97回 20113月の『人民日報』(201178日)

 

20110301

●安定第一

まもなく、全人代と全国政協(両会)の開幕だが、それに関連した評論員による「両会代表委員に寄せる言葉 経済社会発展をさらに調和させよう」と題する文章が、掲載されている。その内容は大きく2点ある。

(1)3つの難関は、「@低水準、A全面的でない、Bバランスがとれていない」。それを克服するには、「全面的な小康社会の建設」が必要。そのポイントは、@社会民生の改善、A公平正義の追求。

(2)「安定は発展の前提である。安定という環境の中でこそ、発展を推進できるし、民生を改善できる。社会の安定がなければ、発展はチャンスを取り逃がし、障害のために停滞する。ここから言えることは、中国の発展のために安定した環境を勝ち取ろう、つまり民衆の明日のためにすばらしい未来を作り上げよう。『祖国の発展強大がなければ、われわれの平和的な帰国はなかった』最近リビアから帰国した同胞が感慨深く語ったことは、発展、安定、人民の切実な利益の関係を説明した」

 

(1)は、両会の最大の議題、第125カ年計画のポイントがこの点にあることを周知している。これは広く言われていること。

注目は、(2)だろう。「安定」をことさらに強調している。このことは、最近の集会騒ぎを念頭に置いたものだろう。224日から28日までの『人民日報』を未チェックなので、「初めて」とは言い切れないが、官報が明確に集会騒ぎに対し立場を表明したものといえる。リビア情勢も引き合いにしており、「安定」、つまり引き締めがいっそう強化されるだろう。

その点で、もう1つ興味深いのは、昨日228日から評論員による「マルクス主義学習型政党建設を論ずる」という文章が連載されている。この時期「マルクス主義」なる保守的なタイトルの文章の連載が、昨日、1面でスタートしていることは極めて政治的。集会騒ぎ関連の引き締め基調か、それとも両会を前にした権力闘争か。

 

20110303

国務院常務会議で個人所得税法改正案が審議されたこと、楊潔チ外交部長の「重要な戦略的チャンスを生かして、外交工作の新局面を開拓しよう」と題する報告の要旨が掲載されていたことぐらい。

 

20110304

●「幸福」がキーワード

1面の下の方に次のリードが踊った「聞け、中国が奮い立って前進する足音を」。どんな中国か。巨大な中国、幸福な中国、開放された中国。

「両会特刊」には、唐宋「幸福中国のためにがんばろう」というコラムと、「発展は人民のために」という特集が目についた。前者は、「幸福中国の建設で、大衆が最も発言権を有している」「幸福の最大公約数を追求すること。・・・住宅、医療、就業、教育、養老など民生問題」とある。後者では、発展のキーワードとして、@「幸福感」、A「恵民生」(豊かな民生)、B「弁実事」(実行する)を挙げた。

 

共産党が最近強調するのが「幸福」というワード。得意のスローガン作戦だが、要は民生問題を解決して、人々の支持を得ようというもの。人々も「幸福」と言えば「発展」とは違い、そうだな、大事だなあと容易に受け入れられる言葉だ。そこにイデオロギー性は全くない。その分、共産党はちゃんと「幸福感」を人々に与えることができなければ、そっぽを向かれてしまうという、人々に近づきすぎたスローガンを選択してしまったといえる。そこまで追い込まれているということも言えるだろう。

 

呉建民の「中東が発展こそ固い道理であるを証明した」という評論も掲載されている。呉は元外交高官で、当局の外交政策の「スポークスマン」でもある。ケ小平が提唱した「発展こそ固い道理である」を実践した中国は大きく経済が発展したが、中東に経済発展はなかったので、今回の騒ぎが起きたということ。中東の騒ぎが民主化の流れの一環という見方にも触れるが、深入りはしていない。

 

20110305

●国防費予算の伸び2ケタに復帰

注目の国防費が、予想通り2年ぶりに2ケタの伸びに戻った。

全人代開幕の前日4日、スポークスマンの李肇星の記者会見で、全人代のポイントが示された。

昨年2009年に22年ぶりに1ケタの伸びにとどまった国防費予算は、約6011億元、対前年実績比で12.7%増(676億元増)となった。予算全体に占める割合は6%で、ここ数年下降傾向にあるという。

李の説明では、中国の国防費は世界的にかなり少ない。限定的な軍事力は国家の独立、主権、領土保全を維持するためであり、いかなる国家に対しても威嚇するものではない。中国の国防費は透明で、いわゆる隠れた軍事費問題は存在しない。

このほか、戸籍制度改革に言及。農民工は県及び鎮で戸籍問題を解決し、将来は中級都市まで拡大する。

2011年のCPIの見通しのコントロール目標を4%前後とする。これは価格変動の趨勢を反映させ、政府が価格の速すぎる上昇を抑える決心を示している。

 

1年で2ケタの伸びが復活したことから、むしろ昨年の国防費予算の伸びが1ケタになったこと自体が奇妙に思えてくる。2ケタ伸びが、実態を反映しているだろう。よく「透明で、隠れた軍事費はない」などと言えたものだと思うが、彼らの国防費の基準から言えば、「透明」であるし、「隠れた軍事費」はないというのは正確で、われわれの計上項目とは違うのだから、いくら批判してもしようがない。

軍にとっては、昨年国防費予算が1ケタの伸びに抑えられたことは不満だったに違いない。そのため今年2ケタの伸びを復活させることが絶対的な要請であっただろう。昨年の軍事的な拡張傾向は、共産党で共有されている目標ではあるだろうが、その中で軍が積極的な役割を果たし、予算拡大のためのアピールを行ったと考えるべきだろう。胡錦濤はそれを支持したのか、それとも圧力に屈しただけなのかは分からないが、応えたということだ。その判断の意味は極めて大きい。それは結果的に軍の影響力を高めることになるだろう。そう考えると、去年どうして1ケタだったのかというのは本当に謎である。

 

20110306

●安定を求める署名論文あり

北京の党機関紙『北京日報』と上海の党機関紙『解放日報』が、それぞれ興味深い署名文章を掲載した。

『北京日報』は、任思文「安定維持は一人一人から始めよう−社会の調和安定の自覚的維持を再び語る」を掲載した。そこには次のようにある。

「国内外の一部の別に下心を持った者が各種の手段を利用して『街頭政治』を挑発する本質をはっきりさせなければならない。・・・目的は中央、北アフリカの混乱状況を中国に持ち込み、中国を混乱に陥れようというものだ。彼らは民主を旗印にしているが、実際には人心を惑わし、社会秩序を破壊する悪事をおこなっている。安定があるところにはどこにでも、彼らは扇動的なデマを流す。つけいる隙のあるところにはどこにでも、動乱を挑発する手を伸ばしてくる。われわれは、このような下心のある者に対し、絶えず警戒を維持し、頭脳を明晰にし、目を磨き、陰謀を認識し破壊し、彼らの企みを絶対に実現させてはならない」

『解放日報』は、之信「安定は人心の向かうところ」を掲載した。内容は『北京日報』の文章とだいたい同じだ。

 

36日日曜日に掲載されたものなので、いわゆる「中国版ジャスミン革命」集会の呼びかけへの当局の反応である。『北京日報』は「再び語る」とあるので、すでに同様の文章は出ていたのだろう。

地方機関紙で、こうした当局の直接的な反応が出ていたことを知らなかった。その内容から、この集会騒ぎに対し、当局が極めて厳しい認識を示していることを伺わせる証拠と言えるだろう。特に『北京日報』が「動乱」という言葉で非難していることは、驚きである。首都北京であるし、全人代開催中であるし、なんとしても混乱を避けなければならないという強い意志を感じることができる。

 

20110310

●江沢民は依然序列第2

呉階平という人が亡くなり、胡錦濤をはじめ指導者が告別式に参列した。この人の生前にお見舞いなどに行った指導者の名前が紹介されているが、胡錦濤の次に江沢民の名前がある。このことは、江沢民が党内序列では依然として第2位にいることを示している。姿こそ見せないが、健在といったところ。

最近、著名な科学者が次々と亡くなっていて、告別式の映像が流れているが、過去の指導者の姿が流れて興味深い。たとえば、李嵐清や羅幹は年をとったなあと印象を受けた。そんな中、ひときわ元気なのが曾慶紅だ。はつらつとして足どりで、遺族を慰問する姿は、まだまだやるぞということをアピールしているよう見えた。その影響力は人事ですでに見られる。

 

相変わらず、つまらない紙面だが、「両会特刊」で、目についたリードがあった。

「国力上昇は中国の自信を高める」

「身近に感じる中国の実力

「意外な退去、意外でない壮挙」

謙虚でなければならないと言いながらも、こうしたリードで掲載される文章は、経済的な繁栄、国際社会での影響力の拡大をことさらに宣伝するものだ。共産党にとっての唯一のよりどころはまさにここにあり、民衆もこのことで大きな自信をもっているわけで、謙虚であれと言っても、謙虚でいられるわけはない。

「近代的なメディアの運用は国のイメージ建設を強化する」という地方の宣伝部長の文章も掲載されていた。いわゆるソフトパワーの強化の意義を論じたもので、これまた中国が力を入れている点だ。

 

20110311

●呉邦国の「内乱」発言

なんと言っても、呉邦国の全人代常務委員会活動報告での発言を取り上げなければならないだろう。注目の発言は次の2つ。

「中国の特色を持つ社会主義の道を堅持する上で、最も重要なことは正確な政治方向であり、国家の根本制度など重要な原則問題に関しては動かさない。動かせば、社会主義近代化建設は語りようがないだけでなく、すでに得た発展の成果も失ってしまい、国家が内乱の深淵に陥る可能性すらある」

「中国の国情から出発して、われわれが複数政党制をやらず、指導思想の多元化をやらず、三権分立と二院制をやらず、連邦制をやらず、私有化をやらないことを慎重に表明する」

 

呉邦国の全人代常務委員会活動報告というのは毎年、政治改革についてけっこうはっきりと否定の立場を表明するのでおもしろい。昨年2010年はそうでもなかったが、一昨年2009年もけっこうはっきりと西側の政治制度の導入を否定する発言を行った。その時は、その前の年2008年に「〇八憲章」の発表や普遍的価値論争などがあったことが影響していた。

今年の発言では「内乱」の可能性を指摘した点が驚きで、これは中東・アフリカのジャスミン革命の影響に対する危機感を反映したものだろう。それには当然、最近の中国版ジャスミン革命集会も意識されているだろう。それにしても「内乱」発言は驚きだ。中国版ジャスミン革命集会の中身は何もないので全く恐れる必要はない。しかし共産党にとっては、中身ではなく、そうした活動が起きていること自体を恐れているのである。後ろめたさのあるものは、周りは何とも思っていないのに、自分だけ過剰反応するという人間の神経と同じだ。きっと怖いのだろう。そんな怖さが、「内乱」という言葉になっている。

後者の発言は、集会もあるが、昨年の劉暁波のノーベル平和賞受賞とその同調者に対する警告でもあると思われる。これは、共産党の原則的立場であるし、呉邦国がよく発言していることなので、さほど驚く発言ではない。それ以上にやはり「内乱」という言葉は重い。

 

20110312

●彼らに政治体制を語らせても・・・

1面に気になる記事が出ていた。それは、「”5つのやらないは歴史が得た基本的結論」というリードの付いた全人代代表のうち末端から来た代表の声を紹介したもの。「5つのやらない」とは10日の呉邦国の全人代常務委員会活動報告で言及されたもの。誰がどんな発言をしているか、見ておこう。

@「複数政党制による政権交代はやらない」に対する寧夏回族自治区銀川市唐徠回民中学校教師の発言:「中国共産党を指導核心、政権党とし、各民主党派を参政党とする」

A「指導思想の多元化はやらない」に対する四川省資陽市迎接鎮分水村党支部書記の発言:「中国の特色を持つ社会主義理論」

B「三権分立と二院制をやらない」に対する四川省攀枝花市人民検察院副検察長の発言:「人民代表大会制度」

C「連邦制をやらない」に対する広西チワン族自治区興業県民政局党組書記の発言:「各人民各民族は党中央の周りに集まっている」

D「私有化をやらない」に対する山西省陽城県皇城村党支部書記の発言:「公有制を主体とする」

 

呉邦国の「5つのやらない」は、現状の「党の指導」、すなわち「共産党による一党支配体制」を絶対に守るという共産党の強い意志を示したもの。それはそれでいい。しかし、政治体制という話題を、目先の利益しか考えない今の地方、しかも末端幹部に語らせようとしても、実際には無関心で自分の意見など持っているはずがない。そんな代表に意見を求めることはナンセンスだ。

彼らの回答はたぶん準備されたものだろう。末端幹部に語らせることで、一党支配体制の維持という問題が身近のことであることを印象づけようという意図だ。それでもこうした記事を掲載しなければならない『人民日報』という新聞の性格を表している。これもまた中国のメディア。

 

20110313-1

目についたのは、胡錦濤と習近平が人民解放軍の全人代代表の全体会議に出席したことぐらい。軍に詳しい方が読むと何かおもしろい情報があるのかもしれないが、私はよく分からない。強いて言えば、「戦闘力生成モデルの加速的転換をメインラインとし」という文言が気になったが、その意味はよく分からない。

 

20110313-2

●上海東方テレビ衛星チャンネルもがんばっている

311日に、東日本大震災が発生した。中国でも日本の被災状況が大きく報道されている。中央テレビのニュースチャンネルは、トップニュースで扱っている。映像はNHK World のものだ。

上海の「東方テレビ」の衛星チャンネルも、大きく扱っている。私も知っている復旦大学の日本専門家や、地震専門家を呼んで、特番をやっている。ほかの地方局の衛星チャンネルはそうした番組はやっていない。「なぜ上海の地方局が」と思っていたのだが、番組を見ているとわかってきた。

「東方テレビ衛星チャンネル」というのは、CCTV大富と共にスカパー経由で日本で視聴が可能だ。多くの在日の中国人が見ている。だから東方テレビは、中国国内向けという側面もあるが、日本の同胞にも配慮して番組を作っていたのだ。画面の下にツイッターの情報、日本にいる中国人の安否を尋ねるもの、その連絡先などのテロップがずっと流れている。これはすごい。

中央テレビの報道では、日本にいる留学生は70万人いるという。多くの同胞が日本にいるから、人ごとではない。

12日午後からは、原発被害の自国への影響についての報道が増えている。

 

20110314

●やはり外交に自信

国際面に、丁剛・曹鵬程「平和的中国の役割に自信を持とう」と題する文章が掲載されている。

「中国は自信をもったが、国際問題を処理する基本原則に変化はない。中国は国家の尊厳と核心的利益をしっかりと維持すると同時に、善隣友好に注力し、戦略的パートナーシップに注力し、対話と交渉を通じて領土、領海の争いを適切に処理、解決し、地域と世界の平和安定の維持に努力する」

「中国のグローバルなガバナンスへの参加方法は、積極的な融合であり、新しくやるということではない。平等に接し、大をもって小を侮ることではない。相互利益winwinであり、人を傷つけ己を利することではない。世界の視線に対し、中国は自信をもって、平和的に国際舞台の中央をゆっくりと歩んでいく」

 

リードに「自信」という言葉が出ていることで、内容はだいたい推測できた。やはり中国の「自信」というものが前提にあり、それを謙虚に受け止めなければならないと言いつつも、国際舞台のメインロードを歩もうと煽る。勢いのある中国の外交姿勢をまさに表した文章である。

12日、中国が国際援助隊を日本に派遣した。もちろん善意からであり、また四川大地震での日本の援助隊の貢献に対する恩返しの意味もあり、この点に国家利益を求めた打算があるとは思いたくない。しかし、純粋に国家利益が絡む外交問題では、やはり中国は「自信」を背景に強い態度で出てくることはこの文章からも明らかである。日本に対しても同じである。この「自信」を有する中国を日本はどう認識するのか、そしてどう対応するのか。日本は政官を中心に、民も加えて、中期的な対中認識、対中政策を真剣に考えなければならないのではないか。

 

20110316

●「人権」観をまとめておこう

鐘声「発展をもって人権を促す」という文章は、中国の「人権」観をまとめている。

(1)生存権と発展権が最も基本的人権である

(2)公民の権利と政治的権利は人権の重要な構成部分である。中国の特色をもつ法律体系がすでに形成され、民意表出チャネルも大きく拡大し、中国のネット普及率は世界の平均水準を超え、朝廷の上にいるか、世間にいるかに関係なく、等しく微博(「ミニブログ」と呼ばれる中国版ツイッター)、フォーラムなど各種方式を利用して自由に観点を表出することができる

(3)国際協力が人権の普遍的進歩の重要な手段を促進する

 

中国がいかに人権を重視してきたかを宣伝する文章だが、(2)については、首をかしげながら読んだ。「中国の特色をもつ」ということは、共産党の一党支配を前提とするということである。ネット普及率が上がっていることは確かで、以前よりも可能性は高くなっていたとしても、「自由に観点を表出することができる」わけではない。

 

これに関連して、「微博:1つの特別な科学技術製品」という文章も掲載されている。技術発展の観点から微博を取り上げているのだが、何か政治的なことに言及していないか注目して読んだ。

20112月までに微博のユーザー数は1.2億を超え、年末までに2億、3億すら達する可能性がある。いかに管理し運行するか、発展には「陣痛」を伴う。突出した問題は、虚偽情報、ゴミ情報、詐欺情報、デマがすぐに伝わること。

 

この文章には残念ながら政治的な言及はなかった。私は微博に興味がないのだが、確かに私の周りにも微博利用者は多い。しかし日常生活に関する範囲での情報交換が主流だ。

管理が大変だということで、文章は新浪などのサイト運営者が主導的に掲載情報をチェックしている対応を紹介している。こうした状況は日本も同じだが、全く同じではない。彼らには政治的な情報のチェックという特別な役割も担わされている。しかし、文章は当局の規制については言及していない。当局の政治的規制がある以上、せっかくの技術の発展も、中国では十分に生かされていないといえるだろう。

日本のように政治的規制がない中で、ツイッターが普及し、それでも政治的無関心が成立することと、中国のように規制があって、政治的無関心が成立していることとは全く次元が違う。人権についてもそうだが、すぐ「海外と同じ」いうことで、肝心のところを素通りして、批判を丸め込もうする中国当局のロジックに惑わされないように、時に反論するロジックをもたなければならない。

 

20110318-1

●食塩の放射能汚染のデマ

「盲目的な食塩の購入は必要ない」との記事が掲載された。上海市の『東方早報』も、久しぶりに日本の地震の報道を押しのけ、食塩の買い占め問題が巻頭から占め、昨日17日に韓正上海市長が「食塩供給専題会議」を開いたことを伝えた。

 

日本での原発事故で、食塩が放射能に汚染されるとのデマが流れているらしく、昨日17日に上海市内でも、食塩の買い占め、便乗値上げがおき、パニック状態。スーパーなどで売り切れ状態になったようだ。

通常11.5元が昨日は15元に上がったとか、2元が25元に上がったとか便乗値上げが起きている。買い占めは卸売りにまで及び、このデマを知らなかった卸売商が通常価格で販売して、後でデマを知って、もっと高く売りつければよかったと悔しがったといった話も聞いた。

今朝、近くのスーパーに行くと、前日の午後に売り切れ、価格は通常の2元で売り続けたとのこと。再入荷は明日になるらしい。

国家発展改革委員会や上海市政府があわてて対応しているので、デマはかなり深刻だったようだ。テレビは食塩の安全性と十分な供給量があることをしきりに流していた。

 

20110318-2

全人代で採択された報告類の全文が掲載され、紙面を占めている。また「社会組織はどのように手を貸すのか」という記事も掲載されている。社会組織については、登記管理を担当する部門と主管する部門の二重管理が、多様化する社会組織の管理を妨げており、管理の一元化が課題という議論がよく見られる。多様化する社会の中で、社会組織の存在は重要だが、どのように管理するかが課題。管理の簡素化が進む。

ここで前提としている社会組織は当局に好意的な組織である。だから当局は管理の簡素化を可能と考えている。しかし、いったん管理の簡素化を認めると、当局に好意的でない社会組織の設立、登録も制度上可能になるわけで、その可能性はゼロではない。管理の簡素化は、共産党にとって短期的にはコスト削減を狙っているのだろうが、実は中長期的にはリスクが大きい。しかし、今の共産党に長期的リスクを考慮する余裕はない。これもまた自分のクビを自分で絞めている1つのケースになるだろう。

 

20110319

●胡錦濤も日本の地震に大変な関心

胡錦濤が犠牲者の弔問のため駐中国日本大使館を訪れた。沈痛な面持ちで、弔問していた胡錦濤の姿がニュースで流れた。

中国のトップがこうした行動を見せたのは極めて珍しい。対日重視を示している用にも見えるが、そうでもないとの見方もある。

 

20110321

●政治キャンペーンの裏には権力闘争

胡錦濤が、楊善洲同志の功績の学習に関する重要指示を発した。李長春、習近平も指示を発した。これが今日のトップ記事。

楊善洲は、1951年に工作に参加し、雲南省保山地党委員会書記などを歴任し、201010月に亡くなった。彼の功績を称える記事が最近掲載され、反響を呼んだらしい。中央組織部が「全国優秀共産党員」の称号を追加授与した。

 

末端幹部の楊善洲の功績は本当にすばらしいものだったのだろう。しかし、そんなことはどうでもいい。どこの誰だか分からない末端の幹部を過剰に祭り上げて、功績を学習させるという一連の政治キャンペーンは、共産党のお得意のパターンであり、未だ健在ということ。そうした記事は無視すればいいのだが、気になったのは胡錦濤が学習の重要指示を出しただけでなく、李長春と習近平も指示を出していることだ。李長春は宣伝担当だから、まさに政治キャンペーンを主管しているので理解できなくもない。しかし、最近于幼軍を復活させたのは李長春という話もあり、影響力を発揮しており、楊善洲のことも何らかの自己主張に利用している感はある。

それ以上に習近平まで胡錦濤と並んで指示を発していることに違和感がある。このキャンペーンは、胡錦濤主導ではなく、李長春や習近平が主導かもしれない。これをやることで、習近平にとっては、次期最高指導者として伝統的なパターンを継承していることを示すことができるし、政治キャンペーンを指導していることで政治的な影響力を示すこともできる。

しかし、なぜこの時期にやるのだろうか。全人代も終わり、共産党創立90周年に向け、動き出したのかもしれない。このイベントを習近平は主導したいのかもしれない。胡錦濤はおつきあい程度か。それとも習近平に負けまいと重要指示を発したのか。

 

重慶市で20万の幹部が村に駐在したことが報道された。これは重慶市が進める「三進三同」という活動。「三進」とは、末端に入り、村に入り、農民家庭に入ること。「三同」とは、農民と食事を共に、移住を共にし、労働を共にすること。

幹部が末端に入ることは、今の流行だが、重慶市の「三進三同」はまさに文革中の下放そのもの。またまた薄煕来のスタンドプレイだ。政治キャンペーンをやる習近平、李長春にせよ、薄煕来にせよ、権力闘争が見え隠れする。

 

鐘声「平和的手段を用いて、危機を解決する努力を放棄するな」という評論も掲載されている。西側のリビアへの軍事介入を批判する内容。

 

20110322

●「科学的発展」の乱発は胡錦濤の巻き返しか

紙面トップには、党中央と党中央軍事委員会の第115カ年計画期の国防と軍隊建設の科学的発展の推進のルポが掲載された。実は、全人代で、「科学的発展」というタームが、多く見られるようになったことが気になっていた。しばらく「科学的発展観」とか、「科学的発展」というタームが鳴りを潜めていた感がある。そのため、軍関連のルポで「科学的発展」というタームが使われており、注目した。

このルポは、2006年から5年間の第115カ年計画期に、軍がどんなことをやってきたかをまとめたものだが、たとえば次のような記述がある。

「第115カ年計画期に、党中央、中央軍事委と胡錦濤主席の頑強な指導の下、全軍と武警部隊は・・・国防と軍隊建設の科学的発展の壮大な1ページを書いた」

『国防と軍隊建設の科学的発展観を貫徹実現する重要論述選編』を創刊した。

 

言いたいこと2つ。1つは、「科学的発展観」ではないのだが、「科学的発展」という胡錦濤自身のキャッチフレーズが復活したことだ。昨年2010年末に習近平が党中央軍事委員会副主席に就任して以来、胡錦濤がレイムダック化するのではないかと思っているのだが、「科学的発展」というフレーズを連発することで、胡錦濤が存在感を回復しようと必死になっているように思われる。

もう1つは、今日の記事で軍について、「科学的発展」のタームを絡めてきたことだ。胡錦濤も第18回党大会以後、党中央軍事委員会主席の地位を保持するため、自前の軍事理論の体系化の作業段階に入ったのかもしれない。「胡錦濤」という名前が入るかどうかは分からないが、「国防と軍隊建設の科学的発展」がキーワードになりそうだ。

 

賀国強中央政治局常務委員が重慶市を視察したことが伝えられたので、昨夜21日夜の重慶衛星チャンネルのニュースを見たが、関連報道はなかった。中央テレビの『新聞聯播』で最初に伝えられたので、重慶市のニュースはおそらく今晩22日夜に詳しく伝えるのだろう。他方、その重慶衛星チャンネルのニュースでは、20日の『人民日報』の1面に重慶市の取り組みを称賛する記事が掲載されたことが伝えられた。やはり地方にとっては『人民日報』に取り上げられることはうれしいらしい。今日22日の『人民日報』の1面にも、広東省の自主創新の推進を補助する発展方式転換についてのルポが掲載された。重慶の薄煕来と広東の汪洋を競争関係にあると見れば、重慶を取り上げて、広東も取り上げるというバランス感覚か。

 

20110323

●ジャスミン革命の波及に警戒

新たな評論員文章の連載が始まった。「社会管理の強化と創新を論じる」というもので、第1回の文章のタイトルは「重大な戦略任務、小康の基本条件」。

社会管理の基本任務は、社会関係を協調させ、社会矛盾を取り除き、社会公正を促進し、社会安定を維持することなど。

社会管理を強化し、創新することは、(1)発展による新たな特徴と新たな変化という時代の課題への適応、(2)科学的発展観の貫徹、小康社会の全面的建設の基本条件、(3)最も広範な人民の根本的利益の維持、党の執政地位の強化の手段。

 

「安定は幸福大厦の土台である」と題する評論も掲載されている。「安定は福であり、動乱は災いである」という。ここで取り上げられている「動乱」とは、文化大革命の10年、最近の中東と北アフリカでの政局混乱、20083月のチベットでの争乱、20097月のウルムチでの争乱。

 

全国農民工工作弁公室主任会議が発表した農民工に関するデータも掲載されている。それによれば、2010年の農民工総数は24223万人、月収入は1690元で対前年比273元増。農民工の賃金収入は農民の収入源の50%超。2010年に全国各級労働争議仲裁機構が受理した農民工の賃金問題に関する争議案件数は、対前年比15.1%減少。賃金未払いによる100人以上の群体性事件数は30.6%減少。

このほか、日本の地震の日中貿易、中国の産業への影響について特集が組まれている。

 

当局が「安定」ということに神経質になっているなあという印象。「動乱」という言葉をこうした評論で平気で使っていることがその証拠。1989年の六四天安門事件で、426日の『人民日報』が学生デモを「動乱」と位置づけたことが、この事件をエスカレートさせた原因の1つになったが、それほど「動乱」という言葉はデリケートなもの。そんな言葉が先日来、再三登場しているのだから、当局も最近の中東・北アフリカでの民主化の動きが中国に波及することを相当警戒していることが分かる。しかし、「動乱」に六四天安門事件が上がっていないのは一貫している。

そもそも社会管理の強化の方針は、こうした文脈で出てきたものではない。しかし、ジャスミン革命がその性格を大きく変えた。引き締め基調はさらに強化されそうだ。

そんな中での農民工に関するデータは興味深い。賃金に関するトラブルが減少していることが示されている。これも「安定」。しかし、当局がいう安定」は、今はこんな賃金トラブルの解決の次元ではない。やはり深刻だ。

 

20110324

●李君如が「安定」スマートに語る

全人代が終わって、一息ついたということで、中央政治局常務委員の地方視察が相次いでいる。

賀国強が重慶市:前にいたことがあるので、歓待されたはず。賈慶林が海南省:これは暖かくていい。習近平が湖南省。李克強は内モンゴル自治区:ここは同じ共青団中央トップ経験者の胡春華がいるので、居心地がいい。周永康は天津市:同じ政法系統で孟建柱公安部長がきちんとついて行っている。

習近平は、毛沢東、劉少奇、彭徳懐のゆかりの地を訪問し、共産党の歴史を重視していることをアピールしている。さすが次期指導者、そつがない。

 

「安定が民生改善の内在的必要である」というリードのついた李君如のインタビュー記事が掲載されている。現在、李君如は全国政協常務委員だが、中央党校副校長を歴任し、江沢民、胡錦濤に対し、影響力があると見られる理論家である。彼が、「安定」について語っているので注目した。気になった彼の発言は以下の通り。

−歴史から見て、安定維持は必要。ケ小平も「安定は『硬道理』」であり、安定があったから改革・開放が進んだ

−民生の保障と改善は、安定維持にとって有利

−戦略的チャンスの時期には国内の安定が必要

−決まった歩調を探して、中国は前進を続ける

−「歴史的悲劇を経た民族として、民主は理性を必要とし、政権党は常に冷静を維持しなければならない。成功に直面し傲慢にうぬぼれてはならない。困難に直面し自信を失い、悲観的に失望してはならない。積極的に勇敢に挑戦を受け止め、各方面からの干渉に警戒し、中国の前進の歩みを進めなければならない。」

−「人民に自由のない国で、自主的生産経営、自由交換を基礎とする市場経済を発展させることができるだろうか。実際に、中国は経済体制改革を進め、民主政治改革を進めている。まさに持続的な政治改革があるので、市場経済を飛躍的に進展させているのである」

 

「安定」と「民生」をセットにしている点は、間違いなくジャスミン革命を意識したもの。内容としては、目新しいものではない。しかし、「安定」の重要性を説得的に、理性的に語っている。「中国の特色を持つ社会主義民主政治」みたいな、無意味なフレーズを連呼するような下品さがないのは、李君如が物事をよく分かっているということなのだろうし、彼の人柄なのかもしれない。そうした発言ができるからこそ、江沢民や胡錦濤に本当に影響力があるのではないかと思わせる。久しぶりに読もうという記事を見た。

念のため、断っておくが、私は李君如の言い分に決して賛同しているわけではない。この記事がいいというだけ。

 

20110326

●温家宝が汚職撲滅にゲキを飛ばす

国務院第4回廉政工作会議が開かれ、温家宝が「現在、わが国の発展が直面している情勢は極めて複雑で、経済社会発展の中で、長期的な問題と短期的な問題が相互の交錯し、社会矛盾がかなり突出し、さらに腐敗問題が加わっており、もし処理がうまくいかなければ、相乗作用を生み出し、改革・開放と社会安定に影響を及ぼす可能性がある」との現状認識を示した。そして「(1)指導幹部の権力を使って私利を謀り、汚職で権利を侵す問題に真剣に対処し、(2)指導幹部の清廉潔白に自らを律することをしっかりと強化し、(3)贅沢浪費と形式主義をしっかりと抑制し、清潔な政治の建設、反腐敗工作の新たな成果を是非とも勝ち取ろう」とゲキを飛ばした。

会計検査院にあたる国家審計署が「10省市の内需拡大投資項目の建設管理と資金使用の会計検査調査結果」を公布した。

20106月までに10省市に配分された中央投資項目36799件、計画投資総額3147.92億元について会計検査を行った調査報告で、結論として「資金使用管理の全体的な状況はよく、重大が法規違反、国家産業政策に深刻に違反する等の問題は見つからなかった」とした。

しかし、94の投資項目で、国家の政策規定に厳格でなく、資金、建設管理で規範違反があった。18項目で違法申告により中央の投資を獲得した。46項目で国家土地・環境保護政策の執行が厳格でない。35項目で基本建設規定手続きに違反があったことなどを報告した。

 

重大な違反を発見できなかったという結論は、感覚的にちょっと甘いかなあと思う。今、公費の使い方に注目が高まっている。汚職の元凶ともいえる「公費」。これにメスが入っているのだが、それには、汚職だけでなく、財政支出の増加の問題も現実にはあるのではないかと思う。それについて、温家宝も言及している。

 

20110328

●「国家と社会」の関係の構築

1つの方向を示すためにまとまった記事が掲載されている。

トップ記事は、中央創先争優活動領導小組会議が開かれ、最近発せられた胡錦濤の重要指示、中央政治局常務委員らの指示を伝達した。胡錦濤の重要指示は、この活動を全国の党の基層組織と党員に広く展開すること。

1面で「物価の総水準をいかに安定させるか」を掲載。「価格情勢は楽観できない」「物価はマクロ経済の安定的な運行に関係しており、また一人一人の衣食住行動に関係している」と物価上昇への警戒を示した。

同じく1面には、323日から始まった「社会管理の強化と創新に関する評論員文章」の第4回「大衆の満足を出発点と落下点としよう」を掲載。この中で、「社会管理が新たな情勢下で新たな挑戦に直面しており、思想世論の統一が難しい、各方面の利益協調が難しい、矛盾や紛争を取り除くことが難しい、流動人口管理が難しい、突発性事件に対する処置が難しい、末端基礎建設が難しい等の新たな状況、新たな問題が出現した」との社会管理が必要である現状認識を示した。

李忠傑中央党史研究室副主任の「安定が民生の"タイムスケジュール"の重要な保障である」という文章も掲載。「安定の維持は、党の強固な指導、政府による有効なサービスと管理、法規による厳格な規範、道徳による調節と制約、社会の各方面の参加と支持に頼らなければならない」と、安定と民生の関係を論じた。

 

この4件、関係なさそうだが、見方によっては、つまり「国家と社会」の関係という観点から見れば、関連している。ちょっと理由があって、今日は多くを語らないが、「安定」「民生」などのタームが昨年2010年以来、たびたび出てきているが、それは共産党が「国家と社会」の関係構築の切り札にしようとしているのではないかというような感がある。

 

20110329

●党政機関が「微博」を設置することの愚行

中央政治局会議が開かれ、市・地・州・盟の党政正職幹部の管理工作強化について討論された。その中で、(1)才徳兼備な人材の登用、(2)手続きに沿った登用、(3)教育研修の強化、(4)選考基準の改善、(5)清廉な登用が指示された。

 

ミニブログと呼ばれる中国版ツイッターである「微博」を党や政府の機関が設置することについてのフォーラムが26日に開かれ、関連の特集が組まれた。1つは「"微博が政治を問う":進展と困惑」というリード。各地の党・政府機関が民衆との交流を図るため、微博を設置するのが流行。その中では、公安の微博の数が一番多い。

微博の設置により、ユーザーとの良性の相互作用が拡大しているというプラス面が示される。他方、問題もあり、ネットユーザーの具体的な鋭い意見にどう対応するかで現場は混乱している。

党政の機構と官員が微博を使用する上での5つの建議を提起する。(1)ネットユーザーの現実の問題に対する訴え・要求を慎重に処理する、(2)ネットユーザーの批評に真剣に対応する、(3)ネットユーザーと交流するテクニックを高める、(4)突発性事件において、微博をうまく利用する、(5)個人と公職の身分関係をうまく処理する。

 

中央政治局会議の指示は「きれい事」。その内容よりも、地級市レベルで、来年の第18回党大会に向けた指導幹部の入れ替えが始まろうとしていることを示していることが重要。

2010年は微博元年」と言われている。党や政府機関もそのブームに乗っかって、微博を設置している。民衆が自らの意思表示をするための手段が少ない中国では、微博は貴重な手段である。しかし、党や政府機関が、訳も分からず、微博に飛びつくこの軽薄さは、特に地方の党や政府機関のレベルの低さを表している。民衆は無責任なのだから「鋭い意見」が出てくることは分かっているはず。そうしたことへの対応ができないのに、微博を設置する。地方は自業自得。

それにしても公安の設置が多いというのはおもしろい。公安に対する不満がとりわけ大きいことの裏返しだろう。イメージアップから率先して設置したのだろうし、隣が設置すればうちも設置しないといけないという強迫観念もあるだろう。

5つの建議も、ポイントはそこではないだろう、というある意味的外れな指摘。

しかし、党政機関の微博の設置は、決してきれい事ではない。ときにそれは自分で自分の首を絞めることになる。

 

20110330

最近、住建部が、126日に国務院弁公室が発した「不動産市場のコントロール工作をさらに立派に行うことに関する問題についての通知」、いわゆる「新国八条」に関し、パブリックコメントを募集することを指示した。

不動産価格を政府が介入することについて、その賛否、地方政府の実行可能性などをめぐって、今ホットイシューになっている。その状況把握のためだろうか、住建部がパブリックコメントを募集するということだ。その混乱ぶりが伺われる。

 

20110331

●薄煕来を「やり手」と認めるべきか

国務院常務会議で「青蔵高原区域生態建設与環境保護規劃(2011-2030)」が採択された。またまた個別地域に対する計画を承認した。浦東新区始まった総合配套改革以降、次々と個別地域の計画を国務院は承認している。1つ承認されれば、各地が手を変え、品を変え、提案してくる。それは事実上、傾斜政策ではなくなり、全体としてゼロに等しい。あとはどこが手を挙げていないのか。

 

重慶市が4月から市全体で城郷居民社会養老保険制度試点を実施すると発表した。全国よりも4年前倒しで実施するもの。またまた薄煕来の成果宣伝記事。

これに対応してか、広東省人代が「広東省実施〈珠江三角州地区改革発展規劃綱要(2008-2020)〉保障条例」(草案)の審議を行ったこともけっこう大きく伝えられた。権力委譲の「先行実施」で、地方性法規の新たな突破と評価した。

薄煕来と汪洋をライバル視したい私としては、この広東省記事の掲載は重慶市の記事とバランスをとったもののように見える。

 

「農民工の「市民化」には多くのコストがかかる」という特集が掲載された。大きく3つに分かれている。

(1)「農民工の市民への転換のカギは戸籍にあるのではなく、同等の待遇にある」。多くの公共賃貸住宅では戸籍を重要な入居条件にしている。しかし重慶市では昨年8月から始めた戸籍改革によって、戸籍がない農民工にも公共賃貸住宅を提供している。そのほか、条件を満たす農民工、新世代農民工を都市戸籍に転換させ、都市住民と同等の「就業、社会保険、住宅、教育、医療」を提供する。これにかかるコストが農民工の市民化コスト。

(2)「農民工を真に市民化するには、1人あたりのコストは通常10万元を超えることはあり得ない」。この数字は中国発展研究基金会(樊綱のところ)の報告による。国務院発展研究センターによる重慶、嘉興、武漢、鄭州4都市での調査に基づく資産でも、7.7万〜8.5万元の間。

(3)「市民化コストは高くて負担できないではダメで、長期的に都市で安定的に就業する農民工の市民化の新たなコストは引き下げる」。

楊偉民発改委秘書長によれば、中央政府と地方政府と市場の協同負担にすべき。中央=財政移転により、教育、医療、社会保障を負担、地方=低価格賃貸住宅、市場=その他で必要な資金の貸出。

 

最近人事ネタが多かったので、都市が農民工をどう受け入れるかといったようなホットイシューの特集をキチンと読んでみようと思った。そうしたら、これも結局、重慶市はすばらしいっていう宣伝記事だった。

薄煕来をお調子者のように見えるが、この記事などを読むと、重慶でやっていることはけっこう進んでいてうまくやっているということなのかもしれない。重慶でやっていることは、全国どこもがやりたいこと、やっていることなので、その中身に「重慶モデル」などというような独自性があるとは到底思えない。

本質は、なぜ他のところより重慶は一歩先で実践できるのか、そしてなぜこんなに宣伝されているのかということだ。これは改革の中身の善し悪しではない。薄煕来というトップがうまくやっているということだ。そうすると、部下や市民はついてくるのかもしれない。薄煕来という人物は、なかなかやり手。だけど、その分、他省には妬みやっかみで受けはよくないだろう。それが薄煕来にとって命取りかもしれない。やり過ぎは禁物。

戸籍制度改革についていうと、昨年2010年秋には重慶よりも成都の方がプランに対する評価が高かった。しかしその後、成都の話は聞かない。やっぱり難しいのか。