94回 20112月の『人民日報』(201175日)

 

20110203

●胡錦濤と温家宝の春節地方視察

胡錦濤と温家宝が春節前に地方を訪問した。春節前後に最高指導者が地方を訪問し、人々を慰問することは恒例行事となっている。

胡錦濤は、212日に河北省保定市を訪れた。慰問先の1つは、春節客で混雑する長距離バスターミナルの乗客と従業員。さらに武警某部4連駐地で官兵を慰問し、一緒にギョーザ作りをおこなった。その時の写真が掲載された。さらに晋察冀辺区狼牙山根拠地の一部である西山北郷を訪れ、歴史陳列館を参観し、建国前に入党した老党員を慰問した。

温家宝は、21日に安徽省の革命老区である大別山にあり、紅四方面軍の誕生地で鄂豫皖革命根拠地の中心区であり、現在では全国貧困扶助開発工作重点県になっている金塞県を訪問した。温家宝にとって2度目の訪問となった。慰問した家庭は6軒で、会話が紹介されている。

@温家宝「作付面積は何ムーか?出稼ぎでどのくらい収入を得ているのか?年越し準備はできたか?・・・」

A一緒に団子作り。温家宝「生活は苦しいですか?」

B男手1人で2人養子の子女を養育した人を慰問

C部屋に亀裂のある家庭を慰問し、温家宝「生活は苦しいか?」と聞いて、住民は「お金はすでに貯めており、今年修復する準備をしている」と述べ、当地責任者も「すでに危険住宅改造リストに入っており、政府の補てんがある」と述べた。

D温家宝「2005年から国は7回連続で企業退職者の基本養老金を引き上げ、彼らの待遇は2倍となった」

 

春節前後の最高指導者の慰問先は、これまでも革命に縁のある地方が多いため、今回の慰問先もそれに倣ったものといえる。胡錦濤も温家宝も民衆重視の姿勢をアピールすることが狙いである。胡錦濤の場合は軍人重視のアピールもあっただろう。一緒にギョーザを作り、団子を作るなどの写真は「老百姓」(民衆)が見れば、好印象になる。それにしても、温家宝のウサギの絵の入ったエプロン姿はちょっとはしゃぎすぎの感がある。

温家宝のDの家庭を慰問した際のやりとりは深読みしたくなる。温家宝が心配して質問をして、住民は自己解決の姿勢を示し、地元政府の責任者があわてて政府がやっていると取り繕うような発言をしている。温家宝はこのとき、生活困難者への関心を高め、必要な援助をするよう指示しているため、地元政府はやっていなかったのかもしれない。地方政府にとってはメンツが丸つぶれ。温家宝は暗に地方政府批判をしたということだろう

 

20110204

●胡錦濤と温家宝の地方視察は続く

胡錦濤は引き続き河北省保定市に滞在し、順平県民政事業服務中心と同市高新技術開発区茗暢園社区(全国和諧社区建設示範単位)を視察した。

服務中心での病気の老人との会話で、「中央は一貫して生活困難な人々の生活に深い関心をもっており、一連の貧困扶助政策措置をとってきた。あなたは現在体調がよくなく、通院費用がかかっているので、党と政府が支援します。将来、医療保険制度をさらに整備士し人々の通院難、費用過多の問題を解決します。今後必ずもっとよくなります」と述べ、医療保険制度改革への意欲を語った。

温家宝は、安徽省から山東省へ移動し、昨年201010月来の干ばつの影響を受ける農民を慰問した。

胡錦濤も温家宝も、春節を意識してか、難しい話はしていない。

 

20110210

●江蘇省の権力透明化の取り組み

国務院常務会議が開かれ、穀物生産情勢の分析と穀物生産促進の政策措置の指示があった。干ばつによる穀物生産不足による、穀物価格の上昇懸念が強まっていることへの対策である。

住建部も、9日から住宅積立金利率の引き上げを発表したが、同時に貸出金利も引き上げられ、狙いは住宅購入需要の抑制にある。

いずれも喫緊の課題であるインフレ対策だ。

 

さて、江蘇省の権力の透明化への取り組みが紹介されている。

省内の52の省レベル機関部門、13の省直轄地級市、所轄の106の県で「ネット上での行政権力の公開透明運行」を実現したという。

「ネット上での行政権力の公開透明運行」とは、権力を内部抑制で厳格に制度化し、権力を透明運行し、権力をネット上で全過程を監察すること。しかしここに至るまでは試行錯誤の連続だった。

2000年代前半までの伝統的な権力監督の手段は、事前の政務公開、事後の苦情処理にとどまり、実施過程の監督の難しさ、事後評価の主観的適当さ、伝統的な「人が人を見る」という監察モデルの欠陥が明らかになってきた。

2005年の行政許可事項の全過程の監察という「蘇州モデル」が注目されたが、欠陥も出てきた。

2006年の「南京モデル」は、行政権力事項の整理・制度化、行政権力の運行の流れを再構築・固定化、行政権力バンクの構築、ネット上での電子監察による「権力透明運行メカニズム」を構築した。ただし、権力の目録ができただけで、権力運行のメカニズムの核心作用は発揮できていない、行政権力と権力事項が分離しているため、権力運行の流れを勝手に変更できる余地が残されているなどの問題点が露呈した。

こうしたプロセスを経て、「ネット上での行政権力の公開透明運行」が実現した。

 

指導者、行政の権力とは何かという目録を作って、その運用のメカニズムを構築するという取り組みは、過去にも個別の報道を取り上げたことがある。今回の江蘇省の取り組みは全省的に構築されたというものだ。

権力を抑制しなければならないという問題は、古くて新しい問題だが、その目的は汚職対策とうことでコンセンサスは得られているようだ。

試行錯誤を経て、メカニズムを構築していくということで、時間がかかるものといえる。ただし、この報道では、実現したメカニズムが具体的にどのようなものかは紹介されていない。

 

20110212-1

●全人代の文件草案に意見をいう人たち

春節前の120日から27日にかけて、温家宝主催の「政府活動報告」草案と「125カ年規劃綱要」草案に対する意見聴取の座談会が5回開催された。3月の全人代に向けた準備作業の一貫である。

 意見交換の内容も興味がないわけではないが、この座談会にどんな人が参加したかをリストアップしておきたい。

 (1)民主諸党派、全国工商聯責任者、無党派人士、

 (2)経済社会領域の専家

  ・国務院発展研究中心副主任 廬中原

  ・中国社会科学院財政貿易研究所所長 高培勇

  ・中国交通銀行首席エコノミスト 連平

  ・中国社会科学院農村発展研究所 張暁山

  ・中国人民銀行研究生部部務委員会副主任 湯敏

  ・北京師範大学収入分配与貧困研究中心主任 李実

 (3)教育・科技・文化・衛生・体育界代表

  ・無錫職業技術学校教授

  ・江西革命老区会昌珠蘭示範学校校長

 (4)企業界代表

  ・宝鋼集団董事長 徐楽江

  ・中国東方電気集団董事長 王計

  ・奇瑞汽車股分有限公司董事長 yin同躍

  ・万科企業股分有限公司総裁 郁亮

  ・中国建設銀行董事長 郭樹清

  ・中興通訊董事長 候為貴

  ・蘇寧電器董事長 張近東

  ・長春高g聚酸イミド材料有限公司董事長 呂暁義

 (5)工人・農民・学生など大衆代表

  ・中国北車長春軌道客車股分有限公司高級技師

  ・黒龍江肇源県種糧大戸

  ・河北省固安県野菜種植大戸

  ・瀋陽華鉄汽車散熱器有限公司董事長

  ・杭州聯華華商集団有限公司華商店店長

  ・安徽省天長市chajian鎮中心衛生院主治医師

  ・北京市東城区永定門外街道弁事処民政科長

 

 資料的にリストアップしてみたのだが、特に(2)(4)に注目。こうした人たちが、ブレーンとは言わないまでも、温家宝や国務院に近い可能性があるからだ。

 (2)では、よく見る名前が並んでおり、彼らの発言は今後も注視しておいた方がよさそうだ。この中で、よく経済紙などで経済情勢のコメントや予測をする中国交通銀行のエコノミストの1人が出席しているのが気になった。単なる無責任なコメント屋ではなく、上も彼らの発言を気にしているのかもしれない。

 (4)も大手ばかりだが、上が重点にしたい業種がよく分かる。

 (3)(5)の代表は、たぶん労働模範になった人とかで、あんまり意味がない。

 

20110212-2

●河南省の農民工の人数

 河南省の農民工の2010年末の就業状況のデータが紹介されている。

 農村労働力の農業から他業種に就職した総数は2363万人で、2010年の増加数は105人。2363万人のうち、約半分の1142万人は省内で就職し、2009年に比べ123万人増加。

 省外への出稼ぎによる農民工の収入(労務収入)は、省全体で1980億元。農民1人あたりの収入の50%を占め、農民1人あたりの労務収入は8380元で、2009年に比べ873元増加。

 

 農民を辞めて就職する際、省内で半分を吸収していること、省外への出稼ぎによる収入への依存率は依然として高そうだ。

 

20110213

●劉志軍解任は汚職ではなく権力闘争

劉志軍鉄道部長が汚職疑惑で解任された。鉄道部など中国のインフラ整備に関わる部署は利権も多く、汚職の温床とも言える。その意味で劉志軍への汚職疑惑は、すでに分かっていたこと。いつでも解任できただろうに、なぜこの時期に発覚させ、解任したのかという点がポイントだ。劉志軍は58才とまだ若い。第18回党大会でもまだ出世の可能性もあったはずだ。

 だからこそ、鉄道部長の解任劇は、汚職問題ではなく、権力闘争と見るべきだろう。彼自身か、それとも彼が見せしめか。劉志軍は江沢民と関係が深かったと見られる。そういうことかなあ。第18回党大会に向けた権力闘争はすでに始まっている。

 

20110214

●「総理は中国最大の民政幹部」

212日の『人民日報』で報道された「政府活動報告」と「125カ年規劃の綱要」に関する温家宝主催の5回の座談会のうち、125日の末端民衆代表10名との座談会について、ルポが掲載された。

 座談会の冒頭、温家宝は次のように座談会の意義を語った。

 「政府の活動の善し悪しを最も評価できるのは民衆であり、政府の活動状況を最も反映できるのは基層である。民衆の意見によって、われわれは政策の実現状況を知り、民衆の困難や問題を知る。われわれの政府は人民の政府であり、われわれの権力は人民が与えてくれたものであり、われわれは人民のために利益を計り、人民2010の監督を自覚的に受けなければならない。民衆が満足しているかどうか、喜んでいるかどうか、返事をするかどうかが政府工作の善し悪しを測る唯一の基準である」

 出席者との質疑応答でおもしろいと思ったものを挙げてみたい。

 製造業労働者:「話そうと思ったことは、すでに報告などに書いてある」と発言を遠慮したが、温家宝に促され発言した。これを聞いて温家宝は「あなたの発言を聞いて、われわれの活動とあなたの要求にはまだ差がある」

 農民工:社会保障、賃金待遇、住宅、子女の就学の4つ問題を提起。

 別の人:水利、農産物の流通問題を提起。

 北京市永定門外街道弁事処民政科長:温家宝は「総理は中国最大の民政幹部である。民政工作は民衆、特に生活困難者に関わるものであり、民政工作の11つを立派に行わなければならない」

 

 すでに報道があった5回の座談会について、昨日13日から小分けにして、詳細に報道している。昨日に比べ、末端民衆との座談会の伝え方は異なる。温家宝の冒頭の発言は、胡錦濤政権の民衆重視の姿勢をあらためて強調するものになっている。

 個別の質疑対応も、農民工問題や水利、流通などが取り上げられ、今年の政府活動の重点や125カ年規劃の重点とマッチさせており、それを末端民衆に語らせ、総理ががんばって対応すると答えるという宣伝としてはうまいやり方だ。

 そして最後には、「総理は中国最大の民政幹部である」と発言し、民衆の気持ちをぐっとつかんでいる。

 今や民政工作は胡錦濤政権にとって喫緊の課題であるし、2002年の発足当初からそうだったように、ポピュリズム政権なのだから民衆に支持を訴えていくしか政権安定はない。その中で、これらは「親民宰相」温家宝ならではのパフォーマンスで、胡錦濤がやってもその効果は半減ではないか。国家信訪局の視察といい、温家宝のパフォーマンスはいくらかやり過ぎかなあとも思うが、胡錦濤政権の中でうまく役割分担をしているようにも思われる。そういう意味では、素直に解釈してもいいかもしれない。

 

 さて、この温家宝の座談会に関する記事のリードは「民衆が満足かどうかが、政府の活動を測る唯一の基準である」だが、そのうち「唯一の基準」という言葉に注目しなければならない。この言葉に見覚えはないだろうか。これは、1978511日付けの『光明日報』に掲載された「実践こそ真理を検証する唯一の基準である」という論文である。毛沢東の死後実権を握った華国鋒をケ小平、胡耀邦が追い落とすために仕掛けた批判キャンペーンの理論的な根拠となった論文である。この論文が発表されて以降に展開されたいわゆる「真理の基準」論争で、ケ小平、胡耀邦らが勝利し、華国鋒は政治実権を失い、ケ小平が実権を握り、改革・開放路線が展開されていったのである。

 この記事のリードに「唯一の基準」という言葉が使われたのはなぜだろうか。単なる1980年代へのノスタルジーかもしれない。しかし、昨年来、温家宝が、「ケ小平」を利用している向きは見られる。このリードにも極めて政治的意味があると考えるのが自然だろう。

 「真理の基準」論争のロジックに倣えば、民衆を無視して政府の活動を行っていることを批判するものである。現在の中国で絶対的に支持されているケ小平を持ち出して、自分への抵抗勢力を批判するという政治的な戦術のように思われる。その抵抗勢力が何を指すのか。特定の個人や組織を指すのか、一般的な状況を批判しているのか。もう少し検討を加えなければ分からない。ここでは、政治的な意義があること指摘するにとどめておきたい。

 

20110215-1

●続くケ小平絡みの報道

温家宝総理が受け取った身障者の手紙の話が掲載れている。そのリードは「私が提案した問題はすでに解決した」というもの。

 

 昨年2010131日に開催された温家宝主催の民衆代表との座談会に出席した李楠という身障者の話である。彼女は、北京青年政治学院共青団書記を経た後、交通事故で障害をもった。現在は北京市朝陽区身障者協会副主席の職にある。

 彼女はこの座談会で温家宝に対し、身障者の置かれた苦しい現状を紹介し、対策を求めた。その後開かれた3月の全人代の政府活動報告の中で、温家宝が身障者対策について言及した。このことに李楠は、感動した。そして、この1年身障者に対する措置が次々と政府から出てきた。

 李楠は今年の1月に温家宝にお礼の手紙を書いた。「私が提案した問題はすでに解決した」と。李楠には座談会で温家宝が「あなたが楽観的に向上することを希望する」と述べたことが耳に残っているという。

 

 なんといい話だろう。しかし、これも胡錦濤政権の民衆重視姿勢をアピールする記事というだけなら注目する必要もない。また、座談会をやって聴取した意見が実際に反映されていますということの宣伝でもない。このルポに注目するのは、題材が身障者対策だからだ。

 身障者といえば、ケ小平の息子であるケ樸方である。彼は文革中に下半身麻痺の障害を負い、その後中国身体障害者協会主席を務めた。そのため、この記事をケ小平と関連づけて見たくなる。

 そう考えたとき、これまで紹介した一連のケ小平を利用する胡錦濤政権、もしくは温家宝の戦術をどうとらえるかについては、権力闘争の視点から、慎重に検討する必要があるだろう

 

20110215-2

●日本の第3位転落をどう伝えたか

日本のGDPが中国に抜かれ、世界第3位に転落したことを、『人民日報』がどう伝えるか。昨日14日から注目していた。

『人民日報』は、私の予想に反し、崔寅という人の「量的に追いつき、質的に引き上げ」と題する論評を、22面という後ろの方で地味に発表しただけだった。論評の冒頭、次のようにある。

「必ずやもたらされるであろう結果に対するさまざまな論争や憶測が半年間続いたが、ようやく「ほこり」は落ち着いた」

 私の訳がうまくないが、「ほこり」というのは、「どうでもいい話」ぐらいの意味なのだろうか。しかし、どことなく勝者の弁のようなニュアンスに聞こえてしまう。

 その後は,日本が発表したデータと、転落の原因分析、枝野官房長官と与謝野経財相の中国の発展を歓迎するコメントが紹介されている。

 その上で、次のように述べている。「経済の総量はほぼ同じだが、中国の人口は日本の10倍以上であり、中国の1人あたりGDPは日本の10分の1に過ぎない。「量」は追いついたが、速やかに「質」の向上を要する。日本は今後も引き続き1人あたりGDPの引き上げに努力する」

 そして最後に「日本は順位のために経済を発展させてきたのではなく、国民生活をさらに豊かにするためである」と述べた与謝野経財相の言葉を引用、「中国もそうでないわけがない」と締めくくった。

 

 実際問題として格差問題が深刻であり、世界第2位の実感をすべての国民が共有できない現状、そして海外の「中国脅威論」への配慮などから、有頂天に報道することは避けたのかもしれない。それでも、ところどころに、世界第2位になって「ほくそ笑んでる」ように感じるし、次は質でも日本を追い抜いてやるぞ、バカにするなよというような強い意気込みを感じる評論でもある。そんなふうに読んでしまうのは、私のひがみ根性だろうか。

 

20110216

●于幼軍の復活

今日の『人民日報』は、1面で任理軒、すなわち人民日報理論部の文章「現在の社会公正問題を理性的に見よう」が長々と掲載された。「社会公正」の重要性は胡錦濤政権は繰り返し言っているが、全然実現していない。きっとこの文章も書いていることは同じだろうと思って、無視した。

 

さて14日付『新京報』に、重要な人事記事を見つけた。それは、于幼軍が国務院南水北調工程建設委員会弁公室副主任に任命されたというもの。于幼軍は、2006年に山西省長に選ばれ、その後20079月に文化部副部長に任命されたが、200810月に中央規律委員会の審査を受けことになり、中央委員、文化部副部長を解任された。2年あまりの党の観察処分を経て、今回国務院南水北調工程建設委員会弁公室副主任に任命された。

 

 いやあ、驚きました。部長クラスで解任された于幼軍が復活を果たしたわけですから。同様の復活劇は、北京市長だった孟学農が2003年のSARS騒動の引責で解任され、于幼軍と同様に国務院南水北調工程建設委員会弁公室副主任で復活し、その後山西省長に任命されたケースが思い出される。

 孟学農の復活劇のバックには胡錦濤がいた。そのため、于幼軍の復活にも、強いバックがいたに違いない。まさに、権力闘争の産物といえる。

 孟学農の解任は、北京市でのSARS対応の遅れについての引責によるとされている。しかし、当時のSARS対応の直接の責任者である張文康衛生部長を解任する際、張が江沢民に近かったことから、交換条件として胡錦濤に近い孟学農が道連れ解任となったと私は理解している。

そのため、孟学農は、自身に「傷」がある訳ではないので、復活が容易だったのだろう。しかし、于幼軍は汚職がらみの解任だったはず。これについては北京で、彼自身の汚職ではなく、周囲の汚職の引責だったという話を聞いた。確かに、于幼軍自体は起訴されてはおらず、単なる党の観察処分だった。だから復活の余地が残されていたのだろう。自分で汚職をやって捕まると、復活はない。

 于幼軍のバックに誰がいるのか。これが最大のポイントだろう。これについてはもう少し自分自身の考えをまとめる時間がほしいが、鉄道部長の解任といい、于幼軍の復活といい、第18回党大会に向けた権力闘争がすでに始まっていることだけは確かだ。

 

20110217

●「中国模式(モデル)」を考える

215日の「人民論壇網」に掲載された胡鞍鋼の「政治制度から見て、中国はなぜ成功したのか」という論考を読んでみた。こうしたタイトルの論考は最近けっこう見るが、胡鞍鋼という政権のブレーンとよく言われる、私はそうとは思わないのだが、しかし有名な学者が書いているので読んでみた。

1.中国がこの30年経済的に成功している根本原因

 (1)指導者の新旧交代の制度化、規範化、手続き化が、政治指導の集団的な安定性、連続性、継承性を保障していること

 (2)指導者が「解放思想、実事求是」の思想路線を堅持してきたこと

 (3)公共政策の決定で民主化、科学化、制度化を実現したこと

 とりわけ、5カ年計画の経済的貢献度を評価し、さらにその決定メカニズムが民主的で,科学的で、制度化されていることも評価しており、「公開され、何の秘密もない」という。さらに台湾のある学者がこの政策決定メカニズムを台湾も導入するべきと評価したという。

2.国際的な金融危機での成功の要因

 (1)社会主義市場経済の規律と社会主義制度の政治的優勢に対する十分な認識と深い把握があったこと

 (2)政府の主導、政府による誘導を堅持し、公共投資、民間投資を主導するなど市場の資源配置の基礎的作用を発揮した

3.危機対応を支えるもの

 (1)中国全体での集団的学習、臨機応変、競争に長けているという発展能力

 (2)高い効率での国家の決定能力

 (3)強大な政治的動員能力

 (4)日増しに拡大する財政力

 (5)中央と地方の「2つの積極性」の発揮

 国際的な金融危機は「空前の資本主義の危機」をもたらした。フランシス・フクヤマも、少なくとも経済政策の領域では、中国の政治体制能力に基づき、迅速に政策決定を行ったと称賛したと紹介し、事実上『歴史の終焉』を自ら修正、否定したと言う。そして「中国の道」はまだ見ぬ新たな道ではなく、ますます成功する新たな道であると締めくくった。

 

 実際に、国際的な金融危機での中国の成功は否定できない。中国自身の国際社会での自信、影響力の拡大はまさにこの実績によるものだ。そのため、なぜ中国は成功したのかという原因分析は重要な研究対象だ。

 胡鞍鋼の分析は,あまり詳細なものではなく、あらい印象論に過ぎないし、2008年の国際的な金融危機での中国の内需拡大政策に限定された議論である。しかもその分析は現状肯定するためのもので、そのことが彼を政権のブレーンと言わしめる理由なのだろう。フランシス・フクヤマや台湾の学者の見解も、現状肯定にとって都合のいいところだけ引用している。

 決定が民主化、制度化されているというのも,具体性に欠けている。指導者レベルの評価は確かにそうなのかもしれない。しかし国際的な金融危機での対応は、その指導部が出した政策に、現場がどう対応したから成功したのかという分析に欠ける。政治制度の分析はまさにそこが重要なのだが。それが民主化の実現で、現場も政策決定に参加しているということで説明しているつもりかもしれないが、分析は浅い。こうした点が中国人の研究の問題点で、大きな話は立派にするのだが、分析になっていない。だから読んでも意味がないということになる。まあ、この手の論考は、学術論文ではなく、中国はすごいぞという、まさに今の風潮を反映した宣伝文章なので、「無い物ねだり」なのかもしれない。胡鞍鋼のような人物がこんな文章を書くのだから、「成功に対し冷静になれ」と言っても、冷静になるわけがない。

 

20110219

●今なぜ華国鋒なのか

毛沢東時代とケ小平時代をつないだ華国鋒元党主席の生誕90周年を記念する中共中央党史研究室による文章「党と人民事業に奮闘した一生」が掲載された。内容は大きく4部に分かれているが、そのタイトルと、その中で気になった部分を記しておく。

1.「敵の後方での抗日戦争を堅持し、山西での解放戦争に参加し、民族の独立と人民の解放のために勇敢に戦った」

2.「新中国成立後、長期にわたり湖南で活動し、湖南の建設発展のために重要な貢献を行った」

3.「「文革」期間中、困難な局面の中で、前後して党中央、国務院の日常活動に参加した」

 (1)1972年、李先念、余秋里らの同志と一緒に、毛沢東、周恩来の同志に対し、喫緊に必要な化学繊維の新技術のセット設備、化学肥料の設備の導入を建議し、対外導入規模を拡大することに努力し、わが国の対外技術交流工作に対し、重大な成功を収めた。

4.「「4人組」の粉砕を指導し、「文革」を終結させ、党と国家の事業発展が新たな1ページを開いた」

 (1)華国鋒同志は「4人組」粉砕と関連する党と国家の明暗を分ける闘争で決定的な影響力を行使した。彼の主管の下、中央はすべての右派分子のレッテルをはがすこと、1976年の広範な人民大衆の周(恩来)総理を追悼し、「4人組」に反対する天安門事件の名誉回復、「61人反徒集団」などの一連の重大なえん罪事件の名誉回復を決定した。

(2)必ず外国のいい経験を学習しなければならない。そこには科学技術を学習し、経営管理経験を学習することも含まれる。広範な経済協力を展開させなければならない。

 (3)「思想を解放し、大胆であり、方法を増やし、歩調を速める」ことを提起した。

 

 生誕90周年という区切りだからとはいえ、華国鋒に対する長編の文章が出たことは奇妙に思われた。そこには、どうしても政治的な意図を感じずにはいられない。その意図を探るため、内容を分析する必要がある。

 「197812月の113中全会を機に改革・開放路線のスタートした」と会議と路線転換がマッチすることから便宜上このようによく言うわけだが、正確にはそれ以前から路線転換は始まっていた。また、ケ小平は、毛沢東、華国鋒の時代を否定することで、正当性を確保していった。そのため、この文章では、毛沢東時代からケ小平時代への過渡期における華国鋒への評価に関心をもった。

 まず、華国鋒が、4人組を粉砕し、文革を終わらせた功績を評価した。しかし、自らが正当性を確立する上で、「2つのすべて」に代表される毛沢東を利用した点、継続革命を提唱した点を素通りした。

 第2に、「真理の基準」論争など、ケ小平や胡耀邦らとの権力闘争についても素通りした。

 第3に、ケ小平が主導した改革・開放、思想解放について、すでに華国鋒が先取りしていたといわんばかりの記述がみられる。

 彼が20088月に亡くなった時に『人民日報』が91日付で「華国鋒生平」という業績回顧の長編の文章を掲載している。基本的にそれを踏襲しているのだが、いくつか違い見られる。その中では、3-(1)については、より詳細な記述がある。そして名誉回復については触れているが、4-(1)のような具体的な案件名の記述はない。4-(2)(3)については記述はない。

 以上のことくらいでは、政治的意図を語るのは難しい。それでもあえて言えば、華国鋒を忘れるな、ということだろうか。それは、中国共産党の歴史は1978年の改革・開放以降ではなく、それ以前もあるということ。それは、中共中央党史研究室の立場だろう。今年は共産党成立90周年でもあるし。

 他方、ここ数日『人民日報』に、温家宝がケ小平を称える記事が掲載されており、実は改革・開放もその転換のきっかけを作ったのは華国鋒時代があったからだということを改めて確認し、主張するというアンチの意図に深読みできなくもない。きな臭い文章ではある。

 

20110220

●「社会管理」は、民衆の利益表出行動への危機感

 胡錦濤が中央党校で実施される省部級主要領導幹部社会管理及其創新専題研討班の開班式で重要講話を行った。「社会管理の科学化の水準を高め、中国の特色を持つ社会管理システムを構築しよう」と題する講話で、これには温家宝、習近平、李克強ら中央政治局常務委員全員が出席しており、極めて重要な講話といえる。

 胡錦濤は、「最大限に社会の活力をかき立て、最大限に調和要素を増加し、最大限に不調和要素を削減する総要求をしっかりと把握し、社会安定に影響する重大な問題を解決することを突破口とし、社会管理の科学化水準を高め、党委員会の指導、政府の責任、社会協同、公衆参加という社会管理方法を完備し、社会管理の法律、体制、能力建設を強化し、人民民衆の権益を保護し、社会の公正・正義を促進し、社会の良好な秩序を維持し、中国の特色を持つ社会主義社会管理体制を構築し、社会の充満した活力と調和安定を確保しなければならない」と述べ、講話の主旨を説明した。

 胡錦濤は重点的に強化・完備すべきこととして、8項目の意見を提出した。
 (1)社会管理の方式:党指導、政府の社会管理職能、各種企業体・事業体単位の職務、各種社会組織のサービス職務、人民団体、民衆の参加を強化する

 (2)党と政府の主導による民衆の権益保護メカニズム:科学的に有効な利益協調メカニズム、要求表出メカニズム、矛盾調停メカニズム、権益保障メカニズムを構築し、各方面の利益関係を統一的に協調し、社会矛盾の源の統治を強化し、人民内部の矛盾をうまく処理し、民衆利益を侵害する不正の風を正し、民衆の合法的権益を保障する

 (3)流動人口と特殊人群の管理とサービス:全人口の基礎的データバンクの構築

 (4)末端の社会管理とサービスシステム

 (5)公共安全システム

 (6)非公有制経済組織、社会組織管理

 (7)情報ネットワークの管理:バーチャル社会の管理水準の高め、ネット上の世論誘導メカニズムを健全化する

 (8)思想道徳建設

 

 この時期に、省レベルの党委員会書記や首長、国務院の部長らを集めて専門的な研討班を実施するのは、来る全人代で採択される125カ年計画の中心テーマが社会管理にあり、そのことを事前に周知することが目的といえる。その重要性から、胡錦濤自らが重要講話を行い、指示したということだ。

 「最大限に不調和要素を削減する」という言葉が、胡錦濤の最大のメッセージである。社会のさまざまな矛盾が社会の不安定をもたらしていることに強い警戒感をもっているということだろう。

 その不安定要素は具体的には、8項目の意見を逆に読めばいい。(1)はあらゆるもの一体となって取り組まなければ解決できないということ。

 8項目の目玉は(2)だと思う。「民衆の権益保護メカニズム」の構築に取り組む姿勢を表明した点だ。知識人などがこの課題を指摘することはよくあるが、党として取り上げたのは注目される。それだけ、民衆の利益は多様化、分散化し、それが侵害されており、その時民衆は自らの利益を表出し、保障を求める手段がない。そのため、抗議行動など力による表出を行い、社会不安につながっている。それは政治的不安定につながる。こうした点にようやく共産党としても、対応しなければ手遅れになると思ったのだろう。

 この検討班で、省部級幹部が党中央の意図を勉強し、各持ち場で実践していくことになる。具体的にどのように対応していくつもりなのかは、全人代を挟んで明らかになっていくだろう。しかし、それらの対応は「党と政府の指導の下」というお決まりの条件がつけられている。つまり、民衆の権益を守るということは、自由化や民主化という次元ではなく、いかに社会を管理するか、権益表出行動をいかに枠に押し込めるかという意味なのであり、その点は誤解してはならない。

 1つ確認しておきたいことは、この胡錦濤の重要講話が、けっしてエジプトの民主化運動への対応から行われたものでもなければ、ネット管理強化を第一に示したものではないという点。ネット管理も重要だが、それは8項目のうち7番目にすぎない。もちろん危機感を持っているのは間違いないが、大きな危機感はほかのところにある。

昨日19日から北京や上海など各地で「ジャスミン革命」を呼びかける集会の呼びかけがあって、つぶされていることが伝えられている。でもそんなことを私は全く知らなかった。こうした情報は中国国内にいても、みんなが知っているわけではなく、極めて限られた意識の高い人たちのあいだで流れる情報であり、一般市民は関係ないように思われる。実際につぶされたわけだから、大勢に影響があるとは思わないし、当局にはつぶすだけの情報収集能力と物理的能力がある。しかし、10数カ所で同時行動が起きていることには注目しなければならないだろう。横のネットワークがあることを示しているからだ。この点には当局も危機感を抱くだろう。だからこそ社会管理が必要なのである。

 

20110222-1

●パンダ外交は対日関係改善のサイン

1面トップは、中央政治局会議で35日からの全人代の主要議題となる「政府活動報告」と「第125カ年規劃綱要」の各草案について、検討が加えられたこと。この内容については、これまでも見たのでもういい。

昨日22日夜、中国からの日本にパンダ2頭が搬送された。これを22面の国際面が、駐日本記者発の「東京上野にパンダがやってきた」という写真入りの記事で大きく伝えた。その記事では、パンダが日本で大歓迎されていることと、これまでの日中間のパンダ外交の歴史などが伝えられている。

 中国国内のニュースでは昨日も、パンダが四川省を出発するところからの一部始終や、これまでのパンダ外交の歴史、日本でも歓迎ぶりを示す日本人へのインタビューなどが比較的長く伝えられていた。

 これは中国得意のパンダ外交で、対日関係改善のサインと見ていいだろう。現在は、閣僚級の交流がストップしたままだが、全人代終了後に復活するのではないか。特に何かアクシデントがなければ、いい方向に向かいそうだ。

 しかし、復活する閣僚級交流の最初が前原外相の訪中というのは、中国にとっては本意ではないのでは。中国はやっぱり前原さんのことは嫌いだからなあ。それ以前に、日本の事情で前原外相訪中が実現するかどうかの方が疑わしいが。

 

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●中国の平和指向を外人に語らせる妙技

 「国際人士が見た中国の平和的発展」という連載が開始され、第1回目にシドニー大学中国政治経済学教授が登場している。この人のことを議論しても意味がない。中国を称賛する内容に決まっているからだ。重要なことは、なぜこのような連載を始めたのかということ。

 中国の傲慢さに対する国際的な批判が強いことから、いかに中国が平和的発展を望んでいて、そのことが海外にとってもプラスであるということを海外の有識者に語らせる点がミソで、中国のやり方を正当化しよう、海外の脅威論が間違いだということを宣伝する企画である。中国が国際的な批判に非常に敏感になっており、何とかしなければとあれやこれやと考えていることが伺われる。

 ただ、これが『チャイナ・デイリー』ではなく、中国語の『人民日報』での連載だから、誰に向けた宣伝なのか。海外向けではないかもしれないので、その意図は少し慎重に考えた方がいいかも。しかし、こんな企画に有識者として名前が出ることが光栄なことなのかどうか、微妙な気がする。

 

20110223

●群体性事件は増えている

中国社会科学院中国特色社会主義理論体系研究中心による「人民内部の矛盾を正確に処理する能力と水準を引き続き高めよう」という文章。この文章が「群体性事件」と呼ばれる集団抗議行動について触れていた。

 「群体性事件が増加している。人民内部の矛盾が大きく、人々の身近な利益、緊密な地縁、血縁、共同の利益に及び、常に関係する民衆が立ち上がり、近代的な通信、交通が連絡を簡単にし、容易に刺激され、抵抗性の強い群体性事件を醸成し、社会の正常な秩序を混乱させ、社会の調和安定に影響している」

 

 権威的な研究機関が、率直に群体性事件の増加を認めているのが注目点。

 

 そのほか、興味深い記事は以下の通り。

 李長春が全国党委員会スポークスマン第1回培訓班で講話を行った。対外的な顔であるスポークスマンを集めて訓練養成を実施しているが、情報統制とかそういった方面の引き締めのためだろう。

 国務院が全国職業培訓工作テレビ電話会議を開いて、張徳江が講話を行った。就業が大きな問題となっており、どう対応するかということについて、テレビ電話会議を開くぐらいなので、深刻であるという認識の下、対応を指示したのだろう。しかし、別の記事で、記者のレポートがあって、今年の就職難の厳しさが言われているが、その厳しさは昨年の水準と変わらないと打ち消しに必死な面も見られる。

 温州市で、行政訴訟での行政側敗訴で、全国初の処罰を実施下という記事。行政側敗訴でこれまで関係者の処分はあったのだろうか。

 「地方のトップは幸福をどのように見ているか」という記事は、省レベルの党委書記に語らせている。最近「幸福」という言葉をよく見かけるようになった。共産党が民衆に「豊かさ」に替えて、「幸福」というキーワードを投げかけて、党や政府への不満の目をそらせようとしていると考えるのは、まだうがった見方だろうか。