんな通知を公表しなければよかっただけのことである。政治改革でいろんなことを打ち出してきた深セン市だけに公表したのかもしれない。しかし、過去の政治改革は結局どれも失敗に終わってきた。そもそも深セン市政府の能力は低いのかもしれない。
 なお、この通知については、昨日9日の『人民日報』が、疑問視する評論を掲載していた。

 

20110512

●米中間に16もの対話枠組みを設置

910日に開かれた第3回米中戦略・経済対話の結果が大きく報道された。「2011年米中戦略・経済対話の枠組みでの戦略対話の成果一覧」(48項目の成果)、締結された「米中の経済の強く、持続可能な、バランスのとれた成長と経済協力に関する全面的な枠組み」の全文、さらに同行記者の論評も掲載された。

 

「成果一覧」では、冒頭から合意された16の分野での対話枠組みが挙げられている点が目立つ。その中で最初に挙げられたのは、馬暁天副参謀長が出席し、開催された初の「戦略安全対話」である。次に、年内に初開催で合意した「アジア太平洋事務協議」である。

 『人民日報』では、事実関係を伝える報道のみだった。しかし、昨日11日の上海紙『東方早報』は、この第3回対話を、形式を整えることに重点が置かれ、両国間には対立点が多いというトーンで伝えている。確かに16もの対話枠組みの設置は形式重視の現れである。それだけ米中間には合意できる点よりも、むしろ対立点が多いということだろう。人権問題などもそうである。

その中で注目は、安全保障問題を話し合う初開催の「戦略安全対話」、そして「アジア太平洋事務協議」の設置だ。この2つの対話枠組みを中国が重視するのは、中国にとって昨年来の米国のアジア地域への関与拡大が最大のイシューであることの現れである。こうした安全保障問題について、この後『人民日報』がどう報道するか注目したい。

 

20110513

●対日関係改善のサイン

日本関連で、李源潮が日本の経団連訪問団と会見したことと、中日友好人士として共産党が持ち上げている中田慶雄氏が亡くなったことを伝えた。

 

指導者が日本の経団連訪問団と会見する記事はいつも掲載されている。この後中央政治局常務委員クラスとの会見があるのだろう。それ以上に中日友好人士の死去を報道したのが目に付いた。日本の新聞も、5月下旬に訪日する温家宝が、地震被災地の宮城県女川の訪問を検討していることを伝えている。

 

これらの報道ぶりを見ると、どうやら中国の対日関係改善の動きを本格化させるようだ。

 

20110516

●シンガポールはいいお手本

 丁剛「忘れてしまった背後の迷信と優越感」が掲載された。シンガポールの総選挙の結果を受け、リー・クアンユーが引退宣言をしたことに関する西側報道に対する評論である。シンガポールの経済発展が現行の政治体制によるものであることを「忘れていないか」と批判する。

西側報道の特徴として、次の2点を上げる。@明示的な点として、シンガポールの政治体制は「本当の民主体制」ではないので、いろんな問題が起きている、A暗示的な点として、西側の民主が真の民主である。

今回の総選挙に見る変化として、@人民行動党は、党内部で新人を登用、A若い選挙民は、国会に反対の声を反映させることを希望しつつも、政権交代は望んでいない。
 シンガポールに問題がないわけではないが、一般市民の家賃や外国人労働力の増加への不満は、一般市民の生活が豊かになったことからそうした要求が高まったのであり、政治体制が原因ではない。

 

経済発展を最優先し、政治的な自由を制限する権威主義体制、開発独裁体制のシンガポールの政治体制に中国はこれまでも強い関心を示してきた。そのため、今回のシンガポールの総選挙、リー・クアンユーの引退宣言を、中国がどう伝えるかに興味を持っていた。

丁剛の評論は必ずしもシンガポールの総選挙の分析にはなっていない。なぜ87議席中、野党が史上初の6議席を獲得したのか。なぜリー・クアンユーがこのタイミングで引退宣言をしたのか。その背景には政治体制は関係ないのか。もう少し分析があってもいいと思うが、それが全くない。「シンガポール」を「中国」と置き換えてもいいような内容で、この評論は中国の政治体制を擁護する文章になっている。

 

20110517

●執政能力の強化

 共産党創立90周年関連の記事が続く。1面では、毛沢東が実権を握ったといわれる遵義会議の特集が掲載されている。しかし、今日的な意義からは、17面に掲載された「永遠に執政の試練に直面している」と題する特集に注目。執政、つまり政権運営が、共産党の一党支配を見る上で、歴史的にどう位置づけられてきたのだろうか、という関心で読んだ。

建国以来の党の二大歴史任務は、@党の先進性の維持、A党の執政能力の強化。

中華人民共和国成立を目前にした1949年の党7期二中全会の決定にさかのぼるものの、そこから一気に党の執政能力強化が提起された2002年の第16回党大会、関連の決議が採択された2004年の第164中全会に飛ぶ。

党の執政党の地位というものは、いったん手にしたらその後絶対に変わらない、一時の苦労をすれば後は楽になるというものではない。「困難にあって苦しみ悩む意識と危機意識が執政能力強化建設の主たる動機である」という。

20098月に国家行政学院に国家級緊急対応養成基地を設置したのはその一例。SARS、食品安全の一連のことが公共安全と公共サービスに影響を与えた事件、貴州省瓮安事件、甘粛省隴南事件などの一連の群体性事件が発生した後、群体性事件と突発事件への緊急対応管理が執政能力建設の重要課題となった。

 

期待はずれの特集だった。党の執政について、建国直後の統一戦線が華やかだった頃、文革の頃、改革・開放がスタートした頃、64天安門事件の前後、どういうスタンスだったのかという歴史的考察がなされるのかと期待した。しかし、結局は2002年の胡錦濤政権の執政能力強化に関する取り組みを総括するだけの特集だった。このことは、まさに共産党創立90周年が現政権の成果の宣伝に利用されるイベントに過ぎないということを再確認させる。それはそれとして、この特集から、胡錦濤政権が執政について何にウエートを置いているかを理解することができる。

執政党の地位を維持するためには、常に党自身も世の中の変化に対応していかなければならないというある意味「自転車操業」的に、常に追い込まれているという意識を持っていること。もう1つは、それがすべてではないといいながらも重要課題として群体性事件や突発性事件への対応を取り上げていることである。とりわけ貴州省瓮安事件や甘粛省隴南事件が胡錦濤政権に大きなインパクトを与えていることを知ることができる。「中国版ジャスミン革命」集会の動きも気になるだろう。

昨日のシンガポールの総選挙への評論同様、一党支配を正当化するために胡錦濤政権も必死だということ。そこには90周年のお祝いムードは感じられない。

 

20110518

●上海市の医療制度改革をめぐる報道ギャップ

上海市が、新しい医療制度改革案を発表し、2012年末までに基本的に医療保障制度がすべての市民をカバーするとした。改革案の主な内容は、公立医院の経営改革、区域医療連合体の実施、家庭への医師派遣制度、入院医師の制度化・研修制度などである。

この記事は4面で比較的大きく扱われ、医療保障制度への人々の高い関心に政府が応えようとしていることを宣伝している。しかし、どうも昨夜18日夜の上海のテレビの伝え方とトーンと違う。

改革案を伝えた地元上海のテレビはその大半を市民の多くが疑問を持っている区域医療連合体のことに費やした。今朝の地元紙『東方早報』も同様に区域医療連合体に大きなスペースを割いている。

上海市では医療保障制度に加入していれば、医療保険カードをもらい、それをもってどこの病院に行っても診察を受けることができる。改革では、これにさらに任意の加入による区域医療連合体制度を新たに設置する。

区域医療連合体は、その区域の医療機関を有機的に結びつけようというもの。区域内の医療機関を、住まいの身近にある「基層」(末端)の医療機関を1級、その次の規模の医療機関を2級、専門的な大病院を3級に分類し、病気も程度に応じてかかる医療機関を決めていくという日本でも見られる制度。

上海市はなぜ区域医療連合体制度を設置したのか。それは、医療保険カードを持つ人が、どんな症状でも有名な病院や有名医師にかかろうとして、大病院に集中し、その結果順番を待つのが大変だったり、多額の医療費が必要になったり、賄賂が横行したりと弊害が多い。こうした事態を解消するために、症状に応じて区域内の医療機関に患者を分散させようと考えたのだ。これまで通り、いきなり3級の大病院に行ってもいいのだが、区域医療連合体に加入すれば、待たずに優先的に診察してもらうことができ、連合体内でカルテも共通化し、専門の医療機関を紹介、予約してもらうことができるなど便利な点が多いと上海市は説明する。

一見良さそうな制度だが、510日に市が発表した事前調査では、7割の人が任意加入の区域医療連合体制度にはしばらくは加入しないという。その理由は、基層の医療機関の衛生サービスや医療技術の水準が低いと考えているからだという。

 

今回の上海市の医療制度改革案に対する市民の最大の関心事は区域医療連合体制度にあるようだ。ここには中国の医療制度の問題点が現れている。つまり、大病院に患者が集まることが問題なのではなく、末端の医療機関のレベルが低いことが問題なのである。そのため、市がやるべきことは、大病院の患者を分散することではなく、末端医療機関の質を高め、患者を末端の医療機関に集めることである。その根本的な解決策は区域医療連合制度ではない

しかし、この記事を取り上げたのは、医療制度の是非を語るためではない。『人民日報』の報道ぶりが、市民の関心と全くかけ離れていることにあきれてしまったからだ。『人民日報』の記事だけを見るとなんとすばらしい上海の改革案と思ってしまっただろう。しかし幸か不幸か地元の報道を見たため、報道ぶりの違いに気がついてしまった。やはり『人民日報』に掲載される地方の取り組みを称賛する記事には注意しなければ、現実を見誤ってしまう。

 

20110520-1

●総参謀長の訪米

 米国訪問中の陳炳徳総参謀長が国務長官、国防長官とそれぞれ会見した。そして、国防大学での講演内容が比較的詳しく伝えられている。

新情勢下で米中軍事関係が備えるべき基本的な特性:(1)お互いの核心的利益と重大な関心事を尊重し、それらに関心をもち、自身の意志を相手方に押しつけない、(2)戦略の相互信頼の増進、対話チャネルの強化によって、お互い猜疑心を持たない、(3)共同利益を内在的な動力とし、一方的な競争の優勢を謀らない。

「台湾問題は中国の主権と領土に関わることで、中国の核心的利益である」

 

中国のやることにいちいち文句を言うな、という米国への要求と受け取れる。昨年の米国の台湾への武器輸出が尾を引いているようで、台湾問題が「核心的利益」として、武器輸出をしないよう強く要請したようだ。

 

20110520-2

●ダライ・ラマ批判なら報道すればいいのに

 523日にチベットが中国共産党によって「解放」されて60周年を迎えるということで、チベット自治区主席が北京で記者会見を行った。

この60年で、チベットがどれだけ経済的に豊かになったか。共産党がチベットの文化をいかに尊重し、保護してきたか。共産党のチベット統治がいかに正当なものか。共産党はダライ・ラマ14世との対話の門は開いているが、チベット独立を放棄しないダライ・ラマ側に問題があること。何でも話し合うことができることなどを説明した。

他方、北京の『新京報』が、次のようなチベット自治区主席の記者会見での発言を掲載している。

「彼(ダライ・ラマ)は海外で政府を選挙するよう言っているが、それは何の政府か」

「国際的にどの国が『亡命国家』がチベット人民の利益を代表していることを承認したことがあるか」

「彼がどんな人を選挙するかは関知しないし、そのことは接触、話し合いに何も影響しない」

「(ダライ・ラマと中央政府の)話し合いはダライ・ラマ本人とその周辺の人の前途の問題を話し合うだけで、何か『亡命政府』の事情を話し合うのではなく、彼にはわれわれと何にも話し合う資格はない」。

 

これらの発言は、『人民日報』には掲載されていない。しかし、国務院新聞弁公室のホームページでは、これらを含む全発言が公表されている。ここにも『人民日報』と他のメディアとのギャップが見られる。

それにしても、共産党のチベット統治の正当性を宣伝したいのならば、むしろ『人民日報』は『新京報』が掲載した説明を掲載した方が効果的ではないかと思う。おそらく外国人メディアからの質問への回答で、確かにちょっと感情的な説明のようにも思えるが、その善し悪しは別として、ダライ・ラマ14世を非難してきた共産党の主張としては適当なので、もう少し柔軟な報道姿勢があってもいいと思うのだが。しかし、解放60周年のという区切りの年を迎えるに当たっての記者会見なので、『人民日報』でこの部分を伝えたら、523日を控え、誰かを刺激してしまい、何か大きな騒ぎが起きては困ると考えたのかもしれない。でも他のメディアは伝えているのだからなあ。いちいちそんなことを気にしながら記事内容を取捨選択しなければならないというのは、一党支配体制の維持にはコストがかかる。

 

20110521

●習近平の慎重な発言

習近平がチュニジア外相と会見した。ジャスミン革命と呼ばれるチュニジアでの政変は、「中国版チュニジア革命」集会の呼びかけという大きな影響を中国に与えた。そのため、習近平の発言に注目した。

習近平は「中国側は、人民の意志と選択を尊重し、チュニジアの政府と人民が能力、知恵、方法を有し、一つの本国の国情に適合した政治体制と発展の道を探し出し、社会的安定と経済の繁栄を実現することを信じる」と述べた。

 

上記のジャスミン革命に対する発言の特徴は2つる。1つはチュニジア向けで、他の国で起きた結果は尊重するという点。もう1つは、中国向けで、政治体制と発展の方向性は国情に適してなければならないという点と社会の安定と経済発展が重要だという点である。習近平としては公表できるギリギリの見解だ。非常にオーソドックスな発言で、さすが慎重な習近平といったところだ。

 

20110525

64日警戒シフトの紙面

 4日ぶりに見て、1つの文章のタイトルが飛び込んできた。それは中紀聞「党の政治規律をしっかりと維持しよう」。中紀聞は「党中央規律委員会の文章」ぐらいの意味だろう。その内容は以下のとおり。

まず党の政治規律について、定義を確認する。「党の政治原則、政治方向、政治路線を維持し、党の組織と党員の政治言論、政治行動、政治立場を規範化する行為規則であり、党の最も重要な規律であり、党のすべての規律の基礎である」。

次にこの文章を出した背景説明がある。「党の政治規律を維持することは、厳しい政治闘争であるが、現在一部の党員、幹部の規律概念が希薄で、政治規律に違反する問題がたびたび発生している」。

そして、党員、幹部としてどうするか、そして「決して許されない」ことが列挙される。

 (1)政治規律の意識をさらに強化する

 (2)政治規律の厳格性をしっかり維持する:@群衆に党の理論や路線、方針、政策に反する意見を広めてはいけない、A中央の決定に反する言論を公開、発表していけない、B中央の決定、配置に対し、表向き賛同して、裏で違反してはいけない、C政治的ウワサや、党や国家のイメージをゆがめる言論を作り上げたり、広めてはいけない、Dいかなる方法でも、党や国家の秘密を暴露してはならない、E各種の違法組織や違法活動に参加していけない。

 (3)政治規律を維持する職責をしっかり実行する

 

久しぶりに見る政治について共産党が真正面から論じた文章だ。タイトルもさることながら、党の政治規律の維持が「厳しい政治闘争」であるとの指摘は、共産党が現在、一党支配が揺るがされるような政治的な危機感を有していることをうかがわせる。

それではなぜこの時期にこのような厳しい調子の文章が掲載されたのか。64日が近づいているからだろう。1989年の六四天安門事件が発生した日だ。昨年の劉暁波のノーベル平和賞受賞、今年の「中国版ジャスミン革命集会」の呼びかけと、共産党批判につながる動きが見られ、共産党は警戒を続けており、64日にも何か起こらないか、ビビっているのだろう。

それは他の記事からもうかがわれる。1面に胡錦濤が510日に第12期北京大学大学院生教育支持団メンバーからの手紙に返事を送り、受け取ったメンバーが大喜びしたという最高指導者と大学生の間の美談が掲載されている。また6面には清華大学が深セン経済特区に設置している深セン清華大学研究院が多くの成果を挙げているという「特区成果の創新の道」と題する記事も掲載されている。この時期だからこそ深読みしてしまうのだが、北京大学と清華大学、そしてその学生に媚びている記事のように思える。もちろん、党中央の両校への関心を示すことで、両大学で64日に反体制行動が起きないよう、プレッシャーをかけているということだ。

 

20110525-2

●上海テレビが中央よりも先に「金正日訪中」を伝えた

午後9時半(日本時間の午後10時半)からの上海テレビのニュース番組を見ていたら、午後1015分過ぎに、金正日が北京に入ったというニュースが、車列が釣魚台に入って行く映像と共に流れた。24日から中国を訪問と紹介した。

 

金正日は今日の午後5時ごろから胡錦濤と会談したとのことなので、中央テレビの午後7時のメインニュース「新聞聯播」では、間に合わないので、報道されていない。このブログを書いている午後10時半現在、ネットサイト人民網でも出ていない。

大都市上海とはいえ地方テレビ局のニュースが、中央に先がけて報道した。こんなことがあるのかと、驚いている。中央宣伝部はOKしているのだろうなあ。でなければ、上海の独断か。これもまた問題。

その後、午後11時(日本時間午前0時)からの上海の東方衛星テレビのニュースでも金正日が北京に入ったニュースが映像つきで流れた。揚州、南京に立ち寄ったことも伝えた。東方衛星テレビは、中国全土で視聴できる。金正日の訪中報道は、帰途について、中朝国境を渡って、初めて中朝両国が公式報道することになっている。一連の上海のテレビ局の早い報道は、やっぱり異常。

 

20110506

●大学生の就職にも関心を払う

国務院常務会議が開かれ、大学卒業生の就業工作をさらに立派に行うことを指示した。

 

まもなく大学生の卒業シーズンなので、まだ就職できていない学生を政府として心配することは、タイミング的にはおかしいわけではない。学生の就職難は相変わらずだからだ。しかし、64日を控えているという時期が時期だけに、党、国務院が大学生に強い関心を寄せていることを示すパフォーマンスに見えてしまう。

 

「世界博覧会の廉潔、アジア大会の廉潔総括大会」というのが、上海で開かれ、賀国強、汪洋、兪正声が出席した。胡錦濤と温家宝も重要指示を発表した。

 

胡錦濤と温家宝が重要指示を出しているので、そんな軽い会議ではない。意図は分からないが、今ごろになって上海世界博覧会と広州アジア大会を持ち出して、汚職問題を議論する会議を開くのも不自然だし、汪洋と兪正声が上海でいっしょの席に並んでいるというのも何となくバランスがとりづらいみたいでこれも不自然に見える。

 

1面に、党中央軍委が提唱する当代革命軍人の核心的価値観の育成についての総述記事が掲載されている。

「当代革命軍人の核心的価値観を深く持続的に育成することは、党中央と中央軍事委、胡主席の新世紀、新段階の軍隊思想政治建設の時代的課題を解決する深い思考を体現し、現実的な重大な課題であり、長期的な戦略的任務である」

 

胡錦濤の軍に対する貢献を宣伝する記事。「当代革命軍人の核心的価値観」という言葉が目を引いた。胡錦濤が提唱した言葉として、印象づけようとしている感じだ

 

20110527-1

●金正日訪中

金正日北朝鮮労働党総書記が、52026日に非公式に来訪したことが公式に報道された。

25日に胡錦濤が会談した。私が関心をもった言及をあげてみる。

「金正日総書記は昨年以来3度の訪中で、何度も若い世代が中朝友好の順番を立派に引き継がなければならないと強調してきた」

「・・・2.党を治め、国を治める経験交流を強化し、それぞれの経済社会発展を促進させる・・・、4.文化、教育、体育などの領域での交流、特に青少年の交流を深め、中朝友好を世代で伝えていく」

朝鮮半島情勢について、「関係国が引き続き、朝鮮半島の平和、安定、非核化の旗印を高く掲げ、冷静抑制を維持し、柔軟性を明確にし、障害となる要素を取り除き、相互の関係を改善し、半島の平和、安定、発展の実現のために積極的な努力をすることを主張した」。金正日も「できるだけ早く6カ国協議を再開させ、南北関係の改善に対してもずっと誠意を有していると主張した」

 

金正日訪中については、中国国外ですでにいろいろ伝えられているが、ここでは中国の公式報道で解釈をする。

両国関係について、胡錦濤が「党を治め、国を治める経験交流を強化し」と述べたことについては、中国の改革・開放の経験を少し勉強しろよと言いたげだ。

北朝鮮の後継者承認については、前回の昨年2回目の訪問時に比べれば、中国側の承認をにおわす表現は少ない。金正日が中国に承認しろとずっと迫っていることを示唆する発言を掲載しているのはおもしろい。また、胡錦濤は中朝友好を次の世代に伝えていくことを、文化や教育、体育の領域の交流、青少年交流の強化の次元で語っており、後継者承認は明確にしないぞという姿勢を示しているようだ。

朝鮮半島情勢については、金正日が6カ国協議の早期再開に同意しており、前回は他国に求めていた「誠意」を自分はずっと有していると述べたことを掲載しているので、中国側は成果ありと見ているのではないか。

東北、南京の視察には、私が注目していた常務委員クラスの随行はなかったようで、今回の中国側の対応は、少なくとも前回より低調だった感がある。

ところで、中央に先がけた地方メディアの報道は、昨夜26日夜の上海よりも前に、21日に深センのテレビ局も流していたようだ。そうすると、中央だけが「まじめ」に北朝鮮との約束を守って、すべてが終わってから公式報道することが滑稽に思えてしまう。

 

20110527-2

●値上げへの政府介入を問題視

馬紅漫による「値上げへの関与には市場要素を注入しなければならない」との文章が掲載されている。

日常生活用品の値上げを国家発展改革委員会の行政指導によりストップさせられてきた業界だが、原材料価格の値上がりを吸収することに限界が来て、今回行政指導を無視して、ユニリーバが値上げ実施を明らかにしたことが論議を呼んでいる。これについて、企業の価格設定に国家発展改革委員会が介入することはいかがなものかということが議論の焦点で、この文章もこれに関連するもの。

 

20110531

●六四を前に「社会管理」

中央政治局会議が開かれ、社会管理の強化、創新問題が討論された。

今年219日に胡錦濤が中央党校で「社会管理の科学化の水準を高め、中国の特色を持つ社会管理システムを構築しよう」という重要講話を行ってから、一気に政治マターとなった「社会管理」。会議では、末端レベルの社会問題にキチンと対応していこうということを再確認したわけだが、党中央がいかに末端社会のことに関心を寄せているかを社会に対し宣伝し、再び「社会管理」を政治マターとして浮上させようという意図もあるだろう。それだけ末端社会の問題が深刻であることの裏返しだ。しかし、中央党校での重要講話の内容を超えるものではない。
 社会管理というのは、結局は社会を「管理」することなので、一党支配の強化にすぎない。まもなく「六四」だし、いま内モンゴル自治区でデモが起きているので、一般的な話ではなく、党中央としての対応を協議してきた結果、社会「管理」を強化することになったということを表明したという至極個別の議題だったのかもしれない。