92回 20111月の『人民日報』(2011626日)

 

20110106-1

●「土地財政」問題は決して新しい問題ではない

地方政府所有の土地を開発商に売却して、その利益で地方財政をまかなうことから「土地財政」と呼ばれるが、それは多くの場合、地方政府が農民からが安く収用した土地で、それを開発商に高く売却して、地方政府の利益、ついでに自分の利益を得るという違法行為、汚職行為が問題になっていることは周知の通りだ。このことが多くの農民の集団抗議行動の動機となっているだけに、中央政府もその対応を迫られているがなかなか解決しない。

こうした違法行為を監督、査察する国家土地督察局の2009年の検査で、山西省大同市の新規建築用地375カ所、2万ムーのうち、違法用地が179カ所に及んだことが判明した。

新規建築用地のうち、耕地からの転換が用地の総面積の15%を超えることが「違法」で、大同市の場合は耕地からの転用は1.6万ムーで、総面積の15%を大きく上回った。

201012月に国家土地督察局が、違法行為の深刻な全国の12の市・州・県の責任者と集団面談(約談)を行い、違法行為の特にひどい地方では同局の地方局が地方政府と個別の面談を行うことを決定した。その最初の対象が北京局による大同市政府となった。

大同市はすでに、管轄の11の区について、違法行為を行った6つの区について問責を追求し、762万元の罰金と74人の党規律・政府規律処分を建議した。

直接面談で、北京局は監督、査察を実施し、批評を行い、大同市政府は自己批判を行い、全体的な改革、調査、処置について協議した。

 

土地財政の問題は深刻で、地方政府はやめられないし、中央政府は止められない。そこで、国家土地督察局が、違法行為の目に余る地方に対し、直接面談をするという措置に出たというもの。

2009年の調査のあと、すでに大同市は問責措置をとっているので、この時期の面談は中央のパフォーマンスに過ぎないという感じもする。しかし、早い段階で調査結果が公表されたことで大同市はすぐに措置をとっており、直接面談よりも情報公開の方がはるかに地方政府を動かしているといえる。国家土地督察局の仕事が地方政府の違法行為の大きな抑止力になっていることは確かなようだ。

しかし、国家土地督察局の働きで、地方政府の違法行為が劇的に減るかどうかは分からない。中央の土地財政への厳しい姿勢は一過性のもので、すぐに元に戻るということはよくある。根本的な解決方法は、土地財政に頼らない地方振興のための政策を、中央、そして地方政府が打ち出すことができるかにかかっている。

 

20110106-2

●人民代表大会は何をしているのか

浙江省湖州市で35人の民衆代表の無記名投票により、2011年の民生事業10件が決定された。このことは、17日付の上海の『東方早報』でも取り上げられた。

湖州市では、1998年から毎年10種類の民衆のために実施する項目を選び、新規財政の3分の2を民生領域項目にあてている。しかし、財政にも限界があるため、重点項目を明確にするべきだとして、民衆代表35名による公聴会を開き、無記名投票で2011年の民生領域の実施項目を決定すること実施した。

民衆代表35名の内訳は、8つの街道からの住民代表14名、基層からの党代表、人民代表大会代表、政治協商会議委員18名、退職老同志3名。

201011月から民生領域の実施項目を公開募集し、12345件が集まった。そのうち実行可能性や配置、資金保障などから14項に絞り込み、討論し、無記名投票で、上位10項目を決定した。

市党委書記は「民衆の希望する民生領域の実施項目が多いため、大衆の要請、政府の能力、財政力と統一計画に基づき、検討した」「あなたがたの投票によって今年何をすべきかを決定した」と説明した。

決定された民生領域の実施項目は以下の10件:@住宅保障、A就業・起業の促進、B医療保障、C教育の公平の促進、D市場と物価の監督管理、E社会保険、F養老・障害者援助、G生態建設、H農村環境整備、I公共交通。

出席者の声は「『必要なことを民に問い、はかりごとを民に問う』を実践するもの」「民生の実際の知る権利、選択権を民衆に与えることで、民心を得て、民意に合わせることができる」とおおむね好評だった。

 

民生領域の重点項目を民衆代表が決めるということは、民衆の政治参加の1つの形であると言いたいようだ。この民衆参加は財政支出を伴う重要な政府の予算決定のプロセスでもある。「民衆が参加」するということは一見民主的で、すばらしい政治運営が地方で行われているかのようである。もちろんそれを狙った報道である。

それでは、予算を審議することが重要な役割である人民代表大会はいったい何をしているのだろうか。また政治協商会議は何をしているのか。こんな重要なことを、政治の素人に任せてどうするのか。

市レベルの指導者の意図は何だろうか。自らに、または市政府に決定する能力がないので、民衆に聞くという苦肉の策、無責任な態度なのか。それとも、35名の出席者のうち過半数の18名が党代表、人民代表大会代表、政治協商会議委員という官製メンバーであることから政府案が採択されることは保証されているので、形式的ではあるが民意重視の姿勢をアピールするためなのか。後者であれば、選挙によって選ばれ民意が反映された結果の代表が集まる代表人民代表大会の意義が問われる。こんな無記名投票に参加した人民代表大会代表に自己矛盾はないのだろか。むしろ「光栄」などと思っているのだろうか。地方指導者の政治運営の大きな勘違いである。

 

20110112

●民間団体をどこまで認めるのか

旧正月を前に、党や政府が民衆のことに関心をもっていることをアピールする記事が増えている。ポイントは住宅供給で、これに関する記事がずっと続いている。

さて、中国で初の民間公募基金「深セン壹基金」が正式に発足した。私の理解では、「基金」は社会から集めたお金を社会に還元する組織である。これまでの「基金」は、中央や地方政府の政府機関の下部機関として登録され、活動するものだった。しかし、「深セン壹基金」は、どの政府機関にも属さない民間組織であるという点で注目された。

2010123日に深セン市民政局が正式に「深セン壹基金」の登録を認可した。発起人は、上海李連傑壹公益基金会、老牛基金会、騰訊公益慈善基金会、万通公益基金会、万科公益基金会の5団体・企業。理事会の構成は、李連傑、周其仁(北京大学国家発展研究院院長)、王石(万科集団董事会主席)、馬蔚華(招商銀行行長)、馬化騰(騰訊CEO)、馬雲(阿里巴巴集団首席執行官)など11人で、周其仁が理事長兼法人代表、王石が執行委員会主席、馬宏(深セン市民間組織管理局局長)が監事長。

111日付の北京の『新京報』が「民間慈善が政策を出す特区に期待する」という社説を出して、発足を歓迎している。

 

深センでの試みではあるが、政府が民間基金の組織を認可した意味は大きい。やっぱり深センだ。

民生領域でやらなければならないことがどんどん増えているが、政府だけでは手が回らない。しかし、それらにキチンと対処しなければ、民衆は政府に不満を持つため、社会不安につながる。そのため、政府側には、民間基金組織に委託し対応しようという背景があるというのが私の理解である。

日本では民間委託はよくあることだ。しかし、これは中国の話だ。民間組織への委託はリスクを伴う。今回、政府は目先の安定を求めて、民間基金組織を認めてしまった、合法化してしまった。今回の壹基金のような比較的政府と関係が見える民間組織ならば、政府にとって安心だろう。しかし、長期的に、どんな民間基金組織が認可を求めてくるか分からない。今回壱基金を認可したことで、当局にとって都合の悪い民間組織が設立を求めるチャネルを作ってしまったというのが本質ではないだろうか。それだけ、政府は民生問題への対応で追い込まれているということの裏返しでもある。

 

20110113

●レイムダック化を回避したい胡錦濤の原点回帰

111日まで開かれていた中央規律検査委員会全体会議で、胡錦濤が重要講話を行っているが、それについて「以人為本、執政為民」(人を基本とし、民衆のための執政を行う)という部分が大きく取り上げられ、ここ数日紙面を飾っている。今日も、関連連載の評論員文章のタイトルが「以人為本、執政為民の思想基礎をしっかり打ち立てよう」というものだった。

その内容はポピュリズム的なもので、党員は民衆のことを第一に考えて、汚職なんかしないで政権党として政治運営を行おうという内容で、共産党にとっては当たり前のことだが、問題にしたいのは内容ではない。

「以人為本、執政為民」という1つの政治スローガンは、胡錦濤政権発足直後の2003年ごろに提起されたものだ。その後大きく取り上げられなくなった。そのため、ここ数日大きく取り上げられていることが、奇異に感じられたのである。そこには胡錦濤をめぐる政治的な意図があることは間違いないだろう。胡錦濤がレイムダック化を回避するために、原点回帰し、存在感をアピールしているように思われる。

 

113日の夜の上海東方テレビのニュースは、深センで公共交通の従業員が賃金の決め方への不満を理由にデモを行ったことを報じ、警察と衝突している映像、けが人の様子も映像で流した。乗務員の若い女性らが取材に対し、所属によって賃金水準が違うことへの不満を訴え、従業員と経営者が交渉を行っていることも伝えた。旧正月を前に賃金引き上げを求めた従業員の行動だろう。

地方局のニュースなどでは、このようなデモや警察との衝突の映像が頻繁に流れている。かつては見ることはなかったので、時代が変われば報道も変わるものだと思う。報道していい内容の基準を当局が下げているわけでだが、報道の自由が拡大したというよりも、むしろ乱れていることを示しているのではないか。一党支配にとっては自殺行為だと思う。

 

20110114

●死亡者数は減少しても、炭鉱事故の深刻さは変わらない

国家安全監督総局が、2010年の事故による死亡者数は7.95万人で、3年連続減少したと発表した。

総局は、第11次五カ年計画期の5年間の推移を発表し、炭鉱事故などの安全生産事故件数では、2005年の71.8万件が2010年には36.3万件と49.4%減少。同死亡者数では、2005年の12.7万人が2010年には7.95万人と37.4%減少したなど、5年間で顕著に減少したと成果を強調した。

他方、第12次五カ年期には安全生産工作にはさらなる厳しい状況が出てくると指摘した。

(1)安全生産に対する民衆の期待が大きく、安全生産工作が直面する圧力が大きくなっている。

(2)工業化、都市化の進展が加速するに従い、各種の工業生産規模や就業人数が拡大するため、表面に現れない重大特大事故が増加する。

(3)11次五カ年計画時にいったん閉鎖の取り締まりを受けた小規模炭鉱が復活され、ガバナンス任務はさらに困難になる。

(4)12次五カ年計画の各種建設プロジェクト、新規投入項目が多くなり、安全についての隠れた危険に対するガバナンスや安全監督管理の任務が多くて重くなる。

 

中国では五カ年計画があるので、「5年前と比べて」というデータ比較がよくあるが、当該五カ年計画の中身の検証があって、5年ごとのデータ比較をやらないと、あまり意味があるとは思えない。当該部門としては、悲惨な炭鉱事故などが報道され、非難の矢面に立っているので、事故件数、死者数などが減少傾向にあることをアピールしなければならない。しかし、炭鉱事故は後を絶たないのだから、なぜ起こるのかという原因究明の方が大切だ。

12次五カ年計画期の懸念材料が指摘されているが、隠れた危険がいっぱいあり、この先も不安だらけのようだ。炭鉱をどう統治、管理していくかを問題視しているが、地方政府の能力が問われているということに尽きる。しかしこれもずっと前から言われていることで、懸念は地方政府の対策がうまく進展していないことを示している。

 

李克強が欧州訪問を終了した。外交部副部長による外遊の総括とともに、随行の経済担当者の総括が掲載された。訪問前にも商務部による関連ブリーフィングが掲載されており、経済を前面に押し出したイメージ作りをしてきた感がある。外遊中の映像でも、李克強が自信たっぷりの振る舞いをしており、次期政権では「経済は俺が仕切るぞ」オーラを存分に発揮しているのではといううがった見方をしてしまう。経済担当を王岐山と争うのかと思って見てきたが、どうやら軍配は予定通り李克強にありという感じだ。

 

20110117

●大学院受験者急増の問題

大学院受験者の急増に関する特集が掲載されている。社会の高度化に伴い専門性を備えた大学院教育の重要性は認める、受験者が急増していることに疑問を呈している。

問題点の1つは、1人の先生が指導する大学院生の数が増えて、指導が十分行き渡らないこと。もう1つは、大学院生数は増えたが、学生のレベルが下がっていること。大学院の授業が学部の授業のレベルになっているという。就職できないから大学院に進学する学部生。公費を使って修士号だけ欲しい地方の幹部。他方、授業料で稼ぎたい大学側。両者の利害は一致しているから、余計にやっかいな問題だ。

 

20110119

●都市末端に居民議事会

「四川省成都市で居民議事会が社区民主を主導している」という宣伝記事が掲載された。20103月に試行され、居民議事会のメンバーは30人前後。「基層民主の新たな伝達手段を推進しよう」という論評も掲載された。

 

都市の末端管理を担う居民委員会以外に、居民議事会という組織があるようだ。行政の居民委員会に対し、議会の居民議事会といったところだろうか。住民の参加チャネルがあることを宣伝しているのだが、都市の末端レベルには居民委員会の他にも、街道弁事処や社区といった組織もあり複雑だ。こんなにたくさんあってうまく役割分担ができて機能するのだろうか。

 

20110122

●農村には村民監督委員会

陜西省では27113カ所の村に「村民の事情は村民自らが管理監督しよう」という目的から「村民監督委員会」が設置されており、その活動の様子が紹介された。

廬県pang光鎮東村村では、村民監督委員会のメンバーは、党支部、村民委員会、村民代表会議などあらゆる会議に参加し、200元以上の領収書を審査し、承認のサインをする。

渭南市華西鎮では、党支部、村民委員会での民主的な政策決定を促したことで、鎮全体の1年間の1人あたり収入が3100元から6500元に増加した。

陜西省中央規律委員会は、村民監督委員会が村民の村レベルの事務に対する知る権利、政治参加の権利を行使すると評価している。

 

この記事から、農村に「村民監督委員会」という組織があることが分かった。都市の末端同様、農村にもたくさんの組織がある。よく知られている党支部、村民委員会、村民代表会議などとの人的重複がないか調べる必要があるが、これだけの種類の組織があると村運営がぐちゃぐちゃにならないのだろうか。知る権利、政治参加の権利の行使などというのは、きれいごとのような感がある。

 

20110123

●村民自治は党との癒着から逃れられない

江蘇省連雲港市の村全体で、「三会村治」が展開されていることを宣伝する記事が掲載された。

「三会村治」とは、3つの「会」が村民自治を実施しているということで、「村権三分、三会自治」、つまり、村の権限を3分割し、3つの「会」が自治を実施していることを指す。

3つの「会」と村の権限の関係は、@村民委員会(政策決定権)、A村民議事会(管理権)、B村民監事会(監督権)になっている。

連雲港市党委員会副書記は、「三会村治」の本質が権力の制御バランスであるといい、党支部書記の独断専行を抑制することが狙いだという。

これら3つの村民自治組織と村の共産党支部との関係は、村党支部書記が村民議事会主席を兼務し、村党支部委員が選挙を経て村民議事会メンバーになる。村党支部副書記が村民監事会主席を兼務する。村民事務の政策決定権は村民議事会を通じて村民全体に帰属し、村党支部メンバーといえども一票の権利しかない。

「三会村治」の結果、各村では経済発展や民生事業の促進で効果があり、農民1人あたりの収入が20%近く増えた。たとえば先行実施区である海州区の沙杭村では、村民議事会が村党支部の提起した「花卉産業、農業観光、生態観光による発展」の方針を採択し、村民委員会がこれらの方針を執行し、2010年の村民1人あたりの収入を8000元に引き上げた。

この「三会村治」モデルについては、村の幹部はもともと資金がないという問題にも頭を悩ませているという。海州区党委員会常務委員も、村の事務権、財務権の公開透明の問題を解決した点を認めながらも、発展についてはこれからの問題で「パイ」の分配だけでなく、「パイ」の拡大が今後の課題という。

 

連雲港市の農村の状況についてまとまった報道だ。農村における党支部書記への権限集中が農村の発展の障害になっているため、権力分散、監督機能の強化が狙いである。しかし、そこには党支部と「三会」の癒着構造が見られ、これで本当に権力分散ができるのかという素直な疑問がわく。これでは、村民自治を掌握して、党支部の権力を強化することにしか思えない。確かに、スタートダッシュの段階では成果が出ているようだ。しかし、村民自治に独立性がない限り、党支部と「三会」の癒着は時間が経てば、マイナスの影響となるだろう。さらに、農村の問題は、「パイ」の分配よりも、「パイ」の拡大であるという指摘はまさにその通りで、農村では政治の民主化よりも経済発展が優先である。「三会村治」は大事なことだが、経済発展にとって有効なのだろうか。

 

20110124

●国防費予算2ケタ増を目指したアピール

民生部長が解放軍4総部、各軍、武警総部などの末端官兵を慰問した。

この1年、定年退職した軍人などの優待慰問対象者への待遇がよくなった。重点優待慰問対象者への救済補償基準は12年連続で10%ずつ引き上げており、中央財政は12.3万人の抗日戦士に3.7億元の慰問金を支給した。

2010年の優待慰問経費は234.2億元で、対前年比20.2億元増加した。優待慰問医療補償改革を実施し、優待慰問対象者が1カ所で精算ができるメカニズムを構築し、全国の98%の県で新型の優待慰問医療保険制度を構築した。

 

旧正月を控え、党や政府は弱者に対し、関心を持っていますよというサインを送るのが恒例。そんな記事の中で、民生部長が末端の軍人らを慰問したというのは以外だった。軍の民生工作に文官部門の民政部が関わっているからだ。

昨年2010年の国防費予算が5321億元だったので、優待慰問経費の234.2億元は、約5%にあたる。優待慰問経費が国防費に含まれるのかどうか分からないが、この時期に優待慰問費の具体的な数字を出して、それが毎年10%ずつ増えていることを報道したことは、民生部門が財政投入に積極的であることをアピールとともに、軍も民生分野で費用が多くかかっていることをアピールしているのではないか。

まもなく、全人代が開催される。私の関心の1つは昨年2010年、22年ぶりに7.5%増と1ケタにとどまった国防費予算の伸びが今年2ケタに戻るかどうかにある。そのため、この優待慰問経費の数字が出たことは、国防費予算増額の何らかのサインではないかと深読みしてしまう。

 

20110125

●温家宝が庶民派宰相ぶりをまたまたアピール

温家宝が12122日に河南省の末端農村を視察して、政府活動報告への意見聴取を行った時のルポが掲載された。

21日の夕食後2230分までの2時間半、21人の代表との座談会で意見聴取をした。温家宝は「人民政府は人民に奉仕するものです。民衆の生活をさらに安心させ、心配のないものにし、のんびりしたものにします。政府工作報告、第125カ年計画、政府工作の善し悪しの判定で、皆さんがもっとも発言権を持っています」と発言。

物価高の問題では、卵の値段が500グラム4.46元というのを聞いた温家宝が「今日の全国平均が4.84元だから、高すぎるということはない」と発言し、総理が価格状況をちゃんと把握していることに出席者は驚きの声を上げた。温家宝は農産品の流通網の整備の必要性を強調。

そのほか、医療保険制度、失業者の再就職と生活保護、サービス業への支持、住宅問題が議題に上った。

22日の昼間の座談会では、村企業に対し担保がないので融資がされないため、傾斜的な政策融資を希望する声、無農薬野菜の生産への政策支持、農民工の増加による農業技術者の不足などが温家宝に伝えられた。

 

温家宝の地方視察で、末端農村に出向いたことをルポすることで、党や政府が末端農民のことを気にかけていることを強調しようという意図だ。特に旧正月前でいいタイミングだ。さらに温家宝の庶民的な一面がまたアピールされるという効果もある。

 

20110126

●温家宝が陳情者と交流

温家宝総理が国家信訪局を訪問した。国家信訪局と言えば、中国の伝統的な合法的な人民の異議申し立ての受け入れ機関であり、陳情者が全国各地から集まるところと言われている。中華人民共和国史上初の総理による陳情者との交流が実現した。

訪問の意義を温家宝自らが語る。「人民大衆の政府に対する異議や提案を提出するチャネルを拡大し、条件を整え人民大衆に政府を批評、監督させ、責任をもって人民大衆の困難や問題を解決しなければならない」、「こうやって、政府工作のどこに問題があるのかを理解したい。どうか何の制約もなく、実事求是に状況を話してほしい」

座談会に参加した陳情者は8名。それぞれ次のような窮状を訴えた。

@天津から来た人:農民工に対する給与未払い問題

A吉林省から来た人:都市の簡易店舗の立ち退き問題

B山東省から来た人:農村戸籍をもつ子供に土地が配分されない問題

C内モンゴル自治区とD湖北省から来た人:農村の土地収用と家屋の立ち退き問題

E河北省から来た人:炭鉱作業での障害に対する補償問題

F山西省から来た人:労務派遣での養老保険問題

G江蘇省から来た人:農地の収用問題

座談会の成果を温家宝は次のように語った。「個別案件の理解だけではなく、さらに重要なことは政府工作や制度、政策のどこに問題があるのかが理解できたことだ」「われわれの政府は人民の政府であり、われわれの権力は人民が付与してくれたものだ。手中にある権力を使って人民の利益を謀るべきであり、責任をもって人民大衆の困難や問題を解決しなければならない」、「各種の行政手続きを社会に対して公開し、あらゆる行政行為は社会の監督を受け、すべての行政権力は公開の下での運用を確保しなければならない」

座談会参加者も次のように語った。「総理がこんなに近くで交流してくれるとは思いもよらなかった。私は総理の人民に近づき、実務を重んじるやり方を深く実感している」「各レベルの指導幹部が総理のようにわれわれの異議に常に耳を傾けてくれることを希望する」。

 

全国各地から陳情者が集まってくる国家信訪局に出向いて、直接陳情者から話を聞くという、トンでもないことを温家宝がやってのけた。こんなリスクの高いことができる指導者は今では温家宝しかいない。さすが温家宝だ。

もちろん、座談会に参加した8人は、本当の陳情者ではなく、仕組まれた人たちで、すべては滞りなく進むようお膳立てされたものである。それでも、総理自らが陳情者から話を聞くというパフォーマンスを行った意味は大きい。

1つはタイミングであり、満ち足りた気持ちで旧正月を迎えたい生活困難者の気持ちを和らげようということが一番の意義だろう。生活困難者に党や政府が私たちのことを気にかけてくれていると思わせるのは、庶民派と目されている温家宝しかいない。社会安定のために必要なパフォーマンスである。

また「仕組まれた問題提起」も、現在中国が抱える庶民レベルのもっとも深刻な課題ばかりであり、全人代を控え、党や政府がこれらに関心を持ち、解決に向けて力を入れるというアピールとなるだろう。

さらに、地方政府にカツを入れる意味もあるだろう。国家信訪局への陳情は、末端政府など地方政府は解決してくれないので、北京に行って実情を話し、関心を引こうという行為である。最後に座談会参加者に地方政府への希望をしゃべらせたのは、地方政府に「もっとちゃんとやれ」という温家宝の指示を代弁させたに等しい。

温家宝を国家信訪局の視察に追い込んだのは、地方政府がちゃんとやっていないことへの中央の不満の現れである。温家宝の思いは地方政府に伝わるのか。

 

20110127

●住宅価格高騰をストップさせたい

国務院常務会議が開かれ、重要な指示が出された。「新国八条」という、不動産市場の統制工作の8項目の新たな指示である。8項目は以下の通り。

(1)地方政府の責任=各都市の政府は四半期ごとに新築住宅の価格抑制目標を公布する

(2)保障的安居プロジェクトの強化=住宅保障制度のカバー領域を次第に拡大し、公共賃貸住宅の供給を増やす

(3)関連税収政策の整備=個人購入の住宅の5年以内の転売には、売却収入の全額に営業税を課す

(4)差別的な融資政策の強化=2軒目の住宅購入には頭金比率を60%以上とする

(5)住宅用地の供給管理の厳格化=今年の商品住宅用地の供給は原則として過去2年の平均供給量を下回らない

(6)住宅需要の合理的誘導=主要都市の2軒以上の住宅保有家庭は当地でのさらなる住宅購入を認めない

(7)住宅保障と住宅価格の安定工作の問責メカニズムの実施

(8)世論誘導の堅持と強化=国情から出発して住民の理性的な消費を誘導する

 

インフレ懸念が深刻で、その原因の1つである住宅価格高騰をどう抑えるか。これは政府の喫緊の課題である。「新国八条」は、国務院が不動産市場の統制に乗り出す重要な指示である。

「新」とつくのは、20104月に国務院常務会議が不動産市場の統制の10項目の指示、「国十条」というのを出しているからだ。しかし、それが功を奏さなかったからなのか、それとも新たな状況への対応からなのか、新たな指示を出さなければならなかったということだ。

「新国八条」の精神は、投機的住宅売買を抑える一方、本当に居住するための低価格の住宅供給は拡大するというもの。その精神を貫徹するためには地方政府の責任が第一としているのが注目だろう。結局、中央がいくら投機的な住宅売買を抑えようとしても、地方政府が投機的だろうが何だろうが土地を転がすことで「おいしい」思いをしているので、いっこうに統制できない。「土地財政」も無関係ではない。地方に対する中央の統制力にかかっている。

他方、住宅は生活のもっとも基本となるもので、民衆に安定した住宅供給を図らなければ社会不安にもつながる。合理的な価格で民衆に住宅を提供しなければならない。その意味では、春節を前に民衆に住宅価格高騰をストップさせようという強いメッセージを中央が出したことの意味は重要である。

 

20110128

●重慶市が不動産税徴収改革の試点実施

昨日29日の「新国八条」の発表は重大事項で、国務院弁公庁が8項目をまとめた「不動産市場のコントロール工作をさらに立派に行うことに関する問題についての通知」を通達。国家税務総局も個人の住宅転売から営業税をとることを決めた。動きは早い。

さらに26日の国務院常務会議が、一部地域で個人から不動産税を徴収する改革試点の実施に同意しており、上海と重慶で試点工作が始まることが発表されている。

 

「新国八条」の発表は29日の国務院常務会議だったが、弁公庁や国家税務総局の準備は周到で、不動産税の試点工作については1年くらい前から言われており、「新国八条」はすでに各省庁間で調整が行われていたということだろう。

それにしても、今回もまた「重慶」だ。しばらく前の『21世紀経済報道』に、不動産税改革の試点都市に「なぜ重慶が?」という記事が載っていた。上海市は住宅価格が高騰しているから試点になるのは理解できる。重慶はそんなに高騰がひどくない。それでも同紙は一生懸命に意味付けをしていたが、苦し紛れは否めない。

最近私の周りでも重慶ネタは尽きない。上海で見ることのできる「重慶衛星テレビ」。20時というゴールデンタイムに、建国前後を題材にした革命映画が毎日放送されている。また「紅軍歌合戦」とか、革命関連のドラマやドキュメンタリーも他の地域の衛星テレビよりも多い。

これもすべて重慶市のトップ薄煕来党委員会書記の一存だろう。不動産税の試点工作も、各地に先がけて重慶でやって、自分の成果をアピールしようという意図だ。革命一色にするのも、党への忠誠をアピールして支持層を拡大するためだろう。ここまでやると、「薄煕来あっぱれ!」。決して好きなタイプではないが、見ていておもしろい。これだけやって、第18回党大会でどこまで出世するのか。本当に薄煕来からは目が離せない。