90回 201011月の『人民日報』(2011412日)

 

20101108

日中関係の悪化は、日本の若手政治家の責任か

呉懐中の「日本政界の若手政治家の台頭と誤った判断」と題する評論が掲載された。

呉は、高度経済成長の時期に生まれ、小泉政権下で政治の舞台に出てきた若い世代の政治家が現在日本の政界で発言力を増しているという。たとえば、民主党の前原、枝野、原口、長島ら。自民党の安倍、石破、石原らである。

彼らの特徴は、内政外交で大きな改革を主張し、強硬。集団で行動する現象が見られるという。

対中政策については、「中国脅威論」を警鐘し、米国と共同で中国を抑え込み、多国間協力で中国に備える、特に軍事的に。一部の若手には中国に対する中傷発言が常に見られ、日中間の脆弱な国民感情を損ね、世論の雰囲気を悪化させ、両国関係を損ねる。若手政治家は「国家利益」に異常に執着し、日中関係の大局のための政策調整を拒絶し、個別の対立の発生の可能性を高めているという。

 

尖閣船長逮捕事件で、中国が前原外相をターゲットにする報道が多々見られる。また最近の『国際先駆導報』にも、反中国色の強い日本政界の若手政治家の台頭を警戒する記事が掲載されていた。『人民日報』でも同様の評論が掲載され、いよいよ当局お墨付きの論調になったのかという感じ。もちろん、菅政権に不満を持つ民主党内外の動きとも関係しており、日本国内の要因もある。この点は呉も指摘する。しかし、若手政治家をここまで反中国に追い込んでいるのはなぜなのかという根本的な議論を呉は展開していない。

他方、若手政治家批判は、悪化した対日関係の出口を見つけることのできない中国側の苦肉の策のようにも見える。つまり、若手政治家をスケープゴートにして、日中関係全体の悪化を回避しようということだ。つまり、中国は対日関係の改善をあきらめてはいない。短期的には、中国に対する「非若手」政治家の力量が試されるし、中国側も彼らに期待している。

 

20101110

難しい都市住民の末端管理

「都市の社区居民委員会の建設工作を強化、改善することに関する党中央弁公庁と国務院弁公庁の意見」が発表された。都市末端の自治組織である居民委員会(居民委)をコミュニティーに相当する社区ごとに設置することについて、党と国務院が連名でわざわざ指示を出したということは重要な政策といえる。27項目からなる文件だが、そのうち党との関係、メンバーの人選などに関する項目に注目した。

(2)基本原則:@党の指導の堅持、A人を基本とすることを堅持し、居民民衆に奉仕する、B政府主導、社会の共同参加を堅持する、Cその地の事情に適合することを堅持し、工作の実効を重視する。

(7)社区居民委の設置を加速させる。

(10)社区居民委には一般的に59人を配置する。社区党組グループのメンバー、社区居民委メンバー、業主(不動産の所有主)委員会メンバーの交差任職を提唱する。社区の民警や大衆組織の責任者が民主選挙の順序を経て、社区居民委メンバーを担当することを奨励する。党政機関や企事業単位の在職、或いは定年退職した党員幹部、社会的な著名人、社区の専職工作を担当した人員が社区居民委選挙に参加し、民主的な選挙を経て、社区居民委メンバーを担当することを奨励する。

(12)積極的に優秀な社区居民委の工作人員を養成、発展させ党員とし、積極的に条件のあった優秀な社区居民工作人員を各レベルの地方の党代表大会代表、人代代表、政協代表、模範労働者に推薦し、優秀な社区居民委メンバー、社区専職工作人員の中から公務員に採用し、街道(郷鎮)機関、事業単位に選任し、指導幹部の力量を高める。

(13)党内基層民主の拡大をもって、社区居民民主をもたらすことを堅持する。

(14)社区党組織が居民委選挙工作に対する領導と指導を強化し、民主的な手順で選挙に参加しない社区党組織の責任者を居民選挙委員会主任に推薦し、居民選挙委の工作を主管することを提唱する。社区居民委選挙は居民が推薦し成立した居民委が主管する。居民委選挙委メンバーのうち法に基づき、居民委メンバーの候補者に確定した者は居民選挙委を辞任し、欠員には前回の選挙結果の次点者を補充する。

(19)社区党組織の領導を自覚的に受ける。

 

都市の居民委員会と農村の村民委員会は、末端の自治組織として位置づけられている。しかし実際には、行政を代行する組織であり、共産党が当該地の党組織とともに住民を管理するための支配の道具だというのが私の基本認識である。そういう観点からこの意見を見るので、上記のような点に関心がいく。

社区居民委も「党の指導」を受けることが基本原則であり、メンバーの人選では党組織の意向が強く働く制度になっている。また、居民委のメンバー、またその下部組織のメンバーを党員、また当該地のリーダーに養成しようというように、居民委を共産党員のリクルートの場と位置づけているようで、非常にうまく設計されている。ただし、居民委のメンバーの選出方法については言及されていない。これは別の文件、もしく法規があるからだろう。

一般住民の多様化に伴い、末端の住民管理が難しくなっている現状で、共産党は末端には複数の組織を設置している。しかし、その違いはよくわからない。そんな中で、社区を1つの単位として居民委を設置するのは、共産党が末端管理の強化の有力な手段と考えているからである。これから社区居民委を全国に波及させるのだろう、が共産党の末端管理の救世主になるだろうか。

 

20101111

「弱者」って誰のこと?

車をもっていても、大学の教諭でも、自分のことを「弱者」だと言っているが、「弱者」っていったい誰のことか。現在策定中の第125カ年計画が何に重点を置くか、ということに関連して、「弱勢群体」(弱者集団)についての特集が掲載された。

1.「弱勢群体」という言葉は、早くは20023月の全人代政府活動報告で正式に使われた。社会的な定義は「農村の貧困人口、都市の失業者、下崗従業員など特定の人たち」というものだが、昨今の状況から心理的な「弱勢心理」が働き、自らを「弱勢」という人が多い。

2.2009年には年収1196元の貧困水準以下の農民は3597万人。都市の低所得世帯には2340万人がいて、毎月1人あたり160元の補助がある。近年ではこうした経済的な「弱勢」だけでなく、強制的な土地収用や地下レンガ工場火災、給与未払いなどの事件で合法的な権益を侵害されている農民や農民工、都市の貧困住民などのことも指す場合もある。

3.利益を表出するチャネルが開通し、利益強調メカニズムが完備され、法律援助のカバー範囲が拡大されることが「弱勢群体」扶助の重要な点である。メディア、工会(労働組合)、社会団体、行業協会などの組織、政府指導の下での協商対話制度や利益表出制度の形成が必要。また利益表出した際の権益侵害などのコストを考慮し、主張することあきらめる弱勢群体に対する法律の保護も必要。

4.結局は公共政策が先決:第125カ年計画でも「民富」(民が豊かなる)を掲げ、対策を練る。「弱勢群体」の地位を高める制度設計(たとえば戸籍制度改革)、民間社団組織の発展、流動人口の選挙権の保障や社区事務への参加権が必要。

 

「弱者」について定義が列挙されていて便利な記事だった。「弱者の利益表出チャネル」の整備が必要、との認識は、公然のものになっていることも再確認。

 

20101112

物価上昇に対する国家発展改革委員会の見方

国家統計局が、10月末での経済統計を発表した。

10月期工業生産:対前年同期比で13.1%増、前月の増加率に比べ0.2P

1-10月期都市固定資産投資:対前年同期比で24.2%増、対1-9月期の増加率に比べ0.1P

10月期消費者物価(CPI):対前年同月比4.4%増、前月のCPI上昇率に比べ0.8P増、対前月比0.7%増(対前月比で、野菜価格が5.3%増)

このうち、CPIのデータに対し、国家統計局と国家発展改革委員会がコメントしている。

【国家統計局】

CPIの個別要素:対前月比で食品価格が10.1%上昇し、CPI74%を占める。住宅関連の価格は4.9%上昇し、CPI16.6%を占める。

要因:(1)海外要素:@海外の農産品価格の上昇、A原材料価格の上昇、特に原油価格の上昇が、国内の生産コストを引き上げ、B流動性、(2)国内の自然災害が農産品価格を引き上げ。10月は海南省の洪水

【国家発展改革委員会】

価格司の周望軍副司長:短期的な原因ではなく、世界的な過剰流動性、海外からのホットマネーの流入の影響(投機的売買による石油、綿花、砂糖の価格の引き上げ)

張平主任:10月以降新たに非食品類の価格上昇が出現。食品価格に高度に注視。CPI上昇率は初期目標の3%を上回りそう。

発改委の取るべき措置:物価の上昇幅を一般の消費者が受け入れ可能な範囲内に抑えることであり、@農業生産の増加、A物資の配置や輸出入の調節手段による供給の保障、B市場の価格監督の強化、C低所得者層への補てん。

 

当局は、CPI上昇率を3%未満に抑えるという目標を掲げているが、このデータに対する中央のマクロ経済関連官庁の見方は異なるのだろうか。【中国人民銀行】は、この統計結果を見込んで、10日に1116日から預金準備率を0.5P引き上げることを発表している。 以上のような発言や対応策で、見方の違いが見えてくるのか。もう少し勉強して、まとめてみたい。

 

20101114

日中首脳会談を、「会って、話をした」との扱い

胡錦濤が、横浜で開幕したAPEC首脳会議で菅首相と会談した。

報道には、両国間の個別問題について、言及はなかった。特に注目したのは次の2点。

(1)「両国は共同で努力し、民間と人文の交流を粘り強く続け、両国人民の相互理解と友好の感情を増進しなければならない」

(2)「両国は二国間相互協力を引き続き深化させ、国際問題で対話協調を強化し、共同でアジアの振興に力を入れ、共同でグローバルな挑戦に対応しなければならない」

 

日本側の希望が叶って、菅首相の胡錦濤との会談が実現したようだ。この会談を『人民日報』は「会って」(中国語で「会晤」)、「話をした」(同「交談」)と伝えた。「会見」とか「会談」ではない、という扱いだ。

104日のASEM首脳会談での温家宝と菅首相の25分間の会談についての報道では、「交談」とだけ表現され、その内容も箇条書きという扱いだった。

1030日のハノイでの温家宝と菅首相の10分間の立ち話は、『人民日報』の報道すらなく、外交部は115日の記者会見で「時節の挨拶を交わした」(「寒暄」)と表現した。

こう見てくると、尖閣事件以降の中国首脳と菅首相との会談が、ことごとく軽く扱われてきたことがわかる。今回の胡錦濤との会談も、「会見」とは表現されていないので、依然として軽く扱おう、そう簡単に関係改善とはいかないよという中国側の意思を示したものといえる。しかしこれは誰に向けた意思だろうか。国内向けだろうか。

それにしても、いつ、誰が最初に関係改善の意思を明確にするのか。本当は今回の胡錦濤の首脳会談が絶好のチャンスではないかと思ったが、そうはいかなかったようだ。もちろんそうさせない国内事情があるのだろうが、それを決断できない胡錦濤の権威、権力の脆弱さを示しているともいえる。所詮胡錦濤もこの程度だということか。

しかし、胡錦濤は首脳会談で2つの重要な点に言及した。1つは民間外交と良好な国民感情の重要性に言及したこと。もう1つは、国際問題に対する日中の協力をテコにした関係改善のシグナルである。これは明らかに対米国を念頭に置いている。

この2点は、胡錦濤に日中改善の意思があることを示している。しかしその改善が、二国間の懸案事項の解決によるのではなく、対米共同戦線によるとする一種の「棚上げ」論は、自分勝手だなあという印象だし、これには日本は乗れないし、乗っていけない。

 

20101115

こうやって政府は市場に介入する

「福州市はこうやって野菜価格に介入する」というルポが掲載された。

全国的に物価高が問題になっている。福建省福州市では、政府介入で農産物の値上がりを抑え得ているという。どうやって福州市政府が介入しているのか。

福州市の野菜供給は、卸売りの7割を占める国有企業の「福州民天集団」傘下の野菜卸売市場で行われている。民天集団は市政府の要求に基づき、市場価格よりも低い「協商卸売り価格」でスーパー(小売り)に卸し、民天集団はスーパーに対し「協商販売価格」を上回らない価格で販売するよう要求する。

「このような方法は法律上の強制力はない」のだが、「協商卸売価格」が「協商小売価格」よりも低いことで、スーパーの利益は保障される。また「協商卸売価格」は時価の卸売り価格よりも低いことが多いので、スーパーも民天集団から野菜を仕入れる。そのため、このシステムは機能する。

この過程で、市政府は国有企業の民天集団に直接指令を発し、民天集団は野菜の仕入れ価格と「協商卸売価格」の差額を市政府から補てんされる。

 

興味深いのは、市政府の市場への介入方法で、卸売市場シェア7割という国有企業を通じて行っている。そして、卸売価格と差額を市政府が補てんするという典型的な政府と国有企業の関係である。

確かに市民の台所に直結する野菜価格の高騰への対応という点では、この関係が有利に働いているように見えるし、またスピーディーな対応が可能である。市民は大喜びだろう。しかし、報道も指摘するように、そもそも価格が上がっているのは、供給不足が問題なので、生産量アップにこそ市政府は取り組まなければならないだろう。

 

さて、中央と地方の指導者の長い文章が3本掲載された。

(1)李克強「『建議』の主題、全体の脈絡を深く理解し、経済社会の全面的協調、持続可能な発展を促進しよう」

(2)王兆国「中国の特色をもつ社会主義法律体系を形成することに関するいくつかの問題」

(3)張宝順(安徽省党委員会書記)「楊瀋浩精神を大いに広め、創先争優を深く推進しよう」

この3名の共通点は、胡錦濤直系のいわゆる「共青団中央出身者」であることだ。

それぞれの論文はそれなりの意味があるわけだが、胡錦濤直系の3人がそろって登場というのは不自然だ。何をアピールしたいのかはわからないが、何らかの政治的な意図を感じる。それにしても最近の李克強はがんばっていると思う。

 

20101116

いつもながらご苦労なプロセスを経ている

湖南省長沙市の衛生局長、公路管理局長など5つの正職ポストで、競争選抜が実施され、そのプロセスが紹介された。

1カ月以上の時間をかけ、8つの段階を経て決定する。そのうち、定数以上の立候補、専門家による選択、競争選挙の諸段階は、テレビ、インターネットを通じて生中継された点が注目された。

101日の公布後、5つのポストに自薦、他薦、組織推薦によって140人が立候補申請し、資格審査を経て118人が立候補を認められた。

このケースの特徴は「大差額」と呼ばれる選出方法である。各ポストの候補者は市党委員会(拡大)会議で10人に、専門家の選択で5人に、非公式の討議で2人にしぼられ、市党委員会全体会議の投票で1人が選出されるというもの。

1017日の専門家の選択段階では、中央組織部、衛生部、交通部、清華大学からなる専門家評議委員団のほか、25人の一般民衆代表からなる評議団が加わる。一般民衆代表は40人の候補者からくじ引きで決まった。一般民衆代表の評価は評価全体の40%を占めた。

市党委員会(拡大)会議で10人に、専門家の選択で5人にしぼられ、市党委員会全体会議の投票で1人に決まる3つの段階は生中継され、票数が公開された。特に1110日の最後の投票に関心は高まり、5つのポスト計10人の候補者に対し、市党委員会の委員や候補委員らとの質疑応答が行われ、投票が行われた。

長沙市党委員会書記は、組織的な厳格な秩序、公開透明な手続きで選ばれ、幹部大衆の知る権利、参加権、選択権、監督権が拡大し、幹部選抜工作の公平、公正、公開が促進し、民主の範囲を拡大したと評した。

 

こうした地方レベルの幹部選出の報道を見ると、いつもながらご苦労様という感じである。たかが県レベルの市の局長を選ぶのに、中央官庁から人が派遣されたり、民衆代表を参加させたりとこんなにコストをかける必要があるのだろうか。

民主的ではない国が民主的であることをアピールするために行う「勘違いの民主」である。中央官庁から人を呼ぶなど民主ではなく、利益誘導のための「接待」にすぎない。

しかし、こうした局長ポストの公開選抜が、党や政府といった当該地の統治機構が民衆から統治の正統性を得るための手段となっていることも確かである。

トップが公選されることで正統性を得て、局長ポストをトップ自らが任命する権限を委譲されるというのが、われわれの知っている方法である。しかし、中国はトップを党が任命する「党管幹部」制度なので、こうした幹部選出方法でもないよりもいいして善しというべきなのか。それとも、トップを党が任命することがそもそもおかしいということを指摘すべきか。いつも自問自答させられる。

 

20101118

物価高に政府が介入します

国務院常務会議が開かれ、現在の価格情勢を分析し、消費価格水準を安定させ、民衆の基本生活を保障する政策措置を指示した。

現状認識:7月以来、国内外の多種の要因から、農産品を主とする生活必需品の価格上昇がかなり速く、価格の総水準が月を追って上昇し、中低所得者層の生活コストを増している。

政策措置は次の4点。(1)供給確保、(2)補てん制度、(3)価格コントロール:「必要なときに、重要な生活必需品と生産資料に対し、価格への臨時の介入措置を実行する、(4)市場秩序のための監督管理。

 

温家宝が広東省広州市のスーパーを視察していたことから何か動きがあると思われたが、価格上昇の事態が深刻と認識した政府が、とうとう価格介入に乗り出した。この措置は、19日に「消費価格の総水準を安定させ、民衆の基本生活を保障することに関する国務院の通知」として発表された。

まもなく開催予定の中央経済工作会議向けて、インフレ懸念に対応するマクロ経済政策が注目される。

 

20101119

県党委員会書記の絶対的権力にストップをかけることができるか

中央規律検査委員会と中央組織部が「県党委員会(県党委)の権力の公開透明運用試点工作を展開することに関する意見」を通達した。

目的:(1)権力行使を制度化し、権力の監督を強化し、大元から腐敗を防止するための重要措置、(2)党内民主の発展、党務公開の推進に対し、決定権、執行権、監督権の相互制約、相互協調を健全化する権力構造と運用メカニズムを構築する。

具体的方策:(1)県党委書記の職権の制度化を強化する、(2)決定、執行、監督などの権力運用の流れを制定し、公布する、(3)決定事項を公開する、(4)党内監督、党外監督、専門機関の監督、民主監督を結合させる。特に県党委員会書記の権力運用の制約監督メカニズムと問題処理工作の報告メカニズムを構築する。

 

各地から伝えられる社会の不満、それによる集団抗議行動。その矛先は、多くの場合、県レベルの地方の党・政府に向けられている。それは県レベルの地方の党・政府の権力運営に問題があることを反映している。それは党中央も把握しており、「執政能力」の問題は地方の党・政府幹部に向けられてきた。

この「通知」は、県レベルの地方のトップである県党委員会書記の権力運用を制度化することを指示するもので、公開による制約、監督を強化する点がポイントである。

しかし、県レベルの地方のトップの権力運用の監視を情報公開だけで行うのは難しい。何を公開するのかを最終決定するのが党委書記自身なので、誰もその裁量を制約、監督することはできないからだ。現状でそれができるのは、上級機関だけだが、それについての言及は見られない。いつもながら、制度化は歓迎だが、それを運用するための制度化がなければ、制度があるというだけで、現状は変わらないだろう。

 

20101120

四川省達州市で実施されている郷鎮改革の成果が報道された。

達州市は人口660万、うち農民が535万。313ある郷鎮のうち70%以上が山間部に点在している。

郷鎮幹部のかつての悩みは、「責任が大きく、権限は小さく、圧力が大きい」、つまり担当すべき事務事項は多いが、実施に必要な権限は上級の行政区画である県が握っていることで、農村の発展を妨げていた。とりわけ、予算面で債務が重く、経費が不足しており、達州市の郷鎮の債務は平均で300万元、多いところでは700800元に達していた。

2009年秋、達州市党委員会と政府が「郷鎮の活力を発揮させることに関する指導意見」を発し、県から郷鎮への「権限移譲、利益譲渡、圧力削減、責任の明確化」などの「小政策」と呼ばれる郷鎮改革の試点工作をスタートさせた。具体的には以下のとおり。

(1)事務権限の移譲:農村の土地請負経営、農村宅地使用、林業権、出産育児サービスなどに関する権限を県から郷鎮に移譲

(2)財政権限の移譲:県レベルの財政収入の増加に従って郷鎮の財政収入も増やす。郷鎮に進出した企業の生産額管理を郷鎮が行い、県が過去に受け取っていた企業上納税を郷鎮に返却する。債務を解決した郷鎮には県レベルの財政からボーナスを出す。

(3)人事権の移譲:郷鎮の各機構の正・副ポスト人事では、県レベルの主管部門の意見以外に、郷鎮の党委員会と政府の意見を求める。

(4)県から郷鎮への圧力の緩和:県は原則として月に1回だけ、郷鎮の党委員会、人民代表大会、政府の主要指導者が参加する総合的な大型会議を開き、その他の会議は郷鎮の担当指導者が担当ごとの会議に参加する。

こうした「小政策」工作の結果、通川区では、郷鎮全体の「三農」への2009年の財政投入が4.86億元で2006年よりも38%増、郷鎮の1人あたりの財政力が2006年の2.85万元から2009年には4.86万元に増加といった成果が表れた。

達州市党委員会書記はこの郷鎮改革を次のように評価した。郷鎮の指導幹部の県で仕事をしたいと考えることが少なくなり、安心して郷鎮での仕事に専念できるようになった。県レベルの若い幹部が郷鎮での事業をしたいと思うことが多くなった。郷鎮の一般幹部が県レベルでの機関で仕事をしたいと思うことが少なくなり、安心して郷鎮、村で農民の所得増加のために仕事ができるようになった。

 

経済格差をいかに解消するか。中国が関わる大きな課題である。そのカギは県レベル、郷鎮レベルの経済発展にかかっているが、地方の末端に行けば行くほど、状況は厳しい。郷鎮レベルの経済発展を妨げる1つの原因に、郷鎮政府が上級政府、すなわち県政府にさまざな権限を牛耳られていることがよく言われる。達州市での郷鎮改革は、まさにその県政府との関係を改革し、さまざま権限を移譲することに重点が置かれている。決して目新しいものではなく、郷鎮改革の典型的なものだ。だから、その成果をあらためて宣伝したのだろう。

この報道では、大きな効果が出ているという。この成果はまさに改革のスタートダッシュによるもの。これを持続できるかが大事で、それには郷鎮自身の力が問われる。郷鎮に進出企業などあるのか。郷鎮の幹部の行政運営能力は高いのか。もう少し郷鎮内部の状況を知りたいところ。

 

20101122

県党委員会書記の権力はやっぱり強力な方がいい

県党委書記の権力の公開透明運行についての3カ所の試点工作が紹介された。

20093月にスタートした試点箇所は、江蘇省?寧県、河北省成安県、成都市武候区の3カ所。

【河北省成安県】

かつては「上訪大県」、つまり上級政府への陳情の多い県だった。

党と政府機関の事務方式から改革の手をつけた。2005年から59部門、1000人を超える公務員を総合事務ビルに集めた。「住民は問題があれば、直接機関に行って担当者に会うことができるようになり、書記、県長にさえ電話をかけて相談することができるようになった。その結果、問題の解決が速くなり、自然と上訪は減り、2009年まで5年連続で上訪がゼロになった。

「党委員会の権力明細書」を作成し、73の権力執行チャートに図式化した。職権の重要度、権力の行使頻度、問題発生率に基づき、党委員会の職権に対するリスク格付け評価を行った。党委員会の職権行使リスクポイント35、党委員会常務委員の職権リスクポイント137、規律委員会・党委員会各部門の職権リスクポイント54などを確定した。

委員会の党務工作に対する社会監督員制度、重大事務の決定に対する公聴諮問制度、党内状況通報制度、党委員会事務通例公開制度、党員や住民による党委員会の権力公開透明状況に対する評議の実施。

重大な決定や幹部の選出には、党代表が決定状況を住民に伝え、住民の意見を党委員会に反映させる。

【江蘇省?寧県】

党の規律、法規で公開できないもの以外についてはすべて公開する。

長期発展や後半住民の利益に直結する重大な決定は、党委員会全体委員会と常務委員会の主席者の範囲を拡大し、ラジオ、テレビ、インターネットなどあらゆるメディアデで生中継し、現場にホットライン、インターネット、ショートメールのプラットホームを設置し、党員や住民の希望を反映させる。

【成都市武候区】

権力目録を作成し、重点項目、党建設、反腐敗清廉提唱、幹部任免などの8項目の党委員会の重要な権力執行のチャートを作成。

「住民の状況を専門的に伝達する」「党代表が提案する」などの制度メカニズムを構築し、重大事項の決定の前に住民に意見を十分聴取し、決定は公開に基づくことを実現した。党委員会常務委員会は民生事項については社会に対し市民代表を募り党委員会常務委員会に出席させる。

 

それぞれ改革の様子が報道されたが、どうも具体的でない。上海の新聞『東方早報』は1119日付で、江蘇省?寧県での改革についての詳細を報道している。

2007年に江蘇省の52の県にうち経済指標が最下位だった。

20084月に書記に就任した王書記が「?寧新政」の推進者であり、政策決定者と言われている。王書記は住民に自らの携帯電話のショートメールを解放し、住民が直接王書記に問題を通報し、すぐに対応するという。

王書記がまず取り組んだのが「禁酒令」の徹底履行。昼間から飲酒をする幹部が絶えず、20081月末に県の指導者らは「禁酒令」を公布した。王書記はその年の5月に養老院で飲酒した副局長を含む4人を免職した。そして年末までに昼食時の飲酒を理由に18名の幹部と一般職員を免職した。

また、ショートメールによる騒音苦情の訴えに対し、王書記は担当の環境保護局長に対応を指示したが、環境保護局は法規上担当ではないとして、公安、交通、工商部門から成る共同処理グループの設置を提案した。しかし、王書記は環境保護局の法規曲解を見つけ、局長、担当副局長など環境保護局の幹部ら5名を免職した。

王書記自身も、権力明細書を作成し、権力を@統一領導権、A統一指揮権、B推薦使用権、C政策決定責任権、D幹部動議権、E幹部教育監督権、Fその他とした。特に決議権と否認権を分離し、バランスメカニズムを構築し、王書記は自らの権力を制限した。具体的には、重大項目の計画制定でも提案権はなく、否決権のみとし、人事権も自らの抜擢権を削減し、否決権を強化した。

こうして、かつての「上訪大県」は江蘇省で信訪(陳情)件数の最少県となった。そして2010年上半期、?寧県は常州市内の県全体の中で18の経済指標のうち11について、第1位の伸び率となっている。

 

県党委員会書記の権力を公開し透明化しようという指示が党中央から出たばかりで、その典型ケースを紹介するための記事。『東方早報』も記事からは、公開、透明化の一方で、やはり県党委員会書記は権力を握って、強いリーダーシップを発揮しないと、ダメだということが分かる。党中央の指示は県党委員会書記の権力を制限しようとするもの。成功例と理念が矛盾しているように感じられる。

 

20101124

ちょっと大衆に媚びすぎでは

北朝鮮による砲撃事件は、まさに「戦争」そのもの。『人民日報』は21面で、ピョンヤンとソウルからの報道として伝えている。その内容は、双方の主張を紹介するが、北朝鮮側の主張をまず掲載。その後韓国側の主張。そして、背景としての西部海域の国境線をめぐる解釈の違いを紹介。中国自身の論評は控えている。

 

山東省で「大衆工作を利用して信訪工作を独占する全国経験交流会」という会議が開かれ、周永康中央政治局常務委員兼中央政法委員会書記が講話をおこなった。それに関連する記事が2本掲載されている。

「大衆工作を利用して信訪工作を独占する」という意味がよく分からなかったが、どうやら「党の大衆工作の伝統を用いて、党が独占的に信訪に対する工作をおこなう」ということのようだ。

周永康が4点指示したが、そのうちの2つに注目した。

(1)信訪問題を事前に予防せよ。そのために、重大プロジェクト項目建設と重大政策制定を健全化する社会安定リスク評価メカニズムを構築する。不安定リスクの明らかな政策は出さない。絶対多数の大衆が支持しない項目を提案しない。労働者・民衆の財産を侵害する事態は絶対に招かない。

(2)大衆の合理的な要求、とりわけ民生上の困難の解決に力を入れ、信訪問題を根本から縮小せよ。信訪が提起する問題点のうち、大部分は民生がホットイシューである。とりわけ、住居の立ち退き、法に基づく訴訟、国有企業の所有制改革、土地の収用問題、住居、病院、就業、通学などの基本的な民生問題である。

 

「信訪」はいまさら説明の必要もない。中国で一般大衆に認められた当局に対する数少ない利益表出チャネル、つまり異議申し立て手段である。

これに対し、「党の大衆工作の伝統を用いて、党が独占的に信訪に対する工作をおこなう」という政策が実施されてきたことは、それまで党が信訪に対する工作を独占できていなかった、つまり一般住民の信訪にきちんと対応できていなかったこと、そのため非合法な行動に手を焼いていたことの表れと言える。

大衆の利益が多様化している現在、現場の党や政府がみんなの納得できる政策を打ち出すことは極めて難しい。だから納得できない側の人々が信訪に走る。

それではどうするか。周永康の指示のうち取り上げた2点は、どちらも大衆を刺激しないように、何もするなという消極的な対応である。これでは、現場は何もできない。

ここで重要なことは、住民に対する地元当局の説得である。確かに周永康も、(3)(4)で、地元の指導者、当局が、住民の中に入って、話をして、意見を吸い上げ、説得することの重要性を説いている。しかし肝心なことは、そうした説得を住民が受け入れる素地があるかどうかである。そのためには、住民の中に当局に対する何らかの依頼、信頼がなければならない。依頼、信頼はどのようにして生まれてくるのか。共産党が考えなければならないのはまさにこの点である。これを棚上げして、地元当局に対し、あれもするな、これもするな、が指示として先に来るのは、ちょっと大衆に媚びすぎで、何の解決にもならない。

 

20101126

弁護士業界も党がしっかり握っている

「党組織が弁護業界をすべてカバー」とのリードのもと、弁護士業界の党建設の状況が紹介されている。

20083月に、中央組織部と司法部が連名で、「弁護士業界の党建設工作をさらに強化し、改善することに関する通知」を通達し、それに合わせ7月に弁護士業界の党建設工作会議が開かれ、各地で党建設が本格化した。

20096月末のデータが紹介されている。

(1)全国14741の弁護士事務所における党組織設立状況

事務所単独で党支部が設立されている:3895(全体の26)

いくつかの事務所が連合で党支部を設立:8105(55%、設立された連合党支部の数は2692

事務所に党員のいないため党建設工作指導委員、連絡員が派遣されている:2741(19)

(2)党員の政治参加状況

党員の弁護士数:5.3万人(20086月末で4.4万人)

党員弁護士のうち、人代代表に634人、政協委員に1501人が就任

 

これは司法の独立の問題と関連するデータで興味深い。党が弁護士業界を掌握しているということを誇らしげに発表するあたりがやはり一党支配だ。20083月、つまり温家宝総理の第2期と同時にスタートした党建設の強化。司法に対する胡錦濤政権の基本的なスタンスが表れている。

社会の多様化に伴い、利害も多元化し、対立も増え、訴訟も増える。当然当局と一般民衆の訴訟も増えている。そんな中で弁護士の需要は増えている。しかしこのようなデータを目にすると、「弁護士は誰のために弁護するのか」。その中立性が問われる。おそらく弱者の権利を守る弁護士「維権律師」は、このデータには含まれていないはず。このデータ、この話題の報道の仕方を見ても、司法の独立は難しいと言わざるをえない。

 

20101129

●報道しなければならないほどに重要なことなのか

重慶市で「三項治理」(3項目の管理)を集中的に展開されており、その成果が報道されている。管理される3項目は以下の通り。

(1)公務員に対する紅包(心付け、お祝いなど)を送ること

(2)領導幹部が違法に公務車を利用すること

(3)領導幹部が職権を利用する、または職務に影響する違法な商業企業を経営すること

「三項治理」の目的は、腐敗に反対し、廉政を唱い、新たな成果をあげることで民衆の信頼を得ること。

「三項治理」の成果として、次のようなケースが上げられている。重慶市のある区県の指導幹部が養女の結婚式で、同僚職員や他の部署の公務員の出席を断った。しかし、一部の幹部や職員が出席した。式後、この指導幹部は、41人の同僚に対し、お祝い金8400元を返還した。

1030日までに、(1)判明した5500万元を超える「紅包」が主動的に上訪された、(2)違法な公用車6327両が解約された、(3)35263名の幹部が配偶者や子女の就業状況を報告し、1252人が企業を経営し、169人の幹部が違法により処分された。

 

ほぼ連日こうした記事が掲載されている。このことは、中国でいかにこうした問題があちこちで起きているかということ、それによって共産党は国民の信頼を失っていること、共産党の自浄努力ではなかなか効果が上がらないことを露呈している。

それにしても思うことは、こんなこと報道する価値があるのか、もっと伝えなければならないことがあるのではないかということ。確かに、党機関紙には党がいかにがんばってやっているかということを国民に宣伝しなければならないという任務がある。しかし、それが出口の見えない反腐敗にしかないところに、共産党の施策の限界が見える。しかし非党機関紙はそのことに気づいている。こうした報道は極めて少ない。

もう1つ、この重慶市での反腐敗の成果は、重慶市党委員会書記の薄煕来のアピール記事にしか思えない。これも大事だが、薄煕来ももう少しアピールすることを考えればいいのに。

 

20101130

共産党は多様化する社会との関係構築に悩んでいる

「人民内部の矛盾をさらに積極的に主動的に立派に処理しよう」と題する特集が組まれている。「人民内部の矛盾」というのは、話すと毛沢東時代に遡らなくてはならないので、ここでは触れないが、今中国社会で起きているさまざまな問題は、共産党の一党支配を批判するものではなく、共産党の一党支配を前提とした中で発生しているもので、共産党としては手荒な手段で解決しない範疇の問題、簡単に言えば普通の社会問題だと共産党が認識している問題のこと(あくまでも共産党の認識)。

こうした社会問題をどのように認識、解決するかを考えるための特集で、3本の文章が掲載された。

(1)湖南省中国特色社会主義理論体系研究センターの「民衆の権益を維持することが人民内部の矛盾を立派に処理するカギである」。

(2)河南省高級人民法院院長「民衆の力を用いて、人民内部の矛盾を処理しよう」。

(3)山東省嘉祥県党委書記「末端社会の安定を維持する長期的に効果のあるメカニズムを構築しよう」

 

今、「上海市社会科学界2008年学術年会」という上海市の社会科学系の学会を束ねる組織の年次総会が分野ごとに随時開かれており、先週末には政治学関連の分科会が開かれ、聴講した。

タイトルは「比較の視野の下での共産党執政と社会主現代化」というもので、中国政治に関する報告には以下のようなものがあった。

林尚立(復旦大学)「政党と国家成長:中国の形態」

劉宗洪(上海市党校)「共産党執政と社会主義民主政治の発展」

孫力(南京政治学院上海分院)「社会主義現代化モデルの中国への適用」

張明軍(華東政法大学)「イデオロギーから民生・公平・正義への進展変化」

鄭長忠(復旦大学)「有機的政治に向かう政党ロジック」

 

今、中国の政治家も研究者も、大きな関心は、一党支配を守るために多様化する社会とどのような関係を構築したらいいのか、という点にあるように思われる。

今までに経験したことのない速いスピードで進む社会の多様化の中で、国家と社会の関係が大きく変わってきているというところまでは研究者も理解している。私のような外国人研究者は、その理解と、他国と比較などを通じて、中国を理解するというところまででいい。しかし、中国人の研究者には、その変化にどう対応したらいいのか、という処方箋が求められているはずである。しかし、上記の『人民日報』の特集にしても、学会の報告にしても、「共産党の一党支配」を前提にしているのはいいとして、「それでどうするの」という点への言及が弱い。みんな模索していて、まだどうしていいのか分からないのが現状なのだろう。共産党による一党支配を前提にして社会の多様化に対応することは難しいのである。

 

昨夜(29日)は、大学の共青団主催の「中国特色から北京コンセンサスへ」と題するミニ討論会を聴講した。分野の異なる3人の教授が参加したが、国際関係センターの「沈丁立」教授の登場には会場も沸いた。国際関係を専門としており、マスコミへの登場も多く、日本の新聞でも時々インタビューが掲載されていた。最近も朝鮮半島の砲撃事件で積極的に発言しており、学生もよく知っている。

沈教授がいたことから、討論会は最後にはテーマとは関係のない国際情勢に関する質疑応答になってしまった。学生の関心もそちらにあるようだ。沈教授は最後には「もう中国は北朝鮮に関与できない状況にあり、今回の問題でも北朝鮮に何も言えない。いまや砲撃事件は中国にとって(北朝鮮との問題ではなく)米中関係になってしまっている」と北朝鮮にはお手上げというコメントをしていた。