第95回 エジプト民主化報道をさかのぼる(2011年7月5日)
2011年1月25日〜2月10日までの、エジプト民主化情勢を『人民日報』がどう伝えているかをまとめておこう。
(日付は『人民日報』掲載日)
1月27日 初の報道。カイロ発でエジプト政府がデモ禁止を通告したこと。デモ行為者を「反対派」と表現し、給与引き上げ、待遇改善を要求したと伝えた。
1月30日 カイロ発で首相の交代、副大統領の任命。デモを「反政府抗議活動」と表現。デモによる社会の不安定な状況、経済活動への影響を伝えた。
1月31日 カイロ発でムバラク大統領が武装部隊工作中心を視察したこと。
2月1日 中国政府がカイロ在住の中国人の帰国支援活動に乗り出したこと。
2月2日 カイロ在住の中国人の帰国支援活動の状況。
2月3日 カイロ発で次期大統領選挙に立候補しないとした1日のムバラク大統領講話。この講話に不満な抗議者が、即時辞任を求めデモしたことも伝えた。
2月4日 カイロ発でカイロ在住の中国人の帰国支援活動が完了したこと。
2月5日 カイロ発で政府と「あらゆる反対派」が交渉開始したこと。
2月6日 カイロ発で政権党の指導者層が交代したこと。
2月7日 カイロ発で反対派・「独立人士」と政府が合意したこと。外部勢力のエジプト内政への関与に反対で一致ことも伝えた。
2月8日 駐エジプト記者による「エジプト政界の多くの派閥が力比べ」と題する初の分析記事を掲載。反対派はインフレをカギの問題としていること、総じて、エジプト国民は社会の安寧と政治の安定をもっとも重要なことと考え、自国の混乱を希望しないことを伝える。また旅行客の減少による経済的損失も懸念。
2月9日 カイロ発で憲法委員会の設置。デモはムバラク大統領の即時辞任を要求。ワシントン発で、米政府がイスラム勢力の台頭を懸念。
2月10日 カイロ発で経済活動が正常化。
2月11日 楊外交部長、エジプト外相と電話会談。楊外交部長は「エジプトの安定は中東地区の安定に関係している。エジプトの事情はエジプト自身が決定すべきで、外からの干渉を受けるべきではない」と発言。
『人民日報』は、駐カイロ記者の報道を中心にデモ発生直後からエジプト情勢を伝えた。しかし、その伝え方には特徴がある。
1つは、デモが反政府の性格を有していることを隠していない。ただし、その動機を経済問題に、その要求をムバラク大統領の即時辞任に限定して伝えている。過去30年のムバラク政権への不満についての詳細な分析記事はない。
2つめに、政治情勢の混乱が社会の不安定をもたらし、経済活動を混乱させている点を強調している点である。
3つめに、米国の関与への懸念も伝えている点である。
興味深いのは、反政府デモという性格を伝えている点だ。30年間の長期政権の分析を一切避け、デモの動機を経済問題に限定することで、中国国内でも同じロジックでの集団抗議行動が発生していることは周知の事実なので、伝えてもいいと考えているのだろう。もちろん、伝えているのは、社会の混乱、経済的損失を考慮すれば、反政府デモなんてやるものではないよね、というメッセージである